勤務間インターバルの就業規則整備と運用の進め方

勤務間インターバルの就業規則整備と運用の進め方 採用・定着
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「努力義務だから、とりあえず後回しでいいか」——勤務間インターバル制度への対応を、そう判断している経営者・人事担当者は少なくありません。しかし就業規則に何も書かれていない状態で深夜残業が続けば、従業員のメンタル不調や過労トラブルに発展するリスクは確実に高まります。この記事では、中小企業が勤務間インターバル制度を就業規則に落とし込み、現場で機能させるための手順を実務目線で解説します。

勤務間インターバル制度の「努力義務」とは何か

勤務間インターバル制度は、すべての事業主に課された努力義務です。罰則はありませんが、行政指導の対象となりうる制度であり、「対応しなくてよい」とは言い切れません。

法的根拠と中小企業への適用

勤務間インターバル制度の根拠法令は、「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(労働時間設定改善法)第2条」です。この法律は、企業規模による適用除外を設けていません。従業員20名の中小企業であっても、1,000名の大企業であっても、努力義務の重さは法律上同じです。

インターバル制度の定義は「前日の終業時刻から翌日の始業時刻までの間に、一定時間以上の休息時間を設けること」です。厚生労働省は11時間以上を望ましい水準として例示していますが、法律上、時間数の定めはありません。自社の実態に合わせて設定することが可能です。

「努力義務」の実務的な重さを正しく理解する

現時点で罰則規定はなく、違反した場合の即座の法的制裁はありません。ただし、労働局による行政指導・是正勧告の対象となりうることは押さえておく必要があります。また、過重労働が原因で従業員がメンタル不調に陥った場合、企業の安全配慮義務違反(労働契約法第5条)を問われるリスクがあります。インターバル制度を整備していないことが、こうした場面で不利な証拠になる可能性を考えると、「義務ではないから放置」という判断は合理的とは言えません。

今動く判断基準:自社のリスクを確認する

以下に当てはまる企業は、早めの整備を検討してください。

  • 深夜23時以降に業務終了する従業員が月に数回以上いる
  • 翌朝9時始業で、前夜の終業が22時を超えることがある(インターバル11時間未満)
  • 管理職が深夜・休日対応を常態的にこなしている
  • 過去にメンタル不調・休職者が出たことがある

一つでも該当するなら、就業規則の整備を優先課題として位置づけることを推奨します。

就業規則への記載:何をどう書くか

就業規則に勤務間インターバルを記載する際のポイントは、「対象者」「時間数」「始業繰り下げの取り扱い」の3点を明確にすることです。この3点が曖昧なまま条文化すると、現場で解釈がぶれて形骨化します。

記載すべき3つの核心項目

記載項目 記載例・ポイント
対象者の範囲 「正社員および契約社員に適用する。管理監督者についても本制度を適用する」など、誰が対象かを明示する
インターバル時間数 「終業時刻から次の始業時刻までの間に、原則として11時間以上の休息時間を確保する」など、具体的な時間を記載する
始業繰り下げの扱い 「インターバルを確保するため始業時刻を繰り下げた場合、遅刻・欠勤として扱わず、当該時間分の賃金は通常どおり支払う」と明記する

始業繰り下げの賃金・遅刻扱いは必ず整理する

実務上で最も混乱しやすいのが「始業繰り下げ」の取り扱いです。たとえば通常9時始業の会社で、前夜23時に終業した場合、11時間のインターバルを確保しようとすると翌朝10時まで始業できません。この1時間の扱いを就業規則で明確にしておかないと、現場の管理職が「遅刻扱いにしなければいけないのか」と迷い、従業員も制度を使いにくくなります。「インターバル確保による始業繰り下げは欠勤・遅刻としない」と明記するとともに、賃金計算の方針(通常賃金を支払う)も合わせて規定しておきましょう。

労使協定の締結を検討する

インターバル制度を設ける場合、労使協定(36協定とは別)を締結する方法が一般的です。従業員代表との合意の形を残すことで、制度の透明性が高まり、運用上のトラブルを防ぎやすくなります。従業員10名未満で就業規則の作成義務がない事業所でも、制度を設けるなら就業規則または社内規程への明記と労使協定の締結を検討してください。

