「休職中の社員がSNSに会社の内部情報や同僚の実名を投稿している——でも、休職中の人に懲戒処分なんてできるのだろうか」。そんな状況に直面した経営者・人事担当者からのご相談が増えています。手を打たなければ被害が広がる。でも動き方を間違えれば逆に訴えられるかもしれない。そのジレンマで初動が遅れてしまうケースは少なくありません。
この記事では、休職中の懲戒処分が法的に可能かどうかという基本論点から、SNS投稿が懲戒事由に当たる判断基準、証拠保全の具体的な手順まで、実務に即して整理します。対応に迷ったら、まずこの記事で基本を確認し、状況に応じて専門家に相談することをお勧めします。
休職中でも懲戒処分は法的に可能か
結論から言えば、休職中であっても懲戒処分は可能です。休職は「労働義務が一時的に免除されている状態」であり、雇用契約そのものは継続しています。そのため就業規則上の服務規律・各種義務は休職期間中も効力を持ちます。
「休職中は手が出せない」は思い込み
多くの経営者・人事担当者が「メンタル不調で休職中の社員に何かすれば、ハラスメントと言われる」と萎縮しがちです。しかしこれは法的根拠のない思い込みです。労働契約法第3条・第5条が定める「誠実義務」「信義則」は、休職期間中であっても労働者に適用されます。使用者に著しい損害を与える行為は、休職期間中であっても懲戒処分の対象となり得ます。「休職中だから何をしても許される」という状態ではありません。
懲戒処分が有効とされる3つの条件
ただし、懲戒処分は「やろうと思えば何でもできる」わけではありません。労働契約法第15条に基づき、以下の3条件をすべて満たす必要があります。
| 条件 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 就業規則への明記 | 懲戒事由と処分の種類(戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇など)が就業規則に記載されていること |
| 客観的に合理的な理由 | 処分の根拠となる事実が客観的に存在し、証拠で示せること |
| 社会通念上の相当性 | 処分の重さが行為の内容・影響に照らして過大でないこと(量定の適切さ) |
この3条件のいずれかが欠けると、処分は無効と判断されるリスクがあります。特に「就業規則への明記」が最初のチェックポイントになります。
就業規則にSNSの規定がない場合はどうなるか
SNSに特化した規定がなくても、既存の「秘密保持義務」「名誉毀損・信用棄損禁止」「職場秩序維持義務」などの条項を根拠に懲戒処分できる可能性はあります。ただし規定が曖昧であるほど処分の有効性のリスクは高まります。
今回の対応と並行して、就業規則にSNS利用に関する規定を追加することを強くお勧めします。また、処分の量定判断や手続きの適切さについて判断に迷う場合は、社労士や弁護士といった外部専門家に早めに相談することで、トラブル化を防ぐことができます。
SNS投稿が懲戒事由に当たるかの判断基準
SNSへの投稿が懲戒の対象になるかどうかは、「何を書いたか」によって根拠条項と処分の重さが変わります。投稿内容を類型化して判断することが実務の出発点です。
投稿内容と該当し得る法的根拠
投稿の内容は大きく以下の類型に分かれます。それぞれに対応する法令・就業規則上の根拠を把握しておきましょう。
- 会社の内部情報・業務情報を書いた場合:就業規則上の秘密保持義務違反。内容が「営業秘密」(技術情報・顧客情報など)にあたる場合は不正競争防止法(第2条・第21条)違反にもなり得ます。
- 同僚・上司の実名や個人情報を書いた場合:個人情報保護法違反(無断公開)、名誉毀損(刑法第230条)、就業規則上の名誉毀損・信用棄損禁止規定違反。
- 会社への誹謗中傷・悪口を書いた場合:就業規則上の職場秩序維持義務違反、信用棄損禁止規定違反。内容によっては偽計業務妨害(刑法第233条)にも該当し得ます。
- 顧客情報を書いた場合:個人情報保護法違反に加え、顧客との契約上の守秘義務違反として会社が顧客から損害賠償を求められるリスクがあります。
処分の重さをどう決めるか
懲戒処分の重さ(量定)は、投稿の内容・拡散の規模・本人の故意性・被害の大小を総合的に考慮して判断します。一般的には「戒告→減給→出勤停止→懲戒解雇」の順で段階が上がります。初回・軽微な場合に懲戒解雇を選択すると「社会通念上相当でない」として無効となるリスクが高いため、段階的な処分が原則です。
処分が「重すぎる」として裁判で争われた事例は実際に存在します。量定判断については、必ず社労士や弁護士といった専門家のサポートを得てから決定することを強くお勧めします。
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証拠保全:消される前にやるべきこと
SNS投稿はいつ削除されるかわかりません。問題投稿を発見したら、まず証拠保全を最優先に行うことが重要です。後から「証拠がない」では処分も交渉も進められなくなります。
発見直後にやること
まず最初に、スクリーンショットを複数枚撮影してください。投稿日時・アカウント名(プロフィール画面)・URL・投稿全文がすべて1画面内に収まるよう調整するか、複数枚に分けて漏れなく記録します。
