遅刻の賃金控除に迷ったら読む正しい計算ルール

遅刻の賃金控除に迷ったら読む正しい計算ルール コンプライアンス
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「遅刻した社員の給与、いくら引けばいいんだろう?」——そう悩みながら、なんとなく15分単位で切り上げて処理していませんか。専任の人事担当者がいない中小企業では、遅刻控除の計算ルールが前任者からの「なんとなく」で引き継がれているケースが少なくありません。しかし、誤った計算は労働基準法違反になるリスクがあります。この記事では、正しい遅刻控除の考え方・計算式・就業規則への落とし込み方を、実務レベルでわかりやすく解説します。

遅刻控除の根拠「ノーワーク・ノーペイ原則」とは

働いていない時間分は賃金が発生しない

遅刻した時間の給与を差し引くことは、懲戒処分でも罰則でもありません。「ノーワーク・ノーペイ(No Work, No Pay)」という考え方に基づいた、至ってシンプルな賃金計算の話です。民法第624条・第536条第1項の規定により、労働者が労務を提供しなかった時間・日数に対して、使用者は賃金を支払う義務を負いません。遅刻控除はこの原則に基づいており、働いていない分を支払わないだけです。

つまり遅刻控除は、「罰として引く」のではなく「そもそも賃金が発生していない部分を調整する」行為です。この視点の違いは、後述する「減給の制裁」との区別でとても重要になります。

全額払いの原則との関係

労働基準法第24条は「賃金は全額払いが原則」と定めています。一方で、ノーワーク・ノーペイによる控除は「全額払い原則の例外」ではなく、「そもそも発生していない賃金を差し引く行為」のため、労使協定がなくても問題なく処理できます。

この点を誤解し、「賃金から何かを控除するには労使協定が必要」と思い込んでいる担当者が多いのですが、不就労控除(遅刻・欠勤・早退による控除)は協定不要です。労使協定が必要なのは、たとえば購買代金や社宅費の天引きなど、発生済みの賃金から差し引く場合に限られます。

減給の制裁とは何が違うのか

「遅刻が多い社員に対して少し多めに引いて戒めたい」というケースがあります。しかしこれは話が変わります。実際の不就労時間を超えて差し引く行為は、労働基準法第91条が定める「減給の制裁(懲戒処分としての減給)」に該当し、制限があります。具体的には、1回の制裁額が平均賃金の1日分の半額以内、かつ1賃金支払期における制裁総額が賃金総額の10分の1以内という上限があります。これを超えた控除は違法となり、賃金未払いと判断されるリスクがあります。懲戒目的の控除は慎重に取り扱う必要があります。

月給制・日給月給制における遅刻控除の計算方法

日給月給制とは何か

正社員に最も多い賃金形態は「日給月給制」です。これは、月額で給与が決まっているものの、欠勤・遅刻・早退した分は控除する仕組みです。「月給制」と混同されやすいのですが、純粋な月給制は欠勤しても月額が保証されます。中小企業の正社員の多くは日給月給制であるケースが一般的です。

遅刻控除の計算式

日給月給制で遅刻控除を行う場合、まず「1時間あたりの賃金」を求める必要があります。以下が標準的な計算式です。

1か月平均所定労働時間数 = 年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12

1時間あたりの賃金 = 月給額 ÷ 1か月平均所定労働時間数

具体例で計算してみましょう。年間所定労働日数が240日、1日の所定労働時間が8時間、月給が25万円の社員の場合です。

まず「1か月平均所定労働時間数」は、240日 × 8時間 ÷ 12ヶ月 = 160時間。次に「1時間あたりの賃金」は、250,000円 ÷ 160時間 = 1,562.5円。この社員が30分遅刻した場合の遅刻控除額は、1,562.5円 × 0.5時間 = 781円(端数処理の方法は就業規則で定める)となります。

