「課長に昇格させたから、残業代はもう払わなくていいよね?」——現場でこういった判断が、何気なく行われていることがあります。しかし、「管理職」と法律上の「管理監督者」はまったく別物です。肩書きだけで管理監督者扱いにしていると、深夜割増の未払いや是正勧告、退職後の未払い請求といったリスクに直結します。この記事では、管理監督者に関する最も多い誤解を整理し、中小企業でも実践できる整備のポイントを具体的に解説します。
管理監督者でも深夜割増は必ず払う
結論から述べます。管理監督者であっても、深夜帯(午後10時〜翌午前5時)に勤務した場合は、2割5分以上の深夜割増賃金を支払わなければなりません。これは労働基準法第37条第4項に明記されており、例外はありません。
「割増賃金ゼロ」は大きな誤解
管理監督者に関して最も多い誤解は、「管理監督者=割増賃金がすべて不要」というものです。正確には、労働基準法第41条第2号によって適用除外になるのは、労働時間・休憩・休日に関する規定(同法第32〜35条等)です。時間外労働や休日労働に対する割増賃金は不要になりますが、深夜割増の規定(同法第37条第4項)は除外の対象に含まれていません。
深夜割増を払っていない場合のリスク
「深夜割増ゼロ」で運用し続けると、労働基準監督署の調査や退職した従業員からの未払い請求の際に、過去2〜3年分(消滅時効の範囲内)の深夜割増を遡って支払うよう求められる可能性があります。金額は1人でも数十万円単位になることがあり、複数の管理職に同様の誤りがあれば、会社の経営にも影響する水準になりえます。「うちの会社でそんなことは起きない」と思っていても、退職後に請求が来るケースは少なくありません。
法律上の「管理監督者」に当てはまるか確認する
管理監督者かどうかは、肩書きではなく職務の実態で判断されます。厚生労働省の通達(昭和22年9月13日発基第17号ほか)および裁判例を踏まえた実務上の判断基準は、以下の3つの要素の総合判断です。
3つの要件とその確認ポイント
| 要件 | 確認すべき実態 |
|---|---|
| 経営への参画・経営者との一体性 | 採用・解雇・人事考課・予算等の決定に実質的に関与しているか |
| 労働時間の自律性 | 自身の出退勤・業務の進め方を実質的に自分で決められるか |
| 地位にふさわしい待遇 | 基本給・各種手当・賞与等が一般労働者と比べて相応に優遇されているか |
この3つをすべて満たさなければ、法律上の管理監督者とは認められません。
中小企業でよく見られる「認定が難しいケース」
中小企業では、特に「経営への参画」と「待遇」が実態を伴っていないケースが多く見られます。たとえば、「採用権限あり」と規程に書いてあっても、実際には社長が最終決定しており課長は意見を述べるだけ、予算執行権もない、といった状況です。また、管理職手当として月3万円を加算しているが、残業代が出なくなった分と比べると実質的に減額になっている、というケースも要注意です。裁判所や労働基準監督署は書面だけでなく「実態」を見ます。
「自分たちの判断だけで大丈夫か、確信がもてない」という場合は、一度プロの目で実態を確認してもらうことで、後々のリスクを大きく減らせます。
判断に迷ったときの目安
「うちの課長・部長は管理監督者に当てはまるか」を自社で判断するときは、以下を自問してみてください。
- その人の同意なく採用や解雇の決定が進むことはあるか(あれば関与は形式的)
- 朝何時に出社するか、どの業務を優先するかを本人が決めているか
- 役職手当を含めた年収が、部下の上位層と比べて明確に高いか
一つでも「実態が伴っていない」と感じる項目があれば、管理監督者として扱うことのリスクがあると考えてください。
勤怠記録は管理監督者でも廃止できない
「管理監督者は打刻不要」というルールは、2019年以降は法律上も成立しません。管理監督者を含むすべての労働者の労働時間の状況を、客観的な方法で把握することが事業主に義務付けられています。
法改正によって義務化された背景
2019年4月に施行された改正労働安全衛生法(第66条の8の3)により、高度プロフェッショナル制度の適用者を除くすべての労働者について、労働時間の状況を客観的な方法で把握することが事業主の義務になりました。管理監督者も明確にこの対象に含まれています。「管理監督者だからタイムカードを廃止した」という運用は、この法律に違反します。
