「また同じことが起きた。でも、病気を抱えて戻ってきた社員に、もう一度処分できるのだろうか——」復職後の問題行動再発は、多くの中小企業の経営者・人事担当者が抱える、最も判断に迷う場面の一つです。懲戒歴があり、さらにメンタル不調も絡んでいるとなれば、「厳しくしたら訴えられる」「かといって放置すれば職場が壊れる」という板挟みに陥りがちです。この記事では、法的根拠を踏まえながら、現場で使える対応手順を具体的に解説します。
「病気だから処分できない」は誤解——法的な整理
結論から言えば、メンタル不調であることは懲戒処分を免除する理由にはなりません。ただし、不調の程度や行為の意図性は「処分の重さ」を決める判断材料になります。
懲戒処分の有効要件を確認する
労働契約法第15条は、懲戒処分が有効であるための条件として、次の三つを定めています。一つ目は「就業規則に懲戒事由が明記されていること」、二つ目は「処分内容が問題行動の程度に対して重すぎないこと(相当性)」、三つ目は「弁明の機会付与など手続きの適正を守ること」です。メンタル不調はこのうち「相当性」の判断に影響しますが、懲戒処分そのものを禁じるわけではありません。主治医や産業医の意見を参照しながら、行為に本人の意思がどの程度関与していたかを見極めることが重要です。
安全配慮義務は「処分禁止」を意味しない
労働契約法第5条の安全配慮義務は、使用者が労働者の心身の健康を守るための適切なプロセス——受診勧奨・産業医連携・業務調整など——を尽くすことを求めるものです。「懲戒処分をしてはいけない」という意味ではありません。実務上の正解は「処分をしながら療養への配慮もする」という両立です。たとえば、口頭注意や減給処分を行いつつ、並行して産業医面談を設定し、業務量の調整を行うといった対応がこれにあたります。
「二重処分禁止」の原則を正しく理解する
過去に懲戒処分を受けた行為を、再び処分事由として使うことは一事不再理の観点から許されません。しかし「過去の処分歴を、今回の新たな問題行動に対する処分を重くする根拠(情状)として使うこと」は認められています。再発事案では「今回起きた新たな行為を処分事由とし、過去の処分歴があるため今回はより重い処分が相当」という論理で組み立てることが実務上の基本です。
復職後に再発が起きたときの対応手順
問題行動が再発した場合、感情的に判断せず、事実確認から処分判断まで段階を踏むことが不可欠です。手順を誤ると、処分が無効になるリスクがあります。
事実確認と記録の取り方
まず最初に行うべきは、問題行動の事実確認です。「いつ・どこで・誰が・何をしたか・誰が目撃したか」を5W1Hで記録します。目撃者がいれば、その日のうちに書面で報告を取ることが理想です。ポイントは「管理職の主観」ではなく「客観的な事実」を記録することです。「態度が悪い」ではなく「会議中に上司の発言に対し『うるさい』と発言し、その場で業務指示を拒否した(日時・場所・目撃者〇〇)」という形で残します。
本人への弁明機会の付与
次に、本人に対して弁明の機会を与えます。これは懲戒処分の有効要件の一つであり、省略すると処分が無効になるリスクがあります。面談は記録に残し、本人の説明内容・反応も書面化しておきます。このとき「病気が原因」「会社のせい」と主張してきた場合も、それ自体を記録として残しておくことが後の対応に役立ちます。
産業医の意見を必ず取得する
問題行動がメンタル不調の症状に起因するものかどうかの判断は、産業医(または産業保健スタッフ)の意見を取得して行います。主治医は患者の利益代弁者であり、職場の状況を踏まえた就労可否の最終判断者ではありません。産業医の意見が「問題行動は疾患の症状の範囲内」であれば懲戒処分の相当性は低くなり、「本人の意思に基づく行動として業務上の問題がある」と判断されれば処分の正当性は高まります。この意見書は安全配慮義務を果たした証拠としても機能します。
産業医が未選任の場合(従業員50人未満の事業場では義務ではありません)は、外部の産業医サービスや産業保健総合支援センターへの相談を活用することで、同様の機能を補完できます。判断に迷う段階からスポット産業医に相談することで、後の処分判断の根拠が大きく変わります。
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懲戒処分の重さをどう判断するか
処分の重さは、問題行動の内容・頻度・過去の処分歴・本人の認識の有無などを総合的に判断して決めます。以下の表を参考に、自社の状況を当てはめてください。
| 問題行動の状況 | 考えられる処分の目安 |
|---|---|
| 初回・軽微な問題行動(遅刻・業務上の口論など) | 口頭注意・文書警告 |
| 懲戒歴あり・同種の行動の再発 | 減給・出勤停止 |
