在宅勤務を制度化して社内の不満を解消するには?

在宅勤務を制度化して社内の不満を解消するには? コンプライアンス
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「あの人だけズルい」——ある日、そんな声が耳に入った経営者・人事担当者は少なくないはずです。育児中の社員や持病のある社員に善意で認めてきた在宅勤務が、いつの間にか「特別扱い」として社内の不満の種になってしまう。かといって今さら「実はルール違反でした」とも言えない。この記事では、個別対応から制度化へ切り替えるための具体的な手順と、社員の不満を和らげるための説明方法を、法的根拠をふまえながら解説します。

個別に在宅勤務を認めてきたことは問題だったのか

結論から言えば、過去の個別対応が直ちに違法になるわけではありません。ただし、就業規則に根拠のない運用は「法的に不安定な状態」であり、放置するリスクがあります。

善意の個別対応が抱えるリスク

育児・介護・持病など事情のある社員に対して、口約束や個別メールで在宅勤務を認めてきたケースは多くあります。これ自体は人道的な対応であり、労働法上ただちに「違反」と断定されるものではありません。しかし、労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する事業者に対して、就業規則への記載・届出を義務づけています。在宅勤務のルールは「始業・終業の時刻の変更」や「労働場所」に関わる事項であり、本来は就業規則に明記すべき内容です。書面も合意書もない個別対応は、後日「約束が違う」「不公平だ」と主張された場合に事業者側が説明しにくい状態になります。

過去に遡って補償する法的義務はあるか

「当時、自分が申請したときは断られたのに」という声が出ることがあります。しかし、法的には過去の個別対応を遡及して補償する義務は原則発生しません。重要なのは、過去の対応を「暫定的な合理的配慮として正当化する説明の言語化」と、「今後は全社員に同じルールで運用する」という明確な姿勢を示すことです。制度化によって遡及補償の問題を回避しつつ、心理的な公平感を回復することが現実的な対処法になります。

10人未満の事業者はどう考えるか

従業員が10人未満の場合、就業規則の作成・届出は法律上の義務ではありません。ただし、実務上は就業規則に準ずる「テレワーク規程」や「在宅勤務に関する覚書」を整備しておくことが、後々のトラブル防止につながります。規模が小さいからこそ、曖昧な口約束が人間関係の問題に発展しやすい面もあります。

「なぜあの人だけ」という不満社員への説明方法

他の社員に個人の事情を開示することなく、不満を和らげるためには「個人の話ではなく、制度の話に切り替える」ことが基本姿勢です。

個人情報を守りながら説明するための言い方

在宅勤務が認められている理由(病気・介護・育児など)は、個人情報保護法上の要配慮個人情報・センシティブ情報に準ずる扱いが必要です。「あの人が在宅なのはこういう事情があるから」と説明することは、本人の同意なく個人情報を第三者に開示することになり、プライバシー権の侵害につながります。説明の際は「個人の事情については詳しくお話しできない」とはっきり伝えつつ、「今後は制度として整備し、申請できる条件を全員に同じ基準で適用する」という方向性を示すことが有効です。

不満の本質は「自分も使えるかどうか」にある

不満を持つ社員が本当に求めているのは「あの人を認めるな」ではなく、「自分も同じように扱ってほしい」というケースがほとんどです。したがって、新制度の申請機会を全社員に平等に開放し、「あなたも申請できます」と伝えることが、最も直接的な不満の解消につながります。説明の場を設ける際は、「過去の運用を反省している」という姿勢より、「より良い仕組みをつくるために制度化する」という前向きな文脈で伝えると受け取られやすくなります。

「過去に断られた社員」への対応

以前に在宅申請を断られた経験のある社員は、新制度の発表によって不公平感が再燃するリスクがあります。対策として、制度施行後に改めて申請の機会を全員に案内し、過去の判断を引きずらない形で申請できる環境をつくることが重要です。「当時は制度がなかったため個別に判断していたが、今後は明文化されたルールのもとで公平に審査します」という説明は、多くの社員に受け入れられやすい言い方です。

