復職後の昇給昇格審査、休職期間の反映基準の作り方

復職後の昇給昇格審査、休職期間の反映基準の作り方 休職・復職対応
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「復職してくれたのはよかったけれど、今期の昇給・昇格審査、どう扱えばいいんだろう……」。復職対応がひと段落したと思ったら、今度は処遇の問題が目の前に現れる。専任人事がいない会社では、こうした判断を「なんとなく」「その場の雰囲気で」決めてしまいがちです。しかしそれが後々のトラブルや、本人との信頼関係の崩壊につながるケースは少なくありません。この記事では、休職期間を昇給・昇格審査にどう反映するかについて、法的な整理から社内ルールの作り方、本人への伝え方まで順を追って解説します。

「休職者を審査から外す」は不利益変更になるのか

結論から言えば、合理的な根拠と明確な社内ルールがあれば、休職期間を昇給・昇格審査の対象外とすることは不利益変更には該当しません。ただし「なんとなく外す」「口頭で説明しただけ」という運用は、後になって法的リスクを生む可能性があります。

不利益変更と評価の合理的調整は別物

「不利益変更」とは、労働契約法第10条が規定するもので、就業規則の変更によって労働者の既存の労働条件を一方的に引き下げることを指します。一方、昇給・昇格はあくまで「将来に向けた条件変更」であり、審査の対象にするかどうかは制度設計の問題です。

つまり、「今回の審査から外す」という判断自体が即座に不利益変更になるわけではありません。問題になるのは、「根拠なく恣意的に外す」「復職後も継続して評価機会を与えない」「外す理由を本人に説明しない」といった運用です。

休職を理由とした不利益取扱いは別途リスクあり

メンタルヘルス不調による休職を「理由」として、昇給・昇格の機会を奪う行為は、労働契約上の権利侵害や、労働施策総合推進法上のパワーハラスメント防止義務との関係で問題になり得ます。「病気で休んだから昇格させない」という意思決定と、「評価できる実績がなかったから今回は据え置く」という判断は、似ているようで法的には全く異なります。前者は違法リスクがあり、後者は合理的な制度運用です。

就業規則への明記が法的安定性を生む

労働基準法第89条により、常時10名以上の労働者を使用する事業場は就業規則の作成・届出が義務です。昇給・賃金に関する事項は就業規則の絶対的記載事項に該当するため、休職期間の評価上の取扱いを就業規則や賃金規程に明記することが、会社と従業員の双方にとって安心な基盤になります。明記がない状態で対応すると、「言った・言わない」のトラブルに発展しやすくなります。

昇給・昇格審査における休職期間の反映方法

休職期間を審査にどう反映するかには、大きく分けて三つの選択肢があります。どれが正解ということはなく、自社の制度設計と就業規則への明文化がセットであることが重要です。

三つの選択肢とその特徴

選択肢 内容 注意点
審査スキップ(今回は対象外) 当該評価期間の審査自体を行わず、翌年度以降に持ち越す 「機会の剥奪」と受け取られないよう、理由と次回の審査方針を明確に伝える
評価据え置き(現状維持) 審査は行うが、実績評価が不能な期間があるため現状の等級・給与を維持する 「審査に参加したのに評価が出なかった」という不満が残らないよう丁寧な説明が必要
稼働期間按分での評価 評価期間中の実際の稼働期間のみを対象に評価し、昇給・昇格の判定を行う 短期間の実績でフェアな判定ができるかを事前に確認する必要がある

按分方式の具体的なイメージ

たとえば評価期間が12か月で、そのうち6か月休職していた場合、稼働実績のある6か月分のみを評価対象とする方法があります。この場合、「6か月の実績で昇格基準を満たしているか」を判定することになります。実績が基準を下回る場合は据え置き、上回る場合は昇格させるという運用も制度上は可能です。ただし「短期間の実績で昇格させてよいのか」という他の従業員との公平性の問題もあるため、社内で統一した基準を設けておくことが前提になります。

