内定取り消しSNS問題の判断基準と対応手順5ステップ

内定取り消しSNS問題の判断基準と対応手順5ステップ コンプライアンス
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「この内定者、SNSでかなり問題のある投稿をしていた——取り消せるのか、取り消していいのか」。そう気づいたとき、判断を下せる専門家が社内にいない中小企業では、対応が止まってしまいがちです。動けば法的リスク、動かなければ職場リスク。この記事では、内定取り消しが法的に許される条件、SNS投稿の判断基準、そして実務対応の流れを順を追って解説します。

内定取り消しは「解雇」に準じる行為である

結論から述べます。内定段階でもすでに労働契約は成立しており、内定取り消しは「解雇」に準じた法的行為です。「まだ入社前だから断るだけ」という感覚で動くと、不当解雇と同等の法的リスクを負います。

内定の法的性質:大日本印刷事件が示した原則

採用内定の法的性質について、最高裁昭和54年7月20日判決(大日本印刷事件)は、内定を「始期付解約権留保付労働契約」と定義しました。つまり、「入社日を始期とし、一定の取り消し事由がある場合に限り解約できる労働契約」がすでに成立している、ということです。電話一本で「やっぱりご縁がなかったということで」と伝えるだけでは、不当な内定取り消しとして損害賠償請求や労働審判の対象になりえます。

内定取り消しが有効とされる3つの条件

内定取り消しが法的に有効と認められるためには、以下の3点をすべて満たす必要があります。

  • 採用内定通知書等に「取り消し事由」があらかじめ明記されていること
  • その事由が客観的に合理的な理由に当たること
  • 社会通念上、相当と認められること

SNS投稿を理由にする場合、この3点を満たしているかを具体的に検証することが第一歩です。事前に内定通知書へ取り消し事由を記載していない場合、後から「SNSの投稿が問題だった」と主張しても、法的根拠が弱くなります。就業規則や内定通知書の整備状況を、まず確認してください。

新卒内定者には追加の行政手続きが必要な場合がある

学校卒業予定者(いわゆる新卒者)を対象に内定取り消しを行う場合、「青少年の雇用の促進等に関する法律(若者雇用促進法)」に基づき、ハローワークへの通知義務が生じるケースがあります。中途採用者と新卒者では対応が異なるため、対象者の属性を最初に確認しておく必要があります。

SNS投稿を取り消し理由にできるかの判断基準

SNS投稿が内定取り消し事由に当たるかどうかは、投稿内容の重大性・自社との関係性・本人の対応という3つの軸で総合判断します。「なんとなく気になる」という感覚は、法的根拠になりません。

取り消しを検討できる投稿・できない投稿の目安

投稿の種類 判断の目安
犯罪行為の告白・自慢(万引き、暴行、薬物等) 取り消しを検討できる可能性が高い
特定個人・属性への差別的・侮辱的発言 業務遂行能力・企業信用への影響として取り消し事由になりえる
自社名を明示した誹謗中傷・内部情報の漏えい 自社との直接的関係があり、取り消し事由として強い根拠になりえる
過去のアルバイト先への愚痴・軽い不満 単独では取り消し理由として弱い。慎重な判断が必要
政治的・思想的な意見表明(違法性なし) 原則として取り消し理由にならない。思想・信条の自由に抵触するリスクあり

「削除されていた」場合でも証拠保全は必須

発見時にスクリーンショットを取らなかった場合、後の対応が困難になります。削除済みの投稿であっても、発見した事実とその内容を記録しておくことは重要です。証拠がなければ、本人が「そんな投稿はしていない」と主張した際に反論できません。発見した担当者が日時・内容・URL(存在した場合)をメモし、可能であればスクリーンショットを残すことを社内ルールとして明確にしておきましょう。

SNS調査そのものにも法的リスクがある

採用選考時に応募者のSNSを意図的・網羅的に調査する行為は、個人情報保護法の観点、および厚生労働省が定める「公正な採用選考の基本」の観点から、業務遂行能力と無関係な個人情報の収集として問題視される可能性があります。「調べてよかったのか」という問いに備えて、調査の目的・範囲・利用方法を社内であらかじめ定めておくことが必要です。

取り消しを決断する前に必ず行う社内確認

内定取り消しの判断を下す前に、感情的・属人的な判断を避けるための社内確認プロセスを必ず踏んでください。担当者一人の判断で動くことが、後の紛争リスクを高めます。

内定通知書・就業規則の取り消し事由を確認する

まず確認すべきは、内定通知書または就業規則に「取り消し事由」として該当する記載があるかどうかです。「採用選考時の申告内容に虚偽があった場合」「会社の信用を著しく損なう行為があった場合」などの文言が含まれているかを確認します。記載がない場合は、その事実を踏まえた上でリスクを見積もる必要があります。就業規則がそもそも存在しない企業(常時10人未満の事業場では作成義務がない)は、この段階でリスクが高まることを認識してください。

判断を複数人で行い、記録に残す

社長や採用担当者一人が「イメージに合わない」と感じただけでは、客観的に合理的な理由とはなりません。少なくとも経営者と採用担当の2名以上で協議し、判断の根拠・経緯・結論を文書化します。後に「なぜその判断をしたのか」を説明できる記録が、労働審判や行政指導への対応時に重要な意味を持ちます。

本人に弁明の機会を与えることを検討する

一方的に取り消しを通知するのではなく、本人に事実確認と弁明の機会を設けることが、後の紛争回避に効果的です。「この投稿はあなたのものか」「投稿した意図・背景は何か」を確認することで、誤認識だった場合の取り消し判断の誤りを防ぐとともに、本人が真摯に反省・説明した場合に取り消し判断を再考する余地も生まれます。このプロセスを踏んでいるかどうかが、後に手続きの相当性として評価されることがあります。

