求人票と実態が違うと言われた時の3つの対処法

求人票と実態が違うと言われた時の3つの対処法 組織運営
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「求人票には残業ほぼなしと書いてあったのに、実際は毎月40時間近くある」——入社したばかりの社員からこんな指摘を受けたとき、あなたはどう答えますか。「求人票は広告だから」と思っていたとしたら、その認識が会社をリスクにさらすかもしれません。求人票と実態の乖離は、労働基準法や職業安定法が絡む法的問題に発展しうるトラブルです。この記事では、既にクレームを受けてしまった場合の具体的な対処法と、同じ問題を繰り返さないための実務的な整備方法を、法的根拠とともにわかりやすく解説します。

求人票と実態が違う場合に会社が負う法的リスク

「求人票はただの広告だから、多少の誇張は問題ない」という認識は法的に誤りです。職業安定法および労働基準法のもとで、会社は求人票・労働条件通知書を通じて正確な労働条件を明示する義務を負っています。

職業安定法が求める「正確な記載」義務

職業安定法第5条の3は、求人を行う際に業務内容・就業場所・労働時間・賃金・雇用期間などを明示することを義務付けています。2024年(令和6年)4月の改正では、「従事すべき業務の変更範囲」「就業場所の変更範囲」「雇用形態の変更範囲」の明示が新たに求められるようになりました。ハローワーク経由の求人票に実際と異なる条件を記載したと判断された場合、行政指導の対象となるリスクがあります。

労働基準法第15条が定める即時退職権

労働基準法第15条は、使用者が労働契約の締結時に賃金・労働時間・就業場所などの労働条件を書面で明示することを義務付けています。さらに同条第2項では、明示された労働条件と実態が異なる場合、労働者は即時に労働契約を解除(即時退職)できると定めています。つまり「聞いていた話と違う」と言われた時点で、社員には法律上の退職権が発生している可能性があります。

民法上の損害賠償リスク

求人票の誇張表現が「重要事項の虚偽表示」に当たると判断された場合、労働者から民法上の錯誤・詐欺を理由とした労働契約の取消しや、不法行為に基づく損害賠償請求がなされるリスクもあります。実際に、採用時の条件提示と実際の労働条件が著しく異なるケースで会社側の不法行為責任を認めた判例も存在します。「採用広告を盛ること」の代償は、想定以上に重くなり得ます。

求人票・雇用契約書・労働条件通知書の違いを整理する

トラブルの根本には、「求人票」「労働条件通知書」「雇用契約書」の役割の違いが整理できていないことがあります。それぞれの法的位置づけを理解することが、適切な対処の第一歩です。

3つの書類が持つ意味の違い

書類 法的位置づけ 拘束力
求人票 労働条件の「予告的明示」 虚偽・誇張があれば責任を問われうる
労働条件通知書 労働契約締結時の「確定的明示」 契約内容として法的拘束力あり
雇用契約書 双方合意の証明 最も強い証明力を持つ

「求人票は広告」という誤解が生む危険

求人票はあくまで採用の入口ですが、職業安定法上は「労働条件の明示」に該当します。法的に最も重要なのは労働条件通知書および雇用契約書ですが、求人票の内容が明らかに実態と異なる場合は、それ自体が問題になります。「面接でちゃんと説明した」という口頭でのやりとりは証拠として残りにくく、「言った・言わない」の水掛け論になりがちです。書面として何を約束し、何を合意したかを残すことが、会社を守る最大の手段です。

労働条件通知書の交付タイミングも重要

労働条件通知書は、労働契約の締結時(できれば入社日前)に交付し、本人の署名または受領確認を取ることが実務上の基本です。中小企業では入社後しばらく経ってから交付するケースも少なくありませんが、この段階で「求人票の内容と違う」というクレームが起きた場合、会社側は条件合意の証拠を持っていないことになります。交付が遅れているケースでは、早急に整備することが急務です。

クレームを受けたときの具体的な対処法

「求人票と実態が違う」と入社した社員から指摘を受けた場合、初動対応の質がその後の展開を大きく左右します。感情的に否定したり、放置したりすることが二次トラブルへの最短ルートです。

