「休職の発令書を渡したら、『サインはしない』と言われてしまった——どうすれば良いのか」。そのまま対応が止まっている経営者や人事担当者は少なくありません。本人が拒否している以上、強制するのは問題なのでは?と不安になるのは当然です。しかし結論から言えば、休職発令に本人のサインは法律上の要件ではありません。就業規則に根拠があれば、会社は一方的に命令を発令できます。この記事では、休職発令 本人同意なしの場面でどう対応するか、記録の残し方、リスクの回避方法を実務的に解説します。
本人のサインがなくても休職発令は有効か
結論から言えば、就業規則に休職規定がある限り、本人の署名・同意は休職発令の効力要件ではありません。休職命令は会社の業務命令であり、雇用契約における合意事項ではないからです。
休職命令の法的な性格を理解する
休職発令は「会社と本人との新たな合意」ではなく、「就業規則を根拠とした会社からの業務命令」です。就業規則は採用時に周知されていれば、個別の合意なく適用されます。したがって、本人が「認めない」「サインしない」と言っても、命令の効力には影響しません。労働契約法第7条でも、就業規則で定めた労働条件は、個別の合意なく労働者に適用される旨が定められています。
効力の前提——就業規則に「根拠条項」があるか
ただし、前提として就業規則に休職規定が整備されていることが必須です。よくあるのが「医師の診断書を提出した場合に休職を命じることができる」という書き方です。この場合、本人が診断書を提出しなければ発令できないとも読めてしまいます。重要なのは、就業規則に「会社が必要と認めた場合にも休職を命じることができる」という会社起因の発令条項があるかどうかです。この確認を省いたまま強行すると、就業規則違反として命令が無効と争われるリスクがあります。まず自社の就業規則を開いて、この点を確認してください。
就業規則がない・規定がない場合はどうなるか
従業員10名未満の場合、就業規則の作成義務がないため規程が整備されていないこともあります。この場合、命令権の根拠が薄くなります。ただし労働契約法第5条が定める安全配慮義務(使用者は労働者の生命・健康を守る措置を講じる義務がある)を根拠に、健康状態の確認や就業制限を求めることは可能です。まずは就業規則の整備を急ぎながら、当面の対応として産業保健スタッフや社会保険労務士に相談することを強く推奨します。
本人がサインを拒否する背景にある問題
サイン拒否の背景を理解せずに力で押し通そうとすると、関係が悪化し後のトラブルが深刻になります。拒否には主に「病識のなさ」と「不信感」の二つのパターンがあり、それぞれ対応のアプローチが異なります。
メンタル不調による「病識のなさ」
メンタルヘルスの不調を抱える当事者は、しばしば自分の状態を正確に認識できません。「自分は病気ではない」「休む必要はない」と強く確信しているため、説得しようとするほど「押し付けだ」「ハラスメントだ」という反応を引き起こします。このケースでは、経営者や人事担当者が医学的な説得を繰り返すのは得策ではありません。主治医・産業医・外部の専門家など第三者の見解を介在させることが効果的です。
会社に対する不信感・警戒心
「休職させられたら、そのまま解雇されるのではないか」という恐怖感から拒否するケースもあります。この場合は、休職制度の仕組み(休職期間中の雇用保障、傷病手当金の受給可能性、復職の手続きなど)を丁寧に説明することで、拒否の壁が下がることがあります。書面でこれらの情報を渡し、「拒否しても不利益にはならない」ことを示すことが大切です。
サイン拒否のまま進めるための記録の残し方
本人のサインが得られなくても発令は有効ですが、「通知した事実」を証明できる記録を別途確保することが不可欠です。後から「知らなかった」「聞いていない」と言われたとき、会社を守るのはこの記録です。
発令書面の交付と到達の記録
発令書は書面で作成し、手渡しを試みます。本人が受け取りを拒否した場合は、内容証明郵便または特定記録郵便で自宅に送付し、到達の事実を記録に残してください。手渡しの場面では、その場にもう一人(上長や別の人事担当者)を同席させ、拒否された事実を目撃者として確保します。発令書の会社控えには「○年○月○日、○○(担当者名)が手渡ししようとしたが本人が受領を拒否したため会社で保管」と付記します。
面談記録の書き方
