「在宅勤務中に従業員がケガをしたと連絡が来た。これって労災になるの?」——テレワークが定着した今、こうした場面に直面する経営者・担当者は少なくありません。自宅での出来事だから会社は関係ない、と直感的に思いたくなるのは自然なことです。しかし、その判断が「労災隠し」につながるリスクがあることをご存知でしょうか。在宅勤務中のケガは、条件次第で労災に認定されます。この記事では、認定の判断基準から申請手続きまで、専任人事がいない職場でもすぐに動けるよう整理します。
在宅勤務中のケガは労災になるか
結論からいうと、在宅勤務中のケガも要件を満たせば労災として認定されます。「自宅=プライベートな空間」というイメージから申請をためらうケースが多いですが、場所が自宅かどうかは労災認定の決め手ではありません。
労災認定に必要な2つの要件
労災保険法における労災認定は、勤務場所が事業場でも自宅でも、基本的に同じ2つの要件で判断されます。
| 要件 | 意味 |
|---|---|
| 業務遂行性 | 使用者の指揮命令下にある状態(所定労働時間内に業務を行っているかどうか) |
| 業務起因性 | 業務が原因となってケガが生じたかどうか |
厚生労働省が公表しているテレワーク関連ガイドラインでは、「所定労働時間中に自宅で業務を行っている場合、事業場での勤務と同様に労働基準法・労災保険法が適用される」と明示されています。つまり、在宅勤務中の就業時間中に業務に関連してケガをした場合は、自宅であっても労災の対象になり得ます。
テレワーク特有の難しさとは
問題は、自宅という空間には「仕事」と「私生活」が混在していることです。事業場であれば就業時間中はほぼ業務に専念しているとみなせますが、在宅勤務では就業時間中に子どもの世話をしたり、家事をこなしたりするケースも現実にあります。この「業務と私的行為の混在」が、労災認定の判断を複雑にしています。
業務中と私的行為の線引き——どこで分かれるか
在宅勤務中の労災認定で最も重要な判断軸は「ケガの原因が業務行為か、私的行為か」です。所定労働時間内であっても、私的な行為中のケガは労災に認定されにくくなります。
認定されやすいケース
次のような状況でのケガは、業務との関連性が明確なため、認定される可能性が高いです。
- PC作業中に椅子から転落してケガをした
- 業務に必要な書類やファイルを取りに移動した際に転倒した
- 業務で使用しているモニターや机が倒れてケガをした
- 上司からの指示を受けてすぐに動いた際に発生したケガ
認定されにくいケース
一方、以下のような状況では業務起因性が否定されやすくなります。
- 就業時間中に子どもの世話をしていてケガをした
- 昼休憩中に自炊をしていて包丁で切り傷を負った(休憩時間は業務遂行性がない)
- 業務とは無関係な場所や行為中に発生したケガ
トイレや飲み物取りなど「生理的行為」はグレーゾーン
判断が難しいのが、トイレや水を飲みに行く、といった生理的・準備的な行為中のケガです。事業場内でのトイレ中のケガは多くの場合、労災として認定される実務慣行があります。しかしテレワーク中の場合は個別の事情を踏まえた判断になります。業務との時間的な近接性(作業の直前・直後か)や、行為の業務関連性(業務のために飲み物を取りに行ったか否か)が判断材料となります。「これは認定されるか?」と迷う場面では、まず労働基準監督署に相談することをお勧めします。
会社が取るべき対応——報告を受けてから申請までの流れ
従業員からケガの連絡を受けたら、会社は事実確認と書類対応をすみやかに進める必要があります。申請を「拒否」したり遅らせたりすることは、法的に許されません。
申請の流れを把握する
従業員からケガの報告を受けたら、発生日時・場所・状況・業務との関連を記録します。次に、医療機関に「労災保険を使う」旨を伝えるよう従業員へ案内します。その後、休業が4日以上の場合は労働者死傷病報告(様式第23号)を、4日未満の場合は様式第24号を労働基準監督署へ提出します。療養補償給付や休業補償給付の申請書類(様式第5号等)も労基署へ提出し、最終的に労基署が業務起因性を調査・認定します。