まず事実確認と社内の証拠整理を行う

クレームを受けたら、感情的に反論する前に、まず社内で事実を整理します。確認すべきポイントは「求人票に何と記載したか」「面接でどのような説明をしたか(記録はあるか)」「労働条件通知書・雇用契約書には何と書いているか」の3点です。求人票のコピーや掲載データ、面接時のメモや議事録がある場合はすぐに手元に集めましょう。「何を約束したか」を客観的に整理することが、適切な対応の前提になります。

社員と誠実に対話し、問題の核心を把握する

事実確認ができたら、当該社員と落ち着いた場を設けて話し合います。このとき重要なのは「何が問題なのか」を正確に把握することです。たとえば「残業が多い」という訴えであれば、求人票に記載した残業時間と実態の数字を比較し、差異がどの程度かを確認します。会社側に明らかな誤りがあった場合は素直に認め、謝罪と改善策を伝えることが信頼関係の維持につながります。その場で軽率に「補償します」と口約束するのは避け、回答が必要な場合は期限を伝えて持ち帰ります。

状況に応じた解決策を提示する

対話の結果として、会社が提示できる解決策はケースによって異なります。差異が軽微で業務上の説明不足によるものであれば、改めて労働条件を書面で確認し合意することで解決できる場合があります。一方、求人票の記載と実態の乖離が大きく、社員が就労継続を望まない場合は、労働基準法第15条第2項に基づく即時退職の権利があることを念頭に置き、円滑な退職手続きを支援することも選択肢のひとつです。いずれの場合も、対応の記録を文書として残してください。労働基準監督署への申告や法的手続きに発展した場合、対応の経緯が証拠になります。

クレーム対応に不安がある場合は、早めに相談することが誠実な対応を支える土台になります。

同じトラブルを繰り返さない求人票・採用フローの整備

クレームへの対処と同時に着手すべきなのが、再発防止策です。求人票の記載ルールと採用フローを整備することで、同様のトラブルを大きく減らすことができます。

求人票に書くべきこと・避けるべき表現

求人票には「やりがいのある仕事」「アットホームな職場」など、曖昧で主観的な表現が横行しがちです。こうした表現自体が違法とは言えませんが、実態と大きくかけ離れた場合はトラブルの種になります。具体的な数字や事実を盛り込む方針に切り替えましょう。たとえば「残業ほぼなし」ではなく「月平均残業時間:10時間以内(前年度実績)」、「昇給あり」ではなく「昇給:年1回・査定による(実績:過去3年連続実施)」と書くことで、入社後のギャップを防ぎやすくなります。

入社前の条件確認フローを仕組みとして作る

採用が決まってから入社日までのフローを標準化することが重要です。実務として推奨される流れは次のとおりです。まず内定通知書を発行し条件を文書で再確認します。次に入社前のオファー面談を設け、求人票に記載した内容と実際の業務内容の差異があればその場で説明・合意します。その後、労働条件通知書を入社日前に交付し署名・受領確認を取ります。できれば雇用契約書も入社前に締結することが望ましく、入社後30日以内に条件確認の面談を実施して記録を残すことで、初期段階のミスマッチを早期に解消できます。

就業規則との整合性を確認する

就業規則を整備している企業であれば、求人票・労働条件通知書・就業規則の3者で矛盾が生じていないかを確認してください。従業員10名以上の企業は就業規則の作成・届出が義務付けられていますが、10名未満の企業でも就業規則に準ずる社内ルールを整備しておくことが、トラブル予防の観点から有効です。特に「試用期間中の賃金」「残業代の計算方法」「昇給・賞与の支給条件」はトラブルになりやすい箇所なので、求人票の記載と実態・就業規則の文言をセットで見直すことをお勧めします。

二次トラブルに発展しそうなときの判断基準

初動対応がうまくいかず、問題がエスカレートしそうな場合は、早めに専門家を交えた対応に切り替えることが重要です。放置することで取り返しのつかない状況になるケースもあります。

労働基準監督署への申告リスクを理解する

社員が「労働基準法違反がある」と判断した場合、労働基準監督署に申告することは労働者の権利です。申告を受けた場合、会社は調査対応を求められることがあり、対応が不適切だと是正勧告につながることもあります。申告を過度に恐れる必要はありませんが、「申告されたくないから言いなりになる」という対応も適切ではありません。事実に基づいて誠実に対応し、改善すべき点は改善する姿勢が重要です。

