属人給与を是正する等級制度導入の進め方

属人給与を是正する等級制度導入の進め方 人事制度
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「うちの会社、同じ仕事をしているのに給与がバラバラで……正直、自分でも説明できないんです」。そんな悩みを抱えながら、毎年の昇給面談をなんとかやり過ごしている経営者・人事担当者は少なくありません。採用時の交渉の積み重ね、昔からいる社員への配慮、場当たり的な判断——気づけば給与の根拠がどこにもない状態になっていることがあります。この記事では、等級制度を導入して属人給与を是正するための優先順位の決め方と、移行スケジュールの組み方を実務的に解説します。

属人給与を放置するとどうなるか

給与の根拠があいまいなまま放置すると、法的リスク・人材リスク・組織リスクの三方向から会社の体力を削ります。「なんとなくまずい」という感覚は正しく、具体的に何がまずいのかを整理することが是正の出発点です。

法的リスク:説明できない給与差は紛争の火種になる

パートタイム・有期雇用労働法(第8条・第9条)は、正社員と非正規社員の不合理な待遇差を禁止しています。2021年4月からは中小企業にも適用されており、現在はすべての企業が対象です。等級制度がない状態では、「なぜこの差があるのか」を客観的な基準で説明できません。同法第14条では、非正規労働者から待遇差の説明を求められた場合に使用者が説明義務を負うことも定められています。説明できなければ、それだけで紛争のリスクが高まります。

また、常時10名以上の労働者を使用する事業場は、労働基準法第89条により賃金の決定・計算・支払方法を就業規則に定める義務があります。規定はあっても実態と大きくかけ離れている企業は多く、そのズレ自体がリスクになります。

人材リスク:「なんであの人のほうが高いの?」が離職につながる

採用難が続く中、後から入った社員のほうが給与が高いケースは珍しくありません。既存社員がその事実を知ったとき、「頑張っても報われない」という感情が生まれ、優秀な人ほど先に辞めていきます。給与の不公平感は、業務上の不満と違って「話し合いで解決できる」と思われにくく、静かに退職を決意させる要因になりやすいのです。

組織リスク:「基準がない」は意思決定のブレを生み続ける

等級も賃金テーブルもない状態では、昇給・昇格の判断が毎回社長の感覚に委ねられます。判断基準がブレると、評価された社員・されなかった社員の双方に「なぜ?」が積み重なり、マネジメントへの信頼が徐々に失われます。制度がないことは「自由」ではなく、「判断の根拠をその都度ゼロから作らなければならない負荷」を生み続けることを意味します。

等級制度とは何か——シンプルに理解する

等級制度とは、社員を役割・スキル・貢献レベルによっていくつかの段階(等級)に分類し、各等級に対応する給与レンジ(範囲)を設ける仕組みです。難しい制度を一から作る必要はなく、まずは骨格だけを整えることが実務的な出発点です。

等級制度が果たす三つの役割

等級制度を導入すると、給与決定に「根拠」が生まれます。具体的には、採用時の給与交渉の上限をルール化できる、昇給の判断基準を社員に示せる、非正規と正規の待遇差を説明できる——という三つの実務上の効果があります。いずれも、等級制度がないと個別対応し続けるしかない問題です。

20~50名規模ではシンプルな骨格で十分

大企業のように10段階以上の複雑なグレード体系は必要ありません。20~50名規模であれば、3~4等級の骨格から始めるのが現実的です。たとえば「G1:業務習得中/G2:独り立ち後/G3:チーム牽引/G4:マネジメント」のような区分で十分に機能します。精緻さより「誰もが理解できること」「説明できること」を優先してください。

是正の優先順位はどう決めるか

全員の給与を一度に見直すことは現実的ではありません。是正には優先順位が必要であり、その判断軸は「法的リスク」「離職リスク」「社員間の公平性」の三つで整理できます。

