「診断書には『軽作業なら復職可』と書いてある。でも、うちの会社に軽作業なんてない——」
復職対応で、こうした場面に直面する中小企業の担当者は少なくありません。主治医の診断書が出たのに、本人が希望する職種や業務が社内に存在しない。だからといって復職を断れば法的リスクがあるのではと不安になる。専任の人事も産業医もいない状況で、答えを出さなければならない——。
この記事では、「復職希望者の希望職種が会社に存在しない場合」に会社がとるべき対応を、法的根拠・実務手順・判断基準の三つの軸で整理します。対応のどの段階で迷っているかによって必要な情報が変わるため、自社の状況に照らし合わせながら読み進めてください。
診断書が出ても、復職の可否を決めるのは会社です
主治医の診断書は「復職可能」の命令書ではありません。これが、復職対応の出発点として最も重要な認識です。
診断書が示しているのは「医学的見解」だけ
主治医は患者の症状・回復状況を医学的に評価して診断書を書きます。しかし、主治医はあなたの会社の業務内容・職場環境・人間関係・作業負荷を知りません。「軽作業であれば復職可」という記載は「治療的な観点での見立て」であり、「その会社のその業務に戻れる」という保証ではないのです。
会社は独自に復職の可否を判断できる
1995年の最高裁判決(片山組事件)は、企業が独自に復職の可否を判断する余地があることを示しています。ただし、この判決は配置転換が容易な大企業を前提とした内容でもあります。従業員数20〜50名規模の会社では「配置転換先がそもそも存在しない」ケースも多く、判決をそのまま援用することには注意が必要です。
重要なのは、「診断書が出たから自動的に復職させなければならない」という思い込みを捨て、会社として適切な判断プロセスを踏むことです。その判断過程を記録・文書化しておくことが、後のトラブル回避に直結します。
合理的配慮とは何か——「本人の希望を全部叶えること」ではありません
合理的配慮とは、均等な機会・待遇を確保するために「過重な負担にならない範囲で」行う措置です。本人の要望を無制限に受け入れることとは異なります。
法的根拠:障害者雇用促進法と安全配慮義務
メンタルヘルス不調(うつ病・適応障害など)による休職者は、精神障害に該当しうるとして障害者雇用促進法(第36条の3・第36条の4)が適用される場面があります。精神障害者保健福祉手帳の有無は問いません。また、復職受け入れ後の配慮義務は労働契約法第5条(安全配慮義務)の根拠にもなります。
「過重な負担」かどうかの判断基準
厚生労働省の指針では、過重な負担かどうかを判断する際に次の要素を考慮するとされています。
- 事業の規模・財務状況
- 業務への影響度(他の従業員への影響含む)
- 実現に必要なコスト・技術的難易度
- 配慮措置の継続可能性
従業員30名以下の小規模企業であれば、「特定の軽作業ポジションを新設する」ことは業務・コスト面で過重な負担にあたると判断できるケースがほとんどです。
「職種の新設」は義務の範囲外、「業務の切り出し」は検討余地あり
存在しない職種を新設する義務は、一般的に合理的配慮の範囲を超えると解されています。一方、既存業務の一部(たとえばデータ入力・資料整理・電話対応など)を一時的に担当させる「業務の切り出し」は、規模・体制によっては検討の余地があります。重要なのは「できることとできないことを整理し、できる範囲の提案を行ったかどうか」を記録することです。
「希望職種がない」と判断するための会社内の整理手順
本人の希望に応えられないことを説明する前に、会社として提供できる選択肢をきちんと洗い出す作業が必要です。これをせずに断ると、「検討すらしていない」として法的リスクが生じます。
提供できる業務・配慮内容をリストアップする
まず、現在の職場で調整できることを具体的にリストアップします。たとえば「勤務時間の短縮」「座席・担当顧客の変更」「一定期間の電話・接客対応免除」「在宅勤務の部分的導入」などは、職種を変えなくても実施できる配慮の例です。一方、「独立した別部署への異動」「新規ポジションの創設」などは、小規模企業では現実的でないことを文書で整理しておきます。
本人との面談で「なぜその希望を叶えられないか」を説明する
本人の希望を聞いたうえで、会社案を提示します。ギャップがある場合は「なぜその希望を実現できないか」を具体的に説明し、会社として提案できる代替案を示します。この面談の内容は必ず記録(議事録・面談メモ)として残してください。口頭だけで終わると、後に「会社は何も配慮しなかった」という主張を覆す証拠がなくなります。
リハビリ出勤(試し出勤)の活用も選択肢に
