月曜日の朝、入社から2ヶ月の新入社員から「精神科を受診しており、医師から休職を勧められています」というメッセージが届いた——そのとき、何をどの順番で確認すればよいか、すぐに答えられる担当者はどれほどいるでしょうか。本採用後すぐの休職申請は、試用期間中のトラブルとは法的にも実務的にも別の問題です。この記事では、専任人事のいない中小企業の担当者が、正しい手順で・リスクを最小化しながら対応できるよう、判断基準から手続きの流れまでを具体的に解説します。
「本採用取消」と「休職」は根本的に別の問題
本採用後の社員に対して「試用期間中の不調を理由に採用を取り消す」ことは、法律上は解雇にあたります。「まだ試用期間に近い時期だから」という感覚は通用しません。
試用期間中と本採用後では法的根拠が変わる
試用期間は「解約権留保付き労働契約」(最高裁・三菱樹脂事件、1973年)と位置づけられ、本採用拒否には通常の解雇よりも広い裁量が認められています。ただし、これはあくまで試用期間満了前の話です。本採用後は労働契約法第16条の「解雇権濫用法理」が完全に適用され、客観的合理的理由と社会通念上の相当性が必要になります。「試用期間中に不調があったから」という理由だけでは、本採用後の解雇は認められません。
「もう解雇は選べない」と理解したうえで休職対応に進む
本採用後に休職申請が届いた時点で、経営者・担当者が取るべき姿勢は「解雇できないか」を探ることではなく、「どう適切に休職対応するか」を考えることです。誤って解雇を選んだ場合、労働審判や訴訟に発展するリスクがあり、10〜50名規模の企業にとって経営的ダメージは甚大です。まず「本採用後=解雇は原則不可」という前提を共有したうえで、以降の手順を確認してください。
就業規則の休職規程、新入社員には適用されるか
休職規程の適用可否は、法律ではなく自社の就業規則の定めによります。まず就業規則の該当箇所を確認することが最初の作業です。
「勤続〇ヶ月未満は対象外」という規定は有効か
「勤続6ヶ月未満は休職規程の適用対象外」という定めは、法律上有効です。休職制度は法定事項ではなく任意規定であるため、会社が設定した適用条件は原則として認められます。ただし、対象外だからといって即時解雇が認められるわけではありません。解雇権濫用法理は休職制度の有無にかかわらず適用されます。
「対象外」のときに取れる現実的な対応
休職規程の適用対象外となる場合、会社は次の選択肢を検討することになります。
- 特例として休職を認める:就業規則の規定にかかわらず、個別対応として休職を許可する。後のトラブル防止のため、本人との合意と書面化が重要。
- 欠勤扱いで様子を見る:給与計算上は欠勤控除となるが、傷病手当金の申請は可能(後述)。ただし長期化した場合の対応方針を先に決めておくこと。
- 就業規則の見直しを並行して進める:「全従業員に適用」と規定を整備することで、次回以降の対応を明確化する。
精神障害・発達障害が背景にある場合は合理的配慮義務も確認する
2024年4月より、民間事業主への合理的配慮提供義務が法的義務化されました(障害者雇用促進法改正)。メンタル不調の背景に精神障害や発達障害がある場合、休職の可否だけでなく「業務上の配慮をどう提供できるか」という観点も必要です。この視点を欠いたまま欠勤扱い・解雇に進むと、後の紛争リスクが高まります。
休職対応の具体的な手順
休職申請を受けたら、感情的な判断を先行させず、以下の順序で情報を整理しながら対応を進めます。
医師の診断書を受け取り、休職の必要性を確認する
まず、本人から医師の診断書(休職加療が必要である旨の記載があるもの)の提出を求めます。診断書は「休職申請の根拠」になると同時に、傷病手当金申請の際にも参照されます。口頭での申請のみで手続きを進めることは後のトラブルにつながるため、必ず書面で残してください。診断書の内容について会社側が疑問を持つ場合は、本人の同意を得たうえで主治医に確認する方法もあります(セカンドオピニオン的な産業医意見が理想ですが、産業医のいない企業では難しいケースも多いため、まずは診断書の内容を尊重した対応が現実的です)。
休職期間・給与の扱い・復職条件を書面で合意する
口頭だけで「しばらく休んでください」と伝えるのは危険です。次の項目を休職通知書または覚書として書面化し、本人の署名をもらいます。
- 休職開始日・予定終了日(期間の定め)
- 休職中の給与の扱い(無給か、有給休暇消化があるか)
