「休むほどではないけれど、毎月何度も遅刻・早退・欠勤が続いている社員がいる」——そんなグレーゾーンの対応に頭を抱えている経営者・人事担当者は少なくありません。病気を理由にした欠勤に注意していいのか、就業規則に根拠がなくて動けない、有給休暇が尽きたらどうすればいいのか。この記事では、頻繁な通院による遅刻・早退・欠勤に会社として適切に対応するための就業規則整備と実務対応を、3つのステップに沿って解説します。
なぜ「グレーゾーン」の欠勤対応は難しいのか
休職要件を満たさないまま業務への支障が続く
多くの会社の就業規則に定められている休職要件は「連続して30日以上欠勤した場合」という形式です。この場合、月に3〜4日の欠勤を断続的に繰り返す社員には適用できません。本人は出社はしているものの、チームは毎週のようにカバーを強いられ、全体の業務バランスが崩れていく——これが「グレーゾーン問題」の実態です。
特に20〜50名規模の会社では、1人の欠員が及ぼす影響は大企業より格段に大きくなります。「しばらく様子を見よう」と放置しているうちに数ヵ月が過ぎ、気づけば対応の選択肢が狭まっているというケースは非常によく見られます。
指導への躊躇がさらに状況を悪化させる
「病気の人に厳しくしたらパワハラになるのでは」という不安から、上司も人事担当者も何も言えない状態になりがちです。しかし何も言わないことは「黙認」と受け取られる場合があり、後に「今まで問題ないと思っていた」と主張される根拠にもなります。指導の可否・範囲を正しく理解することが、会社と本人双方を守ることにつながります。
就業規則を見直す:3つの必須規定
断続欠勤による遅刻早退の休職要件を設ける
頻繁な通院による欠勤に対応するうえで最も重要な整備が、「断続欠勤型の遅刻早退対応・休職要件」の明文化です。たとえば次のような条項が有効です。
「3ヵ月間に合計15日以上欠勤した場合、会社は休職を命じることができる」
この規定があれば、連続欠勤の要件を満たさなくても、業務上の支障を根拠に休職命令の法的根拠を持つことができます。休職命令は会社側の業務命令ですが、根拠規定のない状態での強制適用は無効とされるリスクがあるため、規定の整備が先決です。
遅刻・早退の累積換算ルールを明確にする
「遅刻や早退が多い」という状態を就業規則上どう扱うかも重要です。実務では「遅刻・早退3回=欠勤1日換算」のような累積換算規定を設けることで、断続欠勤型の休職要件と連動させることができます。
たとえば月に6回の遅刻・早退があれば欠勤2日換算となり、3ヵ月で計算すれば6日分の欠勤相当として積算できます。「遅刻や早退は欠勤ではないから対応できない」という状況を防ぐために、この換算規定は必ず整備しておきましょう。
診断書提出義務と欠勤控除の規定を整える
欠勤が一定回数・日数を超えた場合に医師の診断書提出を義務づける規定も不可欠です。たとえば「3日以上の連続欠勤、または同一月内に3回以上の欠勤が生じた場合、会社は診断書の提出を求めることができる」と定めておくことで、業務管理に必要な情報を正当な手続きで収集する根拠になります。
また、有給休暇消化後の欠勤については無給(欠勤控除)が原則ですが、控除の計算方法(月給÷所定労働日数×欠勤日数など)を就業規則に明記しておくことで、本人への説明時にも根拠を示せます。給与控除のルールが曖昧なまま控除を行うと、賃金未払いトラブルに発展するリスクがあります。
病状確認と情報収集:どこまで聞いていいのか
病名の強制開示は求めてはいけない
「何の病気なのか教えてほしい」と会社が強制的に求めることは、個人情報保護の観点から不適切です。特に精神疾患については、本人がまだ自己認識できていないケースや、開示することへの強い抵抗感があるケースも少なくありません。病名の詮索は本人との信頼関係を損ない、対応をより困難にする可能性があります。
「就労可否・業務制限の有無」に絞って確認する
会社が確認すべきなのは病名ではなく、「現在の状態で通常業務が遂行できるか」「業務上の配慮(短時間勤務・特定業務の免除など)が必要か」という点です。
実務上の有効なアプローチは、主治医または会社指定医に対して「就労可否・業務制限の有無を確認する同意書」を本人から取得することです。本人の同意のもとで医師から必要な情報を得ることで、プライバシーを侵害せずに業務管理上の判断材料を得ることができます。個人情報保護法に基づき、情報取得の目的を明示したうえで同意を得る形式を取ることが重要です。
メンタルヘルス不調が隠れているケースへの対応