深夜割増の算定にも勤怠記録が必須
深夜割増を正しく支払うためには、管理監督者が何時から何時まで勤務したかを把握する必要があります。勤怠記録がなければ、深夜帯の勤務時間を算出することができず、支払うべき割増賃金の計算が成り立ちません。勤怠記録は、安全衛生法上の義務という側面だけでなく、深夜割増を適切に支払うための実務的な基盤でもあります。
管理監督者として扱うための社内整備
管理監督者の認定を適法に行うには、実態の整備と文書化を同時に進める必要があります。「運用は変えていないが書類だけ整える」では、調査や訴訟の場で効力を持ちません。
就業規則と職務権限規程の整備
まず、就業規則に「管理監督者」の定義と適用除外の範囲(労働時間・休憩・休日の規定を適用しない旨)を明記します。あわせて、深夜割増は管理監督者にも支払う旨を明確に記載することで、社内ルールと法律の整合性を保てます。次に、対象者ごとの職務権限規程を整備します。採用・解雇・人事考課・予算執行について、どの範囲まで本人の判断で動けるかを文書化し、実態と一致させることが重要です。「社長の決裁が必要な場合は課長の承認は不要」という実態があるなら、それは権限付与とは言えません。
労働条件通知書への記載
管理監督者に該当する従業員の労働条件通知書には、労働時間・休憩・休日に関する規定の適用除外を明示します。一方で、深夜割増賃金については支払い対象であることも記載しておくと、認識の齟齬を防げます。昇格のタイミングで労働条件通知書を更新せずに放置しているケースが中小企業では多く見られますが、これもトラブルの原因になります。
深夜割増の計算・支給フローの整備
実際に深夜割増を支払うためには、勤怠データから深夜時間帯の勤務時間を集計し、割増賃金を計算するフローが必要です。給与計算ソフトで管理監督者の深夜時間を自動集計できているか確認してください。手計算で対応している場合は、計算ミスが発生しやすいため、チェック体制を設けることが望ましいです。
「今すぐ見直すべきか」を判断するポイント
現在の運用に一つでも問題があれば、早期の見直しが将来のリスクを大きく下げます。特に以下の状況に当てはまる場合は、優先度が高いと考えてください。
自社の状況と照らし合わせる
- 課長・部長に管理職手当を払っているが、就業規則に管理監督者の定義が記載されていない
- 管理職の出退勤記録を取っていない、または途中で廃止した
- 深夜帯に勤務することがある管理職に、深夜割増を支払っていない
- 採用や予算決定において、実際には社長がすべて最終判断している
- 管理職の役職手当が、部下の時間外労働手当と比べて低い
規模別の対応の考え方
20〜30名規模で専任人事がいない場合、就業規則の見直しや職務権限規程の整備を一度に行おうとすると負担が大きくなります。まず「深夜割増の支払いと勤怠記録の維持」を最優先で確認し、次に管理監督者の要件を満たしているかの実態チェック、そして文書整備という順序で進めると現実的です。50名に近い規模であれば、就業規則の整備と職務権限規程の作成をセットで進めることを検討してください。
まとめ
管理監督者に関する誤解の中でも「深夜割増は不要」という思い込みは、法律上明確に誤りです。管理監督者であっても深夜帯(午後10時〜翌午前5時)の勤務に対する割増賃金(2割5分以上)は必ず支払わなければなりません。また、管理監督者の認定は肩書きではなく実態で判断されるため、権限付与・待遇・労働時間の自律性という3つの要件を実態として満たし、就業規則や職務権限規程に文書化しておくことが必要です。さらに、2019年の法改正により管理監督者の勤怠記録も義務化されており、「打刻不要」の運用は法律違反にあたります。
管理監督者の整備は、書類作成だけでなく実態の確認も含めて進める必要があり、判断に迷う部分が出てくるのは自然なことです。「自社の状況をどう整理すればよいか」「優先順位をつけて進めたい」という場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。人事労務の専門家が、御社の実態に合わせた具体的な整備をサポートします。専任人事がいない中小企業の経営者・兼務担当者からのご相談も、気軽にお問い合わせいただけます。
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