法的リスクが最も高い領域から着手する

まず対応すべきは、同一労働同一賃金の観点から問題になりやすい雇用形態間の格差です。同じ業務をしているパート・有期社員と正社員の間に合理的な説明のできない給与差がある場合、法的紛争に発展するリスクが最も高くなります。この領域は後回しにするほどリスクが蓄積するため、最優先で確認してください。

離職リスクの高い社員を次に見る

市場水準と比較して給与が著しく低く、退職面談で「給与が理由」と言われた実績がある職種・等級の社員は次の優先度になります。採用コストと比較したとき、既存社員の給与改善のほうがコスト効率が高いケースは多く、「辞めてから対応する」では手遅れです。

社員間の公平性問題は段階的に解消する

同職種・同レベルの社員間で給与差が大きいケースは、不満の声が出始めてから対応するのではなく、等級制度の骨格を作った段階で「各等級の給与レンジ(最低額~最高額)」を設定し、レンジを外れている社員を段階的に調整していく方法が現実的です。一度に全員を動かさず、昇給の機会(期初など)に合わせて少しずつ適正化していきます。

給与の根拠が曖昧な状態が続いて判断に悩むなら、人事の専門家に相談することで具体的な次の一歩が見える場合が多くあります。

移行スケジュールの現実的な組み方

等級制度の導入は、一度に完成させようとするから挫折します。フェーズを分けて段階的に進めることが、専任人事がいない中小企業には最も合った進め方です。

現状の給与マッピングから始める

まず最初に行うのは「現状の見える化」です。全社員の年収・雇用形態・職種・在籍年数・現在の役割を一覧化し、給与と役割のズレがどこにあるかを把握します。この作業は難しいツールは不要で、Excelで十分です。ここで初めて「誰の給与が問題か」が客観的に見えてきます。

目安として、この作業は0~3ヶ月を想定してください。兼務担当者が少しずつ進めるなら、1ヶ月あたり数時間の作業量です。

等級骨格の設計と給与レンジの設定

次に、3~4等級の骨格を設計し、各等級の給与レンジを設定します。給与レンジを設定する際の参考になるのは、厚生労働省が公開している「賃金構造基本統計調査」や、業界団体が公開するデータです。自社の規模・地域・業種に近いデータを使って「この等級なら月給〇〇万~〇〇万」という範囲を設けます。この作業は3~6ヶ月目に進めます。

移行期間の設定と個別対応の準備

骨格ができたら、6~12ヶ月目は移行フェーズです。給与が下がる方向の調整が必要な社員には、労働契約法第9条・第10条が関係します。就業規則の変更による不利益変更は、合理性と周知が必要であり、一方的な引き下げは原則として無効です。実務的な対処としては、移行期間中は現在の給与を保護(下げない)し、将来の昇給を等級の上限内で管理する方法が一般的です。給与を上げる方向の調整は比較的スムーズに進めやすく、こちらから先に動かすことで社員の受け入れを促しやすくなります。

フェーズ 期間の目安 主な作業内容
現状の見える化 0~3ヶ月 全員の年収・職種・役割の一覧化、給与と役割のズレの把握
等級骨格の設計 3~6ヶ月 3~4等級の骨格づくり、給与レンジの設定、就業規則への反映準備
移行・個別調整 6~12ヶ月 既存社員の等級認定、昇給機会に合わせた段階的是正、社員への説明

既存社員への説明と合意の取り方

給与制度の変更で最も心理的ハードルが高いのは、社員への説明です。「反発が怖い」「うまく言えない」という不安を感じるのは当然ですが、説明の設計を事前にしておけば、伝え方は実務的に組み立てられます。

「会社が変わった」ではなく「基準を作った」と伝える

制度導入を「今までが間違っていた」という文脈で伝えると、これまでの給与決定を否定されたと感じる社員が出てきます。「会社の成長に合わせて、給与の基準を整備することにした」という前向きな文脈で伝えることが重要です。制度の目的(公平性の確保、成長に応じた処遇の実現)を最初に説明し、社員が「自分はこの制度でどう扱われるのか」をイメージできるよう順序立てて話します。

