傷病欠勤中の有給充当、会社が断れる3つの条件

傷病欠勤中の有給充当、会社が断れる3つの条件 労務管理
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「欠勤扱いにするより有給で処理してほしい」——従業員からそう言われたとき、あなたはどう対応しましたか?断る根拠もよくわからないまま、なんとなく認めてしまった経験はないでしょうか。傷病欠勤中の有給充当は、対応を誤ると休職管理や傷病手当金の手続きにも影響が及びます。この記事では、会社が有給充当を断れる条件と、就業規則で整えておくべきポイントを実務の視点から整理します。

傷病欠勤中の有給充当、会社は断れるのか

結論から述べると、就業規則に「傷病欠勤中・休職期間中の有給充当は認めない」と明記している場合、会社は合理的に拒否できます。一方、就業規則が沈黙している場合は、認めざるを得ない状況になりやすいのが実務の現状です。

有給休暇の「時季指定権」と会社の「時季変更権」

年次有給休暇は、労働基準法第39条により、労働者が「いつ取るかを指定する権利(時季指定権)」を持ちます。一方、会社には同条第5項に基づく「時季変更権」があり、「事業の正常な運営を妨げる場合」には別の日に変更させることができます。

ただし、傷病欠勤中の従業員はすでに就労していない状態にあります。有給休暇はあくまで「本来働くべき日に取得するもの」であり、欠勤が確定した日に遡って有給を充当することは、法律上の権利として当然に認められるものではありません。

裁判例が示す「就業規則の定め」の重要性

複数の裁判例では、「傷病欠勤中の有給取得の可否は就業規則の定めによって判断される」という立場が示されています。就業規則に禁止・制限の定めがあれば会社が拒否できる、定めがなければ原則として認めざるを得ない、という解釈が実務的に定着しつつあります。

つまり、会社が「断れるかどうか」の鍵は、就業規則に何が書かれているかにかかっています。口頭での申し合わせや慣行では、トラブルになったときに根拠として機能しません。

「なんとなく認めてきた」前例が積み重なるリスク

就業規則に定めがない状態で個別に対応を続けると、「あの人には認めたのに自分には認めない」という不公平感が生まれます。さらに、前例が積み重なることで後から運用を変えることが難しくなります。専任人事のいない会社では特に、こうした「暗黙のルール」が後々のトラブルの火種になりがちです。

会社が有給充当を断れる3つの条件

傷病欠勤中の有給充当を会社が断れるのは、主に次の3つの条件が揃っている場合です。就業規則の整備状況と運用の一貫性がポイントになります。

就業規則に明確な禁止・制限規定がある

最も重要な条件は、就業規則(または休職規程)に「傷病欠勤中・休職期間中は有給休暇の充当を認めない」と明記されていることです。この一文があるだけで、会社は「規則に基づいて対応しています」と説明でき、個別判断による不公平感も防げます。

就業規則がない、またはこの点について何も書かれていない場合は、まず整備することが先決です。後述する記載事項を参考にしてください。

休職発令の要件が就業規則に定められている

傷病欠勤が続く場合、欠勤何日目で休職に移行するかが就業規則で定められていることも重要です。たとえば「連続して30日以上欠勤した場合、会社は休職を命じることができる」のように規定しておくと、発令タイミングが客観的に判断でき、「なぜ今休職を命じられるのか」という従業員の疑問にも答えやすくなります。

休職発令を「会社の命令」として設計しておくことで、従業員の意思ではなく会社の判断で切り替えられる裁量が生まれます。これは後々の復職・退職判断にも影響するため、丁寧に規定しておく価値があります。

全従業員に対して一貫した運用がされている

規則があっても、ある従業員には認め、別の従業員には断るという運用をしていると、差別的取り扱いとして労使トラブルに発展するリスクがあります。一度ルールを定めたら、全員に対して同じ基準で適用することが前提です。

過去に例外的な対応をしてしまった場合は、その事実を記録しておき、今後の運用変更を周知する形で対応を改めるステップを踏みましょう。

傷病手当金との関係を理解しておく

従業員が「有給を充当してほしい」と言ってくる背景には、傷病手当金の仕組みをよく知らないことが多くあります。この点を会社側が理解しておくと、従業員への情報提供として機能し、結果として双方にとって有利な選択につながります。

