「面談しませんか?と声をかけたら、断られてしまいました。これ以上、何かしないといけないんでしょうか……」
ストレスチェックで高ストレス者と判定された従業員に面談を案内したものの、本人に断られてしまった——そのとき、多くの担当者が「もうできることはない」と感じて対応を止めてしまいます。しかし、面談を拒否された事実は、会社の安全配慮義務を消してくれるわけではありません。この記事では、面談拒否後に会社が取るべき具体的な対応と記録の残し方を、法的な根拠とあわせてわかりやすく解説します。
面談を断られても、安全配慮義務は消えない
結論から言えば、高ストレス者に面談を拒否されたとしても、会社の安全配慮義務はなくなりません。面談の「実施強制義務」は消えますが、従業員の健康を守るための「配慮義務」は引き続き残ります。
安全配慮義務とは何か
安全配慮義務とは、労働契約法第5条に定められた義務で、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定されています。この義務は、会社の規模やストレスチェックの実施有無に関係なく、すべての事業者に適用されます。「うちは20名以下だから関係ない」は通りません。
ストレスチェック制度における面談の仕組み
労働安全衛生法第66条の10では、ストレスチェック後に高ストレス者が医師による面接指導を「申し出た場合」に、事業者がこれを実施する義務が生じると定めています。つまり、制度上の面談はあくまで「申出ベース」です。本人が申し出ない・拒否した場合、事業者に面談を強制する義務はありません。しかし、だからといって何もしなくてよいわけではなく、別の形で配慮を継続する義務が残ります。
拒否されたら終わりが招くリスク
面談を拒否された後、会社がなにも対応しないまま放置し、その後に従業員が休職・離職・最悪の場合は精神疾患による労災認定に至ったとき、「本人が申し出なかったから」という理由だけでは安全配慮義務違反の責任を免れられない可能性があります。裁判所は「会社が知り得た情報から、どれだけ適切な配慮をしたか」を問うため、拒否された後の対応の有無と記録が非常に重要になります。
50名未満の企業は、そもそもどこまで義務があるのか
ストレスチェックが法的に義務付けられているのは常時50名以上の事業場です。50名未満の場合は努力義務(実施が望ましいとされているが、罰則はない)にとどまります。ただし、安全配慮義務とは別の話です。
ストレスチェック義務と安全配慮義務は別物
「うちはストレスチェックが義務じゃないから、面談義務もないし安全配慮義務も薄い」と考えるのは誤りです。ストレスチェックを実施しているかどうかにかかわらず、労働契約法第5条に基づく安全配慮義務はすべての企業に適用されます。ストレスチェックを行わない企業でも、従業員の不調のサインを把握した場合には、何らかの配慮を行う義務があります。
任意実施でもストレスチェックを行う意義
50名未満であっても自主的にストレスチェックを実施した場合、その結果は「会社が高ストレス状態を認識していた」という証拠になります。裏返せば、認識していながら何もしなかった場合の責任は重くなる可能性があります。任意実施だからこそ、面談案内・拒否後の対応・記録をきちんと整えることが重要です。
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面談を断られた後、会社が取るべき具体的な対応
面談を拒否された後の対応は、「産業医との面談」だけが選択肢ではありません。会社がどれだけ代替手段を尽くし、それを記録したかが、後の安全配慮義務の判断材料になります。
書面で選択肢を再提示する
産業医による面接指導を拒否されたとしても、それ以外の相談窓口の案内は行えます。たとえば、外部EAP(従業員支援プログラム)や自治体の相談窓口、社内の窓口担当者(産業医がいない場合は衛生管理者や人事担当者)を書面で案内します。「このような窓口があります」という情報提供の形で行い、利用の強制にならないよう言葉を選ぶことが大切です。案内した日付・内容・方法(メール・文書など)を必ず記録します。
就業状況の継続的な観察と記録
勤怠データ(遅刻・早退・欠勤の増加)や業務パフォーマンスの変化(ミスの増加、納期の遅れ)、対人面の変化(会話の減少、反応の鈍化)などを客観的に記録します。重要なのは「主観的な評価を書かない」ことです。「元気がなさそう」ではなく「〇月〇日、朝礼への参加なし。声をかけたが短い返答のみ」のように、日付と具体的な事実を記録します。この積み重ねが、再アプローチの根拠にもなります。
管理職から定期的な接点を持ち続ける
