「休職中の社員から『傷病手当金が不支給になった。会社のせいだ』と連絡が来た」——こうした事態に直面したとき、専任人事のいない会社では「本当に会社の責任なのか」「何をどう説明すればいいのか」がわかりません。傷病手当金は健康保険の給付制度であり、会社が支給を決定するものではありません。しかし、申請手続きに会社が関与している部分も確かにあります。この記事では、不支給の原因ごとに会社の責任の有無を整理し、怒っている社員への説明方法と再申請の対処法を実務目線で解説します。
傷病手当金の不支給は「会社の責任」になるのか
結論から言うと、傷病手当金の不支給は原因によって会社の責任の有無が明確に分かれます。会社は支給判断者ではなく、申請書類の一部を証明する立場に過ぎないからです。
傷病手当金を「出すかどうか」は会社が決めていない
傷病手当金は健康保険法第99条に基づく健康保険の給付です。支給・不支給を判断するのは健保組合または協会けんぽであり、会社が「出す・出さない」を決める制度ではありません。
申請書には「事業主記載欄」という会社が記載する欄がありますが、これはあくまでも「労務不能期間中に賃金を支払ったかどうか」などを証明するものです。社員から「会社のせいで不支給になった」と言われたとき、この点をきちんと伝えられるかどうかが、トラブルの拡大を防ぐ最初のポイントになります。
会社の責任が生じる可能性があるケース
すべての不支給が会社無関係というわけではありません。以下のケースでは、会社の手続き対応に問題があった可能性があります。
- 事業主記載欄の記載が不十分・不正確で審査が通らなかった
- 社会保険(健康保険)への加入手続きが遅れており、被保険者資格がなかった
- 会社経由で申請書を提出する運用にしていたのに、書類を放置・紛失した
逆に、以下のケースは原則として会社の責任にはなりません。
- 主治医の労務不能証明が不十分だった
- 待期期間(連続3日間)を満たしていなかった
- 支給期間の上限(通算1年6か月)を超えていた
- 業務上の災害と判断され、労災保険が適用されるべきケースだった
不支給原因ごとの「会社の関与」を早見表で確認する
傷病手当金の不支給原因によって、会社が取るべき対応はまったく異なります。不支給通知が届いたら、まず原因の特定から始めましょう。
原因別の会社関与と対応方針
| 不支給の原因 | 会社の関与 | 対応方針 |
|---|---|---|
| 医師の労務不能証明が不十分 | 原則なし | 本人・主治医への確認を促す |
| 待期期間(連続3日)未充足 | 原則なし | 本人の就労状況の問題として説明 |
| 社会保険未加入・資格喪失 | 会社の関与あり得る | 加入状況を至急確認し、遡及加入の可否を検討 |
| 事業主記載欄の記載不備 | 会社の関与あり | 記載内容を確認し、補完・修正の余地があれば対応 |
| 書類の提出漏れ・遅延(会社経由) | 会社の関与あり得る | 申請経路と担当者の対応履歴を確認 |
| 業務上災害と判断(労災切替) | 原則なし | 労災申請の案内・手続きサポートが必要 |
| 支給期間上限の超過 | なし | 制度上の上限として丁寧に説明する |
記載不備が原因の場合にとれる対応
事業主記載欄の記載が不十分だったことが原因なら、健保組合・協会けんぽに補完書類や修正した証明書を提出することで、再審査につながるケースがあります。不支給通知を受け取ったら、内容を放置せず速やかに健保組合へ「記載内容の確認・補完の可否」を問い合わせることが重要です。記載義務の遵守は法的な要求であり、誤りを認めて早期に対処する姿勢が求められます。
傷病手当金の支給要件を押さえておく
不支給の原因を正確に判断するには、支給要件を会社側も把握しておく必要があります。以下の4つの要件をすべて満たさないと、支給は認められません。
健康保険法が定める4つの支給要件
健康保険法第99条では、傷病手当金の受給には次の要件が必要とされています。
- 業務外の疾病・負傷であること(業務上は労災保険の対象)
- 労務不能であること(主治医による証明が必要)
- 連続3日間の待期期間を満たしていること(有給・欠勤を問わない)
- 被保険者資格が継続していること
退職後の「継続給付」にも注意が必要
