「うちはフリーランスに仕事を頼んでいるだけだから、ハラスメント防止は関係ない」——そう思っていませんか。2024年11月1日に施行されたフリーランス保護法により、従業員を1名でも雇用している企業がフリーランスに発注する場合、ハラスメント防止措置は法的義務になりました。専任人事がいない中小企業こそ、対応の遅れが深刻なリスクにつながります。この記事では、フリーランス保護法でのハラスメント防止義務の内容から実務対応まで、現場で使える情報を整理します。
フリーランス保護法のハラスメント防止義務とは
どんな法律で、いつから始まったのか
フリーランス保護法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。2024年11月1日に施行され、フリーランスと発注者の間の取引を公正にするための包括的なルールが定められました。
この法律が定めるのは、報酬の支払い条件や契約内容の明示義務だけではありません。第14条では、発注者がフリーランスの就業環境を整備するため、ハラスメントを防止する措置を講じなければならないと明記されています。「努力義務」ではなく、明確な「義務規定」です。
「大企業だけの話」ではない理由
フリーランス保護法で対象となる発注者は「特定業務委託事業者」と定義されています。具体的には、従業員を1名でも雇用している事業者がフリーランスに業務委託をする場合に該当します。
つまり、20〜50名規模の中小企業であっても、デザイナーやライター、エンジニアなどに業務を外注しているなら、この義務は当然に適用されます。「うちは小さい会社だから関係ない」という認識は、法律上まったく通用しません。さらに、納期・期間が1か月以上の「継続的業務委託」の場合は、追加の義務が生じる点にも注意が必要です。
対象となるハラスメントの3類型
フリーランス保護法第14条が対象とするハラスメントは、既存の労働関係法令に基づく以下の3つです。
- パワーハラスメント(優越的地位の濫用による言動)
- セクシュアルハラスメント
- 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント
モラルハラスメントやカスタマーハラスメントは現時点で明示的な対象外ですが、実務上は包括的に検討しておくことが望ましいでしょう。
発注者が講じるべき4つの防止措置
方針の明確化と周知
まず取り組むべきは、自社としてハラスメントを許容しないという方針を明文化し、関係者に伝えることです。就業規則やコンプライアンス規程にフリーランスへの発注関係を明示した条文を加えるか、別途「ハラスメント防止方針」を作成して社内外に周知します。
現場のマネジャーや、フリーランスと日常的にやり取りする担当者が「知らなかった」では済まされません。特に、フリーランスへの発注・管理を現場部門が担っている中小企業では、人事担当者が現場に対して明確に伝えるプロセスを設けることが重要です。
相談対応体制の整備
フリーランスからハラスメントの申告があったときに、受け付ける窓口が存在しなければ法律上の対応義務を果たせません。従業員向けの相談窓口とは別に、外部の業務委託者からの申告も受け付けられる体制を整備する必要があります。
社内に専任担当者を設けることが難しい場合は、外部の相談窓口サービスを活用する方法が現実的です。「窓口の電話番号やメールアドレスを契約書や発注書に明記する」だけでも、体制整備の第一歩になります。窓口の存在を相手方が知らなければ意味がないため、フリーランス本人への周知がセットで必要です。
事後対応とプライバシー保護・不利益取扱いの禁止
申告を受けた後の対応も義務の範囲に含まれます。事実確認を迅速に行い、必要な再発防止措置を講じること、そして相談者・行為者双方のプライバシーを守ることが求められます。
加えて、申告・相談を理由とした発注停止や契約解除は禁止されています。「ハラスメントの申告をしてきたフリーランスへの発注を打ち切る」という対応は、それ自体が法律違反になります。この点を現場担当者が理解していないと、意図せず違法行為を犯すリスクがあります。
「優越的地位の濫用」とは——中小企業が陥りやすいグレーゾーン
発注者とフリーランスの力関係に潜むリスク
パワーハラスメントの核心は「優越的地位の濫用」です。フリーランスとの関係では、発注者側が経済的に優位な立場にあることが多く、この力関係がハラスメントの温床になりやすいとされています。
たとえば、毎月安定した仕事を発注している取引先のフリーランスに対して、「来月からの発注がどうなるかわからない」とほのめかしながら追加作業を要求することは、パワーハラスメントに該当する可能性があります。また、深夜や休日を問わず連絡を入れて即レスを求める行為、一方的な報酬の値下げ圧力なども同様です。
