有期契約社員の育休中に雇止めして大丈夫か迷ったら

有期契約社員の育休中に雇止めして大丈夫か迷ったら コンプライアンス
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「契約期間が終わるんだから、更新しなくても問題ないよね?」——有期契約社員の方が妊娠・産休・育休中に契約満了を迎えた場合、そう思ってしまうのは無理もありません。しかし、その判断が思わぬ法的リスクを招くことがあります。育児・介護休業法や男女雇用機会均等法には、妊娠・産休・育休を理由とした不利益取扱いを禁止する明確な条文があり、「契約が切れるから」という理由だけでは通らないケースが少なくありません。この記事では、有期契約社員の産休育休中に雇止めを検討する際の違法判断、どんな場面でリスクが高まるのか、どうすればトラブルを避けられるのかを、実務の目線で整理します。

産休・育休中の有期契約社員への雇止めが「違法」になる根本的な理由

有期契約であっても、妊娠・産休・育休を理由とした雇止めは法律で明確に禁止されています。「契約が終わるだけ」という認識は、この点で大きな誤解を招きます。

育児・介護休業法が定める不利益取扱いの禁止

育児・介護休業法第10条は、育児休業の申出・取得を理由とした解雇・雇止め・降格・不利益な取扱いを禁止しています。この規定は正社員に限った話ではなく、有期契約社員にも等しく適用されます。つまり、「育休を取ったから更新しない」「産休中に契約が切れるので終了する」という判断が、育休取得を理由とした不利益取扱いとみなされると、雇止め自体が違法・無効になります。

男女雇用機会均等法が定める立証責任の逆転

男女雇用機会均等法第9条第3項は、妊娠中・産後1年以内の解雇について、「妊娠等が理由ではないことを事業主が証明しない限り無効」と定めています。つまり、立証責任は会社側にあります。妊娠を申告された後に更新しないと決めた場合、「妊娠とは関係なく更新しないつもりだった」と会社が証明できなければ、有期契約社員への雇止めは無効とされるリスクが高くなります。妊娠の申告後に方針を変えた場合は特に注意が必要です。

産前産後休業・育休期間中の解雇禁止

労働基準法第19条は、産前産後休業の期間およびその後30日間の解雇を禁止しています。また育児休業中の解雇禁止については育児・介護休業法でも別途規定されています。有期契約の雇止めであっても、実質的に「解雇に当たる」と評価された場合は、これらの禁止規定が適用される可能性があります。「契約終了」という言葉の形式よりも、実態として雇用を打ち切ることの意味が問われます。

雇止め法理とは何か——更新を重ねた有期契約社員への特別なルール

何度も契約を更新してきた有期契約社員を期間満了で終了させるためには、通常の解雇と同様の「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。これを雇止め法理(労働契約法第19条)といいます。

「雇用継続への合理的期待」が生じる場面

労働契約法第19条は、次のいずれかに該当する有期契約の雇止めを制限しています。一つは、過去に反復更新されており、実質的に期間の定めのない契約と同視できる場合です。もう一つは、契約満了時に労働者が雇用継続を期待することに合理的な理由がある場合です。更新回数が多いほど、勤続年数が長いほど、この「期待」は強くなる傾向があります。たとえば5~6回以上更新してきた有期契約社員に対して、妊娠を機に初めて更新しないと告げることは、相当なリスクを伴います。

「自動更新慣行」と口頭での継続示唆に注意

契約更新のたびに本人と十分な面談をせず、ほぼ自動的に更新してきた実態がある場合、形式的な契約書の記載よりも「実態」が優先されます。また、担当者が悪意なく「次も更新しますよ」と口頭で伝えてしまったケースも、雇用継続への期待を強める言動として問題になり得ます。書面がなくても、こうした発言が後々の紛争材料になることは少なくありません。

無期転換ルールが適用される場合はさらに慎重に

有期契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者の申込みにより無期契約に転換する権利が生じます(労働契約法第18条)。無期転換後は実質的に正社員と同様の解雇法理が適用されるため、雇止めではなく「解雇」として扱われます。在籍年数が長い有期契約社員については、無期転換権が発生しているかどうかも必ず確認してください。