退職後も一定の要件を満たせば傷病手当金の継続給付を受けられますが、条件は厳格です。退職日に被保険者資格があること、退職日に就労していないこと、在職中から継続して1年以上の被保険者期間があることなどが求められます。退職のタイミングや傷病手当金の申請開始時期によっては、退職後に受給資格を失うケースもあるため、休職から退職に移行する際は事前に確認が必要です。
怒っている社員への説明の仕方
社員が「会社のせいだ」と怒っている状況では、説明の順序と言葉選びが重要です。事実を正確に伝えることと、感情に配慮した対話を同時に行う必要があります。
最初に「傷病手当金の仕組み」を丁寧に説明する
社員が怒る背景には「会社が申請を邪魔した」「会社が支給を拒否した」という誤解があることが多いです。まず冒頭に「傷病手当金の支給・不支給を決めるのは健保組合・協会けんぽであり、会社ではない」という事実を穏やかに伝えましょう。このとき、責任を押し付ける言い方は避け、「一緒に原因を確認させてほしい」というスタンスで話を進めることが大切です。
言ってはいけない言葉・使うべき言葉
感情的になっている社員に対して、以下のような言葉は状況を悪化させる可能性があります。
- 「それは本人の申請が悪かったんでしょう」(責任転嫁と受け取られる)
- 「うちは関係ない」(冷淡な印象を与え、信頼を損ねる)
- 「制度上の仕方ないこと」(共感ゼロの対応と受け取られる)
代わりに使いたい言葉の例としては、「まず不支給になった理由を健保組合に一緒に確認しましょう」「会社の記載に問題がなかったか、私たちも確認します」などです。自社に非がなくても、誠実に原因を確認する姿勢を示すことで、社員の怒りは大きく緩和されます。
審査請求制度を案内することも重要な対応
不支給の決定に不服がある場合、健康保険法第189条以下に基づき、社会保険審査官への審査請求を行うことができます。審査請求は決定から60日以内に本人が行う手続きです。会社が代わりに申請することはできませんが、「こういう制度があります」と案内するだけでも、社員は「会社は動いてくれようとしている」と感じます。情報提供を通じた配慮が、誠実な会社対応として機能します。
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今後のトラブルを防ぐ社内体制の整備
傷病手当金の不支給トラブルは、申請サポートの仕組みをあらかじめ整えておくことで大幅に防げます。休職が発生してから慌てて対応するのではなく、制度を理解した状態で社員に案内できる体制が理想です。
休職前に社員へ案内しておきたいこと
休職開始時点で会社が案内すべき主な内容は以下の通りです。従業員規模が20〜50名程度の会社では、担当者が兼務であるケースが多く、案内漏れが起きやすいため、チェックリストや案内文書をあらかじめ用意しておくことが有効です。
- 傷病手当金の仕組みと申請窓口(本人が加入する健保組合・協会けんぽ)
- 申請書における会社記載欄の対応方法と提出期限
- 待期期間や申請可能な期間の目安
- 退職を検討する場合の受給資格への影響
就業規則・休職規程の整備状況を確認する
就業規則や休職規程に傷病手当金に関する記載がない会社も少なくありません。規程がないと、社員が「会社が面倒を見てくれるはず」と誤解したまま休職に入り、後にトラブルになるケースがあります。「休職期間中の給与・傷病手当金の扱い」「会社として行う手続きの範囲」を規程に明記しておくことで、社員との認識の齟齬を防ぐことができます。産業医や社会保険労務士がいない場合は、外部の専門家に規程のレビューを依頼することも選択肢の一つです。
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まとめ
傷病手当金の不支給は、原因によって「会社の責任がある場合」と「ない場合」に明確に分かれます。事業主記載欄の不備や社会保険の加入漏れは会社側の問題になり得ますが、医師の証明不足や待期期間の未充足、支給期間の上限超過は原則として会社の責任ではありません。怒っている社員への対応では、まず制度の仕組みを丁寧に説明し、審査請求の案内など「一緒に動こうとしている姿勢」を示すことが重要です。また、こうしたトラブルを未然に防ぐには、休職前の案内と就業規則・休職規程の整備が欠かせません。
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よくある質問
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