メンタル休職で労災申請されそうなとき会社は何を準備すべき?

メンタル休職で労災申請されそうなとき会社は何を準備すべき? 休職・復職対応
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「休職中の社員から、労災申請を検討しているという連絡が来た」——そんな連絡を受けたとき、どう動けばいいか即座に答えられる中小企業の経営者・人事担当者は、ほとんどいません。専任人事がいない職場では、メンタル休職に伴う労災申請への対応経験がゼロのまま突然その場面を迎えることがほとんどです。

まず知っておいてほしいのは、「正しい知識と記録があれば、会社は誠実に対応できる」という事実です。この記事では、メンタル休職で労災申請が見込まれるとき、会社が具体的に何を準備すべきかをわかりやすく解説します。

「労災申請=会社の負け」という誤解を捨てることが最初の一歩

申請を拒否することはできない

労災申請とは、労働者が労働基準監督署(以下、労基署)に対して「業務が原因で病気・怪我をした」と申告する手続きです。労働者災害補償保険法第12条の8の規定により、労働者は会社の同意や許可なしに単独で申請できます。つまり、会社が「申請しないでほしい」と伝えることは法的に問題があり、申請を阻止しようとすること自体が心証を大きく悪化させます。

「申請を止めれば会社が守られる」という考えは完全な誤りです。むしろ申請妨害は不利益取扱いとして問題視され、状況を悪化させるリスクがあります。

労災認定と損害賠償は別の話

多くの経営者が混同しがちなのが、「労災認定」と「民事上の損害賠償請求」の違いです。労災認定とは、労基署が「この病気は業務に起因する」と行政的に判断することであり、それ自体が直ちに会社への賠償責任を意味するわけではありません。

一方、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)を根拠に、社員が民事上の損害賠償を請求するケースは別の訴訟手続きです。労災認定は損害賠償請求において会社側に不利な証拠となり得ますが、「認定=即、多額の賠償」とはなりません。この区別を理解しておくだけで、初動対応の冷静さが大きく変わります。

「誠実な対応」が会社を守る

労基署の調査に対して会社は資料提出や関係者へのヒアリング協力を求められます。拒否や妨害は法的に問題となるため、事実を正確に伝えることが基本姿勢です。隠すのではなく、記録に基づいて誠実に説明できる体制を整えておくことが、結果として会社を守ることにつながります。

精神障害の労災認定はどんな基準で判断されるのか

認定に必要な3つの要件

厚生労働省が定める「心理的負荷による精神障害の認定基準」(2023年改正版)では、メンタル休職に伴う労災申請について、以下の3要件をすべて満たす場合に労災と認定されます。

まず「対象疾病」として、ICD-10(国際疾病分類)に基づくうつ病などの精神障害の診断があること。次に「業務による強い心理的負荷」として、発症前おおむね6か月以内に業務上の出来事があること。そして「業務以外の要因がない」こと、つまり私的な問題や既往症が主な原因でないことが求められます。

この3要件をすべて満たして初めて認定されるため、どれか一つでも明確に否定できる根拠があれば、認定リスクは下がります。

ストレス評価表で「強度」が決まる

2つ目の要件である「業務による心理的負荷の強度」は、厚労省が定めたストレス評価表によって「強・中・弱」の3段階で評価されます。「強」に分類される出来事の代表例は、月100時間超の時間外労働、上司や同僚からのハラスメント、業務に起因する悲惨な事故の体験などです。

たとえば、発症前の6か月間に月80時間以上の残業が続いていた場合、それだけで「強」の評価に近づく可能性があります。自社の社員が発症前にどのような業務環境にあったかを客観的な記録で確認することが、リスク評価の第一歩です。

「業務以外の要因」の確認も重要

認定の可否に影響するもう一つの視点が、プライベートの要因です。家族の死別、離婚、多額の借金といった私的な出来事が発症の主因として認められる場合、業務起因性は否定されやすくなります。ただし、これを理由に本人を責めたり、調査を誘導したりすることは厳禁です。あくまで事実関係を正確に把握するための視点として活用してください。

