パワハラ調査中に休職|継続・停止の判断基準3つ

パワハラ調査中に休職|継続・停止の判断基準3つ メンタルヘルス対応
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「被害者が休職に入ってしまった。調査をこのまま続けていいのか、それとも本人が戻るまで待つべきか——」。パワハラの申告を受けて調査を始めた矢先に、当事者が体調を崩して休職するケースは珍しくありません。判断を誤ると、会社が法的責任を問われることも、被害者の回復を妨げることもあります。この記事では、休職が発生した場合のパワハラ調査の継続・停止判断を、実務レベルで整理します。

調査を「止める」という選択肢は原則として存在しない

結論から言えば、被害者が休職したからといってパワハラ調査自体を中断することは、法的に認められません。会社には調査継続の義務があり、休職はその義務を免除する事由にはならないのです。

会社が負う調査義務の根拠

2020年に施行された労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)、いわゆる「パワハラ防止法」の第30条の2は、事業主に対して相談体制の整備・事実確認・被害者保護・再発防止措置を義務付けています。また、令和2年厚生労働省告示第5号(パワーハラスメント防止対策についてのガイドライン)は、「迅速・正確な事実確認」を事業主の措置義務の筆頭に挙げています。

つまり、被害者が休職したという事実は、会社のパワハラ調査義務を消滅させる理由にはなりません。「本人が戻ったら確認しよう」と無期限に先送りすることは、後の紛争で「会社が義務を怠った」と判断されるリスクに直結します。

調査を放置した場合の具体的なリスク

調査を中断したまま時間が経過すると、次の問題が連鎖的に生じます。まず、関係者の記憶が薄れ、メール・チャット・日報などのデジタル証拠が削除・上書きされる恐れがあります。次に、加害者とされる人物が通常業務を続ける中で、同様の言動が繰り返されるリスクが残ります。さらに、被害者が「会社に握りつぶされた」と感じた場合、労働局へのあっせん申請や損害賠償請求に発展する可能性があります。「調査を止める=会社を守る」という判断は、実際には逆効果になりかねません。

調査を「誰に対して」行うかで判断が変わる

パワハラ調査継続の可否は一律ではなく、対象が「休職中の被害者本人」か「在職している加害者・第三者」かによって対応を分ける必要があります。この切り分けが、実務判断の核心です。

在職中の加害者・関係者への調査は継続すべき

加害者とされる人物や、状況を知る同僚・上司などの第三者は在職しています。これらの関係者へのヒアリングや証拠保全は、被害者の休職とは無関係に進めることができますし、むしろ積極的に進めるべきです。特に証拠保全(メール・チャット履歴・勤怠記録・業務日報など)は時間との勝負であり、早期対応が不可欠です。

休職中の被害者本人へのアプローチは慎重に

一方、休職中の被害者本人への直接ヒアリングは、原則として見合わせることが適切です。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成16年策定・平成21年改訂)は、休職中は療養専念を基本とし、会社からの連絡を必要最低限にすることを推奨しています。追加ヒアリングのための連絡が症状悪化の引き金になれば、会社の安全配慮義務違反として問われるリスクがあります。

どうしても本人への確認が必要な場合は、主治医または産業医(産業医がいない企業では主治医)に意見を求めた上で、本人の同意を得て書面・メールなど負担の少ない方法で行うことが実務上の基準です。電話や面談は主治医の許可を確認してから検討してください。

対象別の対応方針

調査対象 休職中の対応方針 主な留意点
被害者(休職者本人) 直接ヒアリングは原則見合わせ 主治医・産業医を通じた間接確認、本人同意が前提
加害者(在職中) ヒアリング・調査を継続すべき 調査・処分検討を止める理由はない
第三者(同僚・関係者) ヒアリング継続が可能 秘密保持の徹底、二次被害防止に注意
証拠・記録の保全 即座に対応・急ぐべき メール・チャット・勤怠記録等を早期確保

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調査継続・停止を判断する3つの基準

実務上、パワハラ調査の継続可否を判断する際には、次の3つの基準で状況を整理することが有効です。これらの基準を確認することで、「今何をすべきか」の優先順位が明確になります。