許容される契約終了と許容されない雇止め——判断の分かれ目

すべての雇止めが違法になるわけではありません。妊娠・産休・育休中であっても、一定の条件を満たせば適法に契約を終了できる場合があります。ただし、その条件は厳格です。

適法な契約終了が認められる可能性がある場合

妊娠の申告より前に、業務量の減少・プロジェクト終了・経営上の理由など客観的な事情に基づいて「更新しない」方針が固まっており、かつその判断が書面・メール等で記録されている場合は、妊娠を理由とした不利益取扱いとはいえないと判断される可能性があります。また、更新回数が少なく(1~2回程度)、契約書に「業務の都合により更新しない場合がある」旨が明記されており、更新時に毎回丁寧な確認手続きを行っていた場合は、雇止め法理が適用されにくい状況です。

違法と判断されるリスクが高い場合

一方、次のような状況では違法と評価されるリスクが高くなります。妊娠の申告を受けて初めて更新しないことを決定した、複数回の更新実績があり特に更新を断る理由がない、「次も更新する」と伝えていた、産休・育休の申請を受けた後に方針が変わったなどの場合です。こうした事情が重なると、たとえ「契約期間の満了」という形式をとっても、実態として妊娠・育休を理由とした不利益取扱いとみなされます。

判断の目安となる確認表

確認事項 リスクが低い状況 リスクが高い状況
更新しない方針の決定時期 妊娠申告より前に決定・記録あり 妊娠申告後に決定
更新回数・勤続年数 1~2回・短期間 5回以上・長期間
更新時の手続き 毎回丁寧に確認・書面あり ほぼ自動更新・口頭のみ
口頭での継続示唆 なし 「次も更新します」と伝えていた
契約書の記載 「更新しない場合がある」旨が明記 更新上限・条件の記載なし

実務で取るべき手順——トラブルを防ぐための進め方

有期契約社員への雇止めを検討する際は、感情的・場当たり的に進めず、手順を踏んで記録を残すことが重要です。対応の流れを整理します。

まず事実関係と経緯を書面で整理する

まず最初に行うべきは、更新の経緯と雇止め判断に至った理由の整理です。妊娠の申告を受けた日付、更新しない方針を決めた日付、その理由(業務終了・人員縮小等)を時系列で記録してください。「妊娠と雇止めの判断が無関係であること」を後から証明するためには、この記録が最大の根拠になります。

30日前の事前予告と雇止め理由の明示義務を確認する

次に確認すべきは手続面です。契約期間が1年を超えている場合や、3回以上更新されている場合は、少なくとも契約満了の30日前に雇止めの予告が必要とされています(厚生労働省告示に基づく)。また、本人から雇止め理由の説明を求められた場合は、書面で理由を明示する義務があります。「契約満了のため」という一言だけでは不十分で、具体的な事情を説明できるようにしておく必要があります。

本人から「マタハラ」と言われたときの対応

雇止めを告知した後に、本人が「マタニティハラスメント(マタハラ)だ」と主張してきた場合は、感情的に否定するのではなく、まず事実確認と記録の整理に集中してください。反論よりも先に、社内の相談窓口または外部の専門家(社会保険労務士・弁護士)に相談することを強くお勧めします。初動対応を誤ると、その後の紛争解決が大幅に難しくなります。

よくある誤解と落とし穴

実務の現場では、善意で進めた対応が後から問題になるケースが見られます。代表的な誤解を確認しておきましょう。

「契約書に更新しないと書いてある」は完全な免責にならない

契約書に「業務の都合により更新しない場合がある」と記載されていることは、雇止め法理や不利益取扱い禁止の適用を一定程度抑制する効果がありますが、完全な免責にはなりません。実態として更新が繰り返されてきた場合や、妊娠申告後に方針が変わった場合は、契約書の文言より実態と経緯が優先されます。書面の整備は必要ですが、それだけで安心するのは危険です。

「産休・育休明けにすぐ終了」も要注意

産休・育休から復帰した直後のタイミングで契約を終了するケースも、育休取得を理由とした不利益取扱いとして問題になり得ます。特に、休業前には更新を予定していたのに、休業取得を契機に方針が変わったような場合は、法的リスクが高くなります。復帰後に雇用を終了する場合は、その理由が業績・業務量・本人の能力など育休と無関係であることを丁寧に説明できる準備が必要です。

