「前の採用で入社した社員がメンタル不調になり、休職してしまった。次の採用では事前に見極めたいのだが、面接でどこまで聞いていいのかわからない」——採用担当を兼務する経営者や現場リーダーから、こうした相談が増えています。
ストレス耐性を採用基準に加えること自体は違法ではありません。ただし、確認の方法を誤ると就職差別や個人情報保護法違反につながるリスクがあります。この記事では、法的根拠を踏まえながら「何を聞けばよくて、何を聞いてはいけないのか」を実務レベルで整理します。専任人事がいない企業でも、面接官が安心して使える判断軸を持ち帰ってください。
ストレス耐性の評価は合法か
結論からいえば、採用面接でストレス耐性を評価すること自体は合法です。問題になるのは、評価の目的や質問の内容が「職務遂行能力」ではなく「属性の排除」に向いてしまう場合です。
評価が合法になる条件
厚生労働省は採用選考における配慮事項として、「本人の適性・能力とは無関係な事項の把握」を避けるよう求めています。裏を返せば、「この職務に必要な適性・能力があるか」を確認する範囲であれば、ストレス耐性の評価は正当な採用活動として認められます。評価の目的を「精神疾患の有無を確認する」ではなく、「困難な状況への対処行動と自己認識を確認する」と設計することが重要です。
注意が必要な法律・制度
採用選考に関わる主な法的根拠を押さえておきましょう。
| 法律・制度 | 採用選考における留意点 |
|---|---|
| 厚生労働省の就職差別禁止指針 | 精神疾患・通院歴・服薬状況など「本人に責任のない事項」の把握は問題になりやすい |
| 障害者差別解消法(2024年4月完全施行) | 民間事業者も合理的配慮の提供が義務。障害を理由とした一律排除は禁止 |
| 個人情報保護法 | 病歴・精神的健康状態は「要配慮個人情報」。本人の同意なく収集・利用は原則禁止 |
| 労働安全衛生法第66条 | 内定後の健康診断は可能。ただし結果を理由とした内定取消しは合理的理由が必要 |
「採用の自由」を根拠にするのは危険
1973年の三菱樹脂事件(最高裁判決)では企業の採用の自由が認められましたが、これを「健康状態も企業が自由に判断できる」と拡大解釈するのは現在の法体系と整合しません。障害者差別解消法や個人情報保護法が整備された今、採用の自由は無制限ではなく、合理的な業務関連性がある範囲でのみ行使できるものと理解してください。
聞いてよい質問と聞いてはいけない質問
ストレス耐性の評価で最も多い失敗が「過去の病歴・通院歴に踏み込む質問」です。どこが境界線なのかを、具体的な質問例で整理します。
NGになる質問の特徴
次のような質問は、精神疾患・障害の有無を直接または間接的に確認しようとするものとみなされ、問題になる可能性があります。
- 「精神的な病気や通院の経験はありますか」
- 「薬を飲んでいることはありますか」
- 「うつになったことはありますか」
- 「カウンセリングを受けたことはありますか」
- 「家族にメンタル疾患の人はいますか」
これらは病歴という要配慮個人情報に直接触れるか、あるいは特定の属性を排除する意図があるとみなされるリスクが高い質問です。悪意のない面接官が「念のため確認しておこう」と思って口にしやすいため、面接前に明確に禁止事項として共有しておく必要があります。
合法的に確認できる質問の方向性
「職務遂行に必要な行動特性」を確認する質問であれば、適法に運用できます。効果的なアプローチはSTAR法(状況→課題→行動→結果の順で過去の行動事実を引き出す手法)を使った質問設計です。
- 「これまでの仕事で最もプレッシャーを感じた場面を教えてください。そのときどう対処しましたか」
- 「締め切りや複数業務が重なったとき、どのように優先順位をつけますか」
- 「仕事で行き詰まったとき、誰かに相談しますか。どんなタイミングで声をかけますか」
- 「前職で難しいと感じた人間関係はありましたか。どう乗り越えましたか」
- 「体調や気持ちがしんどいと感じたとき、どのように調整しますか」
これらは過去の具体的な行動事実を聞くものであり、病歴ではなく「対処行動のパターン」を評価するものです。面接官が行動事実の深掘りをしやすく、評価の公平性も保ちやすいというメリットがあります。
面接官が「よかれと思って」やってしまうリスクへの対策
専任人事のいない企業では、経営者や現場リーダーが面接官を担うことが多く、事前トレーニングが十分でないケースがほとんどです。対策としては、面接前に「OK質問リスト」と「NG質問リスト」を一枚の紙にまとめて共有するだけで大きく変わります。「聞いてはいけない理由」も短く添えておくと、理解と定着が早まります。
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適性検査・ツールの活用と限界
面接の主観的な判断を補うために、適性検査やアセスメントツールを活用することは有効です。ただし、「ツールに合否を決めさせる」使い方は法的にも実務的にも問題があります。
活用できるツールの種類と特徴
中小企業が現実的に利用できる選択肢には次のようなものがあります。SPI(リクルートが提供する適性検査)はストレス対処傾向や職場適応性を含む指標があり、採用市場での実績が豊富です。エゴグラムや職業適性検査はストレスの受け取り方や人との関わり方のパターンを把握するのに向いています。費用については提供会社や受検方法によって異なるため、導入前に複数社から見積もりを取って比較することをお勧めします。