給与が下がる可能性がある社員には個別に先に話す

全体説明の前に、給与が影響を受ける可能性がある社員には個別に事前に説明する機会を設けてください。一対一で話すことで、感情的な反発を集団の場で出させずに済みます。また、「すぐに下げる」のではなく「移行期間中は現在の水準を保護する」という経過措置を明示することが、合意を得やすくする実務上の鍵です。

就業規則の変更手続きと周知を適切に行う

等級制度を導入する際は、賃金規定を含む就業規則の変更が必要になる場合がほとんどです。労働基準法第89条・第90条に基づき、変更の際は労働者代表の意見聴取と労働基準監督署への届出が必要です。変更内容を社員全員に周知することも法的要件であり、「伝えたつもり」では不十分です。書面での配布・掲示・説明会など、「周知した」と記録に残せる方法で行ってください。

就業規則の変更や社員説明まで、一人で判断するのは負担が大きいもの。信頼できるアドバイザーに相談することで、進め方の不安が解消されることも多いです。

まとめ

属人給与の是正は、「全員一度に」「完璧な制度から」始める必要はありません。まず現状の給与マッピングで実態を把握し、法的リスク・離職リスク・社員間の公平性という三つの軸で優先順位を決め、3~4等級のシンプルな骨格から段階的に整備していくことが、専任人事がいない中小企業にとって現実的なアプローチです。給与制度の変更には労働契約法・パートタイム・有期雇用労働法・労働基準法が関係し、対応を誤ると法的リスクが生じます。制度設計の進め方や社員への説明方法について「自社の場合はどう考えればいいのか」と迷ったときは、ウェルセンス株式会社にご相談ください。人事制度や労務の専門知識を持つ担当者が、貴社の規模・状況に合わせた実務的なアドバイスをお伝えします。

よくある質問

Q. 従業員が10名未満でも等級制度は必要ですか?

A. 就業規則の作成義務は常時10名以上から生じますが、同一労働同一賃金の適用はすべての企業規模が対象です。10名未満であっても、正社員と非正規社員が混在している場合は待遇差の説明義務が生じます。小規模企業ほど「2~3等級の超シンプルな骨格」で十分対応できるため、規模が小さいうちに整備しておくほうが後の工数を抑えられます。

Q. 既存社員の給与を下げることはできますか?

A. 労働契約法第9条・第10条により、就業規則の変更で労働者に不利益な変更をする場合は合理性と周知が必要であり、個別同意なき一方的な引き下げは原則無効です。実務的には、移行期間中は現在の給与水準を保護し、将来の昇給を等級の上限内でコントロールする方法が一般的です。どうしても引き下げが必要な場合は、個別の合意取得と十分な移行期間の設定が欠かせません。

Q. 等級制度の設計にどれくらいの時間がかかりますか?

A. 専任人事がいない中小企業が兼務で進める場合、現状把握から等級骨格の設計・就業規則の反映まで、おおむね6ヶ月を目安にしてください。その後の移行・個別調整に6ヶ月程度を加えると、全体で約1年のスケジュールになります。完璧な制度を目指すより「運用しながら改善する」姿勢のほうが、現場への定着が早まります。

Q. 等級制度を導入するとき、就業規則はどう変更すればいいですか?

A. 賃金の決定基準・等級区分・各等級の給与レンジを就業規則の賃金規定に盛り込む必要があります。変更の際は、労働基準法第90条に基づき労働者代表の意見聴取を行い、労働基準監督署へ届け出てください。変更内容の社員への周知も法的要件です。就業規則の変更は社会保険労務士に依頼すると、法的に問題のない形で整備できます。

Q. 給与の市場水準はどうやって調べればいいですか?

A. 厚生労働省が毎年公表している「賃金構造基本統計調査」が、業種・職種・規模別に整理されており信頼性の高いデータです。また、求人媒体各社が公開している職種別の平均年収データも参考になります。等級ごとの給与レンジを設定する際は、複数のデータを並べて比較し、自社の地域・業種・規模に近いものを基準にするとより精度が高まります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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