メンタル不調なのに受診を拒む社員に困ったら

メンタル不調なのに受診を拒む社員に困ったら メンタルヘルス対応
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「最近様子がおかしいのに、本人は『大丈夫』と言い張る。病院に行くよう勧めても頑なに断る。でも業務には明らかに支障が出ている――」そんな状況で、どう動けばいいかわからず困っている経営者・人事担当者の方は少なくありません。受診を拒む社員への対応は、放置も強引な介入も危険です。この記事では、段階的な働きかけの方法と、会社として取れる法的な対応手段をわかりやすく解説します。

「自分は大丈夫」と言い張る社員に何が起きているのか

否定は「サボり」ではなく「病気の症状」のひとつ

メンタル不調が進行した社員が「自分は大丈夫」と言い張るのは、単なる意地や頑固さではありません。うつ病や適応障害などの精神疾患には、「病識の低下」といって、自分の状態を正確に把握しにくくなる症状が伴うことがあります。脳の機能が落ちているために、自分が不調だという認識自体が生まれにくい状態です。「なぜわかってくれないのか」と責めたり、「本人が否定しているから問題ない」と判断したりすることは、どちらも対応として誤りです。

会社側が「放置」を選んではいけない理由

労働契約法第5条は、会社に対して従業員の「生命・身体・精神の安全」を確保する安全配慮義務を課しています。本人が「大丈夫」と言っていても、明らかな不調サインがある状態で会社が何もしなければ、この義務に違反したと判断されるリスクがあります。つまり、受診拒否は「会社の対応義務が消える理由」にはなりません。遅刻の増加、業務上のミスの多発、感情の起伏の激しさなど、行動面での変化を記録し、対応を開始することが会社の責務です。

早期対応が本人にとっても会社にとっても最善

メンタル不調は早期に対処するほど、回復までの期間が短くなります。受診拒否のまま数ヶ月が経過してしまうと、症状は深刻化し、休職期間も長期化しやすくなります。実際に、初期対応が遅れたために6ヶ月以上の休職が必要になったケースは珍しくありません。会社としても、長期休職は業務の空白・代替コスト・職場の士気低下につながります。「様子を見る」という選択が、最もリスクの高い選択になり得る点を認識してください。

受診を勧める前にすべき「傾聴面談」の進め方

最初の一歩は「受診を勧める」ことではない

いきなり「病院に行ったほうがいい」と伝えることは逆効果になりやすいです。本人が「病気扱いされた」「レッテルを貼られた」と感じると、会社への不信感が高まり、その後の対応がすべて困難になります。まず最初にすべきことは、上司や人事担当者が「話を聞く場」を設けることです。評価や判断をせず、ただ耳を傾ける面談を「傾聴面談」と呼び、これが段階的対応の出発点になります。

伝え方のポイント:行動・状態の「事実」を伝える

面談では、「あなたはおかしい」「病気ではないか」という言葉は絶対に使わないでください。代わりに、「最近、以前と比べて遅刻が増えているようで心配しています」「先週のミスが続いていたのが気になって声をかけました」など、具体的な行動・状態の事実を穏やかに伝える形にします。「病気のレッテルを貼る」のではなく、「あなたのことが心配だから話したい」というスタンスを示すことで、本人が防衛的にならずに話を聞きやすくなります。

面談記録は必ず残す

面談を行ったら、日時・参加者・話した内容・本人の反応を必ず記録に残してください。この記録は、後の段階で就業規則に基づく受診命令や休職命令を出す際の「対応の証拠」になります。記録がなければ、「会社は何もしなかった」と判断されるリスクがあります。メモ程度でも構いませんが、日付と具体的なやり取りを残すことが重要です。複数回の面談を積み重ね、その都度記録することで、段階的に対応した事実を示せるようになります。

受診勧奨から受診命令へ:段階的な働きかけの流れ

受診の「お願い」から始めて段階を踏む

傾聴面談を経て、本人との信頼関係が少し築けたタイミングで、受診の「勧奨(すいしょう)」に進みます。勧奨とは、あくまで「お願いベース」の働きかけです。「一度、専門家に相談してみませんか」「会社として窓口を用意していますので、気軽に使ってください」という形が適切です。EAP(従業員支援プログラム)や地域産業保健センターの無料相談窓口を案内するのも有効な方法です。この段階では強制ではなく、本人の意思を尊重しながら選択肢を提示することが基本です。

勧奨で動かない場合は就業規則に基づく「受診命令」へ

複数回の勧奨にもかかわらず受診を拒否し続ける場合、次の段階として「業務命令」としての受診命令を出すことができます。ただし、これには前提条件があります。就業規則に「会社が必要と認めた場合、指定医または産業医の受診を命じることができる」という趣旨の規定が必要です。この規定があれば、受診命令は正当な業務命令として有効と判断した判例があります(電電公社帯広局事件・1985年)。就業規則にこの規定がない場合は、まず整備することが先決です。

産業医・外部専門家をうまく活用する

従業員50名以上の企業は産業医の選任が義務付けられていますが、20~49名の企業には選任義務がありません。ただし、産業医がいない規模の企業でも、地域産業保健センターの無料相談や、外部の産業医・産業保健師との契約によって専門家の意見を得ることは可能です。産業医や専門家による意見書があると、「受診の必要性」を客観的に示す証拠になります。上司や人事だけで抱え込まず、専門家を巻き込む体制を作ることが、対応全体を安定させます。

