外部講師のハラスメント発言、会社の責任はどこまで?

外部講師のハラスメント発言、会社の責任はどこまで? コンプライアンス
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研修が終わった翌日、受講者のひとりから「講師の発言がきつくて、今も気になっている」と打ち明けられた——。そんな場面に直面したとき、「外部の講師がしたことだから、うちは関係ない」と思っていませんか。実はこの判断が、会社にとって大きなリスクになります。外部講師によるハラスメント発言であっても、会社が対応を怠ると、安全配慮義務違反として法的責任を問われる可能性があります。この記事では、外部講師ハラスメントにおける会社責任の範囲・初動対応・契約上の予防策を、専任人事のいない環境でも実践できるレベルで解説します。

外部講師の発言でも、会社の責任が生じる理由

外部委託の講師が問題発言をした場合でも、会社は安全配慮義務の観点から責任を免れません。「呼んだのは会社」であり、受講者は業務命令で参加しているからです。

安全配慮義務は「社内の人間」に限られない

労働契約法第5条は、会社が労働者の生命・身体・健康を害されないよう配慮する義務を定めています。この義務は、会社が設定した業務上の場すべてに及びます。研修が外部講師によるものであっても、受講者(労働者)にとっては「会社の指示で参加した業務」です。会社がその場を企画・設計した以上、受講者の心身の安全への配慮義務から逃れることはできません。

使用者責任(民法第715条)はどこまで適用されるか

民法第715条の使用者責任は、雇用関係にある被用者が業務中に他者へ損害を与えた場合の規定です。外部講師が「請負・委任」契約であれば、原則として直接適用はされません。しかし、研修の内容・進行・タイムスケジュールを会社側が細かく指示していた場合、「実質的な指揮命令関係があった」と判断されるケースがあります。特に「当日のセリフや構成まで会社が指定していた」という状況では、外部講師ハラスメント対応の責任が重くなるため注意が必要です。

ハラスメント防止措置義務の「職場」は研修会場も含む

2022年4月から中小企業にも義務化されたパワーハラスメント防止措置(労働施策総合推進法)は、「職場におけるパワハラ」の防止を事業主に求めます。この「職場」には、社外の研修会場・出張先も含まれると解釈されます。つまり、外部講師が研修中に行った不適切な発言も、受講者にとっての「職場環境」に該当し、会社のハラスメント防止措置義務の対象となり得ます。

会社の責任が重くなる条件・軽くなる条件

責任の有無は「白か黒か」ではなく、状況によってリスクレベルが変わります。自社のケースがどの条件に当てはまるかを把握することが、最初の判断として重要です。

外部講師ハラスメントのリスクを高める条件

状況 リスクレベル
研修への参加が業務命令で必須だった
研修内容・進行を会社が細かく設計していた
苦情を受けた後に何もしなかった(放置) 高(二次的責任)
会社施設内で実施した 中〜高
事前に講師の適格性確認をしていなかった
任意参加かつ外部会場での実施 低〜中

「対応しなかった」こと自体が責任になる

見落とされがちな点として、初動対応の遅れや放置そのものが「二次的なハラスメント」「安全配慮義務違反」として問われるリスクがあります。たとえ外部講師の発言が原因であっても、受講者が「会社に相談したのに何もしてもらえなかった」と感じた場合、その体験が会社への不信・精神的ダメージをさらに深めます。苦情を受けてからの対応の質と速度が、法的責任の分岐点になることを覚えておいてください。

苦情を受けたときの初動対応:今すぐやるべきこと

苦情を受けた後にまず取り組むべきは、受講者の話を丁寧に聞き、事実を記録することです。対応の順序を間違えると、被害者の信頼をさらに損ね、問題が複雑化します。

受講者へのヒアリングと心理的安全の確保

まず最初に、苦情を申し出た受講者に対して「話してくれてありがとう」という姿勢で向き合うことが重要です。「大げさでは?」「外部の人だから仕方ない」といった反応は厳禁です。ヒアリングでは、いつ・どこで・誰が・何を言ったか・そのときどう感じたかを丁寧に記録します。録音の可否を事前に確認し、同意が得られれば録音するか、記録後に内容を本人に確認してもらうプロセスを踏みましょう。プライバシーへの配慮として、個室で1対1(または信頼できる同席者を交えて)行うことを基本とします。

事実確認と社内共有のプロセス

次に、研修に同席していた他の受講者や社内担当者からも状況を確認します。ただし、被害を申し出た受講者が特定されないよう、聴取の範囲と方法には細心の注意が必要です。確認できた事実は速やかに経営者・人事責任者へ報告し、対応方針を組織として決定します。「担当者が一人で抱える」構造にしないことが、初動ミスを防ぐポイントです。専任人事がいない場合でも、「誰がヒアリングし、誰が記録し、誰が最終判断するか」をあらかじめルール化しておくことが理想です。

外部講師・委託先への連絡と記録保全

事実確認が終わったら、委託先(研修会社またはフリーランス講師)に対して、問題とされた言動の事実確認と今後の対応について書面(メール可)で連絡します。このとき、口頭のみのやりとりは避け、必ずテキストで記録を残してください。長年の付き合いがある講師であっても、「記録として残すこと」と「関係性を壊すこと」は別の話です。事実確認と改善要求は会社としての義務であり、それを誠実に行うことが、むしろ信頼関係を守る行動です。

委託契約書で事前に備える:契約上の予防策

再発防止の観点から最も効果的なのは、研修委託契約書にハラスメント関連の条項をあらかじめ盛り込んでおくことです。法務担当がいなくても、以下の項目を参照して契約書に追加できます。