会社が今すぐ収集・整理すべき記録とは

最優先で押さえる3種類の記録

メンタル休職で労災申請が見込まれると分かった時点で、最も優先して収集すべき記録は3種類あります。

一つ目は勤怠・労働時間の記録です。タイムカード、PCのログイン・ログアウト記録、入退館システムのデータなど、発症前6か月分を遡って確保してください。「残業はほとんどなかった」という会社の主張も、客観的な記録がなければ認められません。

二つ目は業務内容・業務量に関する記録です。業務指示のメール、チャットツールの履歴、業務日報、プロジェクト管理ツールのログなど、何を・どの量・どの期限でやっていたかが分かる資料を集めます。「過度な業務を課していなかった」ことを示すには、具体的な指示内容と業務量の記録が不可欠です。

三つ目は上司・人事との面談記録です。いつ・誰が・どんな内容で面談したかが記録されていれば、「会社として適切に状態把握を試みていた」という姿勢を示せます。メモ程度でも残っていれば有効です。

状況に応じて収集すべき記録

ハラスメントが争点になりそうな場合は、過去の相談記録、調査結果、処分内容を整理しておきましょう。産業医や保健師との面談記録も、「会社がメンタルヘルス対応を講じていた」証拠になります。ストレスチェックの実施記録や職場環境改善の取り組み履歴も、安全配慮義務を果たしていた証として有効です。

また、休職前後に本人からどのような申し出や連絡があったか、会社がどう応じたかのコミュニケーション記録も重要です。「会社が知らなかった」のか、「知っていたのに対応しなかった」のかは、評価が大きく異なります。

記録の改ざんは絶対に行わない

収集した記録を「会社に有利なように」書き換えることは、絶対に行ってはいけません。記録の改ざんや隠滅は、刑事責任を問われるリスクがあるだけでなく、調査において会社の信頼性を根本から失わせます。「都合の悪い記録が出てきた」としても、それを正直に開示したうえで事実関係を説明するほうが、長期的には会社の立場を守ることにつながります。

普段からできる労災リスクの予防策

日常の記録習慣が最大の防衛策

メンタル休職に伴う労災リスクへの最も効果的な対策は、申請が起きてから準備するのではなく、日常業務の中で記録をとり続けることです。たとえば、1on1面談の記録をシンプルなフォーマットで残す、業務指示をチャットやメールで行うようにする、勤怠管理システムを正確に運用するといった習慣が、いざというときの証拠になります。

「記録がない」という状況は、会社が何もしていないと受け取られるリスクがあります。たとえ対応していたとしても、記録がなければ証明できません。

ストレスチェックと面談の定期実施

従業員50名以上の事業場ではストレスチェックが義務化されていますが、50名未満の中小企業でも任意で実施することができます。定期的なストレスチェックとその結果に基づく面談は、「会社が従業員のメンタル状態を把握しようとしていた」という積極的な証拠となります。

また、不調の兆候が見られた社員に対して早期に声かけや面談を行い、その記録を残しておくことで、「放置していた」という評価を防ぐことができます。

専門家との連携体制を事前に整える

メンタル休職に伴う労災申請が現実のものとなった場合、社会保険労務士や弁護士、産業医などの専門家との連携が不可欠です。しかし、問題が起きてから専門家を探すのでは時間的なロスが大きくなります。平時から相談できる専門家とのつながりを持っておくことで、有事の際に素早く適切な対応が取れます。中小企業こそ、外部の専門的サポートを活用することが現実的な選択肢です。

労災申請を受けてからの実務的な対応の流れ

初動で行うべき3つのこと

社員から労災申請の意向を知らされたら、まず最初に「申請の妨害をしない」という姿勢を社内で共有してください。次に、上述の記録収集をすぐに開始します。このとき、担当者一人に任せず、上司や経営者も含めた対応チームを作ることが重要です。そして、社会保険労務士や弁護士などの専門家に速やかに連絡を取り、方針の相談を行いましょう。

