評価シートの電子保管、何が必要?

評価シートの電子保管、何が必要? 人事制度
Photo by Tiger Lily on Pexels

「評価シートって、スキャンしてクラウドに保存するだけじゃダメなの?」——評価面談の時期が近づくたびに、そんな疑問が頭をよぎる方も多いでしょう。紙のシートを印刷・配布・回収・ファイリングするサイクルは、専任人事がいない企業にとって毎回の大きな負担です。電子化したくても「法的に問題ないのか」「承認の記録はどう残すのか」が曖昧なまま踏み出せない。この記事では、評価シートの電子保管に必要な法的要件と実務設計を、具体的なツール活用例とともに実務ベースで解説します。

人事評価シートの電子保管は、法律上「問題なし」

結論から言えば、人事評価シートを電子データで保管することに、法律上の障害はありません。ただし、個人情報保護法上の安全管理措置は必須です。

労働基準法の保存義務、評価シートは対象外

労働基準法第109条は「賃金台帳」「労働者名簿」「タイムカード等の出勤簿」などの書類について5年間の保存義務(当面の経過措置として3年)を定めています。ただし、人事評価シートや目標管理シートはこのリストに含まれていません。つまり、法令上の保存義務という意味では、紙でも電子でも特別な要件はなく、保管自体が任意です。

電子帳簿保存法は関係しない

「電子保管といえば電帳法(電子帳簿保存法)では?」と思われるかもしれませんが、電帳法の対象は国税関係書類です。人事評価シートは国税関係書類には該当しないため、電帳法の要件(タイムスタンプの付与など)を満たす義務はありません。この点は多くの担当者が誤解しているポイントなので、明確に押さえておきましょう。

個人情報保護法は全企業に適用される

一方で見落とせないのが、個人情報保護法(個情法)です。評価情報は「個人情報」に該当し、2022年の法改正により小規模事業者への適用除外は廃止されました。従業員が数名の会社であっても対象です。評価データを電子保管するにあたっては、取得目的の明示、アクセス権限の設定、不正アクセス防止策、漏洩時の対応手順の整備が求められます。

電子保管に最低限必要な「4つの要件」

法令上の義務ではないとしても、後のトラブルを防ぐために電子保管で備えるべき要件は4点あります。この4点を満たせば、実務上も法的証拠としても十分に機能します。

真正性:「誰が・いつ・何を承認したか」の記録

紙の書類には手書きのサインや印鑑が残りますが、電子データでは承認の痕跡が残らないケースがあります。降格・解雇・賞与減額に従業員が異議を申し立てた場合、評価記録が証拠として機能するためには「誰が評価し、誰が承認し、いつ決定したか」のログが不可欠です。操作ログやタイムスタンプが自動で残るツールを選ぶか、承認日と承認者名を記録する欄を設けることが実務上の最低ラインです。

アクセス制御:見られるべき人だけが見られる設計

評価情報は給与・昇進に直結する機密情報です。「共有フォルダに全員がアクセスできる」状態は個人情報保護法の安全管理措置として不十分です。少なくとも、評価対象者本人・直属上司・人事担当者・経営者という役割ごとに閲覧・編集の権限を分けて設定してください。GoogleドライブやMicrosoft SharePointはフォルダ単位・ファイル単位での権限設定が可能です。

可読性とバックアップ:長期間後も開けるか

在職中から退職後5年間を保管期間の目安とすると、数年後に当時のファイルが開けない事態は避けなければなりません。独自形式のファイルよりもPDFやCSVなど汎用性の高い形式で保管することを推奨します。また、クラウド上の単一保管だけでなく、定期的なバックアップ(別サービスへのエクスポートや外付けHDDへの保存)を組み合わせることでデータ消失リスクを抑えられます。

承認フローを電子化する設計

電子化で最も設計に悩むのが「上司承認→本人開示→保管」という承認フローです。ツールの選択次第で実現できる範囲が変わりますが、どのツールでも共通する考え方があります。