- 傷病手当金の申請案内(会社が証明書類を準備する旨)
- 定期的な状況報告の方法(月1回の連絡等)
- 復職時の手続き(復職診断書の提出など)
傷病手当金の手続きを案内する
傷病手当金は、業務外の傷病で働けなくなった場合に健康保険から給付される制度です(健康保険法第99条)。会社が直接払う給付ではありませんが、会社は「事業主の証明」欄への記入が必要です。専任人事がいない企業では「そんな手続きがあったのか」と後から気づくケースもありますが、案内を怠ると本人からの信頼を損ないます。協会けんぽのウェブサイトで様式を入手し、本人に渡すことが担当者の役割です。なお、健康保険の被保険者期間が短くても(入社2〜3ヶ月でも)傷病手当金の受給資格は発生しうるため、「まだ入社したばかりだから関係ない」という思い込みは禁物です。
会社規模・体制別の対応ポイント
同じ「本採用後すぐの休職申請」でも、従業員数や社内体制によって対応できることとできないことが異なります。自社の状況に合わせて確認してください。
| 状況 | 確認すべきこと | 優先アクション |
|---|---|---|
| 産業医あり(50人以上) | 産業医との面談を休職開始前・復職前に設定できるか | 産業医に主治医意見書の確認を依頼 |
| 産業医なし(50人未満) | 地域産業保健センター(産保センター)の無料相談を利用できるか | 診断書を基に書面対応。外部EAP・社労士に相談 |
| 就業規則に休職規程あり・勤続条件あり | 対象外の場合の対応方針が規定内にあるか | 特例対応の書面化・社労士確認 |
| 就業規則に休職規程なし・または不備 | 個別対応の合意書で代替できるか | 早急に就業規則の整備を開始 |
小規模企業が陥りやすい「早期解決を急ぐ」リスク
10〜30名規模の企業では、1人の欠員が他のメンバーへの負担に直結します。「早く退職してほしい」という本音と、「不当解雇は困る」という恐れが混在し、不用意な発言や曖昧な対応が後の紛争を招くことがあります。本採用後の社員に対して「このまま続けるのは難しいと思う」「退職を検討してほしい」といった発言は、退職強要と受け取られるリスクがあります。まず「適切に休んでもらう」ことを明確に伝えることが、会社と本人双方にとって最善です。
🔗 診断書や復職判断に迷ったら、外部専門家に相談することが後のトラブルを防ぎます。 →
復職に向けた準備は休職開始時から始める
休職期間中から復職後の姿を想定しておくことが、長期離脱を防ぐための重要な視点です。休職させたら終わりではありません。
連絡頻度と担当者を最初に決める
休職中の本人との連絡方法を最初に合意しておかないと、「連絡が取れない」「復職の意向が把握できない」という状況が続きます。一般的には月1回程度、メールや書面での状況報告を求める形が多いです。電話での頻繁な連絡は本人の回復を妨げる場合があるため、方法と頻度は書面で明記します。また、本人の窓口となる担当者を1人に絞り、複数の上司から連絡が入る状況を避けます。
復職の可否判断には医師の意見を必ず取る
復職時は、本人の「もう大丈夫です」という申し出だけで判断しないことが重要です。主治医による復職可能の診断書を提出してもらい、可能であれば産業医や外部専門家に確認してもらいます。段階的な復帰(時短勤務、業務軽減)を検討する場合も、業務内容を書面で合意することで認識のズレを防げます。
診断書の見方や復職判断に迷ったら、産業医のいない企業でも地域産業保健センターや外部の専門家に無料相談できます。一人で判断を抱え込まず、早期に相談することが後のトラブルを防ぎます。
まとめ
本採用後すぐの休職申請は、「解雇できるかどうか」ではなく「どう正しく休職対応するか」という問いに切り替えることが出発点です。本採用後は解雇権濫用法理が適用されるため、試用期間中の不調を理由にした採用取消は原則として認められません。まず就業規則の休職規程を確認し、適用対象かどうかによって特例対応か欠勤扱いかを判断します。その後、診断書の受領・休職書面の合意・傷病手当金の案内という手順で対応を進めます。休職規程の対象外であっても即解雇ができるわけではない点、2024年4月から義務化された合理的配慮提供義務がある点も見落とせません。
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よくある質問
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