契約書に入れておくべき条項

研修委託契約書には、業務内容・報酬・守秘義務だけでなく、以下の条項を追加することを検討してください。

  • 行為規範条項:受託者(講師)がハラスメント禁止・コンプライアンス遵守の義務を負うことを明記する
  • 損害賠償・責任分担条項:受託者の言動に起因する損害は受託者が負担する旨を規定する
  • 事前審査条項:講師のプロフィール・登壇実績・保有資格を委託前に提出させる義務を定める
  • 是正要求・契約解除条項:問題発生時に会社から改善要求または契約解除できる条件と手続きを明記する
  • 苦情報告義務条項:受講者からの苦情を受けた際に受託者が会社へ速報する義務を定める
  • 再委託禁止条項:講師が別の人物に再委託するケースを制限する

既存契約がハラスメント対応に触れていない場合

すでに締結している契約にこれらの条項が含まれていない場合、次回の更新・締結のタイミングで盛り込むことを優先してください。「今すぐ差し替える」ことが難しければ、覚書(合意書)の形で追加することも可能です。特にフリーランスの個人講師と長期的に付き合っている場合は、「いざというときに会社がどう動けるか」を契約書上で明確にしておかないと、トラブル時に何も手が打てなくなります。

研修実施前のチェック項目

契約書の整備と並行して、研修実施前にも確認の習慣をつけましょう。講師の登壇実績・過去の受講者からのフィードバック有無の確認、研修概要・使用資料の事前共有と確認、当日の進行担当者(社内)の設定と役割の明確化——これらは、問題が起きたときに「会社として適切な確認をしていた」という証跡にもなります。企業規模にかかわらず、20〜50名程度の組織でも無理なく実施できる手順です。

「外部だから関係ない」という誤解が招くリスク

外部委託先の言動を「自社と無関係」と捉える誤解は、対応の遅れと二次被害につながります。この認識のズレが、実務上最もよく見られる落とし穴です。

受講者が体験する「会社への不信」という現実

受講者の立場から見れば、「会社に呼ばれた講師」に傷つけられたという体験になります。会社への苦情申告後に「外部の人だから対応できない」と言われれば、怒りと失望は講師ではなく会社に向かいます。この体験が離職・メンタル不調・ハラスメント相談窓口への申告といった形で表面化するリスクは、初動対応を怠るほど高まります。

フリーランス講師との関係悪化を恐れて動けない場合

長年付き合いのある個人講師への苦情対応に躊躇するケースは多くあります。しかし、苦情を握りつぶして受講者に我慢させることは、会社としての安全配慮義務違反につながり得ます。事実確認と改善要求は「責任追及」ではなく「関係者全員を守るプロセス」として位置づけ、感情的にならずに書面ベースで進めることが、結果として講師との関係も保護します。

まとめ

外部講師によるハラスメント発言であっても、会社は安全配慮義務(労働契約法第5条)・ハラスメント防止措置義務(労働施策総合推進法)の観点から、対応責任を負うケースがあります。特に「業務命令で参加した研修」「会社が進行を設計していた」「苦情後に放置した」という状況では、責任が重くなります。初動対応として、受講者ヒアリング・事実確認・書面による委託先への連絡を速やかに行うこと、そして次回以降の委託契約にはハラスメント対応条項を盛り込むことが、実務的な対策の柱になります。

「そもそも今の契約書で大丈夫か」「苦情を受けたがどう動けばいいかわからない」という場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。専任人事がいない環境での人事対応・メンタルヘルス課題に実績があり、状況に応じた初動対応のサポートから契約書の見直しアドバイスまで、一緒に考えます。

よくある質問

Q. 外部講師が研修中に特定の受講者を名指しで叱責しました。会社は損害賠償責任を負いますか?

A. 直ちに損害賠償責任が確定するわけではありませんが、リスクは高い状況です。業務命令で参加した研修で心理的ダメージを受けた場合、会社の安全配慮義務違反として問われる可能性があります。苦情を受けた後の対応次第でリスクは増減するため、まず速やかに受講者ヒアリングと事実確認を行い、社内で対応方針を決定してください。

Q. 外部講師との委託契約書に今からハラスメント条項を追加できますか?

A. 既存の契約書に条項を追加したい場合は、覚書(合意書)の締結によって対応できます。次回の契約更新時に本文へ盛り込むことが理想ですが、研修を間近に控えている場合は、覚書の形で「ハラスメント禁止義務・問題発生時の責任分担・是正要求権」を定めることも有効です。講師側に書面で合意してもらうことが重要です。

Q. 任意参加の社内勉強会での出来事でも、会社の責任は問われますか?

A. 業務命令による強制参加よりリスクは低くなりますが、「会社が企画・運営した場」である以上、責任がゼロになるわけではありません。特に上司から「参加しておいたほうがいい」と促された場合や、就業時間内に開催された場合は、実質的な業務参加と判断される可能性があります。苦情を受けた場合は、形式を問わず誠実に対応してください。

Q. 専任人事がいない場合、誰が初動対応を担当すべきですか?

A. あらかじめ「ハラスメント対応の一次窓口」を明確にしておくことが重要です。兼務の人事担当者・総務担当者・経営者など誰が担当するかをルール化し、「誰がヒアリングし、誰が記録し、誰が最終判断するか」を社内で共有してください。対応が属人的・場当たり的になると、初動が遅れ、二次被害リスクが高まります。

Q. 研修委託先が「うちの講師はそんなことは言っていない」と否定した場合、どうすればよいですか?

A. 事実認定が争われる場合は、受講者の証言・研修時のアンケート・他の参加者の証言・録音データなど、複数の証拠を照合して判断します。最初から口頭でのやりとりに頼らず、事実確認のプロセスをすべて書面(メール)で記録しておくことが重要です。それでも解決しない場合は、弁護士または外部の専門機関への相談を検討してください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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