「夜勤に対応できるか確認したい」「入社後に長期休職になって困った経験がある」——採用面接でそう感じる経営者・人事担当の方は少なくありません。しかし、健康状態を確認しようとした途端、「これは聞いていいのか?」「プライバシー侵害にならないか?」という不安が頭をよぎります。実は採用面接での健康状態の質問には、複数の法令にまたがるグレーゾーンが存在します。この記事では、法的リスクの全体像と、現場で使える質問設計の考え方を整理します。
採用面接で健康状態を聞くことの法的な位置づけ
結論から言えば、健康状態に関する質問は「完全に禁止」でも「何でも聞ける」でもなく、「業務遂行に必要な範囲かどうか」が合否の分かれ目です。ただし、その判断を誤ると複数の法令違反リスクが同時に発生する点が、この問題を複雑にしています。
関係する主な法令
採用面接での健康状態に関する質問には、以下のような法令・指針が重なり合っています。
| 法令・指針 | 採用面接との関係 |
|---|---|
| 職業安定法第5条の4・指針 | 求職者の個人情報収集は「業務上必要な範囲」に限定。健康情報は「特に配慮を要する個人情報」に該当 |
| 個人情報保護法 | 健康情報は「要配慮個人情報」。原則として本人同意なく取得・利用不可 |
| 男女雇用機会均等法 | 妊娠・出産に関連する健康状態の確認は性差別につながるリスク |
| 障害者雇用促進法 | 障害を理由とした不当な採用拒否の禁止 |
| 労働施策総合推進法 | 就職差別につながる情報収集の禁止 |
「要配慮個人情報」という概念を理解する
個人情報保護法において、健康情報は「要配慮個人情報」に分類されます。これは、取得・利用にあたって通常の個人情報よりも厳格な取り扱いが求められることを意味します。採用面接の場で「病気はありますか?」と聞いて回答を得ること自体が、本人の明示的な同意なく要配慮個人情報を取得する行為に該当しかねません。専任人事がいない環境では、こうした法的背景を把握しないまま慣習的に質問が続けられているケースが見受けられます。
違反した場合のリスクの現実
仮に不適切な質問を行い、その情報をもとに採用拒否をした場合、求職者から「差別的な採用選考を受けた」として行政機関への申告や民事上の損害賠償請求が起こりうる状況があります。中小企業では「訴えられるとは思わなかった」という感覚が先行しがちですが、SNSや口コミによる評判リスクも含め、採用ブランドへのダメージは軽視できません。
聞いていい質問・聞いてはいけない質問の線引き
採用面接での健康関連質問は、「業務遂行可否の確認」を目的とする質問は許容され、「病歴・病名・通院歴の詮索」を目的とする質問は原則NGです。この軸を持つだけで、多くの現場判断が整理されます。
許容される質問の考え方
「この仕事には夜勤があります。継続して対応できますか?」「重量物を扱う作業が含まれますが、問題ありませんか?」——これらは業務内容を具体的に提示した上で、遂行可否を確認する質問です。病名や診断を聞くのではなく、「業務を遂行できるか」という事実確認に留まっている点が許容される根拠になります。
また、「業務に影響する体調面での配慮が必要な場合は、どのような配慮が必要かを教えてください」という聞き方も、応募者が自発的に情報を開示できる形を整えた合理的な確認方法です。
法的リスクが高い質問の具体例
以下のような質問は、たとえ悪意がなくても法的リスクが発生しやすいため避けるべきです。
- 「過去にかかった病気や持病を教えてください」
- 「精神科・心療内科への通院経験はありますか?」
- 「家族に遺伝性疾患や精神疾患の方はいますか?」
- 「採用前に健康診断書を提出してください」
特に「精神科・心療内科への通院経験」を聞くことは、精神疾患を理由とした差別的扱いに直結するリスクがあり、障害者雇用促進法との関係でも問題になりえます。
業種・職種によって「必要性」の幅が変わる
工場での重作業、運送業のドライバー職、医療・介護職など、業務の性質上、健康状態の確認が安全配慮義務の観点から強く求められる職種があります。そうした職種では、業務内容を具体的に開示した上で「この業務に継続して従事できる健康状態かどうか」を確認することは、一定の合理性があります。
一方、デスクワーク中心の職種であれば、同じ質問でも「業務上の必要性」の根拠が弱くなります。自社の職種特性を踏まえて質問設計を行うことが重要です。
内定後・入社前の健康診断をめぐる誤解
「面接では聞かずに、採用前に健康診断を受けてもらえばいい」と考える方も多いですが、健康診断の実施タイミングと情報の使い方にも明確な制約があります。
雇入れ時健康診断は「採用後」のもの
労働安全衛生法第66条第1項に定める「雇入れ時の健康診断」は、文字通り「雇い入れたとき」に実施するものです。これは採用決定後・入社時の措置であり、採用「選考」の段階で受診を求め、その結果を採否の判断材料にすることは、本来の目的から逸脱した利用——すなわち目的外利用にあたる可能性が高いとされています。
健診結果を内定取消の根拠にできるか