「社員に近い関係性」のフリーランスが特に要注意
20〜50名規模の企業でよく見られるのが、長期間にわたって継続発注しているフリーランスと、実質的には社員に近い関係で仕事をしているケースです。毎日連絡を取り合い、社内のSlackにも参加し、ミーティングにも出席している——そのような状況では、指示と管理の境界線が曖昧になりやすく、意図せずハラスメント行為が発生するリスクが高まります。
「業務委託だから多少無理を言っても大丈夫」という感覚は、法律上まったく保護されません。むしろ継続的な取引関係があるほど、発注者側の優越的地位は明確とみなされやすくなります。
契約書にハラスメント条項を設けるべきか
結論から言えば、業務委託契約書にハラスメント防止に関する条項を盛り込むことは、実務上非常に有効です。具体的には、「発注者はフリーランス保護法第14条に基づきハラスメント防止措置を講じる」「ハラスメントに関する相談窓口の連絡先を別紙で提供する」「申告を理由とした不利益取扱いをしない」などの内容が考えられます。
弁護士に依頼するほどではないと後回しにしがちですが、既存の標準的な業務委託契約書テンプレートにこれらの条文を追加するだけで、法的リスクを大幅に低減できます。既存の取引先に対しても、「法律が変わったため契約書を更新したい」という形で提案することで、関係を壊さずに見直せます。
違反した場合のリスクと対応フロー
行政・民事・レピュテーションの三重リスク
フリーランス保護法に違反した場合、まず行政上のリスクとして、厚生労働大臣や公正取引委員会による助言・指導・勧告・企業名の公表が行われる可能性があります。報告徴収や立入検査への対応も必要になり、虚偽報告には罰則が科されます。
民事上のリスクも深刻です。ハラスメントを受けたフリーランスから不法行為または債務不履行を根拠に損害賠償請求を受ける可能性があります。さらに、SNSや口コミサイトでの情報拡散によるレピュテーションリスクは、採用活動や新規取引先の開拓にも直接的なダメージを与えます。
申告を受けたときの対応フロー
万が一フリーランスからハラスメントの申告があった場合、対応の流れとして、まず相談を受けた担当者が内容を記録し、人事責任者または経営者に速やかに報告します。次に、申告者と行為者双方から個別にヒアリングを行い、事実確認を進めます。その際、申告者のプライバシーを守ること、ヒアリング内容を口外しないことを関係者に徹底することが不可欠です。
事実が確認された場合は、行為者への指導・注意、業務フローの見直しなど再発防止策を講じます。対応結果は文書で記録し、一定期間保管しておくことで、後日の証拠としても機能します。このフローを事前に整備しておくことが、いざという時の対応力を大きく左右します。
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現状把握から始める
最初に行うべきは、自社のフリーランス活用状況の棚卸しです。どの部門が、どのようなフリーランスに、どの程度の期間・頻度で発注しているかを一覧化します。特に1か月以上の継続的業務委託に該当する取引先を特定することが優先です。
現場部門への発注実態を人事担当者が把握できていないケースが多いため、各部門のマネジャーに対して簡単なヒアリングシートで確認する方法が効率的です。
体制整備と現場教育をセットで進める
相談窓口の設置・方針の策定・契約書の見直しという三点セットを、できるだけ同時に進めることが理想です。ただし、人手が限られる中小企業では優先順位をつけることも現実的な判断です。
体制を整えるだけでなく、フリーランスと日常的に接する現場担当者への教育が不可欠です。「どのような言動がハラスメントになりうるか」「申告があった場合どこに連絡するか」を、現場マネジャーが答えられる状態にしておくことが、法的リスクを最小化する最善策です。
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まとめ
フリーランス保護法の施行により、従業員を1名でも雇用している企業がフリーランスに発注する場合、ハラスメント防止措置は法的義務となりました。方針の明確化・相談窓口の整備・事後対応フローの構築・契約書の見直しが主な対応項目です。「大企業の話」「うちには関係ない」という認識は、法律上まったく通用しません。特に、フリーランスへの発注管理を現場に任せている中小企業では、人事担当者が主導して体制を整備し、現場への教育をセットで進めることが重要です。
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