給与締め日を迎えて、ふと気づく。「あ、今月は給与ゼロだ。住民税、どうすればいいんだろう?」——休職対応に追われているうちに、住民税の切り替え手続きが完全に後回しになっていた、というケースは少なくありません。傷病手当金の申請書類、職場復帰支援の調整、本人とのやりとり……やることが山積みの中で、住民税まで頭が回らないのは無理もないことです。ただ、手続きを放置すると会社に督促状が届くリスクもあります。この記事では、休職で給与がゼロになったとき、会社として何をすべきかを具体的な手順と本人への説明文例とともに整理します。
給与ゼロ月の住民税、会社はどう対応する?
給与から住民税を天引きできなくなった場合、会社は「特別徴収から普通徴収への切り替え届出」を市区町村に提出する必要があります。放置すると、会社が未納扱いとなり督促が届く可能性があります。
特別徴収・普通徴収とは何か
住民税の納付方法には2種類あります。特別徴収とは、会社が毎月の給与から住民税を天引きして、代わりに市区町村へ納付する方法です。給与をもらっている会社員のほとんどがこの方法です。一方、普通徴収とは、市区町村から本人に納付書が送られ、本人が直接納付する方法です。フリーランスや個人事業主が代表的ですが、給与の支払いが止まった休職者も対象になります。
地方税法第321条の4により、給与を支払う会社は原則として特別徴収義務者として住民税を天引き・納付する義務を負っています。しかし同法第321条の5により、休職などで給与から差し引けない状態になった場合は、普通徴収への切り替えが認められています。
手続きをしないとどうなるか
「届出をしなくても、市区町村が勝手に切り替えてくれるだろう」と思いがちですが、それは誤りです。会社から届出がない限り、市区町村は特別徴収が継続しているものとして管理し続けます。その結果、住民税が納付されていないとして会社に督促状や差押え予告が届くことがあります。本来は本人の税金であっても、特別徴収義務者としての責任が会社に問われる形になるため、給与ゼロが確定した時点で速やかに手続きを取ることが重要です。
切り替えの手続き:何を・いつ・誰が行うか
手続きの主体は会社(人事・給与担当者)で、提出書類は「給与所得者異動届出書」です。給与ゼロが確定した月の翌月10日を目安に、社員の住所地の市区町村へ提出します。
提出する書類と記載内容
提出する書類の正式名称は「給与所得者異動届出書」(自治体によって様式が若干異なる場合があります)です。多くの市区町村のウェブサイトからダウンロードできます。記載のポイントは以下のとおりです。
- 「異動の区分」欄:普通徴収へ切り替える旨を記入
- 「普通徴収への切替理由」欄:「休職により給与の支払いなし」などと記載
- 「未徴収税額の処理方法」欄:一括徴収か普通徴収かを選択(後述)
- 社員の氏名・住所・生年月日・異動年月日を正確に記入
提出先は社員の住所地の市区町村です。本社の所在地ではないことに注意してください。複数の自治体に住んでいる社員がいる場合は、それぞれの自治体に個別に提出が必要です。
提出タイミングの目安
給与ゼロが確定した月の翌月10日までが一般的な目安とされていますが、自治体によって異なる場合があります。休職が確定した時点でなるべく早く確認・準備を始めることをおすすめします。給与計算の締め日になって初めて気づいた、という場合でも、気づいた時点で速やかに提出することが重要です。
未徴収分の住民税はどう処理する?