この計算式は厚生労働省のモデル就業規則でも採用されており、信頼性の高い標準的な方法です。

時給制・パートタイム従業員の場合

アルバイトや時給制のパートタイム従業員は計算がシンプルです。「時給 × 遅刻した時間数(分単位)」で控除額が決まります。たとえば時給1,100円の従業員が20分遅刻した場合、1,100円 ÷ 60分 × 20分 ≒ 367円が控除額です。時給制の場合は分母の迷いが生じにくいため、トラブルは比較的少ない傾向にあります。問題が起きやすいのは、前述の日給月給制における「月給を何で割るか」の部分です。

遅刻控除の時間単位と端数処理のルール

原則は1分単位の控除

遅刻控除の時間単位について、法律は「1分単位での控除」を原則としています。実際に労働しなかった時間に対して賃金を支払わないのがノーワーク・ノーペイの趣旨ですから、実際の不就労時間を正確に反映するのが基本です。9時始業で9時12分に出社した社員であれば、12分分を控除するのが原則です。

15分単位・30分単位の切り上げは違法リスクあり

「うちは15分単位で管理しているから、12分遅刻でも15分分引いている」という対応は要注意です。実際の不就労時間(12分)を超えた3分分まで控除することになるため、その3分分は賃金未払いとみなされる可能性があります。労働基準法第24条(全額払いの原則)に違反するリスクがあります。

一方、「15分単位で切り捨て(12分遅刻を0分として控除しない)」は労働者に有利な方向の処理となるため、問題ありません。端数処理は必ず「労働者に不利にならない方向」を原則にしてください。

就業規則への明記が必須

どのような端数処理を行うかは、就業規則または賃金規程に明記しておく必要があります。「1分単位で控除する」「1分未満の端数は切り捨てる」など、具体的な記載があれば、従業員からの「計算がおかしい」というクレームにも根拠をもって対応できます。記載がない場合、会社側が不利な立場に立たされるリスクがあります。

就業規則に記載すべき遅刻控除の規定

労働基準法が求める記載義務

労働基準法第89条第2号は、「賃金の決定・計算・支払方法に関する事項」を就業規則の絶対的必要記載事項(必ず記載しなければならない事項)と定めています。遅刻控除の計算方法もこれに含まれます。「遅刻した場合は賃金を控除する」とだけ書いてあって計算式がない規則は、法的要件を満たしていない可能性があります。

記載すべき具体的な内容

就業規則(または賃金規程)に盛り込むべき項目を整理します。まず、控除の根拠としてノーワーク・ノーペイ原則に基づく旨を明記します。次に、時間単位賃金の計算式(月給 ÷ 1か月平均所定労働時間数)と、その分母となる年間所定労働日数・1日の所定労働時間を明確にします。そして、端数処理の方法(1分単位で控除し、1分未満は切り捨てるなど)を記載します。さらに、遅刻・早退・欠勤の定義と、それぞれの統一した取り扱いも記載しておくと、運用のブレを防げます。

遅刻・早退・欠勤の取り扱いを統一する

実務でよく見られる問題が、「遅刻は控除するのに早退は見逃している」「欠勤は別ロジックで計算している」という不統一な運用です。こうした対応のブレは、従業員間の不公平感を生み出し、やがて労使トラブルの温床になります。不就労控除(遅刻・早退・欠勤すべて)は同一の計算ルールで統一し、就業規則に一本化して記載することが重要です。就業規則が整備されることで、担当者が変わっても安定した運用が続けられます。

遅刻控除でよくある誤りと法的リスク

「なんとなく」の慣行を続けるリスク

前任者から「30分単位で控除する」と引き継いで、根拠も確認せずそのまま続けているケースは非常に多いです。しかし、実態が違法な処理であった場合、時効(2020年以降の労働基準法改正により賃金請求権は原則5年、当面3年)の範囲で未払い賃金を遡って請求されるリスクがあります。気づいた段階で計算方法を見直し、就業規則を整備することが最善策です。

