長期休職中の自動降格を就業規則に書く際のポイント

長期休職中の自動降格を就業規則に書く際のポイント 休職・復職対応
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「休職が1年近くになるのに、等級も給与もそのまま維持しなければならないのか?」——採用担当も兼務している経営者の方から、こうした相談が増えています。長期休職者の処遇は、放置すれば人件費負担が積み重なり、かといって安易に等級を下げれば不当な不利益変更として後から問題になりかねない。就業規則に「長期休職中は自動降格」と書くだけでは法的リスクがある一方、何も規定しないまま口頭対応を続けるのも危険です。この記事では、中小企業の経営者・人事担当者が押さえておくべき法的ポイントと、実務で使える規定の書き方を解説します。

「自動降格」規定は書けるのか——法的な答えから始める

結論から言えば、就業規則に長期休職中の等級変更規定を設けること自体は禁止されていません。ただし、設計の仕方によっては労働契約法違反となり、後から規定の効力が否定されるリスクがあります。

労働契約法が定める「不利益変更の壁」

就業規則を労働者に不利な方向へ変更する場合、労働契約法第9条は原則として「労働者の同意なく効力を生じない」と定めています。ただし同法第10条には例外があり、変更内容に合理的な理由があり、かつ変更内容を労働者に周知していれば、個別同意がなくても効力が認められる場合があります。

「合理性」の判断では、(1)労働者が受ける不利益の程度、(2)変更の必要性、(3)変更後の内容の相当性、(4)労働組合等との交渉経緯——これらを総合的に考慮します。「長期休職中に等級を下げる」という変更は不利益の程度が大きいため、合理性のハードルは高めに設定されています。

「自動降格」という言葉自体が問題になる理由

特に職能資格制度(仕事への習熟度・能力を基準に等級を設ける仕組み)を採用している会社では、休職という「事実」だけで能力が低下したとみなすことに合理性を認めにくいと、裁判所は判断する傾向があります。能力は休職中も保持されているという考え方が前提にあるからです。一方、役割等級・職務等級(担当ポジションや職務内容で等級を設ける仕組み)であれば、「その役割を担っていない期間がある」という事実を根拠にした見直しは制度的に説明しやすくなります。自社の等級制度の性質を確認することが、規定設計の出発点です。

降格・役職解任・等級変更——整理しておくべき概念の違い

「降格」という言葉は一見シンプルに見えますが、制度上の意味が異なる複数の概念が混在しています。まず概念を整理することで、自社に適した規定設計が見えてきます。

等級(資格)の降格と役職の解任は別物

等級(職能資格等級・役割等級など)の降格は、基本給の算定基準そのものを変えるため、生活に直接影響する重大な不利益変更です。これに対して、「課長」「主任」などの役職を解くこと(役職解任)は、役職手当の消滅を伴いますが、等級・基本給には影響しません。長期休職中の処遇見直しとして実務的かつリスクが低いのは、後者の役職解任に限定する設計です。

ただし注意点があります。役職手当が基本給の大部分を占めるような給与設計の場合、役職解任だけで実質的に大幅な賃金減となり、等級降格と変わらない影響を与えます。その場合は等級降格と同等のリスクとして扱う必要があります。

「資格消滅」という概念にも注意

職能資格制度の中には、「一定期間特定の職務を遂行しない場合、その資格が自動消滅する」という規定を設けているケースがあります。資格消滅は降格よりさらに重大な効果を持つ場合があり、就業規則の規定根拠と労使協議の記録がなければ、後から無効を主張される可能性が高くなります。既存の就業規則にこの種の規定がある場合は、現行の制度との整合性を含めて専門家に確認することを強くお勧めします。

法的リスクを下げる規定設計の4つのポイント

「自動降格」をそのまま規定するのではなく、次の4点を意識した設計にすることで、合理性の説明がしやすくなり、労使トラブルのリスクを大幅に下げられます。

「自動降格」から「復職時の等級再設定」へ発想を変える

休職期間中に等級を自動的に下げるのではなく、「復職時に職務内容・担当できる業務範囲を確認したうえで等級を再設定する」という形式が現在の実務では主流です。たとえば「休職前と同等の職務に復帰できない場合、復職時に当該職務・役割に応じた等級へ変更することがある」という文言は、等級と職務を連動させる論理として説明しやすく、役割等級・職務等級制度を採用している企業では受け入れられやすい設計です。

激変緩和措置を規定に組み込む

たとえ合理的な等級変更であっても、復職直後からいきなり給与が大幅に下がれば、社員の生活を脅かし心理的ダメージも大きくなります。「復職後○ヶ月間は従前の等級・給与で処遇し、その後の職務遂行状況をふまえて等級を確定する」という猶予期間を設けることで、変更の相当性が高まります。この措置は、裁判所が不利益変更の合理性を判断する際にも考慮される要素の一つです。

役職解任の要件は期間・手続き・通知方法まで明記する

役職解任(管理職の役職を解く処理)は等級降格より認められやすいとはいえ、「いつ、どのような手続きで、誰が決定するか」が規定に書かれていなければ、恣意的な運用と受け取られます。「休職開始から○ヶ月を経過した場合、会社は役職を解任することができる。解任にあたっては本人へ書面で通知する」のように、要件・手続き・通知方法を具体的に明記してください。

就業規則に書く際の文言例と制度別の使い分け

実際に就業規則へ落とし込む際は、自社の等級制度の種類によって適切な文言が異なります。下表で制度別のアプローチを整理します。

等級制度の種類 推奨される規定のアプローチ リスク水準
職能資格制度 役職解任に限定。等級・基本給の変更は復職後の査定に委ねる 中(等級変更は合理性の説明が難しい)
役割等級・職務等級制度 復職時に担当職務・役割に応じて等級を再設定する規定 低(職務との対応関係で説明しやすい)
混在・不明確 まず制度の整理から着手。規定の新設前に専門家へ相談 高(制度と規定がずれると無効リスク大)