内定取り消しを実行する場合の対応

内定取り消しを決断した後は、口頭対応を避け、書面を中心とした手順を踏むことが原則です。言葉一つで紛争リスクが高まるのがこの局面です。

書面(内定取り消し通知書)を必ず交付する

まず、内定取り消しの意思は書面で伝えます。口頭のみで通知すると「言った・言わない」の水掛け論になりやすく、後の証拠として残りません。内定取り消し通知書には、取り消しの理由・根拠となる規定の条項・取り消しの時期・問い合わせ先を明記します。書面は本人への交付後、控えを必ず会社側で保存してください。

通知のタイミングと方法

通知は、弁明の機会を経た後に行います。電話や口頭での事実確認を経てから、書面を郵送または手渡しで交付するという流れが一般的です。メールのみでの通知は、受領確認が曖昧になりやすいため、書面の郵送(配達証明付き)と併用することが望ましいです。通知のタイミングが入社予定日に近いほど、本人の損害(内定辞退先への復帰不可能など)が大きくなるため、早期対応が求められます。

新卒者の場合はハローワークへの届出を確認する

学校卒業予定者に対する内定取り消しを行った場合、若者雇用促進法の規定により、ハローワークへの通知義務が生じる場合があります。対象者が新卒者かどうかを確認し、該当する場合は管轄のハローワークに相談の上、必要な手続きを進めてください。この手続きを怠ると、行政指導の対象となる可能性があります。

取り消さない場合のリスク管理と入社後の対応

SNS問題を把握しながら入社させる場合でも、何もしないまま受け入れるのは適切ではありません。入社前に条件の確認を行い、入社後は服務規程の適用によって対応します。

入社前に書面で注意喚起を行う

「今回把握した投稿内容について、会社として懸念していること」を本人に伝え、入社後の行動指針を確認する書面を交わすことができます。ただし、これは内定の条件変更ではなく、あくまで会社としての姿勢を明確にするコミュニケーションです。内定取り消し事由の追加や条件の一方的な変更は、労働契約法上の問題が生じる可能性があるため、文言には注意が必要です。

入社後は服務規程・ソーシャルメディアポリシーで対応する

入社後は、就業規則の服務規程やソーシャルメディアポリシー(SNS利用規程)が適用されます。これらが整備されていれば、入社後に類似の問題が起きた際に懲戒処分の根拠となります。「入社させたら終わり」ではなく、社内ルールとして明文化された規程があることが、再発防止の基盤になります。規程がない場合は、この機会に整備を検討することをお勧めします。

まとめ

内定取り消しSNS問題への対応は、「解雇に準じる法的行為である」という認識を起点に、判断基準の明確化・社内記録の整備・書面による通知という手順を踏むことが不可欠です。感情的・属人的な判断を避け、内定通知書や就業規則の記載内容を確認し、複数人で協議した上で記録に残すことが、後の法的紛争を防ぐ最大の予防策となります。

取り消さない場合も、注意喚起と服務規程の整備によってリスクを管理することが重要です。専任人事がいない中小企業では、このような判断を一人で抱え込まざるを得ないケースが多くあります。

「取り消すべきか、このまま入社させるべきか」と迷っている段階でも、ウェルセンス株式会社では人事労務の専門的な視点から、個々の状況に応じた対応方針の整理をサポートしています。お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 内定通知書にSNSに関する取り消し事由を記載していませんでした。それでも内定取り消しができますか?

A. 取り消し事由の事前明示がない場合、法的リスクは高まります。ただし、投稿内容が犯罪行為の告白や極めて反社会的な内容であれば、明示がなくても客観的・社会的相当性の観点から有効と判断される余地はあります。一方、「会社のイメージに合わない」程度では、事由の明示がない状態での取り消しは不当と判断されるリスクが高いです。まずは法的リスクを整理した上で判断することをお勧めします。

Q. 問題投稿を発見したのが他の社員からの報告でした。この情報をもとにSNS投稿の判断をしてよいのでしょうか?

A. 情報の入手経緯よりも、投稿内容の事実確認が重要です。報告を受けた段階では、まず内容を自ら確認し、スクリーンショット等で記録を残してください。その上で、本人への事実確認と弁明の機会を設ける手順を踏むことで、情報の信頼性と手続きの適正性を担保できます。

Q. 内定取り消しを電話で伝えてしまいました。今からでも書面を送るべきですか?

A. はい、今からでも書面を送付することをお勧めします。口頭通知のみでは「言った・言わない」の紛争リスクが残ります。遅れてでも内定取り消し通知書を配達証明付き郵便で送付し、取り消しの理由・根拠・時期を明記した上で、控えを保存してください。送付が遅れた経緯も記録しておくと、後の説明に役立ちます。

Q. 問題投稿はすでに削除されています。それでもSNS投稿を取り消し理由にできますか?

A. 削除されていても、発見時に記録(スクリーンショット・URL・日時のメモ等)が残っていれば、取り消し事由の根拠として用いることは可能です。記録がない場合は、本人が存在を否定した際に対抗できなくなるため、発見時の証拠保全が非常に重要です。今後のために、社内でのSNS投稿の証拠保全ルールを定めておくことをお勧めします。

Q. 取り消さず入社させた場合、入社後に同じ問題が起きたらどう対応すればよいですか?

A. 入社後は就業規則の服務規程やソーシャルメディアポリシーが適用されます。これらに「会社の信用を損なうSNS投稿を禁止する」旨が明記されていれば、違反に対して懲戒処分の根拠となります。規程が整備されていない場合は、入社前にこれらを整備し、入社時の説明・誓約書の取り交わしを行うことで、再発時の対応基盤をつくることができます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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