頻繁な通院・欠勤の背景に、うつ病・適応障害・不安障害などのメンタルヘルス不調が隠れているケースは少なくありません。本人が自己開示していない段階でも、管理職や人事担当者が「最近つらいことはないですか」と声をかけるラインケアの実践が求められます。
この段階での適切なアプローチが、重症化・長期休職・退職・訴訟リスクを未然に防ぐことにつながります。放置によるリスクは「今の業務支障」にとどまらず、数ヵ月後の深刻な事態へと発展しうることを認識しておきましょう。
業務指導の進め方:ハラスメントにならない伝え方
「事実ベース」の指導は正当な業務行為
厚生労働省のパワハラ防止指針によれば、業務上の必要性があり、態様が相当である場合の指導はパワハラには該当しません。「遅刻・早退が多く、業務に支障が生じている」という事実に基づく指導は、正当な業務行為です。
重要なのは「病気であること」を責めるのではなく、「業務遂行に影響が出ていること」を伝える点です。たとえば「先月は遅刻が5回ありました。〇〇さんの担当業務を他のメンバーがカバーしており、チーム全体への影響が出ています」という事実の共有は、適切な指導として認められます。
合理的配慮の提案を指導とセットで行う
指導を行う際は、配慮の提案をセットにすることが後のトラブル防止に効果的です。たとえば「業務量の一時的な調整」「通院日に合わせたシフト変更」「在宅勤務の活用」などの選択肢を示したうえで、「それでも欠勤が継続する場合は就業規則に基づいて対応する」という流れを丁寧に説明します。
この「配慮の提案→指導→規則の適用」という段階的な対応の記録を残すことが、後に万一紛争が生じた際の会社の誠実な対応を証明する証拠になります。面談記録・メール・業務日誌など、日付と内容を明記した形で保管しておきましょう。
言ってはいけない言葉・してはいけない行為
「仮病ではないか」「その程度で休むのか」「みんな我慢しているのに」といった発言は、人格否定・侮辱にあたりパワハラと判断されるリスクがあります。また、病気の事実を他の社員に無断で開示する行為はプライバシー侵害となります。
指導は必ず1対1の面談形式で行い、他の社員の前での注意は避けるべきです。面談には可能であれば人事担当者または上長が同席し、中立的な立場で場を保つことが望ましいです。
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有給休暇が尽きた後の段階的対応フロー
有給消化後は欠勤控除を適用する
有給休暇の取得は労働基準法第39条に基づく労働者の権利であり、通院を理由とした取得を会社が拒否することは原則できません。ただし有給休暇が枯渇した後の欠勤については、就業規則の控除規定に基づき無給扱いが可能です。
たとえば月給25万円の社員が所定労働日数20日の月に3日欠勤した場合、控除額は25万円÷20日×3日=3万7,500円となります。この計算式を就業規則に明記しておくことで、本人に対しても透明性のある説明ができます。
断続欠勤が累積したら休職命令の発令を検討する
就業規則に断続欠勤型の休職要件を整備していれば、累積欠勤が一定の基準を超えた時点で休職命令の発令を検討します。休職命令の前に、本人との面談で「現在の状態を確認したうえで、就業規則に基づき休職命令を検討していること」を丁寧に伝えることが重要です。
休職中は無給または傷病手当金(健康保険から支給)での対応となります。休職期間の上限・満了時の取り扱い(復職・退職など)についても就業規則に明記しておくことで、トラブルを未然に防げます。
復職条件を事前に明確にしておく
休職に入る前に、復職の条件(主治医の復職可能診断書の提出・会社指定医との面談・試し出社制度の活用など)を本人に書面で伝えておくことで、復職後のトラブルを減らすことができます。「復職できるかどうかは会社が判断する」という根拠規定も就業規則に盛り込んでおきましょう。
まとめ
頻繁な通院による遅刻・早退・欠勤への対応は、「就業規則の整備」「適切な情報収集」「段階的な業務指導」の3つを組み合わせることで、会社も従業員も守れる形で進めることができます。まず最初に取り組むべきは就業規則の見直しです。断続欠勤型の休職要件・遅刻早退の累積換算・診断書提出義務・欠勤控除の計算方法——この4点が整っていない会社は、今すぐ確認することをお勧めします。次に情報収集の方法を整え、そのうえで事実ベースの指導を段階的に行う流れを作ることが重要です。
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