成果は出るが態度に問題ある社員への対応判断基準

成果は出るが態度に問題ある社員への対応判断基準 組織運営
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「売上は社内トップなのに、チームメンバーへの言動が荒くて周りが疲弊している」「遅刻を繰り返しているが、本人の担当顧客だけは成果を出している」——こうした状況を前に、注意すべきか黙認すべきか判断できず、対応が後手に回ってしまう経営者・人事担当者は少なくありません。成果を出している社員への指導をためらう気持ちは自然なものです。しかし、その「放置」が組織に与えるダメージは、その社員の成果を大きく上回ることがあります。本記事では、成果があっても態度に問題のある社員への対応判断基準を、実務的な手順とともに整理します。

「成果があれば問題行動を指摘してはいけない」は誤解である

結論から述べます。成果を出していても、問題行動・服務規程違反は指導・注意の対象になります。成果の有無は、態度面の問題を容認する理由にはなりません。

成果と行動は別軸で評価する

多くの中小企業では評価基準が曖昧なまま運用されており、「結果を出しているから多少のことは目をつぶる」という暗黙のルールが生まれがちです。しかしこの考え方は、組織の公平性を損なうだけでなく、問題行動を黙認するシグナルとして周囲に伝わります。「なぜあの人だけ許されるのか」という不満が積み重なり、真面目に働く社員の離職につながるのは、多くの経営者が経験していることではないでしょうか。

成果(何を達成したか)と行動(どのように働いたか)は、本来別の軸で評価するものです。成果主義を導入している企業でも、「成果さえ出れば何をしても許される」という意味ではありません。行動・姿勢・職場への影響も評価の対象に含めることは、組織運営の基本です。

法律上も「指導しない理由」にはならない

労働契約法第15条・第16条は、懲戒処分や解雇に「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を求めています。つまり、問題行動がある場合は段階的に指導し、改善の機会を与えることが求められます。裏を返せば、指導を適切に重ねていれば、成果があっても懲戒処分・解雇が正当と認められた裁判例は実際に存在します。「成果があるから何もできない」という思い込みが、むしろ会社にとって不利な状況を生み出すのです。

放置するとどうなるか——見えにくいリスクを整理する

問題行動を放置した場合のリスクは、「その社員がいなくなること」より深刻な形で顕在化します。組織への影響は静かに、しかし確実に広がります。

周囲の社員へのダメージ

高圧的な言動・ルール無視・無断欠勤などが繰り返されると、周囲のメンバーは「会社はこれを容認している」と判断します。その結果、規律への意識が全体的に緩み、モチベーションの高い社員ほど「この職場では真面目に働くことが馬鹿らしい」と感じて離職を検討し始めます。20~50名規模の企業では、一人の離職が業務の大幅な停滞につながります。

ハラスメント被害の拡大リスク

問題行動の中にハラスメント的な言動が含まれる場合、放置した会社は「使用者責任」を問われる可能性があります(労働施策総合推進法第30条の2、民法第715条)。被害を受けた社員が相談できる環境がなく、会社が対応を怠っていたと認定されれば、損害賠償請求のリスクが生じます。「知らなかった」では通らない点に注意が必要です。

対応が遅れるほど指導が難しくなる

問題行動を長期間放置すると、本人は「これは許容されている」という認識を持ちます。後から指導しようとしても「今まで何も言わなかったのに」と反発を受けやすく、指導の正当性を主張しにくくなります。早い段階で記録を残しながら対応を始めることが、後の手続きの有効性にも影響します。

注意・指導してよいかの判断基準——どこから対応すべきか

「どの程度の問題行動から対応すべきか」という判断は、成果と行動の両軸で考えると整理しやすくなります。以下の表を参考に、自社の状況を確認してください。

成果あり 成果なし
行動・態度が良い 育成・昇格の対象。現状維持と成長支援 成果面のサポートを優先。能力開発の検討
行動・態度に問題あり 今回の論点。行動改善の指導が必要 最も深刻。早急かつ包括的な対応が必要

