給与締め日変更の正しい進め方と社員への影響

給与締め日変更の正しい進め方と社員への影響 労務管理
Photo by Nataliya Vaitkevich on Pexels

「給与の締め日を月末に統一したい。でも、どう進めればいいか分からなくて、ずっと後回しにしている」——中小企業の経営者や兼務人事担当者からよく聞く声です。給与計算システムの導入や経理業務の効率化をきっかけに締め日変更を検討しても、「社員の同意は必要?」「移行月の給与はどう計算する?」「就業規則は書き換える必要がある?」と疑問が次々と浮かび、手が止まってしまうケースは少なくありません。この記事では、給与締め日変更の正しい進め方を法的根拠とともに解説し、社員への影響を最小化するための実務ポイントをお伝えします。

締め日変更は「会社の判断だけ」では進められない

給与の締め日は、労働基準法が定める就業規則の「絶対的記載事項」です。会社が独断で変更することはできず、所定の手続きを踏む必要があります。

法律上の位置づけを理解する

労働基準法第89条は、「賃金の決定・計算・支払いの方法、賃金の締切り・支払いの時期」を就業規則に必ず記載しなければならない事項として定めています。これを「絶対的記載事項」といいます。締め日は賃金の支払い条件の一つであるため、変更には就業規則の改定が必ず伴います。「口頭で社員に伝えただけ」「給与明細に記載しただけ」では法的に有効な変更とはなりません。

不利益変更に該当するケースがある

労働契約法第10条は、就業規則の変更によって労働条件を不利益に変更する場合、変更の「合理性」と「労働者への周知」が必要と定めています。締め日変更では、移行月に「通常より短い期間分の給与しか支払われない月」が生じることがあります。たとえば20日締めから月末締めに変更した場合、移行月は21日から月末までの日数分しか支払われないため、社員にとって一時的な不利益になり得ます。この場合、周知だけでは不十分なケースがあり、個別に同意を取得することが最も安全な対応です。

同意書はなぜ必要か

個別同意書を取得する目的は、後になって「聞いていなかった」「説明がなかった」という労使トラブルを防ぐことです。同意書には、変更の内容(新旧の締め日・支払日)、移行月の給与計算方法、変更の施行日を明記し、社員本人の署名・捺印をもらいます。同意書の取得は義務ではありませんが、特に移行月に不利益が生じる場合は取得を強くおすすめします。

移行月の給与計算:最も混乱しやすいポイント

締め日変更で実務担当者が最も悩むのが、移行月の給与計算です。基本は「日割り計算」であり、就業規則に算式の根拠を明記しておくことがトラブル防止の鍵です。

日割り計算の基本的な考え方

移行月は通常より計算対象期間が短くなるため、月給制の場合は以下の算式で日割り計算をおこないます。

除数の種類 算式 特徴
暦日数 月額賃金 ÷ 月の暦日数 × 実際の労働対象日数 計算が単純。月によって日数が変わる
所定労働日数 月額賃金 ÷ 月の所定労働日数 × 実際の所定労働日数 休日が多い月は金額が変わりやすい

どちらの除数を使うかで社員に支払われる金額が異なります。就業規則または賃金規程に「日割り計算の除数は暦日数とする」のように明記しておくことで、社員との認識のズレを防げます。

具体例で確認する

たとえば、月額給与25万円の社員について、20日締めから月末締めに変更する場合を考えます。移行月の計算対象期間は「21日から月末まで」、仮に11日間(31日の月)とします。暦日数除数を使う場合、計算は「250,000円 ÷ 31日 × 11日 ≒ 88,709円」となります。社員への事前説明がないと「給与が激減した」と誤解されやすいため、必ず事前に金額のシミュレーションを提示して説明することが重要です。

