他社の人事制度はどうやって調べればいい?

他社の人事制度はどうやって調べればいい? 人事制度
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「採用で負けている気がする。でも、うちの給与が本当に低いのかどうか、数字で説明できない」——兼務で人事を担当していると、こういう場面に何度もぶつかります。経営者に給与改定を提案しようにも、「他社と比べてどうなの?」と聞かれると言葉に詰まる。大手向けの有料調査レポートは数十万円以上するし、そもそもどこを調べればいいのかもわからない。この記事では、費用をかけずに他社の人事制度をベンチマークする具体的な方法と、集めたデータを社内で活用するコツを実務目線で解説します。

ベンチマークとは何か、中小企業が調べる意味

人事制度のベンチマークとは、自社の給与・休暇・評価制度などを同業他社や業界水準と比較し、「自社の立ち位置」を客観的に把握する作業です。中小企業にとっては、制度改定の根拠をつくるうえで欠かせない情報収集の一歩です。

なぜ「感覚」だけでは動けないのか

「うちの給与は低い気がする」という感覚は、現場の実感として正しいことが多いです。しかし経営者に改定を提案するとき、感覚論は却下されやすい。「どこと比べて低いのか」「どのくらいズレているのか」を数字で示せて初めて、議論のテーブルに乗ります。ベンチマークとは、その「数字と根拠」を手に入れる作業です。

大企業の事例は参考にならない、では何を見るか

ネット検索や書籍で出てくる人事制度の事例は、大企業やメガベンチャーのものが大半です。「フルフレックス+ストックオプション」のような制度は、20〜50名規模の会社にそのまま持ち込んでも機能しません。自社と近い規模・業種・地域のデータを探すことが、ベンチマークの本質です。以降で紹介する情報源はすべて、中小企業が現実的に使えるものに絞っています。

無料で使える公的統計データの読み方

給与水準のベンチマークに最も信頼性が高いのは、国が毎年公表している公的統計です。費用は一切かからず、産業別・規模別・職種別に整理されているため、自社の立ち位置を確認するのに適しています。

賃金構造基本統計調査の使い方

厚生労働省が毎年実施する「賃金構造基本統計調査」は、産業・企業規模・職種・年齢階級別の賃金分布を公表しています。ポイントは規模区分の確認です。「10〜99人」「100〜999人」などの区分が設けられており、自社の従業員数に合った区分を選ぶことで、より実態に近い比較ができます。たとえば「情報通信業・30人規模・一般事務職・30代」のように絞り込むことで、自社の同職種の給与が業界平均と比べてどの位置にあるかを把握できます。

就労条件総合調査で「制度の有無」を確認する

同じく厚生労働省が実施する「就労条件総合調査」は、労働時間・年次有給休暇・退職金・賞与といった制度の「普及率」を確認できます。「退職金制度がある企業は何割か」「フレックスタイム制を導入している中小企業の比率は?」といった問いに答えてくれます。自社に退職金制度がない場合、同規模の業界平均と比較することで「うちだけが特殊なのか、業界全体的にそうなのか」を判断できます。これは経営者への説明に非常に使いやすいデータです。

地域の賃金データも必ず押さえる

全国平均だけを見ると、地域によっては実態とかなりズレが生じます。都道府県労働局が公表している地域別最低賃金はもちろん、ハローワークや各都道府県の労働局が公表している地域の賃金相場データも確認しましょう。採用競合は全国の企業ではなく、同じ地域の企業であることが多いため、地域水準の把握は実務上とくに重要です。

求人票を「ベンチマーク情報」として活用する技術

求人票は、競合他社が自ら公開している処遇情報の宝庫です。ただし、書かれている数字をそのまま額面通りに受け取ると判断を誤ります。読み解くための「目線」を持つことが大切です。

求人票の給与表記を正しく解読する

求人票に記載された「月給25万円〜40万円」という数字は、多くの場合「上限値」か「諸手当込みの最大値」です。実際の基本給はもっと低く、残業手当・職務手当・資格手当などを合計した数字として表示されているケースがほとんどです。比較するときは、「基本給のみで比較する」「諸手当の種類を確認する」「固定残業代が含まれているかを確認する」の3点を意識してください。IndeedやJobボックスなど複数の求人サイトで同じ企業・職種を検索し、複数のデータを集めて傾向を見るのが現実的な方法です。

制度・福利厚生の「有無」を記録する

給与だけでなく、求人票には人事制度に関する情報が多く含まれています。「フレックスタイム制あり」「リモートワーク可」「資格取得支援制度あり」「退職金制度あり」など、制度の有無を同業他社の求人票から収集し一覧化するだけで、自社との比較表が作れます。5〜10社分の求人票を並べてスプレッドシートに整理すると、「業界内で当たり前になっている制度」と「自社に足りている・不足している制度」が視覚的にわかります。

求人票収集は継続的に行う

求人票の情報は採用市況によって変わります。一度だけ調べて終わりにせず、半年〜1年に一度のサイクルで収集・更新する習慣をつけましょう。採用活動を行うタイミング(特に求人を出す前)に必ず他社の求人票を確認するルーティンにしておくと、業界の処遇水準の変化をリアルタイムで把握できます。

業界団体・民間調査を補完的に活用する

公的統計や求人票だけでは見えにくい「業界固有の慣行」を補うために、業界団体の調査や民間のレポートを組み合わせると情報の精度が上がります。

業界団体の白書・調査資料を探す

多くの業界団体は、会員向けに賃金調査や労働条件調査を実施しています。建設業・製造業・IT・医療・小売など、業種によって内容は異なりますが、「業界内の給与相場」「離職率の平均」「導入されている人事制度の種類」などが掲載されていることがあります。加盟している場合は積極的に活用しましょう。加盟していない場合でも、一部の団体はレポートの概要を無料公開しているため、まず団体のウェブサイトを確認してみてください。

