成果を出している社員の態度問題、4ステップで解決する方法

組織運営

「あいつは数字を持ってくるから、強く言えない」——マネージャーからそんな言葉が出てきたとき、その会社の組織はすでに一定のダメージを受けています。成果を出している社員の態度問題は、放置するほど「黙認がルール」になっていき、やがて周囲の優秀な社員から先に静かに離れていきます。この記事では、成果と行動を切り分けて指導するための考え方と、具体的な4ステップの対処法を解説します。専任人事がいなくても実践できる手順です。

「成果が出ているから文句は言えない」は本当か

結論から言えば、成果を出していても態度・行動の問題を指摘することは正当であり、むしろ指摘しないことが組織リスクになります。

成果と行動は別の軸で評価できる

「何を達成したか(成果・Output)」と「どのように行動したか(プロセス・Behavior)」は、評価の軸が異なります。営業数字を達成しながら後輩に怒鳴り続ける社員がいたとして、数字の評価はそのままでも、行動評価を別軸で設けることは制度的に正当です。コンピテンシー評価や等級制度の「基準行動」として行動規範を明文化している企業では、成果とは独立して指導・評価の根拠を持てます。まず、自社の評価制度が「成果一元型」になっていないか確認することが出発点です。

就業規則の服務規律が指導の根拠になる

「主観的に嫌だから注意する」では、本人も納得しにくく、パワハラのリスクも生じます。一方、就業規則の服務規律(職場秩序保持義務、ハラスメント禁止、報告・連絡義務など)を根拠にして「会社のルールに照らして、この行動は問題があります」と伝える構造にすると、指導が客観的になります。就業規則がない、または服務規律が古い場合は、この機会に整備することを検討してください。従業員10人以上の企業には就業規則の作成・届出義務(労働基準法第89条)があります。

「辞められたら困る」という恐れが判断を歪める

指導に踏み切れない最大の理由の一つが「辞められたら困る」という恐れです。しかし実態として、態度問題を持つ社員を放置すると、その社員より先に周囲の中堅社員が「この環境では無理だ」と判断して離職するケースが多く見られます。つまり、放置のほうが人材流出リスクは高い。この逆説を経営判断の前提に置く必要があります。

放置することで起きる3つの組織ダメージ

態度問題を放置した場合のリスクは、当事者だけでなく組織全体に波及します。問題の深刻さを正確に認識することが、指導に踏み切るための第一歩です。

周囲の社員が「静かに限界」を迎える

態度に問題のある社員の影響は、チームの疲弊・士気低下・離職として表れます。ただし、因果関係が見えにくいのが特徴です。退職面談で「一身上の都合」と言われても、背景に特定の社員への疲弊感が積み重なっているケースは少なくありません。「できる中堅社員」は選択肢を持っているため、先に動きます。

「黙認がルール」として組織に定着する

問題行動を指摘しない期間が続くと、それ自体が「この会社ではこの行動が許容されている」というメッセージになります。特に新入社員や若手社員は、目に見える行動から暗黙のルールを学びます。「成果さえ出せば何をしてもいい」という文化が根付くと、後からの修正コストは数倍になります。

ハラスメント問題に発展するリスク

態度問題の多くは、他の社員への言動を含みます。放置が続けば、被害を受けた社員が労働局やハラスメント相談窓口に申告するケースも起こりえます。労働施策総合推進法(パワハラ防止法)は2022年4月から中小企業にも防止措置の義務化が適用されており、「知らなかった」では済まない環境になっています。問題行動を記録せずに放置していた場合、会社側の管理責任も問われます。

成果を出している社員への指導、4つのステップ

指導は感情ではなく構造で行います。以下の4ステップを順番に踏むことで、パワハラリスクを避けながら、正当な指導として記録に残すことができます。

事実を記録する(SBI形式)

まず最初に取り組むべきは、問題行動の記録です。感想や評価ではなく、「いつ・どこで・誰に対して・何をしたか・どんな影響があったか」を具体的に書き留めます。これをSBI(Situation-Behavior-Impact)形式と呼びます。

