役員がセクハラ加害者のときの社内対応の進め方

役員がセクハラ加害者のときの社内対応の進め方 コンプライアンス
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「相談を受けたが、相手が取締役で…どう動けばいいのかわからない」――役員がセクハラの加害者だと判明したとき、人事担当者や経営幹部が最初に感じるのは、この強い「詰まり感」です。通常のハラスメント対応であれば、人事が調査し、上長に報告し、然るべき処分を下す流れが成り立ちます。しかし加害者が役員となると、その流れ全体が機能不全に陥ります。本記事では、役員セクハラ対応に特有の構造問題を整理しながら、20〜50名規模の企業が実際に取れる手順を具体的に解説します。

役員セクハラ対応が通常と根本的に異なる理由

役員がセクハラ加害者の場合、「会社が調査し、会社が処分する」という通常の前提が崩れます。対応が難しい理由はこの一点に集約されます。

「会社=加害者」になる構造問題

一般従業員のセクハラ事案であれば、会社(経営者・人事)が調査権限と処分権限を持ちます。しかし代表取締役が加害者の場合、「会社の意思決定者=加害者」という状況が生まれます。人事担当者が被害の報告を受けても、報告先がないか、報告しても握りつぶされるリスクがある。この構造そのものが最大のハードルです。

加害者が代表取締役以外の役員(専務・常務・取締役など)の場合は、代表取締役が対応主体になれる余地があります。一方で、加害者が代表取締役本人の場合は、他の取締役・監査役・株主が対応の起点になる必要があります。自社の役員構成を確認し、「誰が動ける立場にあるか」を最初に整理してください。

会社の義務は役員が加害者でも消えない

重要な認識として、加害者が役員であっても、会社(法人)としての対応義務は一切免除されません。男女雇用機会均等法第11条は、事業主に対してセクシュアルハラスメントに関する雇用管理上の必要な措置を義務付けており、加害者の役職は関係ありません。また労働契約法第5条の安全配慮義務も同様で、「役員だから仕方がない」という判断は法的に成立しません。対応を放置した場合、会社は民法第715条(使用者責任)に基づく損害賠償責任を問われます。

処分権限は通常の懲戒と異なる

一般従業員であれば、就業規則に基づく懲戒処分(戒告・降格・解雇など)を会社が行使できます。しかし役員の身分は「委任契約」であり、懲戒権限の対象外です。役員を解任するには、原則として株主総会の決議が必要です(会社法第339条)。ただし、不正行為やセクハラといった明確な問題行為は「正当な理由」に該当すると解釈されることが多く、任期途中の解任であっても損害賠償が生じないケースが多いとされています。この点は弁護士に事前に確認することを強くお勧めします。

被害者対応を最優先に並行して進める

調査や処分の手続きと並行して、被害者の安全確保と意向確認を先に行うことが不可欠です。被害者への対応が遅れると、心身の状態悪化や、会社への不信感から外部機関への申告・訴訟につながるリスクが高まります。

被害者の意向を丁寧に確認する

被害者が最も恐れているのは「自分が訴えたとわかって、報復される」ことです。まず担当者は、被害者と個別に面談し、現在の状況・心身の状態・どこまでの対応を求めているかを丁寧に確認します。「会社として必ず動く」と伝えることは大切ですが、被害者の意向を無視して一方的に動くことも二次被害につながります。被害者の意向を記録に残し、各ステップで共有・確認しながら進めることが原則です。

加害者との接触を遮断する

被害者と加害者(役員)が業務上接触する状況を速やかに解消します。座席・業務担当・報告ラインの変更など、物理的・組織的な分離を行います。「役員の権限が強いから難しい」と感じるかもしれませんが、安全配慮義務の観点から、この対応は会社の義務です。被害者側を異動させる形はできる限り避け、加害者との接点を減らす方向で設計してください。

メンタルヘルス支援につなぐ

被害者がすでに精神的なダメージを受けている場合、産業医・カウンセラー・EAP(従業員支援プログラム)への橋渡しを早期に行います。産業医が選任されていない企業(従業員50名未満は法的義務なし)でも、地域産業保健センターの無料相談や、外部EAPサービスを活用できます。被害者が「会社が自分を守ってくれている」と実感できることが、その後の対応全体の信頼性にも直結します。