次に、ブラウザの「印刷→PDFとして保存」機能を使い、ウェブページ全体をPDFとして保存してください。スクリーンショットはトリミングや改ざんを疑われる可能性があるため、PDFでの保存が証拠として有効です。閲覧した日時・閲覧者の氏名・使用した端末も記録に残してください。
URLとメタ情報の記録
投稿の個別URL(パーマリンク)を必ずコピーして保存してください。URLが残っていれば、後から第三者が同じ投稿を確認できます。また、投稿のいいね数・リプライ数・拡散数なども記録しておくと、「どの程度広まったか」という被害の規模を示す根拠になります。
スクリーンショットだけでは不十分なケース
拡散が広範囲に及んでいる場合や、法的手続き(民事訴訟・刑事告訴)に発展する可能性がある場合は、公証役場における「確定日付付きの証拠保全」や、弁護士への証拠保全申請(民事保全手続き)を検討してください。スクリーンショットとPDFによる自社保全は「まず初動でやること」であり、法的手続きを前提とする場合はより確実な方法が必要です。
本人へのヒアリングと手続きの進め方
証拠が確保できたら、次は本人への事実確認(弁明の機会の付与)です。これは手続き的適正さの観点から省略できないプロセスです。休職中の社員であっても同様です。
ヒアリングのタイミングと方法
「あなたのSNSを会社が見ていた」と伝えることへの心理的抵抗を感じる担当者は多いですが、事実確認は懲戒処分の有効要件です。連絡は書面またはメールで行うことが基本です。口頭のみでは記録が残らず、後からトラブルになりやすいため避けてください。
ヒアリングの場は対面が原則ですが、休職中(特にメンタル不調の場合)は本人の健康状態に配慮し、書面での弁明回答や、主治医の同席・同意を得た上での面談など、本人への負担を最小化する方法を検討してください。
弁明の機会を必ず付与する
労働契約法上の信義則に基づき、また多くの就業規則において、懲戒処分前に本人へ弁明の機会を与えることが求められます。「弁明の機会を与えたにもかかわらず、本人が回答しなかった」という事実を記録に残すことで、手続き的に適正な処分として認められやすくなります。弁明書の提出期限(例:書面受領後10日以内など)を設定し、回答がない場合の対応も事前に確認しておきましょう。
被害を受けた社員へのケアも並行して進める
実名を投稿された同僚や、内部情報を漏らされた社員への対応も、懲戒手続きと並行して行う必要があります。「会社は何もしてくれない」という不満が二次的なトラブルに発展するケースもあります。
被害社員に対しては、会社として事実を把握しており対応中であることを早期に伝え、精神的なサポートが必要な場合はEAP(従業員支援プログラム)や産業医への相談を案内してください。
自社の状況に応じた対応の分岐点
対応の方向性は、自社の就業規則の整備状況・社員規模・専門家体制によって異なります。自分のケースに当てはめて確認してください。
就業規則の整備状況による分岐
就業規則にSNS利用規定・秘密保持規定・懲戒事由が明記されている会社は、すぐに条文との照合に進めます。一方、就業規則が古くSNSに関する記載がない場合は、既存の服務規律条項での対応可否を社労士・弁護士に確認しながら、同時並行で規則の改定準備も始めてください。就業規則が存在しない(常時10人未満で届出義務がない)会社は、まず就業規則の整備が急務です。懲戒処分の有効性を担保するためにも、今回の問題対応と並行して専門家に相談することをお勧めします。
産業医・専門家体制の有無による分岐
常時50人以上の社員がいる会社は、産業医の選任が義務付けられています。休職中の社員への対応を進める際に、産業医に本人の就労状況や回復度合いを確認することが手続き上のリスクを下げます。一方、50人未満で産業医がいない会社は、地域の産業保健総合支援センター(さんぽセンター)を活用する、または顧問社労士・外部の人事労務支援サービスを通じて相談窓口を確保することが重要です。「一人で判断する」状態が最も危険です。
まとめ
休職中の社員であっても、雇用契約は継続しており、就業規則上の服務規律・各種義務は適用されます。SNSへの問題投稿は、秘密保持義務違反・名誉毀損禁止規定違反・個人情報保護法違反など複数の根拠で懲戒事由に当たり得ます。ただし処分を有効にするには、就業規則への明記・客観的な証拠・弁明の機会の付与という手続きを着実に踏む必要があります。
初動での証拠保全(スクリーンショット・PDF保存・URL記録)を最優先に行い、処分の量定判断は専門家のサポートを得て進めることが重要です。「判断を誤りたくない」「トラブル化を避けたい」という場合は、対応の早期段階で社労士や弁護士に相談することで、手続きの適正性と処分の有効性を大きく高めることができます。
ウェルセンス株式会社では、休職・復職支援に加え、休職中の社員への対応や就業規則の整備など、中小企業の人事労務課題を一緒に整理するサポートを行っています。「判断に迷っている」「専門家に相談したいが誰に頼めばいいかわからない」という段階からでも、お気軽にご相談ください。
よくある質問
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