「許容できる問題」と「許容できない問題」を区別する

すべての問題行動を同列に扱う必要はありません。判断の軸として、まず「就業規則の服務規程に明示的に違反しているか」を確認します。無断欠勤・ハラスメント的言動・情報漏洩・業務命令拒否などは、服務規程に定めがある場合、成果の有無にかかわらず指導の対象となります。一方、「報告の仕方がやや雑」「挨拶が少ない」程度であれば、まず日常的なコミュニケーションの中でフィードバックすることが適切です。

就業規則がない・未整備の場合の注意点

従業員10名以上の企業は就業規則の作成・届出が義務付けられています(労働基準法第89条)。就業規則がない、または服務規程・懲戒規定が整備されていない場合、懲戒処分を行うための法的根拠が弱くなります。まず就業規則の整備から着手することが先決です。すでに就業規則がある場合も、「就業規則が社員に周知されているか(掲示・配布・社内システムへの掲載など)」を確認してください。周知されていなければ、懲戒の根拠として機能しません。

判断に迷ったときは:「就業規則が整備されているか」「この指導は適切か」という判断は、組織の状況によって異なります。必要に応じて産業保健支援や社会保険労務士に一度相談しておくと、後の対応判断が格段にスムーズになります。

実務的な指導手順——記録の残し方と進め方

指導は「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、後の懲戒手続きの根拠となる記録を残しながら進めることが原則です。感情的にならず、事実に基づいて対応することが、会社と社員双方を守ることになります。

事実を特定して指導する

「態度が悪い」「職場の雰囲気を壊している」という抽象的な表現では、本人も改善の余地がわからず、後日の手続きでも証拠として機能しません。指導の際は「○月○日(曜日)の朝礼において、○○さんが発言した際に席を立ち、会議室を退出した。就業規則第○条(服務規程・協調義務)に反する行動と判断した」という形で、日時・場所・具体的言動・根拠規程を明確にします。パワハラとの境界を意識し、人格否定や過度な叱責は避け、行動の事実と規程違反の指摘にとどめましょう。

指導記録票を必ず作成する

口頭での注意であっても、その後に記録を残すことが重要です。記録に含める項目として、日時・場所・指導内容・本人の反応(「わかりました」「心当たりがない」など)・次回の確認事項・記録作成者を最低限記載します。メールで指導内容を送付すれば送受信記録が残るため、口頭だけで終わらせないことを意識してください。

改善目標と確認期間を設定する

一度注意して終わりにするのではなく、「いつまでに・何を・どの水準で改善するか」を本人と合意し、確認期間を設けます。たとえば「今後30日間、無断欠勤・遅刻をゼロにする」「チームメンバーへの発言の際は机を叩く行為を行わない」といった、具体的で測定可能な行動目標を設定します。この段階の合意書や確認記録が、後に懲戒手続きを進める際の「改善機会を与えた証拠」になります。

それでも改善されない場合——次のステップ

口頭注意・書面警告・改善計画の実施を経てもなお問題行動が継続する場合、段階的な懲戒処分へと移行することを検討します。いきなりの懲戒解雇は「解雇権濫用」とみなされるリスクが高く、裁判で無効とされる可能性があります。

懲戒処分の段階を踏む

就業規則に定めのある範囲で、口頭注意→書面による戒告→減給→出勤停止→懲戒解雇という段階を踏むことが実務の基本です(懲戒処分の相当性:比例原則)。各段階での記録を積み重ねることで、最終的な処分の正当性が裏付けられます。なお、減給の上限は労働基準法第91条により「1回の事案につき平均賃金の半日分、総額で一賃金支払期の賃金総額の10分の1以内」と定められています。

産業医・専門家へのつなぎが必要な場合

問題行動の背景に、メンタルヘルス上の課題が隠れているケースも少なくありません。遅刻・無断欠勤の増加、感情のコントロール困難などが続く場合、懲戒よりも先に産業医や専門機関への相談を検討することが適切なこともあります。従業員50名以上の企業では産業医の選任が義務ですが、50名未満の企業でも地域の産業保健総合支援センター(各都道府県設置)を無料で利用できます。懲戒対応と支援対応のどちらが適切かの判断が難しい場合は、外部の専門家に相談することで方針が整理しやすくなります。