  • Situation(状況):〇月〇日、週次ミーティング中に
  • Behavior(行動):Aさんの発言を「そんなことも知らないの」と遮り、
  • Impact(影響):Aさんはその後のミーティングで発言しなくなった

この形式で記録すると、「態度が悪い」という主観的な言い方ではなく、事実として提示できます。記録は日時とともにテキストで残しておきます。

フィードバック面談を設定する

次に、1対1のフィードバック面談を設定します。「少し時間をください」と事前に伝え、唐突に呼び出さないことが重要です。面談では冒頭に「業務上必要な確認として話したい」という目的を明示します。

面談中の伝え方の例:「〇月〇日のミーティングで、Aさんの発言中に『そんなことも知らないの』という言葉があったことを確認しています。その後Aさんが発言しなくなっているのですが、この状況についてどう受け止めていますか?」

ポイントは、責める口調ではなく「事実の確認と本人の認識を聞く」スタンスで始めることです。態度に問題がある社員の中には、自分の言動が周囲にどう影響しているかを本当に認識していないケースもあります。その場合は叱責より「気づきを促す」アプローチが有効です。

改善の合意と期限を文書で残す

面談の中で「今後どう行動するか」の合意を取り、それを文書で残します。メールでも構いません。「本日の面談内容と今後の改善事項について確認のメールをお送りします」とその場で伝えておくと自然です。

改善が確認できた場合はその旨も記録し、改善が見られない場合は書面による注意指導へ進みます。労働契約法第15条に基づき、懲戒処分は「段階的な指導プロセスの記録」がある場合に客観的・合理的な根拠として機能します。初回から重い処分を行うと、後の対応が無効とみなされるリスクがあるため、この段階的プロセスが重要です。

改善が見られない場合の次の手を決めておく

口頭注意・書面注意を経ても改善がない場合、書面による警告、配置転換、懲戒処分の検討へと進む可能性があります。この段階では、社会保険労務士や外部の人事コンサルタントに相談することを強くお勧めします。特に30名未満の企業では専任人事がいないことが多く、「この対応で法的に問題ないか」という判断を社内で完結させることには限界があります。

指導とハラスメントの境界線を正確に知る

業務上必要かつ相当な指導は、パワハラには該当しません。ただし「何が相当か」の判断基準を持っておくことが重要です。

パワハラの6類型と指導の違い

厚生労働省はパワハラを6類型(身体的な攻撃・精神的な攻撃・人間関係からの切り離し・過大な要求・過小な要求・個の侵害)で整理しています。成果を出している社員への態度問題について指導することは、この類型に当てはまらない限りパワハラにはなりません。「事実を根拠に、改善を求める」指導は正当な業務上の行為です。

以下に、指導として適切な言動とそうでない言動の違いを整理します。

適切な指導の例 パワハラに該当しうる言動の例
「〇日の発言で相手が傷ついていた。今後は気をつけてほしい」 「お前は人間として終わっている」などの人格否定
「このまま改善がなければ、評価に影響することをお伝えします」 大勢の前で怒鳴りつける・無視する
面談の記録をメールで共有する 執拗に繰り返し責め続ける

「正当な指導の記録」がハラスメント防止になる

「記録を残すと証拠になって自分が不利になるのでは」と考える管理職がいますが、これは逆です。正当な指導を記録として残しておくことで、「感情的に怒鳴った」のではなく「段階的に事実を伝えた」という証拠になります。万が一、指導を受けた社員側が「パワハラだ」と申告した場合も、記録があれば会社が正当な対応をしていたことを示せます。

発達障害・グレーゾーンが背景にある可能性への対応

自分の言動が周囲に与える影響を認識しにくい社員の場合、発達障害やグレーゾーンの特性が背景にある可能性があります。ただし、管理職・人事が「発達障害ではないか」と本人に言及すること自体が大きなリスクになります。専門家(産業医・外部の産業カウンセラーなど)へのつなぎを検討し、「業務上の困りごとを一緒に整理したい」という文脈で専門家の関与を促すのが適切なアプローチです。産業医が選任されていない企業(常時50名未満)では、地域産業保健センターの無料相談を活用できます。