役職解任規定の文言例

以下はあくまでも参考例です。自社の等級制度・給与規程との整合性を確認したうえで、社会保険労務士など専門家と一緒に調整してください。

  • 「私傷病による休職期間が連続して○ヶ月に達した場合、会社は当該社員の役職を解任することができる。この場合、会社は書面により本人に通知する。」
  • 「前項により役職を解任された社員が復職する際、会社は復職時の職務内容・担当業務の範囲をふまえて等級を見直すことができる。変更にあたっては本人と面談を行い、変更内容を書面で通知する。」
  • 「復職後○ヶ月間は、変更前の等級に基づく給与を保障する。」

傷病手当金への影響も社員に説明しておく

見落とされがちな点として、健康保険の傷病手当金の支給額は「標準報酬月額」をもとに計算されます(健康保険法第99条)。休職中に等級変更を行って実際の給与が変わると、月次の随時改定(月額変更届)によって標準報酬月額が改定され、傷病手当金の額にも影響が生じます。社員本人への丁寧な説明と、変更のタイミングについての配慮が必要です。等級変更の事務手続きを誤ると、社員が受け取るべき給付金が減る結果になるため、社会保険手続きの担当者とも連携してください。

既存の就業規則がない・古い場合の対応順序

「そもそも就業規則がない」「10年以上更新していない」という会社では、新たに規定を加える前に確認・整備すべきことがあります。手順を踏まずに規定だけ追加しても、トラブル時に効力が認められないケースがあります。

就業規則の作成・変更に必要な手続きを確認する

常時10人以上の労働者を雇用する事業場では、就業規則の作成・変更のたびに労働基準監督署への届出が必要です(労働基準法第89条)。また変更の際は、過半数を代表する労働者(過半数労働組合がある場合はその組合)から意見書を取得する義務があります(同法第90条)。意見書は「同意書」ではなく「意見を聴いた証明」であるため、代表者が反対意見を述べても変更は可能ですが、記録として残すことが重要です。

個別同意の取得で不利益変更リスクを下げる

不利益の程度が大きい変更(等級降格を含む場合など)については、就業規則の改定手続きと並行して、対象となる社員から個別に書面による同意を得ることを強くお勧めします。同意書には「変更内容・変更時期・具体的な処遇への影響」を明記し、社員が内容を理解したうえで署名したことが証明できる形式にしてください。口頭同意は後から「そんな説明は受けていない」と否定される可能性があります。

まとめ

長期休職中の自動降格規定は、設計を誤ると労働契約法違反となり、後から効力を否定されるリスクがあります。「自動降格」という設計ではなく、「復職時の職務・役割に応じた等級再設定」や「役職解任に限定」する形に変えることで、合理性の説明がしやすくなります。自社の等級制度の種類を確認し、激変緩和措置・個別通知・意見聴取の手続きをセットで整備することが重要です。また、等級変更は傷病手当金の支給額にも影響するため、社員への丁寧な説明と社会保険手続きの連携も欠かせません。

「うちの就業規則、このままで大丈夫かな」と感じたとき、専門知識を持った外部の視点を借りるのが最も確実です。ウェルセンス株式会社では、メンタルヘルス対応や休職復職支援とあわせて、人事労務制度の整備についての相談も承っています。就業規則の見直しから復職支援の仕組みづくりまで、ぜひお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則に規定がない状態で、休職中の社員の等級を下げることはできますか?

A. 就業規則に根拠規定がない場合、会社が一方的に等級・給与を変更することは原則としてできません。個別に社員の同意を書面で得ることが前提になりますが、その場合も「同意が真意によるものか」が後から問われることがあります。まずは就業規則に適切な規定を整備することが先決です。

Q. 役職解任と等級降格、どちらを先に規定すべきですか?

A. リスクが低い役職解任から着手するのが現実的です。役職解任は等級・基本給を変えないため、合理性の説明が比較的しやすく、就業規則への規定も受け入れられやすい内容です。等級降格の規定は、自社の等級制度の性質や法的整合性を確認してから慎重に追加することをお勧めします。

Q. 休職中に等級を変更すると、傷病手当金の額は変わりますか?

A. 変わる場合があります。健康保険の傷病手当金は標準報酬月額をもとに算出されます。等級変更に伴い実際の給与が変動し、随時改定(月額変更届)の要件に該当すると、標準報酬月額が改定され傷病手当金の支給額にも影響が生じます。等級変更を検討する際は、社会保険手続きへの影響も必ず確認してください。

Q. 過半数代表者の意見書が「反対」でも就業規則の変更は有効になりますか?

A. 意見書は同意書ではなく「意見を聴いた証明」であるため、代表者が反対意見を述べても就業規則の変更手続き自体は進められます。ただし、変更内容の合理性・周知の有無は別途問われます。反対意見が出た場合は、その内容を記録に残し、変更の必要性・内容の相当性についての説明資料も合わせて整備しておくことをお勧めします。

Q. 復職後に以前のポジションが埋まっていた場合、どう対応すればよいですか?

A. 就業規則に「復職先は休職前の職務に限らず、会社が指定する職務とする場合がある」旨を明記しておくことが重要です。ポジションが変わる場合でも、職務内容・等級・給与の変更を伴うときは本人への事前説明と書面による合意が必要です。復職先の受け皿設計は、休職開始時から段階的に検討しておくと、復職時のトラブルを防ぐことができます。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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