有給を使うと傷病手当金が止まる

健康保険法第99条に基づく傷病手当金は、療養のため仕事を休んだ日(連続3日の待機期間を経た4日目以降)に支給されます。ただし、有給休暇を取得した日は「給与が支払われた日」とみなされるため、原則として傷病手当金は支給されません。なお、有給中の給与額が傷病手当金の日額を下回る場合は、差額が調整支給されます。

つまり、有給を充当すると短期的には給与が入りますが、傷病手当金を受け取れる期間が変わる可能性があります。

「有給を使わない方が経済的に有利」なケースもある

休職が長期化する場合、傷病手当金を最大限活用した方が従業員にとって経済的に有利なことがあります。傷病手当金は標準報酬日額の3分の2相当が最長1年6か月支給されるため、有給を温存してその後の傷病手当金受給に備えるという考え方もあります。

ただし、有給を先に使い切ってから傷病手当金を受け取るか、すぐに傷病手当金を受け取るかは、従業員本人の希望や状況にもよります。会社側が「こういう制度があります」と情報を提供し、判断は本人に委ねるスタンスが適切です。

会社が知っておくべき説明の範囲

傷病手当金の申請手続きは従業員本人が行うものですが、会社が事業主証明欄に記入するなどの協力が必要です。制度の存在を知らせることは会社の義務ではありませんが、知らせることで「有給充当を求めてくるケースが減る」という実務上のメリットがあります。丁寧な情報共有が、無用なトラブルを防ぐことにつながります。

傷病欠勤から休職への移行フロー

傷病欠勤が続いたとき、どのタイミングで何をするべきかを整理しておくことが、会社・従業員双方にとっての安心感につながります。以下のフローを参考に、自社の就業規則と照らし合わせてください。

一般的な移行の流れ

段階 内容 就業規則での定め方の例
傷病欠勤開始 診断書の提出を求める 「欠勤3日以上は医師の診断書を提出すること」
有給消化 残有給がある場合の取り扱いを規定 「傷病欠勤中の有給充当は認めない」または「本人申請があれば認める」
休職発令 連続欠勤○日以上で会社が命令 「連続30日以上欠勤した場合、休職を命じることができる」
休職期間中 定期的な状況確認・復職可否の判断 「休職期間は○か月とし、延長は○回まで認める」
復職または退職 主治医・産業医の意見をもとに判断 「休職期間満了時に復職できない場合は自然退職とする」

休職発令のタイミングを誤るリスク

よくある不安として「休職を命じるタイミングが早すぎると不当解雇になるのでは?」というものがあります。休職発令は解雇ではなく、雇用を継続しながら就業を猶予する措置です。就業規則に基づいて適切な手順で行う限り、不当解雇リスクは生じません。むしろ発令を引き延ばすことで、欠勤扱いの期間が長くなり、欠勤控除や給与計算の管理が複雑になるリスクの方が高まります。

産業医がいない会社での対応

産業医の選任義務がない50人未満の事業場では、産業医による就業判断ができません。その場合は、主治医の診断書を基本としつつ、必要に応じて地域産業保健センター(産業保健総合支援センター)の無料相談を活用する方法があります。就業規則に「復職判断は会社が指定する医師の意見を参考にする」と書いておくと、判断の根拠が明確になります。

就業規則に盛り込むべき具体的な記載事項

会社の運用を守るためには、就業規則(または休職規程)に以下の内容を明記しておくことが最も効果的です。規則がない状態での個別対応には限界があります。

有給充当に関する規定

傷病欠勤中の有給充当を認めるかどうか、認める場合の条件を明確に記載します。「傷病による欠勤期間中は、原則として年次有給休暇の充当を認めない。ただし、会社が認めた場合はこの限りでない」のように、原則と例外を整理した書き方が実務的です。