「結果をどう解釈したらいいか判断がつかない」という場合は、産業医などの専門家に一度相談しながら導入を検討するのも現実的な方法です。
ツールを使う際のルール
適性検査の結果は「職務適性の参考情報」として使い、「精神的健康度の判定」として扱わないことが鉄則です。検査結果だけを合否の根拠にすることは、透明性・公平性の観点からリスクが高く、また検査結果が「障害の有無を示唆する」と解釈される使い方は障害者差別解消法にも抵触しかねません。ツールはあくまで面接での会話の補完情報として位置づけてください。
従業員規模・体制による判断の分岐
産業医が選任されている企業(常時50人以上の事業場が義務)であれば、採用後の健康管理や職場適応の相談窓口として産業医を活用できます。50人未満の企業では産業医の選任義務がなく、相談できる専門家が社内にいないケースが多いため、外部の産業保健サービスやEAP(従業員支援プログラム)の利用を検討する価値があります。就業規則に「採用時の健康状態の確認に関する規定」があるかどうかも確認しておきましょう。
採用だけでは解決しない——入社後のフォロー設計
ストレス耐性の高い人を採用しても、それだけでメンタル不調を防ぐことはできません。ストレス耐性は固定した個人特性ではなく、職場環境・業務量・人間関係・マネジメントの質によって変動するからです。
採用前の見極めには本質的な限界がある
面接という短時間の場では、候補者が「自分をよく見せようとする」場面において、本来の対処パターンを正確に把握することは難しいのが現実です。また、採用後に業務内容や職場環境が変わることで、入社時には問題がなかった人でも不調になるケースは珍しくありません。採用段階の見極めは「リスクを下げる一手段」であり、「完全な予防策」ではないことを前提に設計することが重要です。
入社後の早期フォロー体制をつくる
入社後に不調が出た際に会社として問題になるのは、「不調のサインを見逃して放置した」「相談できる環境がなかった」というケースです。逆にいえば、以下のような体制が整っていれば安全配慮義務(労働契約法第5条)の観点からも対応が評価されます。
- 入社後1か月・3か月・6か月のタイミングで面談を設ける
- 上司以外に相談できる窓口(人事担当・外部相談窓口等)を明示する
- 残業時間のモニタリングや業務負荷の定期確認を仕組み化する
- 不調のサインをチェックリスト化し、上司・管理職と共有する
採用時に開示・確認できることの整理
候補者が自ら「配慮が必要なことがある」と申告した場合は、「どのような配慮があれば職務を遂行できるか」を確認することができます。これは障害者差別解消法が求める合理的配慮の提供プロセスと一致します。本人が申告していない状況で病歴を聞き出そうとすることと、本人の申告をもとに配慮の内容を話し合うことは、法的にまったく異なる行為です。この区別を採用担当者が理解しておくことは非常に重要です。
面接官が明日から使える実践フレーム
ここまでの内容を、実際の採用現場で使える形に整理します。評価設計・質問・判断基準の三点セットとして活用してください。
評価軸を「行動」で定義する
「ストレス耐性が高い人を採りたい」という採用要件は、そのままでは面接での評価基準にできません。行動レベルに落とし込むことが必要です。たとえば次のように言い換えます。「困難な状況でも自分で優先順位をつけて行動を継続できる」「困ったときに周囲に相談できる/助けを求められる」「自分の限界を認識し、早めに上長や同僚に共有できる」。この言語化をしておくことで、面接後に複数の面接官で評価をすり合わせるときにも判断のブレが少なくなります。
評価シートに落とし込む
面接後の評価は、面接官の「なんとなく」に頼らず、評価シートで記録することを勧めます。評価項目に「困難場面への対処行動(具体的エピソードの有無)」「SOSの出し方・相談行動の経験」「自己認識の言語化能力」などを設け、それぞれに根拠となる候補者の発言を書き留める形式にすると、後から振り返りやすく、万一採用トラブルが起きた際の記録にもなります。
候補者への情報提供も忘れずに
ストレス耐性を確認しようとする企業が見落としがちなのが、「自社の職場環境を正確に伝える」ことです。残業の実態、チームの働き方、困ったときの相談体制などを正直に伝えることで、候補者自身が「自分に合う職場かどうか」を判断できます。ミスマッチを採用後に発見するより、選考段階での相互確認のほうが双方にとって有益です。
まとめ
採用面接でストレス耐性を評価すること自体は合法ですが、病歴・通院歴・服薬状況への直接的な質問は就職差別や個人情報保護法違反につながるリスクがあります。合法的な評価の軸は「職務遂行に必要な対処行動と自己認識があるか」を確認することであり、STAR法を使った行動事実の質問が有効です。適性検査は補完情報として活用し、合否判断の唯一根拠にしないことが鉄則です。また、採用段階での見極めには限界があるため、入社後の定期面談・相談窓口・業務負荷モニタリングといったフォロー体制の整備が不可欠です。
「採用面接を適切に設計したいが、法的判断に自信がない」「採用後の不調対応に困っている」という場合は、一人で判断するよりも専門家に相談しながら進める方が企業のリスク軽減につながります。ウェルセンス株式会社では、採用要件の設計から入社後のメンタルヘルスフォローまで、中小企業の一連の対応をサポートしています。
よくある質問
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