対応方針に迷ったら:「懲戒を進めるべきか、支援に転じるべきか」という判断は、人事だけで決めるには判断が難しい局面です。メンタルヘルスと懲戒の両面から検討することで、より適切な対応が見えてきます。

まとめ

成果を出している社員であっても、問題行動・服務規程違反は指導・注意の正当な対象となります。放置は組織の公平性を損ない、他の社員の離職やハラスメント被害の拡大というより深刻なリスクを生みます。対応の基本は、就業規則の整備と周知を前提に、事実に基づいた指導記録を積み重ね、改善機会を与えながら段階的に進めることです。「言いにくいから」「辞められたら困るから」という心理的ブレーキは理解できますが、対応が遅れるほど指導の難易度は上がります。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務人事担当者の方からの「こういうケースはどう対応すればいいか」という相談を日常的にお受けしています。就業規則の確認から指導記録の作成方法、メンタルヘルス上の懸念がある場合の対応方針まで、御社の状況に合わせて一緒に整理します。判断に迷ったら、専門家に頼ることも重要な経営判断です。まずはご相談ください。

よくある質問

Q. 成果を出している社員を注意して「辞める」と言われたら、どうすればいいですか?

A. まず、「辞める」という発言は感情的な反応であることが多く、実際に退職届を出す段階とは区別して対応することが大切です。その場で「わかった、もう言わない」と引き下がることは避けてください。「指導の内容は会社として必要なことであり、続けてもらいたいと思っているが、行動の改善は求める」という立場を冷静に伝えます。また、業務が特定の社員に集中している状態そのものが組織上のリスクであるため、引き継ぎや情報共有の仕組みを並行して整備することが中長期的な解決策になります。

Q. 就業規則がない場合、問題社員に対して何もできないのですか?

A. 就業規則がなくても、口頭・書面での注意・指導を行うこと自体は可能です。ただし、懲戒処分(減給・出勤停止・懲戒解雇など)は就業規則上の根拠規定がなければ原則として行えません(労働契約法第15条)。まずは就業規則を整備し、社員に周知することを優先してください。従業員10名以上の企業では作成・届出が法的に義務付けられています(労働基準法第89条)。就業規則の作成は社会保険労務士に依頼することが一般的です。

Q. 注意・指導することはパワハラになりませんか?

A. 業務上必要な範囲での指導・注意はパワハラに該当しません(労働施策総合推進法第30条の2)。重要なのは「何を・どのように伝えるか」です。事実に基づき、就業規則の規定を根拠に、改善を求めることは適法な指導です。一方、人格を否定する発言(「使えない」「いないほうがまし」など)、他の社員の前での繰り返しの叱責、必要以上に長時間の拘束などはパワハラに該当し得ます。「問題行動の事実と規程違反を指摘する」という構造を守ることが、指導とパワハラを分ける実務上のポイントです。

Q. 一度口頭で注意しましたが、何も変わりませんでした。次はどうすればいいですか?

A. 口頭注意の後に改善が見られない場合、次は書面(警告書・注意書)による指導に移行します。書面には、指摘する問題行動の事実・就業規則上の根拠・改善を求める具体的な行動目標・確認期限を明記し、本人に署名・受領確認を求めます。それでも改善されない場合、就業規則の規定に基づいて減給・出勤停止などの懲戒処分を段階的に検討します。各段階での記録が後の手続きの正当性を支えるため、「口頭注意の内容を後からメモとして記録に残す」ことから始めることをお勧めします。

Q. 問題行動の背景にメンタルヘルスの問題がある可能性がある場合、どう対応すればよいですか?

A. 問題行動の背景にメンタルヘルス上の課題が疑われる場合、懲戒対応と支援対応を切り分けて考える必要があります。まずは本人の状態を把握するため、1対1の面談を設け、「体調や仕事上の困りごとはないか」という形で状況を確認します。従業員50名以上の企業では産業医へのつなぎが有効です。50名未満の場合は、都道府県の産業保健総合支援センターが無料相談を提供しています。懲戒手続きを進めるべき状況か、休職・受診勧奨が先かの判断に迷う場合は、外部の専門家(社会保険労務士・メンタルヘルス支援機関など)への相談が判断の整理に役立ちます。

【監修】ウェルセンス株式会社
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