懲戒目的の「余剰控除」が引き起こすトラブル

遅刻が多い社員に対して「今月は倍額引く」「遅刻3回で1日分引く」といった処理は、ノーワーク・ノーペイの範囲を超えた控除です。仮にこれを懲戒処分として位置づけるなら、就業規則への懲戒規定の明記、弁明の機会の付与など、適正な懲戒手続きが必要です。手続きを踏まない過剰控除は、不当な賃金カットとして労働審判・労働局への申告につながるリスクがあります。

時間単位有給休暇との関係

遅刻した時間に対して、従業員が「時間単位の有給休暇を充てたい」と申し出る場合があります。時間単位の有給休暇制度を導入している会社(労使協定の締結が必要)であれば、この申し出に応じることが可能です。有給を充てた時間については賃金控除は発生しません。時間単位有給制度がない会社では、遅刻分は控除対象となります。従業員からの申し出があった場合に慌てないよう、制度の有無を事前に確認しておきましょう。

まとめ

遅刻控除は「罰則」ではなく、ノーワーク・ノーペイ原則に基づく正当な賃金計算です。正しい計算式は「月給 ÷ 1か月平均所定労働時間数」で1時間あたりの賃金を算出し、実際の不就労時間を掛けて控除額を求めます。端数処理は労働者に不利にならない方向で行い、1分単位または労働者有利の切り捨て処理が基本です。実際の不就労時間を超えた控除は賃金未払いになるリスクがあります。

これらのルールは就業規則(または賃金規程)に明文化することが、法律上の要件です。「うちの計算ルールが本当に正しいのか自信がない」「就業規則の賃金計算規定を整備したい」とお感じでしたら、ウェルセンス株式会社では人事労務の実務的な課題についてご相談をお受けしています。専任人事がいない企業でも安心して対応できるよう、一緒に整理していきます。お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 遅刻控除をするために労使協定は必要ですか?

A. 不要です。遅刻控除はノーワーク・ノーペイ原則に基づくもので、「そもそも賃金が発生していない時間の調整」です。労使協定が必要なのは、発生済みの賃金から特定の費用を天引きする場合(社宅費・購買代金など)であり、不就労控除には該当しません。ただし、計算方法を就業規則に明記することは必須です。

Q. 遅刻が多い社員に対して多めに控除してペナルティを与えてもいいですか?

A. 実際の不就労時間を超えた控除は違法になるリスクがあります。懲戒処分として減給を行う場合は、就業規則への懲戒規定の明記と適正な手続きが必要です。また、労働基準法第91条により1回の減給額は平均賃金の1日分の半額以内、同一支払期の総額は賃金総額の10分の1以内という上限があります。

Q. 月給制と日給月給制は何が違いますか?

A. 月給制は欠勤・遅刻があっても月額賃金が保証される形態です。日給月給制は月額で給与が決まっているものの、欠勤・遅刻・早退した分は控除する形態で、正社員の多くがこれにあたります。名称が似ているため混同されがちですが、控除の有無という点で本質的に異なります。自社の社員がどちらの形態かを就業規則で確認してください。

Q. 15分単位での切り上げ控除はなぜ問題なのですか?

A. 実際の不就労時間(例:12分)を超えた時間(15分)分の賃金を差し引くことになるため、差額の3分分が賃金未払いとみなされるリスクがあります。労働基準法第24条の全額払い原則に違反する可能性があります。端数処理は労働者に不利にならない方向(切り捨て)が原則です。管理の簡便さより法令遵守を優先してください。

Q. 遅刻した時間に有給休暇を使いたいと言われた場合はどうすればいいですか?

A. 会社が時間単位の有給休暇制度を導入している場合(労使協定の締結が必要)は、従業員の申し出に応じることができます。その場合、有給を充てた時間分は賃金控除の対象になりません。一方、時間単位有給制度がない会社では遅刻分の控除は通常通り行います。制度の有無を事前に整理しておき、従業員から問い合わせがあった際にスムーズに案内できるよう準備しておくことをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
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