診断書の日付に疑義があるときの会社側確認方法

診断書の日付に疑義があるときの会社側確認方法 休職・復職対応
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「診断書の休職開始日が、実際に受診した日より1週間前になっている」——そう気づいたとき、あなたはどう対応しましたか。欠勤が続いていた期間がそのまま休職期間に「塗り替えられる」ような感覚を覚え、給与計算や有給処理をどうすべきか途方に暮れた経験を持つ担当者は少なくありません。かといって「日付がおかしいから無効」と断言して突き返すのも怖い。本記事では、診断書の日付に疑義が生じたとき、会社として何を確認でき、何をしてはいけないのかを実務の視点から整理します。

さかのぼり日付の診断書は「違法」ではない

結論から言えば、診断書の休職開始日が受診日より前に記載されていること自体は、必ずしも違法でも無効でもありません。この前提を理解しないまま対応すると、会社側がかえってリスクを負う可能性があります。

医師の裁量として認められる範囲

診断書は「医師が診察した時点での判断を記載する文書」です。医師は診察当日の状態だけでなく、問診・カルテの記録・患者の訴えなどを総合して「この日から就労不能であった」と判断した場合、過去の日付で記載することが医師の裁量として認められています。医師法第24条は診療録(カルテ)の記載義務を定めていますが、診断書のさかのぼり発行を直接禁止する規定は存在しません。

「さかのぼり=偽造」という思い込みの危険性

担当者の中には「日付がおかしい=偽造・不正」と捉え、休職申請を一方的に却下・保留しようとするケースが見受けられます。しかし医師が記載した診断書には証明力があります。合理的な根拠なく拒否し、その後に社員が本当に重篤な状態だったと判明した場合、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)として会社が責任を問われるリスクがあります。「疑わしいから無効」という判断は慎む必要があります。

「欠勤期間が休職期間に化ける」問題をどう整理するか

実務上よく起きるのが、社員がすでに欠勤・遅刻を繰り返していた期間と、診断書に記載された休職開始日が重なるケースです。この場合、その期間を「欠勤」とするか「休職」とするかで、給与計算・有給処理・健康保険の傷病手当金の計算に直接影響します。どちらが正しいかは規程と事実関係によって異なるため、後述する確認手段を通じて整理することが重要です。

医療機関への直接照会はできるのか

会社が医療機関に直接問い合わせることは、原則として認められていません。ただし、本人の同意を得た場合は一定の照会が可能になります。その範囲と限界を正確に理解しておく必要があります。

本人の同意なしの照会は法的にアウト

病歴・受診事実は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当します。本人の同意なしに医療機関へ照会することは、同法の規定に反するだけでなく、医師には刑法第134条(秘密漏示罪)に基づく守秘義務があります。「受診したかどうかだけ確認したい」という軽い気持ちで電話をかけても、医療機関は回答できませんし、問い合わせ自体がトラブルの火種になりかねません。

本人の書面同意があれば照会できるか

本人から書面による情報提供同意書を取得すれば、法的障壁は下がります。ただし、それでも医療機関側が開示を拒否することは可能です。医師の裁量として「患者の治療関係に支障をきたす」と判断すれば、回答しないことが許されています。実務上、医療機関が会社からの照会に詳細を回答するケースは多くありません。同意書を取ったからといって必ず情報が得られるわけではない、という現実を踏まえた上で動く必要があります。

産業医を通じた情報取得という選択肢

50名以上の事業場では産業医の選任が義務づけられています(労働安全衛生法第13条)。産業医は本人から直接ヒアリングし、必要に応じて主治医と連携した上で「医学的見解」を会社に伝えるルートを持っています。つまり「本人→産業医→会社」という情報の流れを使えば、会社が医療機関に直接コンタクトしなくても一定の確認が可能になります。一方、50名未満の事業場は産業医の選任義務がないため、このルートを持っていない会社も多いのが現状です。