入力フェーズ:フォームで収集する

まず、評価の入力をGoogleフォームやMicrosoft Formsで行う方法が低コストで導入しやすい選択肢です。回答が自動でスプレッドシートに集約されるため、回収・転記の手間が省けます。ただし、Googleフォームは入力者の認証機能が弱いため、Googleアカウントの組織管理(Google Workspace)と組み合わせることで「誰が入力したか」を記録できます。

承認フェーズ:承認の痕跡をどう残すか

承認フローの電子化に最も適しているのはMicrosoft SharePoint(Microsoft 365)です。Power Automateと組み合わせることで「上司が承認ボタンを押した日時・承認者名」が自動ログに残り、承認通知メールも自動送信されます。コストをかけたくない場合は、スプレッドシートに「承認者氏名・承認日」の入力セルを設け、上司が入力後にファイルを読み取り専用に変更するという運用で代替できます。完全ではありませんが、記録を残すという目的は果たせます。

保管フェーズ:PDFに変換してフォルダ管理

承認が完了したシートはPDF形式に変換し、「年度/部署/氏名」のフォルダ構成で保管します。ファイル名は「2025_評価_山田太郎_上期」のように年度・対象者名・評価期間を含めると、後の検索・参照が容易になります。保管フォルダへのアクセス権限は人事担当者と経営者のみに限定し、直属上司は担当者経由で参照する運用にすると情報漏洩リスクを下げられます。

「うちの会社の場合、どの工程からツール化すべきか」「今のExcel運用をどう改善するか」といった具体的な相談は、人事の専門家に相談することで導入リスクを大幅に削減できます。

低コストで使えるツールの選び方

ツール選びは「承認フローの自動化が必要か」「コストをどこまでかけられるか」の2軸で判断するのが実用的です。以下に主な選択肢を整理します。

ツール コスト 承認フロー アクセス制御 向いているケース
Googleフォーム+スプレッドシート 無料(Google Workspace利用が望ましい) 手動で記録 フォルダ単位で設定可 まず電子化を試したい・コスト優先
Googleドライブ(共有ドライブ) 無料〜(容量で課金) 手動で記録 フォルダ・ファイル単位で設定可 既にGoogle環境がある企業
Microsoft SharePoint(Microsoft 365) 月額数百円〜/人 Power Automateで自動化可 詳細な権限設定が可能 承認ログを確実に残したい・20名以上
人事評価専用クラウドツール 月額数千円〜 機能として組み込み済み 役割別権限が標準設定 評価制度の整備と同時に進めたい

まず確認すべき「すでにある環境」

新しいツールを導入する前に、すでに契約しているサービスで対応できないかを確認しましょう。Microsoft 365のBusinessプランを契約しているならSharePointとPower Automateがすでに使える状態です。Google Workspaceを契約しているなら共有ドライブの権限設定が使えます。追加コストゼロで相当の部分が実現できるケースが少なくありません。

専用ツールを検討するタイミング

従業員数が20名を超え、評価期間ごとの集計・フィードバック管理・目標管理(MBO)まで電子化したい場合は、人事評価専用のクラウドツールを検討する価値があります。承認フロー・本人開示・過去データの参照が一つの画面で完結するため、兼務人事担当者の工数が大幅に削減できます。ただし月額費用が発生するため、現状の運用量と照らし合わせてROIを試算してから導入判断することを推奨します。

保管期間と廃棄ルールの決め方

評価シートの保管期間は法令で定められていませんが、「退職後5年」を目安に設定し、廃棄ルールを文書化しておくことが実務上のベストプラクティスです。

保管期間の考え方:紛争リスクから逆算する

評価シートが法的に問われる典型的な場面は、降格・解雇・賞与減額への不服申し立てです。民事上の損害賠償請求権の消滅時効は原則5年(民法第166条)です。この時効期間を基準に「退職後5年間は保管する」というルールが実務的な安全ラインになります。在職中は常に最新の評価年度を含め保管しておく運用が基本です。

