贈収賄防止規程、中小企業に必要な5つの最低限事項

贈収賄防止規程、中小企業に必要な5つの最低限事項 コンプライアンス
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「取引先から『贈収賄防止規程を提出してほしい』と言われたが、うちのような小さな会社に必要なのか」——最近、こうした問い合わせが中小企業の担当者から増えています。コンプライアンス整備は大企業の話だと思っていたところに、突然取引要件として突きつけられる。何をどこまで準備すればいいのか、手がかりもないまま困っている方が多いのが現状です。この記事では、中小企業が最低限おさえるべき贈収賄防止規程の記載事項を、法的根拠とともに実務目線で解説します。

贈収賄防止規程の整備は「義務」か「任意」か

結論から言えば、現時点で中小企業に贈収賄防止規程の整備を直接義務付ける法律はありません。ただし、「義務がない=リスクがない」ではなく、整備しないことで生じる実務上・法的なリスクは確実に存在します。

法的義務の有無とその根拠

上場企業には金融商品取引法に基づく内部統制報告制度があり、コンプライアンス体制の整備が事実上求められています。一方、非上場の中小企業にはこうした直接的な法的義務はありません。しかし、不正競争防止法第18条(外国公務員等への不正利益供与の禁止)や刑法の贈賄罪(第197条以下)は、企業規模を問わず適用されます。法人両罰規定もあり、従業員が違反すれば会社も処罰対象になります。「義務がないから整備しなくてよい」という判断は、この点で危険です。

整備しないことで生じる実務リスク

義務の有無とは別に、整備しないことで起きる実務上の問題があります。まず、大手取引先や親会社がサプライチェーン上のコンプライアンス要件として規程の提出を求めるケースが増えています。提出できなければ取引継続が難しくなる場合もあります。また、社内でトラブルが起きたときに「どこまでがOKでどこからがNGか」の基準が社内に存在しないと、対応が後手に回り、経営判断を誤るリスクも高まります。

整備すべきタイミングの目安

以下のいずれかに該当する企業は、早急な整備を検討してください。

  • 大手企業・外資系企業・官公庁を取引先に持つ
  • 商社・代理店経由で海外に製品・サービスを供給している
  • 接待・贈答の社内ルールが金額基準しかない
  • 取引先からコンプライアンス体制の証明を求められたことがある

「うちは海外取引がないから関係ない」は誤りである理由

海外との直接取引がなくても、不正競争防止法上のリスクはゼロではありません。また、国内取引だけでも刑法上の贈賄リスクは常に存在します。

間接的な外国公務員リスクとは

不正競争防止法第18条が禁止するのは「外国公務員等」への不正な利益供与です。ここで言う「外国公務員」の範囲は広く、外国の国家・地方公務員だけでなく、外国の政府系企業の役職員、国際機関の職員なども含まれる場合があります。直接取引がなくても、商社や代理店を経由して製品が海外に渡り、その先で外国の公的機関との商談が発生するケースでは、自社が意図しない形で関与することがあります。「直接やり取りしていないから大丈夫」という認識は、この構造を見落としています。

国内取引にも存在する刑法上のリスク

国内の公務員(国・地方自治体の職員)への金品提供や接待は、刑法第197条以下の贈賄罪の対象です。また、業種によっては特別法によって民間間の贈収賄も規制されています(金融商品取引法・医療法など)。営業担当者が「いつものお礼」のつもりで行った接待や贈答が、贈賄罪の構成要件を満たす可能性は否定できません。規程と基準がなければ、現場の判断に委ねるしかなくなります。

OECDとISO37001が示す国際的な流れ

日本が締約しているOECD外国公務員贈賄防止条約を国内法化したのが、不正競争防止法第18条です。また、ISO37001(贈賄防止マネジメントシステム)は取得義務のない国際規格ですが、大手取引先から「ISO37001準拠または同等の体制証明」を求められる場面が実際に出ています。規程の骨格をこの規格の要求事項に沿って設計しておくと、取引先への説明力が大幅に高まります。