社内調査体制をどう構築するか

役員セクハラ対応において、社内だけで中立的な調査を行うことはほぼ不可能です。外部の専門家を調査に関与させることが、事実上の必須条件になります。

社内調査が機能しない理由

社内で調査委員を選任しても、委員が役員の指揮命令下にある従業員であれば、公正な調査は期待できません。調査結果への信頼性が損なわれ、被害者・外部機関・裁判所のいずれからも「不十分な対応」と判断されるリスクがあります。「社内でやった」という形式ではなく、「実質的に公正な調査が行われたか」が問われます。

外部弁護士による第三者調査が基本

役員セクハラ事案では、外部の弁護士(ハラスメント・労働法専門)に事実調査を依頼することが最も信頼性の高い方法です。弁護士は被害者・加害者・関係者へのヒアリング、証拠の収集と評価、法的判断を一括して担えます。調査報告書は文書で作成してもらい、後の取締役会報告・株主総会・労働局対応の根拠資料として保存してください。費用は事案の複雑さにより幅がありますが、初回相談から見積もりを取ることを推奨します。

社会保険労務士との役割分担

ハラスメント対応の経験がある社会保険労務士(社労士)は、就業規則との整合確認・手続き助言・再発防止策の整備において有効です。弁護士が「事実認定と法的評価」を担う一方、社労士は「労務手続きと社内制度整備」を支援する役割として、並行して関与してもらうと効率的です。

報告ラインと取締役会・株主総会の動かし方

役員の処分を実現するには、通常の「人事→社長」ラインではなく、会社法上の意思決定機関(取締役会・株主総会)を正式に動かす必要があります。

加害者の立場によって報告ラインが変わる

加害者の立場 報告・対応の主体 主な対応手段
代表取締役(社長) 他の取締役・監査役・主要株主 取締役会招集・株主総会での解任決議
代表取締役以外の役員 代表取締役が取締役会に諮る 取締役会決議による職務停止・株主総会での解任
監査役がいる場合 監査役への報告が内部統制の起点 監査役から取締役会・株主への報告

取締役会が形骸化している場合の対応

中小企業では取締役会が実態として機能していないケースも少なくありません。しかし対応の記録という観点から、書面による取締役会の招集通知・議事録・決議内容は必ず残してください。「取締役会を開いた事実と、そこで何が決定されたか」が、後に会社の対応姿勢を示す重要な証拠になります。会議の形式が整っていなくても、記録を残す努力が会社を守ります。

役員解任を株主総会に諮る際の留意点

株主総会で取締役を解任するには、議決権の過半数を持つ株主の同意が必要です(普通決議)。オーナー社長が多くの株式を保有している場合、他の株主だけでは解任できないケースもあります。こうした状況では、法的手続き(仮処分・損害賠償請求など)や労働局への申告・調停も視野に入れる必要があり、弁護士との連携が不可欠です。

外部窓口・外部機関の具体的な活用方法

社内で解決できないと判断した時点で、外部機関への相談・申告は有効な選択肢です。被害者が自ら外部機関を利用する場合も、会社として対応の姿勢を示すことが求められます。

都道府県労働局・雇用均等室の活用

都道府県労働局の雇用均等室は、セクシュアルハラスメントに関する相談・指導・紛争調整(調停・あっせん)を無料で行っています。被害者が申告した場合、会社は行政からの助言・指導・勧告を受ける立場になります。会社側も事前に相談窓口として活用でき、「会社として何をすべきか」を確認する場としても機能します。外部への申告があってから対応するのではなく、申告前から会社として動いている事実を記録しておくことが重要です。

外部セクハラ相談窓口の導入

20〜50名規模の企業でも、外部の相談窓口サービス(社労士事務所・EAPプロバイダーなどが提供)を導入することで、役員に情報が渡らない安全な相談経路を確保できます。被害者が「社内では言えない」と感じている状況では、外部窓口の存在そのものが被害の早期把握と会社のリスク軽減につながります。費用は月額数万円から導入できるサービスもあり、規模の大きさにかかわらず現実的な選択肢です。