規定作成の具体的な進め方や、自社の勤務実態に合わせた運用設計に迷う場合は、人事専門の視点からサポートを受けるのも効果的です。

管理監督者(管理職)の取り扱い:外してはいけない理由

労働基準法上の「管理監督者」であっても、勤務間インターバル制度の対象から除外しなければならない規定はありません。むしろ管理職こそ制度の対象に含めることが、過重労働対策として重要です。

「管理職は対象外」という誤解が生まれる背景

労働基準法第32条・34条・35条(労働時間・休憩・休日の規定)は、管理監督者には適用されません。そのため「管理職は労働時間規制の対象外」という認識が広まっており、それをそのままインターバル制度に当てはめてしまう誤解が生じています。しかし、勤務間インターバル制度の根拠は労働基準法ではなく「労働時間設定改善法」です。この法律には、管理監督者を除外する規定はありません。

管理職こそ長時間労働・メンタル不調のリスクが高い

20〜50名規模の企業では、管理職がプレイングマネージャーとして深夜まで業務をこなすケースが珍しくありません。部下への指示出し・報告対応・経営層との調整が重なり、終業が深夜0時を過ぎることも起こります。こうした層が制度の対象から外れていると、管理職のメンタル不調・突然の離職というリスクが高まるだけでなく、「管理職は守られない」というメッセージを組織全体に発してしまいます。就業規則に「管理監督者を含む」と明記することで、組織全体への安全配慮を示すことができます。

就業規則への記載パターン

管理監督者の扱いについては、次の2つのパターンから選択するのが現実的です。まず全従業員(管理監督者を含む)に同一のインターバル時間を適用するシンプルな方法。もう一つは管理監督者については「努力目標として11時間以上の休息時間の確保に努める」と努力義務の形で規定する方法です。いずれにせよ「対象に含めるか含めないか」を意識的に判断し、就業規則に明記することが不可欠です。「何も書かない」ことが一番のリスクです。

現場管理職への運用の落とし込み:形骨化を防ぐ仕組みづくり

就業規則に記載するだけでは制度は機能しません。「誰が・いつ・何を確認するか」を仕組みとして設計することが、制度を実効あるものにする唯一の方法です。

勤怠管理システムの活用可否から始める

まず現在使っている勤怠管理システムで、インターバル時間の自動チェック・アラート機能が使えるか確認してください。クラウド型の勤怠システム(市場に多数あります)では、終業〜始業のインターバルが設定時間を下回った際に管理者へ通知する機能を持つものがあります。この仕組みが使えれば、管理職の確認工数を大幅に削減できます。

システムがない場合の週次チェックルーティン

勤怠システムでの自動チェックが難しい場合は、管理職が週次で目視確認する運用ルーティンを設計します。具体的には、毎週月曜の朝、前週の勤怠記録を管理職がダウンロードし、終業〜始業の時間が11時間を下回っているケースをピックアップして人事(または経営者)に報告するフローを作ります。確認対象者が5〜10名程度であれば、Excelでも対応可能です。「確認する人・確認する曜日・報告先」を明文化して管理職に周知することが重要です。

テレワーク・営業職など勤怠が見えにくい職種の対応

テレワーク社員や直行直帰の営業職は、深夜にメール・チャットを送信して業務を終了していても、勤怠記録に反映されにくい場合があります。こうした職種では、メール・チャットの最終送信時刻を終業時刻の目安として把握する方法が有効です。また、テレワーク規程に「深夜時間帯(例:22時以降)の業務連絡は翌朝対応を原則とする」と記載しておくことで、インターバル違反を構造的に防ぐ仕組みをつくることができます。

職種・雇用形態が混在する中小企業の現実的な整備アプローチ

シフト制・正社員・契約社員・管理職が混在する中小企業では、「全員一律ルール」にこだわらず、適用範囲を段階的に設計することが現実的な選択肢です。

まず「深夜残業が起きやすい職種」から優先する

すべての職種・雇用形態に完璧なルールを作ろうとすると、整備が止まります。まず深夜残業が常態化しているチーム・職種を特定し、そこから制度を適用することが実務的です。たとえば「内勤の正社員から先に適用し、シフト制パートは別途検討する」という段階的アプローチは、厚生労働省の推奨する方法とも整合します。