| 複数回の懲戒歴・重大な問題行動(暴力・業務妨害など) | 降格・懲戒解雇の検討 |
| 問題行動が疾患の症状に起因し、懲戒になじまない場合 | 普通解雇(職務遂行能力の欠如)の検討 |
懲戒解雇と普通解雇の使い分け
問題行動が明確に本人の意思に基づき、就業規則の懲戒事由に該当し、処分の相当性が認められる場合は懲戒解雇を検討します。一方、問題行動が疾患の症状に深く起因しており「懲戒」になじまないと判断される場合は、職務遂行能力の欠如を理由とした普通解雇が選択肢になります。この判断は会社が単独で行うのではなく、弁護士または社会保険労務士と相談のうえ決定することを強く推奨します。
就業規則が整備されていない場合のリスク
懲戒処分は「就業規則に懲戒事由が明記されていること」が大前提です。就業規則がない、または10年以上更新されていない場合、処分の根拠が揺らぎます。復職後の再発に備えるためにも、まず就業規則の懲戒規定を確認し、「無断欠勤」「業務命令の拒否」「ハラスメント行為」「再三の指導にもかかわらず改善が見られない場合」などが明記されているかどうかをチェックしてください。
復職時に交わすべき書面と記録管理
復職後の再発リスクに備えるうえで最も重要なのが、復職時に条件を書面で明確にしておくことです。口頭のやり取りだけでは後の争いになります。
復職時の合意書に盛り込むべき内容
復職を許可する際には、「復職条件確認書」や「業務上の約束事項」として書面を交わすことを推奨します。盛り込むべき主な内容は以下のとおりです。
- 復職後の業務内容・勤務時間・配置の制限
- 定期的な産業医面談・通院継続の義務
- 同種の問題行動が再発した場合の処分方針(就業規則に基づく懲戒処分・退職勧奨の可能性を含む)
- 主治医の診断書提出のルール
「同じ問題行動があれば、より重い処分になる可能性がある」と書面で明示しておくことが、後の処分の相当性を支える根拠になります。本人の署名・捺印を必ず取得してください。
日常的な記録の残し方
復職後は、管理職が日常的に行動を記録する習慣をつけることが重要です。「〇月〇日、業務指示を拒否する発言あり(内容:〇〇)。その後、〇〇課長が面談し口頭注意。本人は『体調が悪かった』と述べる」のように、日付・内容・対応・本人の反応を都度記録します。この積み重ねが、後に処分の相当性を証明する証拠になります。メール・チャット・業務日報など、デジタルで残るものも保管を怠らないようにしましょう。
弁護士・専門家に相談すべきタイミング
中小企業では判断が遅れて手遅れになるケースが少なくありません。次のいずれかに当てはまる場合は、すぐに専門家への相談を検討してください。
相談が必要な状況の見極め方
以下の状況に一つでも該当する場合、社内での判断だけで進めることは避けるべきです。弁護士または社会保険労務士に相談し、対応方針を確認してください。
- 過去に懲戒処分を行っており、今回が二度目以上の再発である
- 本人または家族から「法的措置を取る」「労働基準監督署に申告する」などの発言があった
- 退職勧奨・解雇を検討している
- 問題行動が暴力・ハラスメントを含む重大なものである
- 就業規則の懲戒規定が整備されておらず、処分の根拠が不明確である
産業保健の専門家に相談すべき場面
問題行動がメンタル不調の症状によるものかどうかの判断、産業医が未選任の場合の対応、復職プログラムの設計など、医療・保健の側面が絡む問題は、弁護士だけでなく産業保健の専門家との連携が不可欠です。「法的にどうするか」と「医療的にどう対応するか」を同時に考えなければならないのが、メンタルヘルス関連の問題の難しさです。法律と医療の双方の視点を持つ専門家またはサービスを活用することで、判断の精度と対応のスピードが格段に上がります。
まとめ
懲戒歴のある社員がメンタル不調で休職・復職した後に問題行動を再発させた場合、「病気だから処分できない」という思い込みは誤りです。懲戒処分と安全配慮義務は両立でき、適切な手順と記録があれば、会社は正当に対応できます。対応の核心は「事実確認・弁明機会の付与・産業医意見の取得・書面記録の積み重ね」の四点です。また、復職時に条件を書面で明示しておくことが、再発時の処分の根拠を固める最大の予防策になります。人事だけで判断を抱え込まず、法律と医療の両面からのサポートを受けることで、トラブルの深刻化を防ぎ、より堅牢な対応が実現します。
ウェルセンス株式会社では、メンタルヘルス対応・休職復職支援・人事労務の課題を抱える中小企業の経営者・人事担当者からのご相談を承っています。処分を決めたい段階だけでなく、「この状況をどう整理すればよいかわからない」という相談段階からでも、お気軽にお問い合わせください。
よくある質問
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