完全に禁止するか、申請があれば認めるかは会社の方針によりますが、どちらの場合も「明文化されていること」が重要です。

休職発令・期間・終了に関する規定

休職発令の要件(連続欠勤の日数など)、休職期間の長さ(勤続年数に応じて変える会社も多い)、期間満了時の取り扱い(復職・退職)を具体的に定めます。「定めておけば良かった」と後悔するタイミングは、必ずトラブルが起きてからです。前もって整備しておくことで、従業員にも「会社がちゃんとしたルールで動いている」という安心感を与えられます。

規則改定時の周知と同意

既存の就業規則を変更する場合、労働者の不利益になる変更は合理的な理由と適切な周知が必要です(労働契約法第10条)。「今まで認めていたのに急に拒否する」という対応は、過去の取り扱いとの整合性が問われることがあります。規則を改定する場合は、改定内容と施行日を明示した上で、全従業員に対して丁寧に説明する機会を設けましょう。

まとめ

傷病欠勤中の有給充当を会社が断れるかどうかは、就業規則に明確な定めがあるかどうかで決まります。法律が直接「禁止できる」と定めているわけではなく、就業規則の整備が会社の対応根拠になるという構造を理解しておくことが重要です。また、傷病手当金との関係を把握し、従業員に適切な情報提供ができると、有給充当をめぐるすれ違いを未然に防ぐことができます。傷病欠勤→休職への移行フローを就業規則に落とし込み、一貫した運用ができる体制を整えることが、会社・従業員双方にとっての安心につながります。

「うちの就業規則、この点がちゃんと書けているか確認したい」「休職の発令タイミングが正しいかどうか不安」——そうしたお悩みは、ウェルセンス株式会社にご相談ください。専任人事がいない環境での人事労務対応を、実務に即した形でサポートします。

よくある質問

Q. 就業規則に何も書いていない場合、従業員の有給充当希望を断ることはできますか?

A. 就業規則に禁止・制限の定めがない場合、裁判例の傾向では「原則として認めざるを得ない」という判断がされやすい状況にあります。断りたい場合は、まず就業規則に明確な規定を設けることが先決です。規則改定には従業員への周知が必要ですので、社会保険労務士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

Q. 有給休暇を使い切ったら、すぐに休職を命じなければなりませんか?

A. 有給休暇の消化と休職発令は直接リンクしているわけではありません。就業規則で「連続欠勤○日以上で休職を命じることができる」と定めているのであれば、その要件を満たしたタイミングで発令すれば足ります。有給が残っていても要件を満たせば発令できますし、有給を使い切っても欠勤日数が要件に達していなければ発令しないこともあります。自社の就業規則の要件を確認してください。

Q. 傷病手当金の申請は会社が手伝う義務がありますか?

A. 傷病手当金の申請手続き自体は従業員本人が行うものです。ただし、申請書の「事業主記入欄」(休んだ期間・給与支払い状況の確認)については会社が記入・証明する必要があります。この記入を拒否することは、従業員の権利を阻害することになるため適切ではありません。手続きの流れを把握しておき、従業員から求められた際にスムーズに対応できる体制を整えておきましょう。

Q. 過去に有給充当を認めてしまった前例があります。今後から断ることはできますか?

A. 過去の前例があっても、就業規則を正式に改定し、全従業員に周知した上で施行日以降から新ルールを適用することは可能です。ただし、改定内容が従業員にとって不利益な変更にあたる場合は、合理的な理由の説明と丁寧な周知が求められます(労働契約法第10条)。「以前は認めていたのに急に変わった」という不満が出ないよう、変更の経緯と理由を明確に伝えることが重要です。

Q. 産業医がいない小規模な会社でも、休職・復職の判断はできますか?

A. 産業医の選任義務は常時50人以上の事業場に課せられていますが、50人未満の事業場でも休職・復職の判断を行うことは可能です。主治医の診断書を基本としつつ、必要に応じて都道府県ごとに設置されている「産業保健総合支援センター(さんぽセンター)」の無料相談を活用する方法があります。また、就業規則に「会社が指定する医師の意見を参考にして判断する」と記載しておくことで、判断の根拠を明確にできます。

【監修】ウェルセンス株式会社
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