シフト制従業員の例外規定を整理する

シフト制の職種では、シフト設計の段階でインターバルを考慮することが基本です。ただし、急な欠員対応などでインターバルを確保できないケースが生じることもあります。こうした例外的な場面については、就業規則に「業務上やむを得ない場合は〇〇時間以上を下限とし、翌日以降に休暇取得により補完する」など、例外規定と代替措置をセットで明記しておくと運用がスムーズになります。

整備のタイミングは就業規則の次回改定時を活用する

勤務間インターバルの規定を単独で追加改定するのが難しい場合は、他の規程改定・法改正対応のタイミングに合わせて盛り込む方法も有効です。年1回の就業規則見直しを習慣化している企業であれば、次回の改定時に「インターバル条項の追加」を必須項目として組み込んでおきましょう。

ルール設計と運用設計の両面から相談したい場合は、人事・労務の専門家に一度相談することで、実務的な見落としを減らせます。

まとめ

勤務間インターバル制度は、中小企業を含むすべての事業主に課された努力義務です。罰則はなくても、対応を怠ることは従業員の過重労働・メンタル不調リスクを放置することと同義です。就業規則への記載では「対象者の範囲」「インターバル時間数」「始業繰り下げの賃金・遅刻扱い」の3点を明確にすることが最低限の要件です。また、管理監督者(管理職)をインターバル制度の対象から除外しなければならない法的根拠はなく、むしろ管理職こそ対象に含めることが組織全体の健康管理につながります。ルールを作った後は、「誰が・いつ・何を確認するか」という運用の仕組みを同時に設計しなければ、制度はすぐに形骨化します。

就業規則の整備や運用設計の進め方、または勤務間インターバルと連動した人事施策全般についてのご相談は、ウェルセンス株式会社までお気軽にお問い合わせください。専任人事がいない中小企業の実情に合わせた、実務的なサポートをご提供しています。

よくある質問

Q. 従業員20名の中小企業でも勤務間インターバルへの対応は必要ですか?

A. はい、必要です。勤務間インターバル制度の根拠である労働時間設定改善法は、企業規模による適用除外を設けていません。従業員20名の中小企業も大企業と同様に「努力義務」の対象です。罰則はありませんが、深夜残業が常態化している職場では従業員の過重労働・メンタル不調リスクが高まるため、規模にかかわらず早期の整備を推奨します。

Q. インターバルは何時間に設定しなければいけませんか?

A. 法律上、具体的な時間数の定めはありません。厚生労働省は11時間以上を望ましい水準として例示していますが、これは強制ではありません。自社の業務実態・シフト体制・残業の状況を踏まえて設定することができます。ただし「11時間」を一つの基準として検討することで、社会的な説明責任を果たしやすくなります。

Q. 管理職(管理監督者)はインターバル制度の対象外でよいですか?

A. 法律上、管理監督者をインターバル制度の対象から除外しなければならないという規定はありません。労働基準法上の管理監督者は労働時間・休憩・休日の規定の適用は除外されますが、勤務間インターバルは別の法律(労働時間設定改善法)に基づく制度です。管理職こそ長時間労働・過重労働になりやすく、対象に含めることを推奨します。

Q. インターバルを確保するために始業を繰り下げた場合、遅刻扱いになりますか?

A. 就業規則に明記することで、遅刻・欠勤扱いにしないことができます。「インターバル確保のための始業繰り下げは遅刻・欠勤として扱わない」「当該時間分の賃金は通常どおり支払う」という規定を就業規則に設けることが重要です。この記載がないと現場の管理職が判断に迷い、従業員が制度を使いにくくなります。

Q. 就業規則に書いただけでは不十分ですか?

A. 就業規則への記載だけでは不十分です。現場の管理職が「誰の・どの勤怠データを・いつ確認するか」という運用の仕組みを同時に設計しないと、制度はすぐに形骨化します。勤怠管理システムでインターバルの自動チェックが可能か確認し、難しければ週次の目視チェックルーティンを管理職に課す仕組みを作ることが必要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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