外部機関を使う判断基準

以下の状況にひとつでも当てはまる場合は、外部機関の関与を検討してください。

  • 加害者が代表取締役で、社内に対応できる役員・監査役がいない
  • 被害者が「社内では信用できない」と明示している
  • 社内で調査を行ったが、中立性に疑義が生じている
  • 被害者がすでに弁護士に相談しており、法的対応を示唆されている
  • 過去に類似の相談があり、対応が不十分だったと疑われる

まとめ

役員セクハラ対応の最大の難しさは、「通常の対応フローが機能しない構造」にあります。まず被害者の安全確保と意向確認を最優先に動き、次に外部弁護士を含む第三者調査体制を構築し、会社法上の意思決定機関(取締役会・株主総会)を正式に動かす流れが基本です。「加害者が役員だから対応できない」は法的に成立せず、放置すれば会社の使用者責任が問われます。一方で、社内リソースだけでこれを進めるのは現実的に困難なケースがほとんどです。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業が直面するハラスメント対応・休職対応・人事労務の複合的な課題について、実務に即した支援を行っています。「どこから手をつければよいかわからない」という段階からでも、まずはお気軽にご相談ください。お客様の状況をお聞かせいただき、最適な対応方法を一緒に検討させていただきます。

よくある質問

Q. 社長がセクハラ加害者の場合、人事担当者はどこに報告すればよいですか?

A. 代表取締役が加害者の場合、社内の報告ラインは機能しません。他の取締役・監査役・主要株主が対応の主体となります。社内に頼れる役員がいない場合は、外部弁護士に相談し、取締役会の招集・株主総会での解任決議という法的手続きの道筋を確認することが先決です。人事担当者が単独で抱え込まず、外部専門家を早期に巻き込むことが重要です。

Q. 被害者が「大事にしたくない」と言っている場合、会社はどこまで対応が必要ですか?

A. 被害者の意向は最大限尊重すべきですが、会社には男女雇用機会均等法第11条に基づく対応義務があります。被害者が「動かないでほしい」と言っていても、加害者との接触遮断・被害者の安全確保・記録の保存は最低限行う必要があります。何もしなかった場合、被害者の状態が悪化したとき、または将来的に別の被害者が出たとき、会社の不作為が問われます。被害者の意向を確認しながら、できる範囲の対応を記録に残してください。

Q. 役員を解任せずに「厳重注意」だけで済ませることはできますか?

A. 行為の内容・被害の程度・被害者の意向によります。一度限りの軽微な言動で、被害者が再発防止策の確認を求めている場合は、書面による注意・再発防止誓約・接触の遮断といった対応で収まるケースもあります。ただし、継続的・悪質な行為や身体的接触を伴うセクハラでは、厳重注意のみでは会社の対応義務を果たしたとは認められないリスクがあります。外部弁護士の評価を踏まえて判断することを推奨します。

Q. 外部相談窓口の導入費用はどれくらいかかりますか?

A. 提供主体や機能によって異なりますが、社労士事務所やEAPプロバイダーが提供するシンプルな外部相談窓口サービスであれば、月額数万円から導入できるものがあります。弁護士法人が窓口を担う場合や、EAPにカウンセリングが含まれる場合は費用が上がります。役員セクハラのリスクを踏まえると、コストよりも「被害の早期把握」と「会社の対応記録」を確保できる点に価値があります。

Q. 被害者がすでに労働局に申告した場合、会社はどう対応すればよいですか?

A. 労働局(雇用均等室)から助言・指導・調停の勧告が来た場合、誠実に対応することが法的にも実務的にも重要です。無視・拒否は行政指導の強化や公表リスクにつながります。申告があった時点で弁護士に状況を共有し、会社としての対応方針・事実経緯の整理・窓口担当者の指定を速やかに行ってください。行政手続きへの対応と社内の対応是正を並行して進めることが、最終的な紛争拡大の防止につながります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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