社労士・弁護士への相談タイミング

次のような状況になった場合は、社会保険労務士や弁護士への相談を早急に検討してください。社員から損害賠償を求める通知が届いた場合、弁護士や労働組合が介入してきた場合、解決策の提示に合意が得られず関係が悪化している場合、複数の社員から同様の指摘が相次いでいる場合です。特に専任人事がいない中小企業では、人事・労務のトラブルに対処するリソースが限られています。問題が複雑化する前に外部の専門家を活用することが、会社と社員双方にとって合理的な選択です。

求人票や採用ルールの整備も含め、人事だけで判断せず専門家に相談することで、より客観的で実行可能な対策が立てやすくなります。

まとめ

「求人票と実態が違う」というクレームは、放置すれば労働基準法・職業安定法上の問題に発展しうる、会社にとって真剣に向き合うべきトラブルです。まず法的リスクの全体像を正確に把握し、次に事実確認と社員との誠実な対話によって問題の核心を整理します。そのうえで、求人票・労働条件通知書・雇用契約書を整合させる採用フローを整備することが、同じトラブルの再発防止につながります。専任人事がいない中小企業ほど、こうした整備が後回しになりがちです。「うちはまだ大丈夫」と思っているうちに手を打つことが、結果として会社を守ります。ウェルセンス株式会社では、採用・入社時のトラブル予防から、既に発生したクレームへの対応まで、中小企業の実情に合わせた支援を行っています。「自社の求人票や採用フローに不安がある」「既に社員からクレームを受けている」という場合は、まずお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 求人票に「残業ほぼなし」と書いていたが、実際は月30時間ほどあります。これは法律違反になりますか?

A. 「ほぼなし」という表現の曖昧さが問題になる可能性があります。職業安定法では求人票に正確な労働条件を明示することが求められており、実態と大きく乖離した記載は法的責任を問われるリスクがあります。また、労働基準法第15条第2項により、明示条件と実態が異なる場合、社員は即時退職できる権利を持ちます。今後は「月平均残業時間:〇時間(前年度実績)」のように具体的な数字で記載することをお勧めします。

Q. 入社後に「給与が求人票と違う」と言われました。雇用契約書には正しい金額が書いてあります。この場合、会社に非はありますか?

A. 雇用契約書の記載が法的な契約内容として優先されますが、求人票の記載と雇用契約書の内容が異なっていた場合、会社は「なぜ求人票と違うのか」を説明する責任があります。入社前のオファー面談や内定通知書でその差異を説明・合意していれば問題は軽減されますが、説明なく条件が変わっていた場合は不信感を招き、トラブルの原因になります。今後は求人票・内定通知書・雇用契約書の3者で条件が一致するよう整備することが重要です。

Q. 労働条件通知書をまだ交付していません。入社して2週間経ちますが、今から交付しても問題ないですか?

A. 労働基準法第15条では、労働条件通知書は労働契約の締結時(入社日前が理想)に交付することが義務付けられています。入社後2週間経過している場合は既に義務違反の状態ですが、今すぐ交付することが重要です。交付が遅れた事実は残りますが、未交付のまま放置するよりリスクははるかに低くなります。交付の際は本人の署名または受領確認を必ず取り、記録として保管してください。

Q. 入社した社員が「条件が違うから辞める」と言っています。引き留めることはできますか?

A. 労働基準法第15条第2項に基づき、明示された労働条件と実態が異なる場合、労働者は即時に労働契約を解除できます。この権利を会社側が一方的に阻止することはできません。ただし、差異の原因を誠実に説明し、改善策を提示することで社員が翻意するケースもあります。無理な引き留めは関係悪化につながるため、社員の意思を尊重しながら、円満な解決策を話し合うアプローチが現実的です。

Q. 求人票の見直しを社内でやろうとしていますが、何から手をつければよいですか?

A. まず現在使用している求人票と、直近の雇用契約書・労働条件通知書を並べて比較することから始めてください。賃金・労働時間・残業・昇給・就業場所の5項目を重点的に確認し、曖昧な表現や実態と異なる記載がないかをチェックします。次に、2024年4月の職業安定法改正で追加された「業務・就業場所・雇用形態の変更範囲」の明示事項が含まれているかを確認します。専門知識に不安がある場合は、社会保険労務士や専門支援機関に相談することで、抜け漏れのない整備が可能です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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