「眠そうにしているのは分かる。でも、ミスが続いていて、チームにも迷惑がかかっている。どうすればいい?」——復職者を抱える経営者や人事担当者から、こうした声を聞くことは少なくありません。薬の副作用によるものと分かってはいても、業務上の問題を放置し続けるわけにもいかない。かといって「薬を変えてほしい」と言うのは踏み込みすぎなのか、どこまで何ができるのか、判断基準がないまま動けずにいる方は多いはずです。この記事では、復職後に服薬中の従業員に業務ミスが増えたとき、会社として「やっていいこと・いけないこと」を整理し、主治医との連携も含めた具体的な対処方法をお伝えします。
「薬に口出しすること」と「情報を共有すること」は違う
会社が主治医に服薬内容の変更を直接求めることは法的にNGですが、職場で起きている事実を適切な方法で伝えることは、むしろ会社の義務です。この前提をまず確認しておきましょう。
医師の専権事項に踏み込んではいけない理由
服薬の種類・用量を決めるのは医師の専権事項であり、医師法第17条に基づく医療行為です。そのため、会社側が主治医に対して「この薬をやめてほしい」「量を減らしてほしい」と直接要求することは、医療行為への不当介入にあたる可能性があります。たとえ業務上の支障が明確であっても、この一線は越えてはいけません。「薬を変えてもらえれば解決する」と思っていても、それを直接指示・強要する権限は会社にはありません。
安全配慮義務があるから「何もしない」も正解ではない
一方で、会社には労働契約法第5条に基づく安全配慮義務があります。副作用によって業務遂行能力が著しく低下している状況を把握しながら放置することも、安全配慮義務違反のリスクを生じさせます。「薬のことだから言えない」という遠慮が過剰になり、本人の健康悪化やチームへの影響を見過ごすことは、法的にも実務的にも正しい対応とは言えません。「直接要求はNG」と「情報共有や支援はNG」は、まったく別の話です。
会社が「してよいこと」と「してはいけないこと」の区別
以下の表で、具体的な行動の可否を整理します。
| 行動 | 可否 | 理由 |
|---|---|---|
| 「眠気やミス増加が起きている」という事実を本人に伝える | 可 | 業務上の問題として対話する義務がある |
| 本人の同意を得て職場情報提供書を主治医に送付する | 可 | 情報提供は安全配慮義務の一環 |
| 本人に「主治医へ副作用の状況を相談してほしい」と促す | 可 | 受診行動を支援することは会社の役割 |
| 会社が主治医に「薬を変えてください」と直接要求する | 不可 | 医療行為への不当介入となる |
| 本人に「薬をやめなければ雇用しない」と告げる | 不可 | ハラスメント・不当な強要に該当しうる |
主治医と会社をつなぐ「職場情報提供書」の使い方
主治医が職場の実態を知らないまま診療しているケースは非常に多く、「職場情報提供書」を活用することで、この情報ギャップを適切に埋めることができます。
主治医は職場の状況を知らないことが多い
復職後の診察は多くの場合、本人の自己申告をもとに行われます。「仕事はどうですか?」「特に問題ありません」というやり取りだけでは、業務でどの程度のミスが発生しているか、どんな作業に支障が出ているかを主治医が把握することはできません。眠気や集中力低下の副作用があっても、本人が「多少しんどいけれど大丈夫」と感じていれば、服薬調整の必要性が医師に伝わらないまま経過することもあります。
職場情報提供書の内容と渡し方
職場情報提供書とは、業務内容・勤務時間・現在起きている具体的な問題を文書にまとめ、本人を通じて主治医の診察で参照してもらうものです。厚生労働省が作成した職場復帰支援の手引きにも、この手法が盛り込まれています。記載する内容としては、たとえば「週に何件程度のデータ入力ミスが発生しているか」「午後になると作業速度が落ちる傾向があるか」「他のスタッフがフォローに入っている頻度」など、具体的な事実が有効です。感情的な表現や「薬を変えてほしい」という意向は記載せず、あくまで事実の報告にとどめることが重要です。
本人の同意なしには動けない
職場情報提供書を主治医に送る、あるいは本人に渡す場合でも、本人の同意は必須です。「この書類を次の受診のときに先生に見せてもらえますか」という形で、本人を通じたやり取りが基本になります。会社が本人の同意なしに主治医へ直接連絡することは、個人情報保護の観点からも問題になりえます。同意を得る際は「あなたを責めているのではなく、医療的なサポートにつなげたい」という意図を丁寧に伝えることが大切です。
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本人との対話──言っていいこと、慎重にすべきこと
業務ミスの増加を本人に伝えることは必要な対話であり、避けてはいけません。ただし、伝え方によっては本人の心理的安全を損なうリスクもあるため、言葉の選び方が重要です。
「責める」のではなく「一緒に考える」スタンスで
「ミスが多くて困っている」という事実を伝えることと、本人を責めることは別です。例えば「先週のデータ入力で確認ミスが続いているんだけど、本人はどう感じてる?」という形で、事実を確認しながら本人の認識を聞く姿勢が有効です。「またミスした」「なんでこんなこともできないの」という言葉は、たとえ軽い気持ちであっても、回復途中の人には大きなダメージを与えます。業務上の指摘は必要ですが、感情的な批判とは切り離して行いましょう。
「受診で相談してほしい」を明確に伝える