会社が実務上とれる確認手段

会社が医療機関に直接照会できない以上、使えるのは「本人へのヒアリング」「規程に基づく追加受診要求」「傷病手当金申請書との照合」という三つの手段です。これらを組み合わせることで、疑義のある診断書に対して合理的な確認を行うことができます。

本人への書面ヒアリング

まず最初に行うべきなのが、本人への確認です。「いつ受診したか」「なぜ診断書の日付が受診日より前になっているか」「その日から実際にどのような状態だったか」を丁寧に聞き取ります。口頭だけで終わらせず、確認内容や本人の説明をメール・書面で残すことが重要です。後々のトラブル防止のためにも、「確認した記録」は必ず残しておきましょう。社員に「疑っている」と思われる懸念がある場合は、「正確な処理のために確認させてください」という趣旨を最初に伝えると摩擦が減ります。

会社指定医・追加診断書の提出要求

就業規則または休職規程に「会社が必要と認める場合、会社の指定する医師の診断を受けさせることができる」という条項が整備されていれば、追加の診断書や意見書の提出を求めることができます。これは主治医の判断を覆すためではなく、「会社として医学的根拠を確認する」ための手段です。ただし、規程上の根拠がなければ強制することはできません。根拠なき強制はかえって紛争リスクを高めます。

傷病手当金申請書との照合

健康保険の傷病手当金を申請する場合、申請書には医師の証明欄(療養担当者記載欄)があり、「労務不能と認めた期間」が記載されます。この期間と、提出された診断書の休職開始日が一致しているかを確認することで、矛盾がないかの判断材料になります。なお、会社が閲覧・関与できる部分は、事業主記載欄を含む申請書の範囲に限られます。

確認手段 実施条件 留意点
本人へのヒアリング 特になし(常に可能) 書面でやり取りを記録に残す
追加診断書・会社指定医受診の要求 就業規則・休職規程に根拠規定が必要 規程なしの強制はリスクあり
産業医との連携 産業医が選任されていること(50名以上で義務) 50名未満は選任義務なし
傷病手当金申請書との照合 本人が傷病手当金を申請する場合 会社が閲覧できる範囲に限定
医療機関への直接照会 本人の書面同意が必要 医療機関が拒否することも可能

疑義ある診断書への対応フローと判断基準

疑義が生じたとき、重要なのは「感覚的な判断」ではなく「事実と記録に基づいた確認」のプロセスを踏むことです。対応の順序と判断基準を事前に整理しておくことで、担当者が一人で抱え込まなくて済みます。

事実確認の順序

まず最初に、社内記録(出退勤記録・欠勤届・メール等)で「問題となっている期間に本人がどのような状態だったか」を確認します。次に、本人への書面ヒアリングを行い、診断書の日付の根拠を説明してもらいます。その説明に合理性があれば、診断書の記載内容を尊重しつつ、就業規則に基づいて休職手続きを進めます。説明に矛盾や不合理な点がある場合は、規程に根拠があれば追加診断書の提出を求める、という流れが基本です。

「合理的な疑い」と「過度な疑念」を区別する

会社としての確認行為は、合理的な根拠に基づいていなければなりません。たとえば「メンタル系の診断書は客観的指標がないから信用できない」という理由だけで追加資料を求め続けたり、繰り返しヒアリングを行うことは、場合によってはハラスメントと受け取られる可能性があります。確認の目的は「疑いを晴らす」ことではなく「正確な処理をするための情報を得る」ことです。この姿勢の違いが、社員との関係性を左右します。

自社の状況によって対応可能な範囲が変わる

会社の規模・産業医の有無・就業規則の整備状況によって、使える手段の幅は大きく異なります。産業医がいる50名以上の会社であれば、産業医を通じた連携が有効な選択肢になります。一方、20〜30名規模で産業医も就業規則の休職規程も整っていない会社では、事実上「本人へのヒアリング」と「傷病手当金申請書の確認」が主な手段になります。「今の自社にできることは何か」を先に整理しておくことが、冷静な対応につながります。