端数処理のルールを就業規則に明記する

日割り計算では1円未満の端数が生じることがあります。「切り捨て」でも「切り上げ」でもどちらも法律上問題ありませんが、どちらにするかを就業規則に明記しておかなければ、社員ごとに対応が異なるトラブルの原因になります。また、賃金支払いの5原則(労働基準法第24条)では「毎月1回以上、一定の期日に支払う」ことが義づけられています。移行月の設計が「2か月に1回しか支払われない」状態になると法違反となるため注意が必要です。

就業規則変更と行政手続きの正しい流れ

締め日変更に必要な手続きは、設計・同意・届出・周知の順に進めます。何をどの順番で行うかを把握しておくことで、抜け漏れを防げます。

手続きの全体像

まず変更内容を設計します。新しい締め日・支払日、移行月の計算方法と対象期間、施行日を決定します。次に、過半数代表者(または労働組合)から意見を聴取し、意見書を作成します。この意見書は就業規則変更届に添付するために必要な書類です。そのうえで社員に個別説明をおこない、同意書を取得します。不利益変更が生じる場合は、この段階を丁寧に進めることが特に重要です。

労働基準監督署への届出と周知

変更した就業規則と意見書をセットにして、所轄の労働基準監督署へ届出をおこないます。この届出義務が生じるのは「常時10名以上の労働者を使用する事業場」です。常時10名未満の事業場は就業規則の作成・届出義務がありませんが、すでに就業規則を定めている場合は変更と届出が必要です。届出後は、変更後の就業規則を社員に周知します。周知の方法は、職場への掲示・書面配布・社内イントラへの掲載など、社員が確認できる状態にすることが要件です。

社会保険・雇用保険への影響

締め日変更そのものに対して、社会保険事務所や年金事務所への「変更届」は原則不要です。ただし、移行月に支払われる賃金額が通常月と大きく異なる場合、固定的賃金の変動と見なされて月額変更届(随時改定)の対象になるかどうかを確認する必要があります。また、賞与の算定期間と締め日変更による期間のズレが生じないかも事前にチェックしておきましょう。不安な場合は、所轄の年金事務所または社会保険労務士に確認することをおすすめします。

手続きに悩んでいる場合は、早めに専門家に相談することで、後々のトラブルを大きく減らせます。

社員への説明と合意形成:信頼を損なわないために

手続きを正しく踏んでも、社員への説明が不十分だと不満や不信感が残ります。移行月の給与が減ることを事前に丁寧に伝えることが、職場の信頼関係を守る上で欠かせません。

説明のタイミングと内容

社員への説明は、施行日の少なくとも1か月前には実施することが望ましいです。説明すべき内容は、変更の理由(システム統一・業務効率化など)、新旧の締め日と支払日、移行月の計算期間と具体的な支払額のシミュレーション、の3点です。特に移行月の給与が通常より少なくなる場合は、その理由を丁寧に説明しないと「給与を減らされた」という誤解を招きます。

一時的な不利益への配慮策

移行月に給与が少なくなることへの対応として、次のような配慮策を検討する会社もあります。移行月に短縮される分を「調整給」として別途支給する方法や、移行月の支払いを2回に分けて通常月と同水準の受取額になるよう設計する方法です。義務ではありませんが、こうした配慮が社員の納得感を高め、同意取得をスムーズにする効果があります。会社の財務状況と相談しながら検討してみてください。

従業員数・就業規則の有無による対応の違い

自社の状況によって必要な対応が異なります。常時10名以上の場合は就業規則の変更・届出が必須です。常時10名未満でも就業規則を作成している場合は変更と届出が必要です。就業規則を作成していない場合でも、賃金規程など個別の規程があれば改定が必要になります。いずれの場合も、社員への説明と同意書の取得は実施することを強くおすすめします。

よくある誤解と見落としがちな落とし穴

締め日変更の手続きを進める中で、担当者が陥りやすい誤解や見落とし点があります。事前に把握しておくことでトラブルを未然に防げます。

「周知すれば同意は不要」という誤解

就業規則の変更は、労働者への周知と合理性があれば原則として有効です。しかし、不利益変更が生じる場合に「全員分の同意書は面倒だから周知だけでいい」と判断するのは危険です。後になって「不利益変更への同意はなかった」として未払い賃金を請求されたり、労働基準監督署に申告されたりするリスクがあります。移行月に給与が少なくなるケースでは、必ず個別同意書を取得してください。

