採用時に聞いてよい健康情報3つの基準と注意点

採用時に聞いてよい健康情報3つの基準と注意点 コンプライアンス
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「現場仕事なのに、入社してすぐ体調不良で休職になってしまった」「面接で健康状態を聞こうとしたら、法的リスクがあると指摘された」——採用の現場で、こうした経験をした経営者や人事担当者は少なくありません。採用時に健康情報を聞きたいけれど、どこまでなら聞いてよいのかわからない。その不安から、何も確認できないまま採用してしまうケースが多く見られます。この記事では、採用時に聞いてよい健康情報の判断基準を、法的根拠とともに実務的にわかりやすく整理します。

採用時の健康情報は「要配慮個人情報」という法的位置付けから理解する

採用時の健康情報に関するルールを理解するには、まず「健康情報がどのような法的位置付けにあるか」を把握することが不可欠です。健康情報は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に分類され、通常の個人情報より厳格な取り扱いが求められます。

要配慮個人情報とは何か

個人情報保護法では、「病歴」「身体障害・精神障害・知的障害があること」「健康診断その他の検査の結果」などを要配慮個人情報と定義しています(同法第2条第3項)。これらは、不当な差別や偏見につながるおそれがあるとして、取得する際には原則として本人の同意が必要です。さらに、利用目的を特定したうえで通知または公表する義務も課されます。つまり、「何となく聞いておく」「履歴書の備考欄に書いてもらう」といった運用は、それだけで法違反のリスクを抱えることになります。

職業安定法と厚生労働省指針による制限

個人情報保護法に加え、職業安定法および厚生労働省「公正な採用選考の基本」に基づく指針も重要です。この指針では、採用選考において「本人の適性・能力に関係のない事項」を収集することを禁じています。具体的には、「身体的特徴(身長・体重・容姿)」や「健康状態・病歴」を一律に収集することは、就職差別につながるおそれのある項目として明示されています。「一律に収集することが禁止」という点がポイントで、業務上の合理的必要性がある場合は別途判断が必要です。

採用時に聞いてよい健康情報の3つの基準

採用時の健康情報収集が全面的に禁止されているわけではありません。以下の3つの基準をすべて満たす場合、採否の考慮事由として扱うことが法的に認められると解されています。

基準1:業務内容との明確な関連性がある

最も重要な基準が、収集しようとする健康情報と業務内容の直接的な関連性です。たとえば、高所作業・フォークリフト運転・食品の製造加工など、法令上の就業制限や安全上の要件が定められている職種では、その業務を安全に遂行できるかどうかを確認することに合理的必要性があります。一方、デスクワーク中心の事務職で「持病の有無を全員に聞く」といった運用は、業務との関連性が認められず、就職差別につながるおそれがあると判断されます。「この情報がなければ業務配置や安全管理ができない」という明確な理由を説明できるかどうかが判断の目安になります。

基準2:本人への説明と同意取得が適切になされている

健康情報を収集する場合、なぜその情報が必要なのか(利用目的)を本人に事前に説明し、同意を得るプロセスが必要です。「採用選考の合否判断に使う」のか「入社後の安全配慮のために使う」のかによって、取得の性質が異なります。同意書の取得や応募要件への明記など、文書で記録を残すことが実務上のリスク管理として重要です。口頭のやり取りだけでは、後から「同意していない」というトラブルになりかねません。

基準3:収集する情報が必要最小限の範囲に絞られている

業務との関連性があるとしても、収集する情報の範囲は必要最小限でなければなりません。たとえば、運転業務であれば「運転免許の有効期限と健康保持状況」を確認することは合理的ですが、「全ての既往歴を詳しく開示せよ」という要求は必要最小限を超えています。聞く項目を絞り込み、その理由を説明できる状態にしておくことが、法的リスクを低減する実務的な方法です。