評価制度に「行動軸」を加える方法

態度問題の根本的な再発防止には、評価制度に行動評価の軸を組み込むことが有効です。制度がなければ、指導は毎回「個人の感情」の問題になってしまいます。

コンピテンシー評価を最小限で導入する

大企業のような複雑な制度は必要ありません。「チームへの貢献」「コミュニケーションの適切さ」「ルール遵守」など、3〜5項目の行動基準を評価シートに追加するだけで、行動を評価する軸が生まれます。重要なのは、評価者の主観ではなく「こういう行動が見られた/見られなかった」という事実に基づいて評価することです。

等級制度の「基準行動」として明文化する

等級制度がある場合は、各等級の「期待行動」に職場秩序やコミュニケーション規範を明記することで、「この等級にいる以上、この行動が求められる」という構造にできます。成果だけで昇格・降格が決まる制度から、成果と行動の両方が基準になる制度への移行が、中長期的な再発防止につながります。

まとめ

成果を出している社員の態度問題は、「指摘していいのか」という迷いから放置されがちですが、放置こそが最大の組織リスクです。指導の正当性は、就業規則・事実の記録・段階的プロセスによって確保できます。まず問題行動をSBI形式で記録し、1対1のフィードバック面談で事実を共有することから始めてください。その際、感情的な叱責ではなく「事実を確認し、改善を合意する」構造で進めることが、パワハラリスクの回避にもなります。

「どこまで言えるのか」「この対応で問題ないか」と判断が難しいケースは、社内だけで抱え込まないことが重要です。ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の経営者・人事担当者向けに、具体的な指導の進め方・評価制度の整備・ハラスメントリスク管理について相談をお受けしています。「うちのケースはどう対応すべきか」という個別の状況整理から始めることができますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 成果を出している社員の評価を、態度の問題を理由に下げることはできますか?

A. 成果(業績)の評価とは独立した「行動評価」の軸があれば、態度・行動に関する評価を下げることは可能です。ただし、行動評価の基準が就業規則や評価制度として明文化されていない場合、「なぜ下げるのか」の根拠が曖昧になりトラブルの原因になります。評価を下げる前に、まず行動評価の基準を制度に組み込み、対象社員にその基準を明示してから運用することをお勧めします。

Q. フィードバック面談で本人が「自分は悪くない」と反論した場合、どう対応すればよいですか?

A. 本人の言い分は最後まで聞いたうえで、「あなたの意図ではなく、周囲への影響として確認している」という立場を維持することが重要です。感情的な応酬になりそうな場合は、「今日はまず事実の確認をしたかった。引き続き話し合いを続けましょう」と切り上げ、改めて面談の機会を設けることも選択肢です。面談で合意に至らなくても、「事実を伝えた・本人の認識を確認した」という記録を残すことに意味があります。

Q. 就業規則がない(または古い)場合、指導は難しいですか?

A. 就業規則がない場合でも、「社会的通念上、職場での言動として不適切である」という観点から指導することは可能です。ただし、服務規律が明文化されていないと、指導の客観的根拠が弱くなります。従業員10人以上の企業は就業規則の作成・届出が法的に義務づけられています(労働基準法第89条)。まずは就業規則の整備を社会保険労務士に依頼することを検討してください。

Q. 指導した社員から「パワハラだ」と言われた場合、どう対応すればよいですか?

A. まず指導の記録(日時・内容・伝え方)を確認します。事実に基づき、業務上必要な範囲で行われた指導であれば、パワハラには該当しません。申告があった場合は第三者(社内の別の管理職・外部の相談窓口など)を交えて事実確認を行い、対応プロセスを記録することが重要です。指導の記録が残っていることが、最大の防御になります。申告された段階で弁護士・社会保険労務士への相談も検討してください。

Q. 産業医がいない小規模企業でも、外部の専門家に相談できますか?

A. 常時50名未満の事業場は産業医の選任義務がありませんが、都道府県ごとに設置されている「地域産業保健センター」では、産業医による無料の相談サービスを受けることができます。また、メンタルヘルスや人事労務を専門とする外部コンサルタント・社会保険労務士への相談も有効です。社員の状況・指導の進め方・制度整備など、複合的な課題がある場合は、複数の専門家を組み合わせて対応することをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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