入社前に実施した健康診断や医師の診断書の結果を理由に内定を取り消す・採用を拒否するためには、「当該業務に就くことが客観的に困難である」という具体的な業務遂行不能の事実が必要です。単に「持病がある」「過去に入院歴がある」という事実だけでは、内定取消の合理的な理由とはなりません。この点は、採用トラブルが起きた際に特に問われやすい部分です。
応募者が自己申告してきたときの取り扱い
「うつ病の既往があります」「糖尿病で通院中です」と応募者自身が話してくれるケースがあります。この場合も、その情報を採用拒否の根拠として使うことは慎重に考える必要があります。自己申告の情報はあくまで「配慮の必要性の確認」に使うものであり、病名そのものを理由とした不採用は差別的扱いとみなされるリスクがあります。「どのような配慮があれば業務に従事できるか」という視点で対話することが現実的な対応です。
採用面接票・質問設計を標準化するポイント
法的リスクを下げるために最も有効な実務対策は、面接官個人の判断に頼らず、質問内容を組織として標準化することです。属人的な運用が続いている職場ほど、過去の慣習による不適切質問が温存されがちです。
面接票に「聞かない項目」を明記する
面接票や面接ガイドラインを作成する際、「聞いてよい項目」だけでなく「聞いてはいけない項目」を明示することが重要です。「既往歴・現在の病名・通院歴は確認しない」「精神科通院の有無を聞かない」などをリスト化しておくことで、面接官が無意識に踏み込むのを防ぎます。特に、複数の面接官が交代で担当する場合は、共有ドキュメントとして整備しておくと効果的です。
就労条件の開示と確認を組み合わせる
許容される健康関連確認の基本形は「業務条件を先に開示して、対応可否を聞く」形式です。たとえば「この職種には月に数回、早朝5時からの勤務があります。対応いただくことは可能ですか?」のように、具体的な業務条件を提示した上で意思確認をするアプローチです。この方法は業務上の必要性が明確であり、応募者にとっても入社後のミスマッチ防止につながるため、双方にメリットがあります。
規模・産業医の有無による対応の違い
従業員50名以上の企業では産業医の選任が義務付けられており、就労可否の医学的判断を産業医に委ねる体制を整えやすい状況にあります。一方、50名未満の企業では産業医が選任されていないケースが多く、採用・入社後の健康管理を経営者や兼務人事が判断しなければならない場面が増えます。その場合は「採用後に業務調整の余地がある体制かどうか」を就業規則や雇用契約書に反映しておくことが、後のトラブル防止につながります。
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採用後に健康問題が発覚したときの対応フロー
どれだけ面接での質問設計を整えても、入社後に健康問題が表面化するケースはゼロにはなりません。その際に重要なのは、採用選考の段階で違法な情報収集をしていないか、そして入社後の対応が安全配慮義務の観点から適切かどうかです。
入社後の業務遂行困難が判明したとき
入社後に持病や精神疾患が発覚し、業務遂行が困難になった場合、まず確認すべきは「業務内容・勤務条件の合理的な調整で対応できるか」です。すぐに解雇・退職勧奨に進むことは、労働契約法第16条(解雇権濫用の法理)に抵触するリスクがあります。産業医や外部の専門家を交えた就業上の措置検討が、企業・従業員双方にとって現実的な出発点になります。
採用面接で聞いてしまっていた場合のリスク評価
すでに過去の面接で不適切な質問をしていた、あるいは健康診断書を採用条件として求めていた、という場合、まず自社の運用を見直すことが先決です。すでにトラブルに発展している、あるいは応募者から異議申し立てを受けている場合は、社労士・弁護士などの専門家に早期に相談することを推奨します。「言われたからそうしていた」「前任者がやっていた」という経緯は、法的な免責事由にはなりません。
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まとめ
採用面接での健康状態の確認は、「完全禁止」でも「何でも許容」でもなく、「業務遂行可否の確認」という目的の範囲内かどうかが判断軸です。病名・既往歴・通院歴の直接的な質問は職業安定法・個人情報保護法・障害者雇用促進法などの観点からリスクが高く、業務条件を先に開示した上で対応可否を確認するアプローチが現実的です。また、雇入れ時健康診断は採用選考の判断材料ではなく入社後の措置であり、採用前に診断書提出を求めることも慎重に考える必要があります。
こうした法令の解釈や現場への落とし込みは、専任人事がいない環境では特に判断が難しい領域です。ウェルセンス株式会社では、採用場面での人事労務リスクの整理から、休職・復職対応まで、成長企業の実態に即した支援を行っています。「自社の面接票が適切かどうか確認したい」「入社後の健康問題への対応フローを整えたい」といったご相談から、お気軽にお問い合わせください。
よくある質問
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