廃棄ルールを文書化する

保管期間を決めても「いつ・誰が・どのように廃棄するか」のルールがなければ、データは溜まる一方です。年に一度、評価サイクルの終わりに保管年数を超えたデータを人事担当者が確認・削除するタイミングを設けることを推奨します。このルールは「個人情報の取扱い規程」や「情報管理規程」に一文追記する形で文書化しておくと、内部統制の整備にもつながります。規程類がまだない場合は、メモ書きレベルでも運用ルールを残しておくことが第一歩です。

まとめ

人事評価シートの電子保管に法的な障害はなく、個人情報保護法の安全管理措置を満たせば、GoogleドライブやMicrosoft SharePointといった既存ツールで十分に実現できます。重要なのは、真正性(承認ログ)・アクセス制御・可読性・バックアップという4つの要件を押さえた運用設計を最初に決めておくことです。保管期間は「退職後5年」を目安に設定し、廃棄ルールも文書化しておきましょう。

評価シートの電子化は「紙の廃止」だけでなく、コンプライアンスと業務効率を両立させる人事制度改善のチャンスです。設計の段階から人事の専門家に伴走してもらうことで、導入後の運用トラブルを大きく減らすことができます。ウェルセンス株式会社では、中小企業の評価制度設計から運用支援まで実務的なアドバイスを行っています。不明な点や現状の課題について、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 紙の評価シートをスキャンしてPDFで保存するだけで大丈夫ですか?

A. 保存自体は問題ありませんが、それだけでは不十分な点があります。スキャンPDFでも「誰がいつ承認したか」の記録が読み取れること、アクセス権限が適切に設定されていること、定期的なバックアップが取られていることを合わせて確認してください。スキャン後の紙の原本をすぐに廃棄する場合は、PDF上でも承認者・承認日が明確にわかる状態にしておくことが重要です。

Q. Excelで評価シートを管理する場合、承認の記録をどう残せばいいですか?

A. Excelには自動承認ログ機能がないため、シート内に「承認者氏名」「承認日」を入力する欄を設け、上司が記入した後にファイルを読み取り専用(保護)に変更する運用を推奨します。完了後はPDFに書き出して保管すると、後から内容を書き換えられるリスクを下げられます。より確実な承認ログが必要な場合は、Microsoft SharePoint+Power Automateの組み合わせへの移行を検討してください。

Q. 評価シートを従業員本人に見せる義務はありますか?

A. 法令上、評価シートを本人に開示する義務はありません。ただし、個人情報保護法では本人から自己の個人情報の開示を求められた場合に応じる義務があります(同法第33条)。また、評価結果を賃金・昇降格に反映する場合、説明責任の観点からフィードバック面談を実施し、評価の根拠を本人に説明する運用が労使関係の安定につながります。開示範囲のルールを就業規則や評価制度規程に明記しておくことを推奨します。

Q. クラウドサービスを使った場合、データが海外サーバーに保存されても問題ありませんか?

A. 個人情報保護法上、個人データを外国にある第三者に提供する場合には一定のルールがあります(同法第28条)。ただし、GoogleやMicrosoftのような大手クラウドサービスを業務委託として利用する場合は「第三者提供」には該当せず、委託先の監督義務(同法第25条)を果たせば足ります。利用規約でデータの保管地域や安全管理措置が明示されているサービスを選ぶことが実務上の対応策です。

Q. 退職した従業員の評価シートはいつ削除すればいいですか?

A. 法令上の削除義務はありませんが、退職後5年を目安に削除するルールを設けることを推奨します。民事上の損害賠償請求権の消滅時効(原則5年)を意識した設定です。なお、個人情報保護法では「利用目的が達成された個人情報は遅滞なく消去するよう努めなければならない」と定めており(同法第19条)、不必要に長期間保管し続けることもリスクになります。保管・廃棄のルールを情報管理規程として文書化しておくと、内部統制の面でも安心です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

人事だけで抱えない。産業医にスポットで相談
タイトルとURLをコピーしました