被害者の医療状況と主治医の意見

まず確認すべきは、被害者の診断書と主治医の意見です。「うつ状態で安静加療が必要」という診断が出ている場合、本人への直接接触は控えるべき状態と判断できます。一方、主治医が「本人が希望するなら書面での確認は可能」と判断しているケースでは、本人同意を得た上での書面ヒアリングが選択肢に入ります。産業医と顧問契約がある企業では、産業医を通じて主治医の意見を確認するルートが最も安全です。産業医がいない場合(従業員50名未満の企業では産業医の選任義務がありません)は、会社から直接主治医に問い合わせるより、本人を通じて意見書を取得する方法が現実的です。

加害者・第三者から得られる証拠の状態

次に、被害者なしでも事実確認が進められる証拠の状態を確認します。メール・チャットのログ、勤怠管理システムの記録、他の目撃者の証言など、被害者への確認を要しない証拠が十分に存在するケースでは、パワハラ調査の大部分を被害者抜きで進めることができます。逆に、被害者の証言なしでは事実認定が困難な場合は、調査を「一時保留」ではなく「可能な範囲で最大限進めつつ、被害者への確認は回復を待つ」というスタンスを明文化しておくことが重要です。この姿勢を記録に残すことが、後の紛争対応でも意味を持ちます。

加害者の業務継続が職場に与える影響

3つ目の基準は、調査中断期間に加害者が通常業務を続けることで職場環境が損なわれていないかという点です。加害者とされる人物が、被害者の休職中に同じチームで業務を継続し、他の従業員への言動が問題になっているような場合、会社は暫定的な配置転換や業務分離などの「被害者保護措置」を速やかに講じる必要があります。これはパワハラ調査の完了を待たず実施できる措置であり、厚生労働省のガイドラインも被害者保護措置を事実確認と並行して行うことを求めています。

職場の状況が複雑で、一人での判断に不安がある場合は専門家に相談することも選択肢です。産業医やハラスメント対応の経験者に実状を伝えることで、より適切な対応方針が見えてきます。

「調査を中断した」と後で問われないための記録管理

調査の経緯と判断の根拠を文書化しておくことは、法的リスクを軽減する上で不可欠です。記録が残っていない場合、「会社が意図的に調査を放棄した」と解釈されるリスクがあります。

残すべき記録の種類

調査に関して残しておくべき記録は、大きく次の3種類です。一つ目は「調査の経緯記録」で、いつ・誰から・どのような申告があり、どのような調査を実施したか(または実施できなかった理由は何か)を時系列で記録します。二つ目は「対応の判断記録」で、被害者が休職したことを受けて会社がどのような判断をしたか、その理由とともに記録します。三つ目は「証拠保全の記録」で、何を・いつ・どのような方法で保全したかを残します。これらは書式を整える必要はなく、担当者が日時を記した議事メモ・メール等で構いません。大切なのは「やっていなかったのではなく、こう判断した」という軌跡を残すことです。

就業規則との整合を確認する

懲戒処分を行う場合、就業規則に定められた手続きに沿って進めることが不可欠です。就業規則が整備されていない、あるいはパワハラに関する規定が曖昧な中小企業では、この点が後の紛争で弱点になりやすい部分です。調査と並行して、現行の就業規則がパワハラへの対応として十分な内容になっているかを確認しておくことを推奨します。

復職を見据えた調査完結の重要性

調査を中途半端な状態で被害者が復職した場合、加害者と同じ職場環境に戻ることになります。調査の完結と環境整備は、復職支援の前提条件です。

復職前に整えるべき環境条件

被害者の復職を検討する段階では、少なくとも次の点が整っていることが必要です。加害者への処分・配置転換など何らかの措置が完了または進行していること、再発防止策(ハラスメント研修の実施や相談窓口の整備など)が具体的に動いていること、そして被害者本人が「戻れる環境だ」と感じられるための配慮(部署・業務・座席など)が検討されていることです。これらが整わないまま復職を進めると、再休職や離職に至るケースが少なくありません。