最低限おさえるべき規程の5つの記載事項

贈収賄防止規程に何を書くかで迷ったとき、最低限おさえるべき事項は5つです。これらが揃っていれば、取引先への提出にも社内運用にも対応できる基本的な体制が整います。

目的・適用範囲と禁止行為の定義

規程の冒頭には、何のために作ったか(目的)と、誰に適用されるか(適用範囲)を明記します。役員・正社員だけでなく、派遣社員・業務委託先まで含むかどうかを明示してください。次に、禁止行為を定義します。「贈賄」「収賄」「利益供与」という言葉を使うだけでなく、現金・ギフト・接待・便宜供与・第三者を経由した迂回供与なども具体例として列挙することが重要です。「外国公務員」の定義も規程内に記載しておくと、現場での判断がしやすくなります。

許容範囲の基準と承認・記録フロー

禁止行為だけを列挙しても、「では何はOKなのか」が不明確では現場は動けません。社会的儀礼の範囲内として認められる接待・贈答について、金額基準・相手方の属性(公務員か民間か)・目的(商談か慶弔か)を明確にしてください。さらに、一定額以上の接待や贈答については上長の事前承認と記録保存を義務付けるフローを設けることで、後からトラブルになったときの証跡が残ります。

実務的なポイント:規程を整備しても、現場の営業担当者が「どの判断を誰に相談すればいいのか」わからなければ効果は限定的です。簡潔な決定フローと相談先の明確化が、実行可能な規程の鍵になります。

報告窓口・違反時の対応・教育の仕組み

規程に実効性を持たせるために欠かせないのが、この3点です。社内相談窓口(担当者名または役職)または外部窓口(顧問弁護士など)を明示してください。違反時の措置については就業規則の懲戒規定と連動させることで法的根拠が明確になります。また、年1回以上の社内周知・研修の実施を規程に明記することで、「知らなかった」という言い訳が通じない体制になります。最後に、代表者によるメッセージや署名(トーン・アット・ザ・トップと呼ばれる経営トップのコミットメント)を冒頭に置くと、規程全体の信頼性が高まります。

既存の交際費規程では代替できない理由

「接待交際費規程は既に持っている」という中小企業でも、贈収賄防止の観点から見ると不十分なケースがほとんどです。金額ルールと贈収賄防止ルールは目的が異なります。

交際費規程が見落としている観点

多くの交際費規程は、経費処理・税務対応を目的として設計されています。金額上限と承認フローは定まっていても、相手方が公務員かどうか、供与の目的が何か、第三者経由の迂回がないかといった贈収賄防止の本質的な観点が含まれていません。税務上の交際費と、法令上の「不正な利益供与」は全く別の基準で判断されます。両者を混同していると、税務上は問題なくても刑事責任が生じるケースがあります。

二つの規程をどう整理するか

理想的には、既存の交際費規程に贈収賄防止の観点を組み込むか、別途「贈収賄防止規程」を独立して作成して交際費規程と連動させる形をとります。小規模な企業であれば、就業規則の附則として贈収賄防止規程を整備する方法もあります。重要なのは、「接待・贈答の金額上限」だけでなく、「誰に・何のために・どのような形で渡すか」を判断するための基準が社内に存在することです。

専任担当がいなくても運用できる体制の作り方

規程を整備しても運用されなければ意味がありません。専任のコンプライアンス担当がいない中小企業でも機能させるには、シンプルな仕組みに絞り込むことが先決です。

窓口と承認フローを最小限で設計する

相談窓口は「総務担当者」や「代表者」で構いません。重要なのは名前と連絡先が規程に明記されていることです。承認フローも複雑にする必要はなく、「一定額以上の接待・贈答は事前に上長へメールで報告し、承認を得る」というシンプルな運用から始めてください。メールの記録がそのまま承認記録になります。外部窓口として顧問弁護士や社会保険労務士を活用できる場合は、その旨も規程に明記しておきましょう。