休職開始時点で、その年度の住民税がまだ徴収しきれていない場合、処理方法は主に2つです。休職が始まった時期によって判断が変わります。
| 休職開始時期 | 残額の目安 | 推奨される処理 |
|---|---|---|
| 6月〜12月 | 多い | 普通徴収への切り替えが現実的 |
| 1月〜5月(年度末に近い) | 少ない | 最終給与からの一括徴収も選択肢 |
一括徴収とは、休職前の最終給与からまとめて残額を差し引く方法です。残額が少ない場合は本人の負担感も小さく、処理がシンプルになります。ただし最終給与の額が少ない場合は全額を差し引けないため、その場合は普通徴収との組み合わせになります。
休職中の社員への説明:何をどう伝えるか
本人への説明は、「普通徴収に切り替わる」「納付書が届く」「期限までに自分で納付する必要がある」の3点を、穏やかかつ具体的に伝えることが基本です。精神的に不安定な状態の社員には、情報を絞りシンプルに伝えることが重要です。
伝えるべき内容の整理
住民税の切り替えは会社都合ではなく、制度上の仕組みであることを最初に伝えると本人の不安が和らぎます。以下の3点を漏らさず伝えてください。
- 給与からの天引きができなくなるため、住民税の納付方法が変わること
- 市区町村から自宅に納付書が届くこと(届く時期は自治体によって異なる)
- 納付書に記載された期限までに、金融機関・コンビニ・口座振替などで納付が必要なこと
本人への説明文例(メール・文書)
以下は、休職中の社員に送る通知文の一例です。会社の実態に合わせて適宜修正してください。
〇〇さん
お休み中のところ、ご連絡をさせていただきます。
住民税のお支払い方法についてご案内します。これまでは毎月の給与から住民税を差し引いていましたが、今月から給与のお支払いがない期間に入るため、制度上、住民税の納付方法が「普通徴収(ご自身での直接納付)」に切り替わります。
近日中に、お住まいの市区町村から自宅宛てに「住民税納付書」が届きます。届きましたら、記載の期限までに金融機関・コンビニ・口座振替等でお支払いいただけますようお願いします。
ご不明な点があれば、遠慮なくご連絡ください。どうぞご自身の回復を最優先になさってください。
〇〇株式会社 人事担当
滞納リスクへの備え
住民税を普通徴収に切り替えた後、本人が納付を忘れてしまう・精神的余裕がなく対応できないというケースがあります。滞納が続くと延滞金が発生し、最終的には差押えになることもあります。会社に直接の責任はありませんが、本人から「知らなかった」とクレームが来ることもあります。
対策として、納付書が届く時期(切り替え後の翌月〜数か月後が目安)に合わせて、担当者から一言確認の連絡を入れることをおすすめします。また、傷病手当金を受給している場合、その受給額から納付できるかどうかを本人が把握できるよう、金額感を一緒に伝えると親切です。
復職時にやるべきこと:特別徴収への再切り替え
復職して給与の支払いが再開されても、住民税の天引きは自動では再開されません。会社が改めて「特別徴収への切り替え届出」を市区町村に提出する必要があります。
なぜ自動で戻らないのか
一度普通徴収に切り替えると、市区町村の管理上は「本人が直接納付している」状態として扱われます。給与が再開されたことを市区町村は知りません。そのため、会社側から改めて届出をしない限り、本人が普通徴収で納付しているにもかかわらず会社が給与から二重控除してしまう、あるいは逆に誰も納付しない状態になる、といったトラブルが起きることがあります。
復職時の手続き
復職が確定したタイミングで、「特別徴収切替申請(再開)」の届出を社員の住所地の市区町村に提出します。書類名は自治体によって異なりますが、「特別徴収への切替申請書」または「給与所得者異動届出書(特別徴収開始)」などの名称が一般的です。
復職日・給与支払い再開月を確認してから提出するようにしましょう。また、復職後しばらくの間は時短勤務などで給与額が変動するケースもあります。住民税の月割り額と給与額のバランスを確認し、天引きできない月が生じる場合は再度の調整が必要になることもあります。
🔗 休職者への対応は税務手続きだけでなく、復職支援も重要です。精神科医によるスポット産業医サービスなら、個別のご相談にも応じています。 →
会社の規模や状況に応じた対応のポイント
会社の規模や状況によって、対応の優先順位や注意点が変わります。自分の会社のケースに当てはめて確認してください。
社員が1名だけ休職している場合
提出先は1自治体のみで済むことが多く、比較的シンプルです。書類を1枚作成し、社員の住所地の市区町村に郵送またはオンライン(eLTAXまたは自治体の専用システム)で提出します。給与計算ソフトを使っている場合は、ソフト上で「普通徴収に切り替える」設定を忘れずに行ってください。次月の給与計算で誤って天引きしてしまうミスが起きやすいポイントです。
複数社員が異なる自治体に在住している場合
提出先が複数になります。それぞれの自治体の様式・提出方法を確認する必要があり、手間がかかります。提出漏れを防ぐため、対象社員の住所地と提出状況をリスト化して管理することをおすすめします。
社会保険労務士や税理士に依頼している場合
給与計算を外部に委託している場合は、休職の発生と給与ゼロになる月を速やかに共有することが最優先です。担当者が気づかないまま翌月の給与計算が進んでしまうと、修正対応が発生します。休職が確定した時点で「住民税の切り替え届出をお願いします」と明示的に依頼しましょう。
🔗 住民税対応と並行して、本人の状態把握や復職時期の判断が必要な場合は、医学的視点からのサポートも検討してはいかがでしょうか。 →
まとめ
休職で給与がゼロになった場合、会社は「給与所得者異動届出書」を社員の住所地の市区町村に提出し、特別徴収から普通徴収への切り替えの手続きが必要です。放置すると会社に督促が届くリスクがあります。本人への説明は「納付書が届く」「自分で納付する必要がある」の2点をシンプルに伝えることが基本です。また、復職時には特別徴収への再切り替え届出が必要で、これは自動では戻りません。
こうした手続きは、日常業務の合間に対応するには情報収集だけで時間がかかります。「何から確認すれば良いかわからない」「社員への説明に不安がある」という場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。休職・復職に関わる人事労務の手続きから、社員への対応方法まで、中小企業の実態に合わせてサポートします。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