いきなり本格的な復職ではなく、まずリハビリ出勤(短時間・軽度業務からのスタート)を設定する方法もあります。これにより「元の職場で無理なく働けるかどうか」を双方が確認できます。ただし、リハビリ出勤の条件(期間・賃金の扱い・評価の有無など)は事前に書面で合意しておくことが不可欠です。
復職を断る・条件変更をする場合の法的リスクと回避策
正当な理由と適切なプロセスなしに復職を拒否すると、会社側に賃金請求・損害賠償のリスクが生じます。しかし、プロセスを踏んでいれば正当な断りは可能です。
「復職拒否」が問題になるケース・ならないケース
| 状況 | 法的リスクの評価 |
|---|---|
| 診断書を無視し、会社都合で一方的に復職を拒否 | 高い(賃金請求・不法行為リスクあり) |
| 配慮内容を検討したが対応不可であることを説明・記録し、代替案も提示した | 低い(合理的な対応として認められやすい) |
| 「存在しない職種を新設しなかった」という理由だけで訴えられた | 低い(新設義務は一般的に合理的配慮の範囲外) |
| 口頭のみで対応し、面談記録・文書が一切ない | 中〜高い(プロセスの立証ができない) |
「就業規則」と「雇用契約」の確認が先決
復職条件や職務変更の可否は、就業規則や雇用契約(職務限定型かどうかなど)によって異なります。特定の職種・職務のみを対象とした雇用契約(ジョブ型)の場合、その職務がなくなれば退職や解雇の根拠となりやすい反面、安易に別職種へ変更することも契約違反になりかねません。まず自社の就業規則・雇用契約書を確認し、不明点があれば社会保険労務士や弁護士に確認することを推奨します。
産業医・専門家が社内にいない場合の対応
従業員50名未満の企業では産業医の選任義務はありませんが、だからといって専門的判断なしに進めるのはリスクが伴います。地域産業保健センター(リージョナル産業保健センター)では、小規模事業場向けに無料で産業医相談を受けられる仕組みがあります。また、社外のメンタルヘルス支援会社や社会保険労務士との連携も有効な選択肢です。
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再休職を防ぐための「復職後の配慮」の考え方
職場に戻らせること自体がゴールではありません。復職後に再発・再休職を繰り返すケースの多くは、復職時の条件設定と経過観察が不十分だった場合です。
復職直後の業務負荷と観察期間を設計する
復職後の最初の数週間〜数カ月は、業務量を意図的に抑えた状態でスタートするのが原則です。具体的には「残業なし」「特定業務の免除」「週1回の上長面談」などを条件として書面化し、段階的に通常業務へ戻す計画を立てます。期間の目安は症状や業務特性によって異なりますが、最低でも1〜3カ月の経過観察期間を設けることが一般的です。
「配慮が十分かどうか」を評価するタイミングを決める
「配慮しているつもりなのに不満が出る」という状況を防ぐには、配慮の内容と期間・見直しタイミングをあらかじめ合意しておくことが重要です。「2カ月後に面談を行い、業務範囲の見直しを検討する」と書面に明記しておけば、本人も「いつ、何を話し合えるか」を把握でき、不満が溜まりにくくなります。
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まとめ
復職希望者の希望職種が会社に存在しない場合、「存在しないから断れる」でも「診断書があるから従うしかない」でもありません。大切なのは、会社として提供できる配慮の内容を具体的に洗い出し、本人に説明し、その過程を文書で残すというプロセスです。
合理的配慮は「本人の希望を全て叶えること」ではなく、「過重な負担にならない範囲で均等な機会を確保する措置」です。存在しない職種を新設する義務は一般的にありませんが、既存業務の切り出しや就業条件の一時的な調整は検討すべき選択肢として残ります。
「どこまでやれば十分か」「記録として何を残せばよいか」「本人との面談をどう進めるか」——こうした判断を一人で抱えることが、中小企業の人事担当者にとって最も負担の大きい部分です。ウェルセンス株式会社では、産業医や専門家のいない中小企業の復職支援・合理的配慮の実務対応について、具体的な状況をお聞きしたうえでサポートさせていただいています。困ったときや判断に迷ったときは、お気軽にご相談ください。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
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