在宅勤務制度を設計するときに決めておくべき事項

制度化で最も大切なのは、「誰が」「どんな条件で」「どう申請するか」の基準を客観的・合理的に定めることです。これが曖昧だと、制度をつくっても再び「なぜあの人だけ」が繰り返されます。

在宅勤務制度の骨格として定めるべき項目

厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(令和3年3月改定版)は、制度設計のベースとなるフレームを示しています。以下の項目を最低限決めておくことが必要です。

決めるべき項目 検討のポイント
対象者の要件 職種・業務内容・雇用形態(正社員のみか、パート・契約社員を含むか)
申請・承認フロー 誰が誰に申請し、誰が承認するか。書面か電子申請か
在宅勤務日数の上限 週何日まで可能か(例:週2日上限)
費用負担の取り扱い 通信費・光熱費の会社負担の有無と上限額
セキュリティ要件 VPN使用・画面ロック・書類の持ち出しルール等
成果・勤怠管理の方法 勤怠システムの使用・報告義務の頻度など

「全員に認めなければならない」は誤解

在宅勤務制度を作ると、すべての社員に認めなければならないと思われがちですが、それは誤りです。職種・業務内容・申請要件によって対象を絞ることは合法です。たとえば「顧客対応が発生する現場職は在宅不可」「週2日を上限とする」などの条件設定は、合理的な理由があれば問題ありません。重要なのは、その基準が全社員に対して同一のルールで適用されることと、基準の合理性を説明できることです。「あの人はOKで、なぜ私はダメなのか」に答えられる基準設計が、在宅勤務制度における公平性の核心です。

就業規則の変更手続きを忘れない

在宅勤務制度を新設・変更する際は、就業規則の改定が必要です。労働基準法第90条に基づき、変更の際は労働者代表の意見聴取と労働基準監督署への届出が求められます。また、変更内容が既存社員にとって不利益にあたる場合(例:これまで認めていた在宅を廃止・縮小する場合)は、労働契約法第10条の「不利益変更」の問題が生じるため、慎重な検討が必要です。専任人事がいない場合は、社会保険労務士へ相談しながら進めることをおすすめします。

現場対応職との不公平をどう整理するか

在宅勤務制度を導入すると、業務の性質上リモートができない職種との間に「新たな不公平」が生まれます。この問題は制度設計の段階で織り込んでおくことが重要です。

業務上の差は「合理的な区別」として説明できる

接客・製造・施設管理など、物理的に現場にいる必要がある業務は、在宅が不可能であることに合理的な理由があります。これは「差別」ではなく「業務の性質による区別」です。重要なのは、この区別が「人」ではなく「業務・職種の要件」に基づいていることを明確にし、社員に説明できる状態にすることです。「あなたが信頼されていないから在宅できない」ではなく、「この業務は物理的な現場対応が必須のため在宅の対象外です」と伝えられる制度設計にしてください。

代替的なメリットで全体のバランスを取る

在宅できない職種・ポジションへの配慮として、在宅可能な部門との待遇バランスを全体で見直すことも有効です。たとえば、現場職に対して通勤手当の上乗せ・特定の休暇制度・シフト柔軟化など、別の形で働き方の柔軟性を担保する仕組みを検討することで、「在宅できない人が損をしている」という感覚を和らげることができます。制度設計は在宅勤務単体で完結させず、会社全体の働き方の方針の一部として位置づけると、説明に一貫性が生まれます。

制度化を進めるための現実的な手順

専任人事がいない中で制度化を進めるには、完璧を目指すより「まず動ける状態にする」ことが重要です。順を追って整備することで、リソース不足でも現実的に進められます。

まず現状の棚卸しから始める

最初にやるべきことは、現在誰がどのような条件で在宅勤務をしているかの実態把握です。口約束・メール・Slack等の非公式なやり取りも含めて整理します。次に、在宅勤務の対象となり得る職種と対象外の職種を業務内容ベースで仕分けし、制度化のスコープを決めます。この棚卸しの段階で、法的リスクの大きさや不満の温度感も見えてくるため、対応の優先順位がつけやすくなります。