加害者処分のタイミングと注意点

調査が被害者抜きで一定程度進んだ段階で、加害者への処分・措置を下すことは可能です。「被害者が復職して証言を確認するまで処分できない」というわけではありません。加害者への事情聴取、第三者の証言、客観的な証拠の積み上げによって事実認定が可能であれば、被害者の復職を待たずに処分の検討を進めることが、職場秩序の回復と再発防止の観点から重要です。ただし、懲戒処分は就業規則の手続きに従って行うことが前提となります。

処分の判断や記録作成に自信がない場合、人事の負担が大きい場合は外部専門家に相談するのも有効です。ウェルセンス株式会社はハラスメント調査から復職支援までをサポートしており、中小企業の実情に合わせた相談が可能です。

まとめ

パワハラ調査中に被害者が休職した場合、調査そのものを止めることは法的に認められません。会社には調査義務が継続しており、「休職したから中断した」という判断は後の紛争でリスクになります。実務上の判断基準は、被害者本人への直接アプローチは医療状況と主治医意見を確認しながら慎重に進め、加害者・第三者へのヒアリングや証拠保全は速やかに継続する、そして加害者の業務継続が職場に悪影響を与えている場合は暫定的な配置転換などの保護措置を先行させるという3点です。また、調査の経緯と判断根拠を文書化しておくことが、法的リスクの軽減につながります。

ただし、ここで紹介した対応は複雑であり、企業規模や具体的な事案によって判断が分かれることも少なくありません。「どこまで判断が正しいのか確認したい」「人事が一人で抱えている」という場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。パワハラ調査の進め方から、休職者対応・復職支援・再発防止策まで、専任人事のいない中小企業の実情に合わせた形でサポートいたします。

よくある質問

Q. 被害者が休職中に、会社から連絡を取ること自体が問題になりますか?

A. 業務に関係しない連絡は問題になりにくいですが、調査・ヒアリングを目的とした接触は慎重に判断が必要です。主治医や産業医に事前に意見を求め、本人の同意を得た上で書面・メールなど負担の少ない方法を選ぶことが実務上の基本です。安静加療中の患者に会社が連絡することで症状が悪化した場合、安全配慮義務違反として問われる可能性があります。

Q. 産業医がいない企業でも、調査を正式に進めることはできますか?

A. できます。産業医の選任義務は従業員50名以上の事業場に適用されるため、50名未満の企業には選任義務がありません。産業医がいない場合は、加害者・第三者へのヒアリングや証拠保全を中心に調査を進め、被害者への確認が必要な場合は本人を通じて主治医の意見書を取得する方法が現実的です。外部の社会保険労務士や人事コンサルタントに調査の助言を求めることも有効な手段です。

Q. 被害者が復職するまで、加害者への処分は待つべきですか?

A. 必ずしも待つ必要はありません。加害者へのヒアリング、第三者の証言、客観的証拠の積み上げによって事実認定ができる場合は、被害者の復職を待たずに処分・配置転換等の措置を進めることが可能です。ただし、懲戒処分は就業規則の手続きに従うことが前提です。処分が遅れるほど職場秩序の回復が遅れ、他の従業員への影響が出るリスクもあります。

Q. 調査記録はどのくらいの期間保管すればよいですか?

A. 法令上、ハラスメント調査記録の保管期間について明確な規定はありませんが、労働関係の紛争が発生した場合の時効(不法行為に基づく損害賠償請求は原則3年、安全配慮義務違反に基づく場合は5年)を踏まえると、最低でも5年間の保管が実務上の目安とされています。事案が複雑な場合や訴訟リスクが高い場合は、弁護士に相談した上で保管期間を設定することをおすすめします。

Q. 加害者が「自分も精神的に辛い」として休職を申し出た場合、調査はどう対応すべきですか?

A. 加害者とされる人物が休職した場合も、会社のパワハラ調査義務は消えません。ただし、加害者本人へのヒアリングが一時的に困難になるため、その間は第三者へのヒアリングや証拠保全を優先します。加害者の休職が「調査回避を目的としている」と疑われる事情がある場合は、弁護士や専門家に相談しながら対応方針を検討することを推奨します。いずれにせよ、調査経緯と判断根拠を記録に残しておくことが重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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