賃金規程と就業規則の整合性を確認する

締め日に関する記載が「就業規則」と「賃金規程(給与規程)」の両方に分散しているケースがあります。片方だけを変更すると規程間に矛盾が生じ、後のトラブルの原因になります。変更前に両方を確認し、整合性を取った上で改定してください。

パートタイム・契約社員への対応を忘れない

正社員の締め日変更に注目しがちですが、パートタイマーや契約社員が別の規程・契約書で管理されている場合は、それぞれの契約書や規程も改定が必要です。雇用形態ごとに締め日が異なる運用をしている場合は、どの区分を対象に変更するのかを明確にしてから手続きを進めましょう。

判断に迷ったときや書類作成に困ったときは、ウェルセンス株式会社にご相談ください。人事経験豊富な専門家がアドバイスいたします。

まとめ

給与の締め日変更は、就業規則の絶対的記載事項に関わる手続きであり、「会社の都合で決めればよい」という対応は法的リスクを伴います。正しく進めるためには、変更内容の設計・移行月の日割り計算・社員への個別説明と同意書取得・就業規則の変更と届出・周知という流れをきちんと踏むことが重要です。特に移行月の給与が少なくなるケースでは、社員への丁寧な事前説明が職場の信頼関係を守ります。

「自社の場合、何から手をつければいいかわからない」「手続きの抜け漏れが心配」「移行月の給与計算方法について相談したい」とお感じであれば、ウェルセンス株式会社にご相談ください。専任人事がいない中小企業の人事労務課題に向き合ってきた経験をもとに、御社の状況に合わせた進め方をご提案します。

よくある質問

Q. 社員全員の同意が取れない場合、締め日変更はできませんか?

A. 全員の同意がなくても、就業規則の変更手続き(合理性の確保・周知)を正しく踏めば、変更自体は法的に有効となり得ます。ただし、移行月に不利益が生じる社員から個別に同意を得られない場合は、後のトラブルリスクが残ります。同意を得られない理由を丁寧に聞き取り、必要であれば変更の内容や時期を見直すことも選択肢の一つです。

Q. 移行月の給与が少なくなることを事前に伝えないまま支払った場合、どうなりますか?

A. 社員から「説明がなかった」として未払い賃金の請求や労働基準監督署への申告につながるリスクがあります。移行月の支払額が通常より少ない場合は、必ず事前に計算シミュレーションを示して説明することが重要です。事後の対応よりも、事前の丁寧な説明のほうがトラブル防止に効果的です。

Q. 締め日変更に伴い、社会保険の届出は必要ですか?

A. 締め日変更そのものに対して社会保険事務所への変更届は原則不要です。ただし、移行月の支払額が通常月と大きく異なる場合は、月額変更届(随時改定)の対象になるかどうかを所轄の年金事務所または社会保険労務士に確認することをおすすめします。

Q. 従業員が10名未満の場合、就業規則の変更・届出は必要ですか?

A. 常時10名未満の事業場は、就業規則の作成・届出義務がありません。ただし、すでに就業規則を定めている場合は変更と届出が必要です。就業規則がなくても賃金規程など個別の規程がある場合はその改定が必要です。また、就業規則の有無にかかわらず、社員への説明と同意書の取得は実施することを強くおすすめします。

Q. パートタイマーや契約社員の締め日も同時に変更する場合、追加の手続きはありますか?

A. パートタイマーや契約社員が個別の労働契約書や別規程で管理されている場合は、それぞれの契約書・規程の改定が必要です。雇用形態ごとに異なる締め日を設定していた場合は、どの区分を対象に変更するかを明確にしたうえで、対象となる雇用区分の社員全員に対して説明と同意取得をおこなってください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

人事だけで抱えない。産業医にスポットで相談
タイトルとURLをコピーしました