会社が担う役割は「事実確認と書類の提出サポート」であり、認定の可否を会社が判断するわけではありません。判断に迷う場合は、一度労働基準監督署に相談してから進めることをお勧めします。
自宅での状況確認はどうすればよいか
テレワーク中の事故では、タイムカードや監視カメラによる確認ができません。そのため、次のような情報を従業員から収集・記録しておくことが重要です。
- ケガが発生した時刻と、その直前に行っていた業務の内容
- 業務上のチャットログ・メール・通話記録など業務中であったことを示す記録
- ケガの状況を示す写真(可能であれば)
- 医療機関の診断書
専任人事がいない職場では、この記録収集を経営者や兼務担当者が直接行うことになります。事実確認のヒアリングは、できるだけ早いタイミングで実施してください。時間が経つほど記憶が薄れ、状況の再現が難しくなります。
申請を抑制することのリスク
「自宅でのケガだから健康保険で処理してほしい」と従業員に伝えてしまうケースがあります。しかし、業務起因性が認められる場合に健康保険を使うことは不正利用にあたります。また、従業員の労災申請を妨害する行為は、労働基準法違反として刑事罰の対象になります。
「労災を申請すると保険料が上がる」と心配する声もありますが、メリット制(保険料率の増減)が適用されるのは一定規模以上の事業場に限られており、中小企業の多くは対象外です。適切に申請することが、会社・従業員双方を守ります。
🔗 判断に迷う場合は、精神科・心療内科医によるスポット産業医に相談し、労災対応を適切にサポートしてもらうことをお勧めします。 →
在宅勤務のルール整備——いざというときに備える
テレワーク中の労災対応を適切に行うには、事故が起きる前の「ルール整備」が不可欠です。コロナ禍以降テレワークを導入した企業の多くが、就業規則や社内ルールに在宅勤務時の労務管理を明記していません。
就業規則・テレワーク規程に盛り込むべき内容
テレワーク規程または就業規則の在宅勤務に関する条項には、少なくとも次の内容を明記することが推奨されます。
- 在宅勤務時の労働時間の管理方法(始業・終業の報告ルール)
- 業務中のケガ発生時の報告義務と手順
- 業務スペースの安全確保に関する従業員の義務
- 私的行為と業務行為の区分に関する基本的な考え方
就業規則の変更には労働者代表への意見聴取と労働基準監督署への届出が必要です(常時10名以上の場合)。10名未満の事業場であっても、テレワーク規程を文書化して従業員に周知しておくことが望ましいです。
従業員が申告しやすい環境をつくる
自宅でのケガを「自分のせい」「プライベートなこと」と思い込み、会社に報告しない従業員は少なくありません。報告が遅れると、事実確認が困難になり、労災申請の手続きにも支障が出ます。「自宅でのケガも遠慮なく報告してほしい」という意図を、日ごろのコミュニケーションや社内通知で明確に伝えておくことが大切です。申告を受けた際に会社が適切に対応することで、従業員の安心感につながります。
まとめ
在宅勤務中のケガは、業務遂行性と業務起因性の2要件を満たす場合、労災として認定されます。「自宅だから労災にならない」という思い込みは、申請漏れや労災隐しのリスクにつながります。業務中のケガか私的行為中のケガかという線引きが判断の核心であり、グレーゾーンについては労働基準監督署への確認が最も確実です。また、テレワーク規程の整備や従業員への周知など、事前の備えが「いざというとき」の対応スピードを大きく左右します。
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よくある質問
🔗 テレワーク時代の労災対応は、外部の専門家サポートを活用し、経営者・人事の負担を減らすことが重要です。 →
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