アウトになる質問・グレーな質問を具体例で整理する

「どの質問がアウトか」を個別に判断するためには、業務との関連性と目的の合理性の2軸で考えるのが基本です。以下の表を参考に、自社の面接設計を見直してください。

質問例 判定 理由
持病はありますか(全職種・一律) アウト 業務との関連性なく一律収集は就職差別に該当するおそれ
通院していますか(全職種・一律) アウト 同上
身長・体重を教えてください(事務職) アウト 業務遂行に無関係な身体的特徴の収集
障害手帳を持っていますか(一律に全員へ) アウト 申告強制は障害者雇用促進法の趣旨に反する
高所作業ができる体調かどうか(高所作業職) グレー→許容の可能性あり 業務との直接的な関連性があり、必要最小限の範囲
食品衛生法上の就業制限疾患の有無(食品製造職) グレー→許容の可能性あり 法令上の要件に基づく確認
配慮が必要なことがあれば教えてください(本人申告型) 適法 本人の任意申告を受け付ける形式で強制なし

「身体測定・体重確認」が原則アウトの理由

身長・体重などの身体的特徴を採用選考で確認することは、厚生労働省の指針でも「就職差別につながるおそれのある項目」として明示されています。「体力が必要な仕事だから」という理由だけでは業務との必要最小限の関連性を満たすとは言えません。体力要件を確認したい場合は、具体的な業務動作(例:20kgの荷物を持ち運ぶ業務があります)を応募要件として明示し、応募者自身が判断できる形で提示するのが適切です。

障害の有無を聞く際の正しい理解

「障害の有無を聞くことは一律禁止」という誤解があります。正確には、障害者雇用促進法に基づき、本人が申し出た障害情報を合理的配慮の目的で使用することは認められています。問題になるのは、申告を強制すること、または申告を理由に不利益に扱うことです。面接での「配慮が必要なことがあれば任意でお知らせください」という問いかけは適法ですが、「障害手帳の有無を全員に回答させる」は申告強制にあたるため避けるべきです。

雇入れ時健康診断のタイミングと採否への活用方法

雇入れ時健康診断は「採用後(労働契約締結後)」に実施するのが法令の原則です。採用前に受診させて結果で採否を決める運用は、法的にリスクがある点を正確に理解しておく必要があります。

法令が定める実施タイミング

労働安全衛生法第66条および労働安全衛生規則第43条は、「常時使用する労働者を雇い入れる際」に健康診断を実施する義務を事業者に課しています。「雇い入れる際」とは、労働契約締結後のことを指すというのが厚生労働省の解釈です。採用前(内定前・選考段階)に健康診断を受けさせてその結果で採否を判断する運用は、本来の義務履行の趣旨から外れており、推奨されていません。

判例上の扱いと実務上の注意点

ただし、判例上は一定の業務適性確認目的であれば、健康診断結果を採否の考慮事由とすることが全否定されているわけでもありません。この点が実務を複雑にしています。実務的な対応としては、まず内定を出したうえで雇入れ時健康診断を実施し、結果に基づいて配置や合理的配慮を検討するプロセスが、法令の趣旨に沿った運用です。健康診断の結果のみを理由とした内定取消しは、合理的な理由がなければ法的に問題になりえます。内定取消しが認められるのは、業務遂行が客観的に不可能であることが明らかな場合など、限定的な状況に限られます。

取得した健康情報の社内管理ルール整備

健康情報を取得した後の管理も重要です。誰がアクセスできるか、どこに保管するか、いつ廃棄するかを社内で明確にルール化しておかなければ、個人情報保護法違反のリスクが残ります。産業医や保健師がいる場合は、健康情報の一次管理をそちらに委ねることが望ましいとされています。産業医がいない規模の会社(常時50人未満の事業場)でも、「健康情報を閲覧できるのは人事担当者のみ」「応募段階で取得した情報は不採用後に破棄する」といった最低限のルールを文書化しておくことが必要です。

自社の状況に応じた採用時の健康情報対応

適切な対応は会社の規模や業種、就業規則・産業医の有無によって異なります。自社の状況と照らし合わせて判断してください。

業種・職種別の考え方

製造業・建設業・運送業など身体的負荷や安全管理上の要件が高い職種では、業務遂行に関わる健康確認の合理的必要性が認められやすい傾向にあります。一方、オフィスワーク中心の業種では、健康情報収集の必要性を説明することが難しくなります。重要なのは「なぜその情報が必要か」を採用フロー設計の段階から言語化しておくことです。