年1回の周知で「知っている状態」を維持する

規程を作ったら、少なくとも年1回、全従業員への周知の機会を設けてください。朝礼での読み合わせ、メールでの配布と確認サインの収集、あるいは10分程度の勉強会でも構いません。「研修を実施した記録」が残ることで、万一トラブルが起きたときに「会社として対策を講じていた」ことを示す証拠になります。

取引先への提出を想定した様式整備

大手取引先から体制証明を求められた場合に備えて、規程本文に加えて「代表者署名入りのコンプライアンス遵守誓約書」を1枚用意しておくと対応が早くなります。ISO37001の取得まで求めてくる取引先はまだ多くありませんが、「同等の体制を有していることの証明」として規程と誓約書をセットで提出することで多くのケースに対応できます。

重要:規程整備は「やったら終わり」ではなく、運用と見直しが継続的に必要です。人事労務の専門家と連携することで、最初の設計から運用定着まで安心して進められます。

まとめ

贈収賄防止規程の整備は、中小企業に法律で直接義務付けられているわけではありません。しかし、不正競争防止法・刑法の贈賄罪は規模を問わず適用され、取引先からのコンプライアンス証明要求も現実のものとなっています。最低限おさえるべき記載事項は、目的・適用範囲、禁止行為の定義と具体例、許容範囲の基準、承認・記録フロー、報告窓口・違反時の対応・教育の仕組みの5点です。既存の交際費規程とは目的が異なるため、別途整備または加筆が必要です。専任担当がいなくても、シンプルな承認フローと年1回の周知から始めることができます。

規程整備の第一歩として「現状の自社にどのレベルの対応が必要か」を整理することが大切です。ウェルセンス株式会社では、人事・労務体制の整備に課題を感じている中小企業の経営者・担当者からのご相談をお受けしています。規程の作成から運用定着まで、貴社の実情に合わせたサポートが可能です。お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 従業員10名以下の小規模企業でも贈収賄防止規程は必要ですか?

A. 法的な整備義務はありませんが、不正競争防止法や刑法の贈賄罪は規模を問わず適用されます。大手取引先を持つ場合や、官公庁との接点がある場合は、小規模であっても最低限の規程を整備しておくことをお勧めします。1〜2ページのシンプルな内容から始めることができます。

Q. 取引先から「贈収賄防止規程を提出してほしい」と言われました。何を用意すればいいですか?

A. 規程本文(目的・禁止行為・許容基準・窓口・違反時対応・教育の仕組みが記載されたもの)と、代表者署名入りのコンプライアンス遵守誓約書をセットで提出するのが一般的です。ISO37001の認証取得を求めてくるケースはまだ少数ですが、「同等の体制の証明」として規程と誓約書で対応できることが多いです。

Q. 接待・贈答の金額上限はいくらに設定すればいいですか?

A. 法令で一律の金額基準が定められているわけではありません。実務上は、「社会的儀礼の範囲」として5,000円〜1万円程度を目安にする企業が多いですが、業種・取引慣行・相手方の属性によって判断が変わります。金額だけでなく、相手が公務員かどうか・目的が何かを合わせて基準化することが重要です。

Q. 海外との直接取引はありませんが、不正競争防止法の対象になりますか?

A. 直接取引がなくても、商社や代理店を経由して製品・サービスが海外に渡る場合、その先で外国の公的機関との商談が発生し、間接的に不正競争防止法第18条のリスクが生じる可能性があります。サプライチェーン全体を俯瞰して、自社製品・サービスがどこに届いているかを確認することをお勧めします。

Q. 規程を整備した後、どのくらいの頻度で見直す必要がありますか?

A. 少なくとも年1回の定期見直しを行うことをお勧めします。取引先や取引形態の変化、法令改正、社内でのインシデント発生などのタイミングでも随時見直してください。見直しの記録(改訂日・改訂内容・承認者)を規程に残しておくと、対外的な信頼性が高まります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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