育休復帰後の配置変更、マタハラになるか迷ったら

育休復帰後の配置変更、マタハラになるか迷ったら 組織運営
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「育休から戻ってくるけれど、もう前のポジションがない。でも、変えたらマタハラになるのかな……」——育休復帰者の受け入れを前に、こんな状況で判断を迷う経営者・人事担当者は少なくありません。専任人事がいない中小企業では、法律の解釈も、記録の残し方も、すべて自分で判断しなければならない。そのプレッシャーは相当なものです。この記事では、「何がマタハラ(不利益取扱い)になるのか」「どう進めれば会社を守れるのか」を、実務に即して整理します。

「育休を理由にしたかどうか」が判断の核心

育休復帰後の配置変更がマタハラ(不利益取扱い)になるかどうかは、「育休を取ったこと」を理由にしているかどうかが最大の判断軸です。内容の重さではなく、理由の独立性が問われます。

法律が禁止しているのは「育休を理由とした」変更

育児・介護休業法第10条は、育休の取得・申出を理由とした不利益取扱いを明確に禁止しています。厚生労働省の指針では、不利益取扱いにあたる行為として、降格・降給・不利益な配置転換・昇進昇格における差別的取扱いなどが列挙されています。これらが「育休取得を理由として」行われた場合に違法となります。

一方、組織再編・業務量の変化・会社全体での役割見直しなど、育休取得とは切り離された合理的な理由がある場合は、配置変更や役職の変更が直ちに違法になるわけではありません。

「理由の独立性」を自問するチェック

判断に迷ったとき、まず次の問いを自分に向けてみてください。

  • その変更の理由を説明するとき、「育休を取っていなくても同じことをしていたか」と問われて「はい」と答えられるか
  • 育休取得者以外の社員にも、同様の事情があれば同じ対応をとるか
  • 変更の必要性は、休業期間中に生じた組織上の変化から来ているか

これらに「はい」と答えられる場合、業務上の必要性がある変更として説明できる可能性があります。反対に、「育休が長かったから」「復帰後のスキルが心配だから」という理由で変更するのは、法的リスクが高い判断です。

具体的にどこからがアウトか——判断基準の整理

「何をしたら違法か」を具体的な行為レベルで把握しておくことが、実務判断の出発点です。行為の内容と理由の組み合わせで判断が変わります。

原則としてアウトになりやすい行為

以下の行為が「育休取得を理由として」行われた場合は、法令違反の可能性が高くなります。

行為 リスクの高い理由の例
役職(肩書き)の降格 「育休中は管理職としての実績がないから」
給与・等級の引き下げ 「1年ブランクがあるので見直した」
職務内容の大幅な縮小 「時短だから簡単な仕事だけにした」
昇進・昇格の見送り 「育休期間は評価できないのでゼロ扱いにした」
雑務のみの担当 「復帰直後だから戦力にならない」

条件次第でOKになりうる行為

一方、以下のような変更は、業務上の必要性と適切な手続きがセットであれば、不利益取扱いに該当しない場合があります。

  • 組織再編に伴い、復帰後のポジションが変わる(育休取得者以外も含めた全社的な再編)
  • 時短勤務の希望に合わせ、業務の一部を別の社員と分担する
  • 本人との十分な協議を経て、役割や担当範囲を合意のうえで変更する

ただし、「本人が同意した」だけでは免責にはなりません。後述しますが、同意の質と記録の残し方が重要です。

判断に迷ったら専門家に相談」という選択肢も、重要な経営判断の一つ。育休復帰をめぐる人事対応は、後年度の紛争に直結する決定になるケースが多いです。

見落としがちな落とし穴——同意書は万能ではない

「本人にサインをもらったから大丈夫」という考え方は、法的には通用しないリスクがあります。同意書の有無より、変更の実質的な根拠が問われます。

最高裁判例が示した「自由な意思」の基準

2014年の広島中央保健生活協同組合事件(最高裁判決)では、育休取得後の降格について本人が明示の異議なく受け入れた事案が争われました。裁判所は「本人が異議を述べなかったとしても、それが自由な意思に基づく同意かどうかを慎重に判断すべき」という判断を示しました。