専任人事がいない会社ほどリスクが高い

専任の人事担当者がいない中小企業では、こうした法的リスクを把握しないまま経営者や現場の判断で対応が進むことが少なくありません。「悪意はなかった」「知らなかった」という事情は、法律上の責任を免除する理由にはなりません。判断に迷う場面では、早めに専門家に相談することが最大のリスク回避策です。

まとめ

有期契約社員であっても、妊娠・産休・育休を理由とした雇止めは育児・介護休業法・男女雇用機会均等法・労働契約法によって明確に制限されています。「契約期間が終わるだけ」という認識だけでは対応しきれない法的ルールがあり、特に更新を繰り返してきた社員への雇止めは、解雇と同等の厳しい判断基準が適用されます。

適法に進めるためには、妊娠申告前に客観的な理由で方針を固めること、手続きを記録に残すこと、事前予告と雇止め理由の明示を適切に行うことが重要です。判断に迷う場面では一人で抱え込まず、早めに専門家に相談することをお勧めします。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務人事担当者の方からの、産休・育休対応や有期契約社員の雇用に関する実務的なご相談をお受けしています。「自社のケースがどちらに当たるか確認したい」「何から始めたらよいか分からない」という段階のご相談でも、お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 契約書に「更新の上限は3回まで」と書いてあり、ちょうど3回目の更新で妊娠しました。このタイミングで雇止めしても問題ありませんか?

A. 契約書に更新上限が明記されており、かつ妊娠の申告前から「3回で終了」というルールが一貫して運用されていた場合は、リスクが相対的に低くなります。ただし、他の従業員の上限を超えて更新した実績がある場合や、口頭で継続を示唆していた場合は、その限りではありません。契約書の記載だけでなく、実際の運用実態と判断の時系列を整理したうえで判断することが重要です。

Q. 産休・育休中に一度更新して、育休明けに雇止めすることはできますか?

A. 育休明けのタイミングでの雇止めも、育休取得を理由とした不利益取扱いとみなされるリスクがあります。育休中に一度更新した事実は、雇用継続への期待をさらに高めます。育休とは無関係な客観的な理由(業務量の大幅な減少・プロジェクト終了等)があり、それを説明できる記録がある場合に限り、適法となる可能性があります。判断が難しいケースでは専門家への相談を強くお勧めします。

Q. 雇止めの30日前予告は、すべての有期契約社員に必要ですか?

A. すべてのケースに必要なわけではありませんが、契約期間が1年を超えている場合、または3回以上更新されている場合は、厚生労働省告示に基づき契約満了の30日前までに雇止めの予告を行う必要があります。該当するかどうかは、在籍年数・更新回数を確認したうえで判断してください。なお、予告が遅れた場合もすぐに無効になるわけではありませんが、対応の誠実さが争点になることがあります。

Q. 本人から「マタハラだ」と言われてしまいました。最初にすべきことは何ですか?

A. まず感情的に反論することは避けてください。最初にすべきことは、雇止めに至った経緯と理由を時系列で整理し、関連する書面・メール・面談記録を保全することです。その後、社会保険労務士または弁護士に相談し、今後の対応方針を決めることをお勧めします。「知らなかった」「悪意はなかった」という状況から早期に事実を整理することが、問題の拡大を防ぐ最善策です。

Q. 有期契約社員が無期転換権を使って無期契約に転換した後も、雇止めできますか?

A. 無期転換後は「雇止め」という概念がなくなり、「解雇」として扱われます。そのため、正社員と同様に、解雇権濫用法理(労働契約法第16条)に基づき、客観的合理的な理由と社会通念上の相当性が必要になります。妊娠・産休・育休を理由とした解雇は当然禁止されており、無期転換後はさらに厳格な対応が求められます。無期転換権の発生状況は通算勤続年数で確認できますので、在籍期間が5年を超える有期契約社員については必ず確認してください。

【監修】ウェルセンス株式会社
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