管理職が「何もできない」と距離を置いてしまうのは、状態悪化を招くリスクがあります。メンタルの状態を直接聞くのではなく、「最近、業務で困っていることはある?」「仕事量は問題ない?」という切り口で定期的に話しかけることは、パワハラでも過剰介入でもありません。月に1回程度の短い1on1を継続し、その日時と概要を記録しておくだけで、後の「会社は何もしていなかった」という主張への反証になります。
管理職はどこまで関与してよいのか
管理職が「踏み込みすぎてはいけない」と萎縮しすぎることも問題です。適切な関与の範囲を理解することで、過剰介入とならずに継続的なサポートができます。
業務の文脈での関与は問題ない
プライバシーの観点から配慮が必要なのは、ストレスチェックの結果を無断で上司に伝えるといったケースです。一方、「業務上困っていることはないか」「体調は問題なく仕事できているか」という日常的な声かけは、管理職の通常業務の範囲内です。高ストレス者かどうかを知っている・知っていないにかかわらず、こうした関与は適切であり、むしろ義務的な配慮行動と言えます。
一人で抱え込まず、上位職・経営者へエスカレーションする
管理職が一人で対応を判断し続けることには限界があります。「様子が気になるが、どう対応すればいいか迷っている」という状況は、速やかに人事担当者や経営者に共有すべきです。特に20〜50名規模の企業では専任人事がいないケースも多く、経営者が判断者になることもあります。重要なのは、「誰が・何を判断したか」を残しておくことです。状況が複雑に感じたら、外部の産業保健専門家に相談することも有効な選択肢になります。
産業医がいない場合の対応
50名未満の事業場には産業医の選任義務はありません。その場合、地域産業保健センター(無料で利用できる場合があります)を活用する、または外部の産業保健専門機関・EAPサービスを利用するという選択肢があります。面談を案内する先がないと感じている場合も、代替窓口を探して提示した事実を残すことが重要です。
記録の残し方:あとで守ってくれる事実の積み重ね
いざというときに会社を守るのは、対応した「事実の記録」です。口頭だけの対応は、後になって「何もしてもらえなかった」と言われると反証できません。
記録に残すべき最低限の項目
記録の内容は複雑にする必要はありません。以下の表を参考に、最低限の項目を押さえておくだけで、記録としての機能を果たします。
| 記録の種類 | 残すべき内容 | 管理者 |
|---|---|---|
| 面談案内・拒否の記録 | 案内した日付・方法・本人の意向(拒否の事実) | 人事または経営者 |
| 代替窓口の案内記録 | いつ・どの窓口を・どんな方法で案内したか | 人事または経営者 |
| 就業状況の変化記録 | 日付・具体的な事実(遅刻・欠勤・ミス等) | 直属管理職 |
| 1on1・声かけの記録 | 実施日・概要(詳細な内容より「実施した事実」を優先) | 直属管理職 |
記録の保管と共有のルール
管理職が手元で記録を持っている状態では、管理職が異動・退職した際に記録が失われるリスクがあります。記録は人事担当者または経営者に集約し、個人ごとのファイル(紙または電子データ)として一元管理することが望ましいです。アクセス権限は最小限に絞り、情報が無関係な第三者に漏れないよう注意します。
記録がなかった場合のリスク
仮に管理職が継続的に声かけを行っていたとしても、記録がなければ「対応した証拠」になりません。事後にメモを作成することも有効ですが、その場合は「〇月〇日付で後日記録」という注記を加えることで、記録の信頼性を保つことができます。日常的に短くても書き残す習慣をつけることが、最終的なリスク管理につながります。
まとめ
高ストレス者に面談を拒否されたとき、会社の義務が「ゼロになる」わけではありません。面接指導の実施強制義務は消えますが、労働契約法第5条に基づく安全配慮義務は継続します。拒否後に求められるのは、代替窓口の案内・管理職による定期的な関与・就業状況の観察、そしてそれらを記録として残すことです。50名未満でストレスチェックが任意実施であっても、この原則は変わりません。「何もできなかった」ではなく、「できることを尽くし、記録に残した」という事実が、会社を守る根拠になります。
判断に迷ったとき、人事対応を一人で抱え込む必要はありません。ウェルセンス株式会社では、あなたの会社のストレスチェック拒否後の対応について、実務的なアドバイスをお提供します。
よくある質問
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