つまり、会社と社員の間には力関係があり、「断りにくい状況でのサイン」は自由な同意とはみなされないことがある、ということです。同意書は補強材料にはなりますが、それ単体で免責の根拠にはなりません。

「善意の配慮」が逆効果になるケース

育休復帰者に対して「負担を減らしてあげよう」という善意から、職務内容を軽くしたり、重要プロジェクトから外したりするケースがあります。しかしこれも、本人の希望を確認せずに行うと「職務内容の大幅な切り下げ」として不利益取扱いに問われる可能性があります。

本人が「時短でも責任ある仕事を続けたい」と考えているのに、会社側の判断だけで役割を縮小するのは、たとえ善意でも問題につながります。必ず本人の意向を丁寧に確認することが先決です。

育休中・復帰後の評価、どう扱えばよいか

育休期間中の評価をどうするかは、多くの企業が迷うポイントです。基本的な考え方は「育休期間はノーカウント(評価対象外)とし、復帰後は通常ルールに戻す」です。

育休期間中の評価の扱い

育休期間は業務を行っていないため、その期間を評価することはできません。一般的な対応は、育休期間を「評価対象外期間」として除外し、昇給・昇格の査定に影響させないノーカウント方式です。育休期間があることで昇格時期が遅れたり、評価が下がったりする運用は、不利益取扱いに該当するリスクがあります。

復帰後の評価は「ブランク考慮」をしない

復帰後は通常の評価基準に基づいて評価します。「育休明けだからしばらく低い評価で様子をみる」という運用は、育休取得を理由とした不利益取扱いとみなされる可能性があります。スキルや業務習熟に課題があると感じる場合は、OJTやフォロー体制を整えることで対応し、評価を恣意的に下げることは避けてください。

会社を守るための記録の残し方

配置変更や役職変更が業務上の必要性に基づくものだと示せるよう、事前から記録を積み重ねることが、後のトラブルを防ぐ最も確実な方法です。

変更の前に準備する3つのドキュメント

まず、変更の「理由」を書面で整理します。「なぜその変更が必要なのか」「育休取得とは関係なく、組織上どういう事情があったのか」を文書として記録します。次に、本人との事前協議の記録を残します。面談を行った日時・内容・本人の反応・会社の提示内容を記録し、双方が確認できる形にします。最後に、本人が希望を伝えた内容(時短の希望、担当したい業務の希望など)も記録として保管します。

中小企業でも実践できる記録の運用方法

専任人事がいない企業でも、以下のような形で記録を残すことは可能です。

  • 面談はメールや書面で事前に内容を通知し、実施後は議事メモをメールで送付・保存する
  • 変更の経緯を「業務報告書」や「組織変更の稟議書」として残す
  • 就業規則や人事制度に「育休復帰後の配置に関する方針」を明文化し、全社員に周知する

就業規則に育休復帰後の扱いに関する条項がない場合は、この機会に追記しておくことをお勧めします。「制度はあるが運用の記録がない」という状態が、最もトラブル時に不利になるパターンです。

「ポジションがない」場合の現実的な対応手順

「元の仕事が実質的になくなってしまった」という状況は、中小企業で最もよく起きる問題です。このケースでは、段階的な対話と合意形成のプロセスが会社と社員の両方を守ります。

復帰前の面談で現状を丁寧に共有する

育休取得者が復帰する前に、会社側の現状(ポジションがどう変わったか、業務がどう引き継がれたか)を正直に説明する面談を設けます。この段階では「変更を通告する場」ではなく「現状を共有し、一緒に検討する場」として進めることが重要です。本人の希望(時短か否か、担当したい業務など)もこの場で確認します。

変更が避けられない場合の進め方

現状共有を経てもなお配置変更が必要な場合は、変更の理由・内容・時期を明示した書面を準備し、本人に提示します。「育休が長かったから」ではなく「この期間に組織がこう変わり、業務がこう再配分されたため」という説明を具体的に行います。本人から意見・不満が出た場合は、その内容もすべて記録に残します。対立姿勢ではなく、「一緒に解決策を考える」姿勢で臨むことが、後のトラブルを防ぐ上でも重要です。

