「そろそろ期限を伝えなければ……でも、どう切り出せばいいかわからない」。休職している社員の対応で、そんなジレンマを抱えていませんか。体調を気遣うあまり通知を先延ばしにしていると、気づけば就業規則の期限まで残りわずか、という状況になりがちです。休職期間の上限をいつ・どのように伝えるか。この記事では、通知タイミングの目安から復職意思確認面談の進め方まで、専任人事のいない中小企業の担当者が実務ですぐ使えるポイントを整理します。
休職期間の上限は「いつまでに」伝えるべきか
結論から言えば、休職期間の上限は満了日の1〜2ヶ月前に書面で通知するのが実務の標準です。さらに理想を言えば、休職開始時点で「◯月◯日が期限です」と書面に明記しておくことがトラブル防止の基本となります。
通知が遅れると何が起きるか
多くの担当者が「本人の体調が落ち着いてから伝えよう」と先延ばしにしますが、これには思わぬリスクが伴います。期限を過ぎても在籍させ続けた場合、事実上の休職延長・雇用継続と見なされる「黙示の延長」が成立してしまう可能性があります。そうなると、後から「規則通り満了で退職扱いにする」と主張しても、本人や裁判所から異議を申し立てられやすくなります。
休職開始時と満了前、二段階で伝える
実務では次の二段階が有効です。まず休職開始時(または延長承認時)に、期間・満了日・満了時の取り扱い(自然退職か否か)を書面で伝えます。次に満了日の1〜2ヶ月前に、改めて期限を書面で通知します。この二段階を踏むことで、「知らなかった」という主張を防ぎ、本人も期限を現実として受け止めやすくなります。
就業規則の記載が曖昧な場合はどうする
就業規則に休職期間の上限が明記されていない、または「会社が認める期間」など曖昧な表現になっているケースは少なくありません。この場合、通知しても法的効力が不安定になります。まず就業規則を確認し、期間・満了時の取り扱いが明記されているかをチェックしてください。記載が不十分な場合は、社労士などの専門家と相談しながら規定を整備することが先決です。労働基準法第89条は就業規則への休職規定の記載義務を定めており、整備は会社側の責務でもあります。
「もう少し待って」と言われたとき、どこまで応じる義務があるか
「主治医がもう少し静養が必要と言っている」「本人もまだ無理だと言っている」——この状況で会社がどこまで応じる義務があるかというと、就業規則に定めた期間を超えて延長する法的義務は原則としてありません。ただし、判断を誤ると無効リスクが生じることもあるため、状況ごとの見極めが重要です。
主治医の「復職可」はそのまま会社の判断にならない
よくある誤解として、「主治医が復職可と言えば会社はそれに従わなければならない」というものがあります。しかし実際には、主治医の診断書はあくまで参考情報であり、最終的な復職判断は使用者(会社)の権限です。主治医は「日常生活が可能な状態」を復職可と記載することがありますが、「職場での就労に耐えられるか」は別の問題です。会社は産業医への意見照会や本人面談を経て総合的に判断する権限と責任を持っています。逆に、「主治医が反対しているから延長するしかない」も必ずしも正しくはありません。
延長を認める場合の判断基準
就業規則上の期間を超えて延長を認めるかどうかは、会社の裁量ですが、判断の基準を持っておくことが大切です。参考として、以下の点を確認してみてください。
- 主治医の意見書に「復職見込み時期」が具体的に示されているか
- 延長することで復職の可能性が実質的に高まるか
- 延長期間を就業規則に規定しているか、または書面で合意できるか
- 同様のケースで他の社員との公平性が保てるか
これらを満たさないまま「なんとなく待つ」を続けることが、黙示の延長リスクを高めます。
「軽減業務なら復職可能」な状態への対応
裁判例では、休職期間満了時に従前の業務に就けない場合でも、軽減業務等に就ける状態であれば解雇・退職は無効とされるケースがあります。つまり「完全に元通りに戻らないと復職不可」という運用は、解雇無効リスクが高くなります。会社側は「軽減業務・時短勤務での受け入れが可能かどうか」も含めて検討し、その結果を記録しておくことが重要です。
復職意思確認面談で確認すべきこと
復職意思確認面談は「お見舞い」ではなく、復職に向けた実務的な意思確認の場です。面談で何を聞くかを事前に整理しておくことで、本人を必要以上に追い詰めることなく、会社として必要な情報を得ることができます。
面談前に準備しておくこと
面談をスムーズに進めるために、担当者はあらかじめ次の点を確認しておきましょう。休職開始時に交付した書面(期限・取り扱いの記載)の内容、現時点での期限まで残り何日あるか、就業規則上の「復職条件」(診断書の提出義務など)、そして社内で受け入れ可能な業務・勤務形態の選択肢です。準備なしに臨むと、本人の「もう少し待って」に対して即答できず、その場の雰囲気に流されてしまいます。
面談で確認する5つの項目