制度の「骨格」を先に固め、細部は後から整備する

専任人事がいない組織でよくある失敗は、完璧な制度をつくろうとして動けなくなることです。まず「対象者の要件」「申請フロー」「日数の上限」の3点を決め、社員に周知できる状態にすることを優先してください。費用負担やセキュリティ要件などの細部は、運用しながら随時追記・修正していく方針で構いません。就業規則の改定・届出については、社会保険労務士に依頼することで、経営者・人事担当者が本業と並行して対応できる負担に抑えられます。

  • 現状の棚卸し(誰がどんな条件で在宅しているか)
  • 対象職種・対象外職種の仕分け
  • 制度骨格の決定(対象要件・申請フロー・日数上限)
  • 就業規則の改定・労働者代表の意見聴取・監督署届出
  • 全社員への周知・申請受付開始
  • 運用後に費用負担・セキュリティ要件等を追記・修正

「いつまでに制度化すればいいのか」「本当に公平な基準とは何か」——こうした判断に迷う場合、専門家への相談は効率的な投資になります。

まとめ

個別対応として始まった在宅勤務を制度化するポイントは、「過去を責めるのではなく、今後の基準を明確にする」ことです。法的には過去の個別対応が直ちに違法になるわけではありませんが、就業規則に根拠のない運用は不安定であり、早めの整備が必要です。不満社員への説明は個人情報を守りながら「制度の話」に切り替え、全員に平等な申請機会を提供することが最も有効な対処法です。制度設計では対象要件の合理性と申請フローの透明性を確保することが公平性の核心であり、「全員に認めなければならない」という誤解は払拭しておく必要があります。

専任人事がいない組織でも、まず骨格を決めて動ける状態にすることから始め、社会保険労務士等の専門家と連携しながら整備を進めることが現実的なアプローチです。ただし、人事判断に不安がある場合や組織内で意見が分かれている場合は、早期の相談が後のトラブル防止につながります。ウェルセンス株式会社では、在宅勤務制度の設計・社員への説明方法・就業規則整備のサポートまで、中小企業の人事課題に実務レベルでお応えしています。ご不明な点やお困りのことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 過去に口約束で在宅を認めてきた社員に対して、制度化後に在宅を廃止することはできますか?

A. 一概にできる・できないとは言えません。口約束であっても労働契約の一部を構成する可能性があり、廃止・縮小は労働契約法第10条の「不利益変更」にあたるリスクがあります。廃止を検討する場合は、社員への十分な説明・代替措置の提供・合意形成を慎重に進める必要があります。社会保険労務士や弁護士への事前相談をおすすめします。

Q. 在宅勤務の申請を断る際、どのように説明すればよいですか?

A. 「個人の信頼の問題」ではなく「業務要件の問題」として説明することが重要です。「この業務は顧客対応や物理的な現場処理が発生するため、在宅勤務の対象外と定めています」のように、制度の基準に基づいた理由を伝えてください。個人的な評価や感情に基づく理由は、不当差別と受け取られるリスクがあります。

Q. 従業員が10人未満でも就業規則を整備すべきですか?

A. 法律上の作成・届出義務は10人以上から発生しますが、10人未満であっても「在宅勤務に関する規程」や「覚書」の形で制度の骨格を文書化しておくことを強くおすすめします。小規模組織ほど人間関係が密で、口約束が後のトラブルになりやすい傾向があります。文書化することで、社員間の認識のズレも防ぎやすくなります。

Q. 在宅勤務中の通信費・光熱費は会社が負担しなければなりませんか?

A. 法律上、費用負担の義務が一律に定められているわけではありませんが、業務に必要な費用は原則として使用者が負担すべきという考え方があります。厚生労働省のテレワークガイドライン(令和3年3月改定版)では、費用負担のルールを就業規則等に明記することを推奨しています。実務上は、月額定額の通信手当を支給している企業が多く見られます。

Q. 在宅勤務制度を整備しても、社員から「ルールが不公平だ」と言われた場合はどう対応しますか?

A. まず、「何が不公平と感じるか」を具体的に聴くことが重要です。対象要件の合理性が説明できるか、申請フローが透明かを改めて確認し、必要であれば制度の一部を修正・補足説明します。それでも納得が得られない場合は、経営者・管理職・本人の三者で話し合いの場を設け、記録を残しておくことが後々のトラブル防止につながります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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