まとめ

育休復帰後の配置変更がマタハラになるかどうかは、「育休を取ったこと」を理由にしているかどうかが核心です。業務上の合理的な理由があり、本人との丁寧な協議・記録が伴っていれば、配置変更や役割の見直しが直ちに違法になるわけではありません。一方で、「本人の同意書があれば大丈夫」という認識や、善意からの一方的な職務縮小は、思わぬリスクを生む落とし穴です。

専任人事がいない中小企業ほど、グレーな状態のまま進んでしまいがちです。「うちのケースはどうなのか」「この記録の残し方でよいのか」と感じたら、人事課題を一人で抱え込まず、外部の専門家に一度相談することをお勧めします。ウェルセンス株式会社では、育休復帰支援・人事労務対応を専門とするコンサルタントが、中小企業の実情に合わせた具体的なアドバイスを提供しています。「うちの会社の場合はどう判断すればよいか」という個別のご相談から、お気軽にお声がけください。

よくある質問

Q. 育休復帰後に本人から「時短勤務を希望したい」と言われました。元の管理職の仕事は時短では対応できないのですが、役職を外すことはできますか?

A. 時短勤務を理由に一方的に役職を外すことは、不利益取扱いにあたるリスクがあります。まず本人と面談し、「どういう範囲なら時短で管理職を続けられるか」を一緒に検討することが先決です。どうしても職務の縮小が必要な場合は、業務上の必要性を書面で明確にし、本人が自由な意思で合意しているかどうかを丁寧に確認したうえで記録を残してください。一方的な変更と対話を経た変更では、法的な評価が大きく異なります。

Q. 育休中に組織再編があり、復帰後のポジションが別の人で埋まっています。どう説明すればよいですか?

A. 復帰前の面談で、再編の経緯と現在の組織状況を具体的に説明することが重要です。「育休を取っていたから戻れないのではなく、会社全体の組織変更があった」という点を、図や資料を使って丁寧に示してください。その際、本人が希望する役割や担当業務を聞き取り、可能な範囲で考慮する姿勢を見せることが、後のトラブル予防にもつながります。面談の内容は必ず記録として残してください。

Q. 育休期間中は評価がつけられないとすると、育休明けの昇給・昇格はどう判断すればよいですか?

A. 育休期間を「評価対象外」としてノーカウントにし、復帰後の勤務実績に基づいて通常の評価基準で判断するのが基本です。育休前の評価を引き継いで昇格要件の算定に使うことは問題ありません。育休を取ったことで昇格の時期が実質的に遅くなるような運用は不利益取扱いとみなされる可能性があるため、育休前後の評価の連続性をどう扱うか、就業規則や評価制度の中で明確にしておくことをお勧めします。

Q. 就業規則に育休復帰後の配置に関する規定がありません。今からでも追記すべきですか?

A. 可能であれば追記することをお勧めします。「育休復帰後の配置については、業務上の必要性と本人との協議を経て決定する」といった方針を就業規則に明文化しておくと、会社と社員の双方にとって判断基準が明確になります。規定がない状態では、変更のたびにその都度説明が必要になり、トラブル時に「決まりがなかった」として会社側が不利になるケースもあります。社労士に相談しながら整備するのが現実的です。

Q. 育休復帰者が「元の仕事に戻りたい」と強く主張していますが、現実的に難しい状況です。どこまで対応する義務がありますか?

A. 育児・介護休業法上、育休復帰後は「原則として原職または原職相当職に復帰させること」が望ましいとされています。ただし、組織再編などで原職が存在しない場合は、同等の処遇・権限・地位の職務への配置が認められています。「まったく異なる業務・格下の役職への一方的な変更」は不利益取扱いになりやすいため、変更の必要性と代替案を書面で示し、本人と粘り強く協議することが重要です。対応の判断に迷う場合は、社労士や専門家への相談が安全策です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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