再発防止のために今すぐ整備すべきこと

診断書の日付に関する問題に対応できる体制を整えるためには、就業規則・休職規程の整備が大前提です。トラブルが起きてから規程を作っても、そのケースには遡って適用できません。

休職規程に盛り込むべき項目

最低限、以下の内容を就業規則または休職規程に明記しておくことを推奨します。

  • 休職を命じる際の診断書提出ルール(いつまでに、どの形式で提出するか)
  • 休職開始日の起算ルール(診断書の記載日か、会社が認定した日かを明確にする)
  • 会社が必要と認める場合の会社指定医受診・追加診断書提出の可能性
  • 休職期間中の連絡ルールと報告義務

規程がない会社が今すぐできること

就業規則の整備には時間がかかります。しかし規程がない状態でも、「今後この会社では、休職申請時には診断書の提出を必須とし、休職開始日は会社と本人が確認した上で決定する」というルールを、少なくとも書面で本人に通知・合意を得ておくことが重要です。また、こうした問題が繰り返し起きているようであれば、就業規則の見直しを専門家に相談することを検討するタイミングです。

まとめ

診断書の日付にさかのぼりがあっても、それ自体は医師の裁量として認められる場合があり、会社が一方的に無効扱いすることはリスクを伴います。会社として取れる確認手段は、本人へのヒアリング・規程に基づく追加診断書の要求・産業医との連携・傷病手当金申請書との照合が基本です。医療機関への直接照会は原則として認められず、本人の書面同意があっても医療機関が拒否することは可能です。対応の幅は産業医の有無や就業規則の整備状況によって大きく変わるため、まず自社の状況を確認し、不足している整備を進めることが再発防止の第一歩です。

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よくある質問

Q. 診断書の休職開始日が受診日より前になっています。この診断書を無効にして欠勤扱いにしてもよいですか?

A. 原則として一方的に無効にすることはできません。医師が過去の日付で就労不能を記載することは、医師の裁量として認められています。合理的根拠なく拒否した場合、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)を問われるリスクがあります。まず本人にヒアリングし、その説明内容と社内記録を照らし合わせた上で判断することが重要です。

Q. 医療機関に「本当にその日から通院していたか」を確認するために電話してもよいですか?

A. 本人の同意なしに医療機関へ照会することは、個人情報保護法(要配慮個人情報)および医師の守秘義務(刑法第134条)の観点から原則として認められません。本人から書面による情報提供同意書を取得した上で照会することは法的障壁が下がりますが、それでも医療機関が回答を拒否することは可能です。まず本人へのヒアリングから始めることをお勧めします。

Q. 社員に「会社指定の医師に診てもらうよう」命じることはできますか?

A. 就業規則または休職規程に「会社が必要と認める場合、会社の指定する医師の診断を受けさせることができる」という条項が整備されている場合は可能です。ただし、規程上の根拠がない状態での強制は社員との紛争リスクを高めます。現時点で規程がない場合は、まず規程の整備を優先することをお勧めします。

Q. 会社に産業医がいない場合、どうやって医学的な確認をすればよいですか?

A. 50名未満の事業場は産業医の選任義務がないため、産業医ルートが使えないケースは多くあります。その場合は、本人へのヒアリング・傷病手当金申請書との照合・規程に基づく追加診断書の提出要求が主な手段になります。また、外部の産業保健サービスやメンタルヘルス支援の専門機関を活用することで、産業医的な助言を得ることも選択肢の一つです。

Q. 確認をしようとすると「疑っているのか」「ハラスメントだ」と言われそうで動けません。どう伝えればよいですか?

A. 確認行為の目的と姿勢が重要です。「正確な休職手続きと給与処理のために確認させてください」という趣旨を最初に伝え、書面でやり取りを残すことがトラブル防止につながります。確認の目的が「疑いを晴らすこと」ではなく「正確な事務処理のための情報収集」である限り、合理的な確認行為はハラスメントには該当しません。ただし、繰り返しの追及や感情的な言動は避け、記録を丁寧に残すことが重要です。

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