産業医・就業規則の有無による対応の違い

  • 常時50人以上の事業場(産業医選任義務あり):健康情報の管理を産業医と連携して行う体制を整える。雇入れ時健康診断結果の閲覧・判断に産業医の意見を取り入れるプロセスを就業規則に明記する。
  • 常時50人未満の事業場(産業医選任義務なし):外部の健康管理サービスや社会保険労務士に相談しながら、最低限の情報管理ルールを文書化する。採用フローの中での健康情報収集の有無と目的を採用ポリシーとして整理しておく。
  • 就業規則がない・未整備:健康情報の取扱いに関するルールが社内に存在しない状態は、個人情報保護法上のリスクが高い。採用活動の見直しと並行して、最低限の個人情報管理規程の整備を検討する。

まとめ

採用時に健康情報を聞いてよい基準は、「業務との明確な関連性」「本人への説明と同意」「必要最小限の範囲」という3つです。身長・体重・持病の有無を一律に質問すること、採用前に健康診断を受けさせてその結果のみで採否を決めること、申告を強制すること——これらはいずれも法的リスクを伴う運用です。雇入れ時健康診断は採用後に実施し、結果を配置や合理的配慮の検討に活用するプロセスが法令の趣旨に沿っています。また、取得した健康情報の社内管理ルールを文書化することも、個人情報保護法対応として不可欠です。

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よくある質問

Q. 面接で「持病はありますか」と聞くことは違法ですか?

A. 業務内容に関係なく全応募者に一律で聞くことは、就職差別につながるおそれのある質問として厚生労働省の指針で禁じられており、法的リスクがあります。一方、高所作業や運転業務など業務遂行に直接関わる安全上の理由がある場合は、業務との関連を明示したうえで確認することが許容される場合があります。「持病の有無」を広く聞くより、「この業務(具体的に説明)を安全に行える状態かどうか」という形で業務要件を提示する方が適切です。

Q. 採用前に健康診断を受けさせて、結果が悪ければ内定を出さないことはできますか?

A. 雇入れ時健康診断は労働契約締結後に実施するのが法令の原則であり、採用前に受けさせてその結果のみで採否を決める運用は法的に問題があります。健康診断の結果を理由とした内定取消しは、業務遂行が客観的に不可能であることが明らかな限定的な場合を除き、法的な正当性を持ちにくいとされています。まず内定を出し、雇入れ時健康診断の結果をもとに配置や合理的配慮を検討するプロセスが、法令の趣旨に沿った対応です。

Q. 履歴書の「健康状態」欄に記載された情報は採否判断に使ってよいですか?

A. 本人が任意で記載した情報を参考にすること自体は直ちに違法ではありませんが、その情報のみを理由に不採用にすることは、業務遂行との合理的な関連性が説明できなければ就職差別につながるおそれがあります。また、取得した健康情報は要配慮個人情報として適切に管理し、不採用の場合は速やかに廃棄するルールを設けることが個人情報保護法への対応として必要です。

Q. 取得した健康情報は社内で誰でも見てよいですか?

A. 健康情報は要配慮個人情報であるため、閲覧できる人員を必要最小限に限定することが求められます。常時50人以上の事業場では産業医を選任する義務があり、健康診断結果の管理には産業医が関与することが望ましいとされています。産業医がいない規模の会社でも、「閲覧できるのは人事担当者のみ」「現場管理職には共有しない」などのルールを社内文書として明確にしておくことが、個人情報保護法対応として必要です。

Q. 障害者雇用枠での採用では、障害の詳細を聞く必要がありますか?

A. 障害者雇用枠での採用であっても、詳細な障害情報の開示を強制することは適切ではありません。障害者雇用促進法では、本人が申し出た障害情報を合理的配慮の目的で使用することが認められており、配慮の提供に必要な範囲で確認することは可能です。「どのような配慮があれば業務を遂行しやすいか」という観点で本人と対話する形が、法令の趣旨に沿った対応です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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