本人が副作用の影響を主治医に十分伝えていないケースは少なくありません。「眠気が業務に影響しているなら、次の診察で先生にそのまま話してみてほしい」と、具体的にアクションを促すことが有効です。「相談してみたら?」という曖昧な表現より、「何日に受診があるなら、この点を伝えてみませんか」という形で、行動につなげやすい声がけを心がけましょう。
復職後ハラスメントにならないための基準
復職者への対応でハラスメントが問題になりやすいのは、「業務上の合理的な指導の範囲を超えた言動」が発生するときです。副作用に関連して、「病気なのに薬を調整しないのはやる気がないから」「もう少し頑張れないの?」といった発言は、本人の病状・治療方針を否定するものとして問題になりえます。指摘の対象は「行動・業務上の事実」に限定し、「人格や意欲・医療選択」には踏み込まないことを、対話の原則として共有しておきましょう。
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産業医がいる場合・いない場合の対応の違い
産業医の有無によって、主治医との連携手段は大きく変わります。自社の状況に合わせて、取れる選択肢を確認しましょう。
産業医がいる場合(従業員50名以上)
従業員50名以上の事業場には産業医の選任義務があります。産業医は「会社の懸念を医療的な文脈に翻訳して主治医に伝える」という重要な橋渡し役を担えます。産業医が主治医に意見書を送ったり、連絡を取ったりすることは医療者同士の連携として適切であり、会社が直接要求するのとは法的・倫理的に異なります。業務ミスの状況や職場の実態を産業医に詳しく説明し、産業医から主治医への連携を依頼するルートが最も有効です。
産業医がいない場合(従業員50名未満)
専任の産業医がいない中小企業でも、活用できる外部リソースがあります。各都道府県に設置されている「産業保健総合支援センター(さんぽセンター)」では、無料または低コストで産業保健の専門家に相談できます。また、地域の産業保健師・保健師・社会保険労務士などに相談することで、職場情報提供書の作成支援や対応方針の助言を得られる場合があります。「専門家がいないから何もできない」ではなく、外部リソースを活用する発想の転換が必要です。
就業規則の「再休職規定」を確認する
副作用による就労困難が一定期間続く場合、復職プランの見直しや再休職の検討が現実的な選択肢になることがあります。多くの就業規則には「復職後に症状が再燃・悪化した場合は再休職とする」旨の規定が設けられています。この規定が実際に活用できる状態にあるか、今のうちに確認しておきましょう。再休職を「失敗」と捉えるのではなく、「本人が安定した状態で再度復帰するためのプロセス」として会社・本人双方が理解できると、心理的ハードルが下がります。
薬の調整が難しい場合に会社ができる現実的な対応策
服薬調整がすぐには進まないケースでも、業務環境の側を調整することで、ミスの発生を減らしながら本人を支える方法があります。
ミスが起きにくい業務設計に切り替える
眠気や集中力低下の副作用が出ている場合、「判断が必要な業務」「確認作業が重要な業務」「単純な繰り返し作業」では、ミスの発生率が大きく異なります。可能であれば、副作用の影響が出やすい時間帯(多くの場合は服薬直後や午後の眠気が強い時間)に、影響が少ない業務を割り当てるといった工夫が有効です。20〜50名規模では部署異動が難しい場合でも、タスクの時間帯割り当てを変えるだけでリスクを下げられることがあります。
ダブルチェック体制の一時的な強化
本人を責めるのではなく、「今の時期はチームでカバーする」という体制を明示することで、本人の心理的安全を保ちながらミスによる業務損害を防ぐことができます。ダブルチェックの対象・頻度・担当者を明確にし、「あなたのミスを見張っている」ではなく「一緒に品質を守るための仕組み」として導入することが大切です。期間の見通しを示すこと(「服薬が安定する3か月程度は」など)も、本人・チーム双方の納得感につながります。
復職プランを見直すタイミングを決める
復職時に作成した復職プランは、定期的に見直すことが前提です。「副作用の影響が続いているが、いつまでこの状態が続くのか分からない」という漠然とした不安は、本人にも会社にも負担です。「1か月後に状況を確認して、必要があれば業務内容を再調整する」といった合意を最初から織り込んでおくと、途中での軌道修正がスムーズになります。
対応の判断に迷ったら、人事の経験者に相談するのが近道です。ウェルセンス株式会社なら、あなたの会社に合わせた対応プランを一緒に考えられます。
まとめ
復職後に服薬の副作用で業務ミスが増えたとき、会社がまず理解すべきことは「服薬内容への直接介入はNG、でも何もしないも正解ではない」という原則です。職場で起きている事実を整理し、本人の同意を得た上で職場情報提供書を活用するなど、主治医との情報連携を促すことは会社として適切かつ必要な行動です。本人への対話では、事実に基づく業務上の指摘と、受診での相談を促す声がけを組み合わせましょう。産業医がいない場合でも、産業保健総合支援センターなどの外部リソースを活用することで、専門家との連携は可能です。副作用の影響が続く間は、業務設計の工夫やダブルチェック体制で現場のリスクを下げながら、復職プランを柔軟に見直す姿勢を持つことが、本人とチームの両方を守ることにつながります。
ウェルセンス株式会社では、このような復職後の対応について、専任人事がいない中小企業の経営者・人事担当者からのご相談をお受けしています。「どこまで言っていいのか分からない」「本人との対話が怖い」「対応の判断がつかない」といった状況でも、まずは現状を整理するところからご一緒できます。お気軽にお問い合わせください。
よくある質問
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