休職発令に至るまでの面談はすべて記録化します。記録には「日時」「場所」「参加者の氏名と役職」「主な発言内容の要旨」を記載し、面談終了後できるだけ当日中に担当者が署名した上で保管します。発言の一字一句を書く必要はありませんが、「本人は『自分は問題ない』と述べ、診断書の提出を拒否した」など、事実として何が起きたかを具体的に書くことが重要です。メールやチャットツールでの記録も有効な証拠になります。
「異議申し立ての機会を与えた」ことの明記
発令通知書に「本通知に異議がある場合は、○日以内に書面にて申し出ること」と明記しておきます。この一文があることで、「一方的に押し付けられた」という主張に対して、「異議申し立ての機会は提供した」と反論できます。異議がなければそのまま記録として保管し、異議があった場合はその内容を記録したうえで対応の是非を判断します。
強行発令した場合に生じるリスクと回避策
手続きを踏まずに強行発令することには、法的・実務的なリスクが伴います。リスクを正確に理解した上で、回避策を講じながら進めることが重要です。
不利益取扱い・ハラスメントと認定されるリスク
休職命令が業務上の必要性に基づかず、恣意的・制裁的に行われたと認定されると、不利益取扱いやパワーハラスメントと判断される可能性があります。これを防ぐためには、発令の客観的な理由を事前に整理・文書化しておくことが必要です。具体的には「業務への支障の内容と頻度」「周囲の従業員への影響」「本人の言動に関する具体的な記録」などです。「なんとなく心配だから」では根拠として不十分です。
安全配慮義務違反との関係
「本人が同意しないから発令しなかった」という判断は、安全配慮義務(労働契約法第5条)の観点から問題になる場合があります。就労を継続させたことで本人の健康被害が悪化した場合、会社が義務を果たさなかったと判断されるリスクがあるからです。むしろ、本人が拒否している場合こそ、会社が積極的に命令を出すことが義務になりうるという認識を持つことが重要です。
産業医・外部専門家の活用で客観性を確保する
50名以上の事業所では産業医の選任が義務付けられていますが(労働安全衛生法第13条)、50名未満の場合は選任義務がありません。しかし産業医がいなくても、地域産業保健センターの無料相談や、外部の産業保健コンサルタントを活用することは可能です。第三者の医学的見解を記録に残すことで、発令の客観的根拠が格段に強くなります。
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自社の状況に応じた判断フロー
休職発令の対応は、就業規則の整備状況・産業医の有無・本人の状態によって異なります。以下のフローで自社のケースを確認し、対応の方向性を判断してください。
| 確認項目 | 該当する場合の対応 | 該当しない場合の対応 |
|---|---|---|
| 就業規則に「会社起因の休職発令条項」がある | 条項を根拠に命令を発令できる | まず就業規則を整備する。当面は安全配慮義務を根拠に就業制限を検討 |
| 産業医または外部の医療専門家に相談できる | 医学的根拠を付けて発令の正当性を強化できる | 地域産業保健センター(無料)または主治医への受診勧奨を先行させる |
| 発令の客観的理由(業務支障・言動記録)が整理されている | 不利益取扱いの主張に対して反論できる | 先に記録を整理してから発令する。「なんとなく不安」での発令は避ける |
| 面談・通知の記録が残っている | 「言った・言わない」のトラブルを防げる | 記録化ルールを整備し、今後の面談から即座に実施する |
まとめ
本人がサインを拒否しても、就業規則に根拠がある限り休職発令は有効です。大切なのは、サインの有無よりも「通知した事実の記録」と「発令の客観的根拠」を整えることです。まず就業規則に会社起因の発令条項があるかを確認し、内容証明郵便や面談記録で到達・通知の事実を確保してください。また、「本人が嫌がっているから発令しない」という判断は、安全配慮義務の観点でむしろリスクになる場合があります。手続きを踏んだ上で毅然と対応することが、会社と従業員の双方を守ることにつながります。
休職発令の手続き、就業規則の整備、記録の残し方に不安がある場合は、専門家のサポートを早めに求めることをおすすめします。ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の経営者・担当者の方からのご相談を受け付けています。「うちのケースはどうすればいいか」という段階からでも、お気軽にご相談ください。
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