上場企業の有価証券報告書から参考値を取る

同業の上場企業があれば、有価証券報告書に記載された「従業員の平均年収」「平均年齢」「平均勤続年数」は参考になります。ただしこれはあくまで「業界の上位企業」の数字です。規模の差を意識しながら「業界トップ水準」として参照する位置づけにとどめ、直接比較には使わないよう注意しましょう。近年は人的資本開示が進んでいるため、離職率・研修時間・エンゲージメントスコアを開示している企業も増えており、制度設計の参考軸として使えます。

集めたデータを社内で活用するための整理方法

データを集めることが目的ではありません。集めた情報を「制度を変える・維持する根拠」として経営者に示せる形に整理することが、ベンチマーク調査の本来のゴールです。

比較表を作って「差分」を可視化する

集めた情報は、以下のような比較表にまとめることで経営者への説明がしやすくなります。

比較項目 自社 業界平均(公的統計) 競合他社A(求人票) 競合他社B(求人票)
月額基本給(同職種・同年齢) 記入 記入 記入 記入
賞与回数・水準 記入 記入 記入 記入
有給休暇取得率 記入 記入 記入 記入
退職金制度の有無 記入 記入 記入 記入
フレックス・リモートの有無 記入 記入 記入 記入

この表を埋めることで、「どの項目で業界水準より低いか」「どの項目は競合に勝っているか」が一目でわかります。全項目を上げる必要はなく、採用・定着に影響の大きい項目から優先順位をつけて改定提案に結びつけましょう。

「上げる根拠」と「維持する根拠」を分けて考える

ベンチマークの結果は、制度を「上げる根拠」として使うのが実務的に安全です。労働契約法第9条・第10条が定める「不利益変更の禁止」という観点から、ベンチマークを根拠に制度を下方修正しようとする場合には、合理性の証明や従業員への十分な説明・同意取得が必要になります。一方、「業界水準より低い項目を引き上げる」「同水準の制度を維持する」ための根拠としては非常に使いやすいデータです。改定の方向性を決める前に、この点を押さえておきましょう。

就業規則の改定が必要かどうかを確認する

ベンチマークをもとに制度を変える場合、就業規則の変更が必要になるケースがあります。労働基準法第89条では、賃金・労働時間などは就業規則への記載が義務づけられており(絶対的必要記載事項)、変更した場合は所轄の労働基準監督署への届出が必要です。退職金・賞与などは変更しても任意で記載できる事項(相対的必要記載事項)ですが、記載している場合は変更届出が必要になります。制度を変える前に、「何を変えると届出義務が生じるか」を確認しておきましょう。

まとめ

他社の人事制度をベンチマークするために必ずしも高額な調査会社は必要ありません。厚生労働省の公的統計(賃金構造基本統計調査・就労条件総合調査)、求人サイト上の他社求人票、業界団体の白書を組み合わせることで、中小企業でも十分に「自社の立ち位置」を把握できます。重要なのは、集めたデータを比較表として整理し、経営者が判断できる形で提示することです。そして、ベンチマーク結果はあくまで「制度を改善するための根拠」として使い、不利益変更には慎重に対応することが実務上のポイントです。

「調べ方はわかったが、どう制度設計に落とし込めばいいかわからない」「ベンチマークは取れたが、経営者への提案の仕方に困っている」という段階で壁にぶつかることは珍しくありません。ウェルセンス株式会社では、人事専任がいない中小企業の人事・労務課題に伴走しています。一人で抱え込まず、まずは気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 競合他社の給与情報を調べることは、法律的に問題ありませんか?

A. 求人票・IR資料・業界団体の公開データなど、合法的に公開されている情報を収集・分析することは問題ありません。ただし、競合他社の内部情報を不正な手段で入手する行為は不正競争防止法に抵触するリスクがあります。調査は公開情報に限定することを徹底してください。

Q. 求人票の給与情報はどこまで信頼できますか?

A. 求人票に記載された給与は「上限値」や「諸手当込みの金額」であることが多く、実際の基本給はより低いケースが一般的です。複数社の求人票を収集して傾向を把握する、固定残業代の有無を確認するなど、数値を鵜呑みにせず「相場感の把握」として活用するのが適切な使い方です。

Q. ベンチマーク結果をもとに給与を下げることはできますか?

A. 労働契約法第9条・第10条により、労働者に不利益な労働条件の変更は原則として本人の同意が必要です。ベンチマークの結果だけを理由に一方的に給与を引き下げることは、法的なリスクを伴います。ベンチマークは「引き上げ・維持の根拠」として活用するのが実務上安全です。変更を検討する際は、社労士や専門家に相談することをお勧めします。

Q. 厚生労働省の統計データはどこで入手できますか?

A. 「賃金構造基本統計調査」「就労条件総合調査」はともに厚生労働省の公式ウェブサイトから無料でダウンロードできます。年次ごとに更新されているため、最新年度のデータを使用してください。産業分類・企業規模・職種で絞り込める設計になっており、自社の条件に近い区分を選ぶことがポイントです。

Q. ベンチマーク調査にどのくらいの時間がかかりますか?

A. 公的統計のダウンロードと基本的な読み込みで1〜2時間、競合他社の求人票収集と比較表の作成で2〜3時間が目安です。最初から完璧な調査を目指さず、「主要職種1〜2職種」「競合5社程度」に絞って始めると負担が少なくなります。一度フォーマットを作ってしまえば、次回以降の更新は大幅に短縮できます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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