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、復職判定に向けた段階的な確認プロセスが推奨されています。この考え方を踏まえ、面談では以下の5項目を順に確認することが実務上の基本です。
| 確認項目 | 確認のポイント |
|---|---|
| 体調・生活リズム | 睡眠が取れているか、通勤練習はしているか |
| 主治医の見解 | 復職可の診断書・意見書があるか、見込み時期はいつか |
| 希望する職務・勤務条件 | 元の職種か軽減業務か、時短希望はあるか |
| 復職後のフォロー体制 | 本人が必要と感じているサポートは何か |
| 期限の認識確認 | 休職期間の満了日を本人が正確に把握しているか |
「期限の話」を切り出すときの伝え方
多くの担当者が最も苦手とするのが、期限の話を切り出す場面です。「追い出そうとしている」と受け取られないよう、「就業規則に定めがあるため、会社としてお伝えする義務がある事項として確認させてください」という文脈で事実を伝えることが有効です。感情的な色をつけず、書面に記載された事実として共有する——この姿勢が、本人への配慮と会社の責任の両立につながります。
産業医・就業規則の有無で変わる対応の違い
中小企業では産業医の選任義務がない規模の会社も多く、また就業規則の内容も会社によって大きく異なります。自社の状況に合わせて、対応の優先順位を変えることが重要です。
産業医がいない場合(従業員50名未満が目安)
労働安全衛生法上、産業医の選任義務が生じるのは常時50名以上の事業場です。50名未満の会社では産業医がいないケースが多く、主治医の診断書だけを頼りに判断することになりがちです。この場合、主治医への照会(本人の同意を得た上で)や、地域の産業保健総合支援センターによる無料相談を活用することが一つの選択肢です。また、外部の人事・労務の専門家に相談しながら、書面のやり取りを記録として残すことが重要です。
就業規則がない・内容が古い場合
常時10名以上の労働者を雇用する事業場には就業規則の作成・届出義務があります(労働基準法第89条)。就業規則がない、または休職規定が「会社の判断による」など抽象的な場合、満了通知を出しても有効性が問われるリスクがあります。このような状況では、まず現行規則の整備が優先です。休職中の社員対応が進行中であっても、並行して規定の見直しに着手することを強くお勧めします。
就業規則が整備されている場合のポイント
就業規則に期間・満了時の取り扱いが明記されていれば、それを根拠として書面通知・面談を進めることができます。ただし「自然退職」規定が有効に機能するには、事前通知・合理的タイミングの通知・本人への周知という3条件が実務上重要とされています。規則があっても運用が適切でなければ、後に無効を主張されるリスクが残ります。
状況が複雑な場合は無理に自社対応しないことが大切です。迷った時点で相談することが、トラブルを防ぐ最善策です。
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通知・面談の記録を残すことが最大のリスク管理
休職対応で最も見落とされがちなのが「記録の残し方」です。口頭での説明だけでは、後から「そんな話は聞いていない」というトラブルが起きやすく、記録の有無が会社の主張の信頼性を大きく左右します。
書面で残すべき4つのタイミング
記録を残すべき場面として、少なくとも次の4つを押さえておきましょう。休職命令(または許可)の通知、延長を認めた場合の書面合意、満了日の1〜2ヶ月前の通知、復職意思確認面談の議事メモ(日時・参加者・確認事項・本人の発言要旨)です。面談メモは詳細なものでなくても構いません。日付・出席者・確認した事項の概要を残すだけで、後に「言った・言わない」の争いを防ぐ大きな効果があります。
本人への交付と受領確認
通知書類は本人に交付するだけでなく、受領したことを確認できる形にしておくことが大切です。直接手渡しする場合は受領署名をもらう、郵送する場合は配達記録郵便や内容証明郵便を使う、といった方法が一般的です。メールで送付した場合も、送信記録と開封確認を残しておくと安心です。
まとめ
休職期間の上限をいつどう伝えるかは、「感情的に傷つけたくない」という配慮と、「会社として必要な手続きを踏む」という責任を両立させる問題です。実務の要点を整理すると、休職開始時と満了1〜2ヶ月前の二段階で書面通知を行うこと、復職意思確認面談では体調・主治医見解・期限認識を順に確認すること、そして全てのやり取りを記録として残すことが柱になります。また、就業規則の整備状況や産業医の有無によって対応の優先順位は変わります。
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よくある質問
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