労基署調査への対応

労基署から調査が入った場合、会社には資料提出と関係者へのヒアリングへの協力義務があります。拒否や非協力的な態度は調査の心証を悪化させます。準備した記録をもとに、事実を正確かつ誠実に説明することが、会社の立場を守る最善の方法です。

ヒアリング対象になり得る上司や関係者には、事前に「事実を正直に話すこと」「記録をもとに答えること」を伝えておきましょう。口裏合わせや誘導は厳禁です。

本人への対応と並行して行う注意点

労災対応と並行して、休職中の本人への連絡対応や復職支援も続けなければなりません。この二つは求められるスキルも作業の性質もまったく異なります。本人への連絡は過度にならないよう配慮しながら、定期的な状況確認を行い、復職に向けたステップを丁寧に進めましょう。労災対応の法的プロセスと、本人の回復を支える人的プロセスを混同しないことが、両方をうまく進めるコツです。

まとめ

メンタル休職で労災申請が見込まれるとき、会社がすべき準備の核心は「申請を止めようとしないこと」と「記録に基づいて事実を誠実に説明できる体制を整えること」の2点です。勤怠記録・業務指示の記録・面談記録の3種類を発症前6か月分遡って収集し、改ざんせずに保全することが最優先です。そして、労災認定の3要件(対象疾病・業務起因性・業務以外の要因なし)を理解したうえで、自社のリスクを冷静に評価することが、適切な対応への第一歩となります。

ただし、記録の整備や法的対応、本人へのケアを兼務人事担当者が一人で抱えるには限界があります。ウェルセンス株式会社では、メンタル休職の対応実務から労災リスクへの備えまで、中小企業の人事担当者が「一人で抱え込まなくていい」体制づくりをサポートしています。具体的な状況や課題を相談したいタイミングで、お気軽にご連絡ください。

よくある質問

Q. 社員が「労災申請を検討している」と言ってきました。会社として最初にすべきことは何ですか?

A. まず最初に、申請を止めようとしないことを社内で徹底してください。メンタル休職に伴う労災申請の妨害は法的リスクになります。その上で、発症前6か月分の勤怠記録・業務指示記録・面談記録の収集を開始し、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談することが初動として重要です。

Q. 普段から記録をとっていませんでした。今から何か集める方法はありますか?

A. 今から収集できる記録もあります。メールやチャットツールの送受信履歴、PCのログイン記録、入退館システムのデータなどは過去分を遡って取得できる場合があります。また、当時の上司や関係者の記憶を文書化することも有効です。ただし、記録の作成・整理にあたっては改ざんや事実の誇張は厳禁で、あくまで客観的な事実の記録にとどめてください。

Q. 労災認定されると、会社は自動的に損害賠償を支払わなければならないのですか?

A. 自動的に損害賠償が発生するわけではありません。労災認定は労働基準監督署による行政的な判断であり、民事上の損害賠償請求(安全配慮義務違反を根拠とした訴訟)とは別の手続きです。ただし、労災認定は民事訴訟において会社側に不利な証拠となり得るため、認定後の対応には専門家のサポートが重要です。

Q. 従業員数が30名程度の小さな会社です。ストレスチェックや産業医との契約は必要ですか?

A. ストレスチェックの実施義務は従業員50名以上の事業場に課されており、50名未満は義務ではありません。ただし、任意で実施することは可能であり、メンタル休職対応の記録として取り組み履歴が残っていることは「会社がメンタルヘルス対策を講じていた」証拠として機能します。産業医の選任義務も50名以上からですが、嘱託産業医として月1回程度の契約を結ぶ中小企業も増えており、労災リスク低減の観点から検討する価値があります。

Q. 休職中の社員への連絡はどのくらいの頻度で行えばよいですか?労災対応への影響はありますか?

A. 休職中の連絡は月1〜2回程度、本人の状態確認と事務連絡に限定するのが一般的です。過度な連絡は「業務の継続」と見なされるリスクがあり、メンタル休職に伴う労災評価にも影響を与える可能性があります。連絡の内容と日時は必ず記録しておき、「会社が状況把握に努めていた」ことと「本人への配慮をしていた」ことが記録から読み取れるようにしておきましょう。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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