それでも拒否が続く場合、会社が取れる最終手段

就業規則に基づく休職命令は本人同意なしでも発令できる

受診命令にも応じず、業務遂行に支障が生じている状態が続く場合、会社は休職命令を検討する段階に入ります。就業規則に「業務遂行が困難と認めるとき」「心身の不調により就業が適切でないと会社が判断したとき」などの休職要件が定められていれば、本人の同意なしに休職命令を発令できる場合があります。ただし、ここでも「傾聴面談→受診勧奨→受診命令」というステップを踏んだ記録が不可欠です。いきなり休職命令を出すと、労働者側から「不当な処分だ」と主張されるリスクが高まります。

解雇は最終手段、かつ高いハードルがある

「受診もしない、業務も回らない、もう解雇するしかない」と考える経営者の方もいますが、精神疾患が疑われる状態での解雇は、裁判所が労働契約法第16条の「解雇権の濫用」と判断するリスクが非常に高いです。段階的な対応手順(受診勧奨→受診命令→休職→復職支援プログラム)を踏まずに解雇した場合、解雇無効の判決が出る可能性があります。解雇を検討する場合は、必ず社労士・弁護士に相談のうえ、全ステップの記録を揃えた状態で判断を行ってください。

対応の全体像を整理しておく

ここまでの流れを整理すると、まず最初に上司・人事による傾聴面談を行い、次に産業医・EAPへの相談窓口を案内します。それでも変化がなければ受診の勧奨(お願いベース)に進み、さらに就業規則に基づく受診命令(業務命令)を発令します。受診拒否が続く場合は就業制限・休職命令を検討し、最終的な雇用終了の検討は法的専門家と連携のうえで行う、という順序が基本です。どのステップも記録を残すことが、後の対応を守る土台になります。

今すぐ確認すべき「就業規則の整備状況」

対応の可否は就業規則の記載で決まる

受診命令や休職命令を正当な業務命令として発令できるかどうかは、就業規則の記載内容に大きく依存します。「受診命令規定」「休職要件」「復職手続き」の3点が整備されていない場合、会社は本人が拒否し続けても有効な手を打てない状況に陥ります。まずは現在の就業規則を確認し、これらの規定が存在するかを確認してください。特に、作成から数年以上更新していない場合、実態に合わない規定のままになっているケースが多いです。

規定がない場合は専門家と連携して早期に整備を

就業規則の整備は社労士に依頼するのが一般的ですが、「メンタルヘルス対応を見据えた規定かどうか」まで確認できる専門家に相談することが重要です。単に雛形を使って作成しただけの就業規則では、いざという場面で機能しないことがあります。受診拒否社員が実際に出てからでは対応が後手に回るため、問題が起きる前に整備しておくことが最善です。20~50名規模の成長企業では、就業規則の未整備がそのまま経営リスクに直結するケースが増えています。

まとめ

受診を拒む社員への対応は、「放置」も「強引な介入」も会社にとってリスクになります。大切なのは、傾聴面談から始まる段階的な働きかけを、記録を残しながら丁寧に積み重ねていくことです。そして、受診命令・休職命令などの法的な手段を有効に使うためには、就業規則の整備が前提になります。

「何から手をつければいいかわからない」という状況でも、専門家と連携することで適切な手順を整えることができます。ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業でも実践できる、メンタルヘルス対応・休職復職支援・就業規則整備のサポートを提供しています。「うちの会社の場合はどう対応すべきか」「現在の対応が正しいのか」という具体的なご相談も歓迎しています。一人で抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 本人が「大丈夫」と言っている以上、会社は何もしなくていいのでしょうか?

A. いいえ、本人の「大丈夫」は会社の対応義務を免除しません。労働契約法第5条の安全配慮義務は、本人の自己申告に関わらず会社側に課せられています。明らかな不調サインがある場合は、傾聴面談から始める段階的な対応を記録とともに行うことが必要です。

Q. 受診を命じることはパワハラになりませんか?

A. 就業規則に受診命令の規定があり、段階的な手順を踏んだうえで発令する場合は、正当な業務命令と判断されます。一方、規定なし・記録なし・突然の命令という形は問題になるリスクがあります。手順と根拠を整えることが、パワハラとの線引きになります。

Q. 産業医がいない規模の会社でも、専門家の意見を得る方法はありますか?

A. あります。従業員50名未満の企業には産業医の選任義務はありませんが、地域産業保健センターの無料相談や、外部産業医・産業保健師との契約で補完することができます。専門家の意見書は、受診の必要性を客観的に示す証拠として重要な役割を果たします。

Q. 受診拒否のまま業務支障が続く場合、いきなり解雇できますか?

A. 精神疾患が疑われる状態での解雇は、解雇権の濫用(労働契約法第16条)と判断されるリスクが高く、段階的対応の手順を踏まずに行った解雇は無効になるケースがあります。解雇の前に、受診勧奨・受診命令・休職命令というステップを記録とともに経ることが不可欠です。

Q. 就業規則に受診命令や休職命令の規定がない場合、今からでも整備できますか?

A. はい、今からでも整備することが可能ですし、むしろ問題が発生する前に整えることが最善です。ただし、就業規則の変更には所定の手続き(労働者への説明・意見聴取・届出)が必要です。メンタルヘルス対応を見据えた規定の整備は、社労士などの専門家に相談しながら進めることをお勧めします。

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【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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