就業規則・賃金規程への落とし込み方

規程への明記は難しく考える必要はありません。「休職期間が評価期間の過半を超える場合は、当該年度の昇給・昇格審査を翌年度に繰り越す」「休職期間は稼働実績として算定しない」など、シンプルな一文を賃金規程や人事評価規程に追加するだけで、法的安定性は大きく高まります。作成や変更にあたっては、社会保険労務士に確認を取ることをおすすめします。

「審査から外さないでほしい」と言われたときの対応

本人から「昇給・昇格審査に参加させてほしい」という希望が出たとき、慌てて即答する必要はありません。まずは「確認します」と伝えて場を落ち着かせ、会社としての方針を整理してから回答するのが正しい順序です。

対話の基本的な進め方

メンタルヘルス不調からの復職者との対話では、否定的な回答をすることへの心理的なハードルを感じる担当者が多いです。しかし、曖昧な返答や「考えておきます」を繰り返すことの方が、本人の不安を長期化させリスクを高めます。

まず、本人の希望をしっかりと受け止めた上で、「現行の制度の確認が必要なため、改めてお伝えします」と伝えましょう。その後、就業規則・賃金規程の規定を確認し、社内で方針を固めた上で、書面または面談で回答します。口頭だけの回答は、後で「そんなことは言っていない」というトラブルの原因になるため避けてください。

回答の際に伝えるべきポイント

会社としての回答を伝えるときには、次の三点を明確にすることが大切です。一つ目は「なぜ今回の審査の扱いがそうなるのか」という理由(制度上の根拠)、二つ目は「今後どうなるのか」という見通し(次回審査の時期や条件)、三つ目は「本人の努力や復帰への姿勢を評価している」というメッセージです。三点目は義務ではありませんが、伝え方一つで本人のモチベーションや信頼関係に大きく影響します。

産業医・社労士との連携を忘れずに

復職者の処遇判断は、人事担当者が単独で行うにはリスクが高い領域です。産業医がいる場合は就業可否の観点から意見をもらい、社労士には法的リスクの確認を依頼することで、より安全な判断が可能になります。特に産業医が選任されていない(従業員50名未満の)会社では、外部の産業医サービスや社労士との連携体制を整えておくことが、こうした場面での「判断の拠り所」になります。

公平性の問題と他の従業員への説明

「休職者だけ特別扱いではないか」という周囲の視線や不満も、担当者にとって無視できない問題です。制度として明文化されたルールに基づいた運用であれば、他の従業員への説明も一貫性を持って行えます。

特別扱いと制度的配慮は異なる

「休職者を審査から外す」という運用を特別扱いと捉えるか、制度的な配慮と捉えるかは、ルールの有無によって変わります。「就業規則に定められた通りの運用をしている」という事実があれば、同期や同職位の社員から「なぜあの人だけ」と問われた場合も、「制度上の規定に従っています」と一言で答えられます。逆に、その場その場で判断していると、説明が人によってぶれてしまい、不公平感が拡大します。

情報開示の範囲を事前に決めておく

休職の事実や処遇の詳細を、どこまで他の従業員に開示するかは慎重に判断する必要があります。プライバシーの観点から、個人の休職理由や処遇内容を周囲に説明する必要はありません。「人事上の手続きに従っている」という以上の説明は不要であることを、担当者自身が理解しておくことが重要です。

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今すぐできる社内ルール整備の進め方

「うちの会社にはまだ何もルールがない」という場合でも、今日から着手できることがあります。完璧な制度を一気に作ろうとせず、まず「休職期間の評価上の取扱い」という一点に絞って規程を整備するのが現実的な第一歩です。

就業規則・評価規程の現状確認から始める

まず手元の就業規則・賃金規程・人事評価規程(もしくはそれに類する文書)を確認し、「休職」「休職期間」「評価」「昇給」「昇格」に関する記述があるかどうかをチェックします。記述がなければ、追記が必要な箇所をリストアップします。この作業だけでも、自社の現状把握につながり、次の行動が明確になります。

規程に盛り込むべき最低限の項目

  • 休職期間を評価期間に算入するかどうかの原則
  • 休職期間が評価期間に占める割合に応じた取扱いの基準(例:過半超で翌年度繰り越し)
  • 審査を繰り越した場合の次回審査の時期・条件
  • 本人への説明・通知の方法と記録の保存

社労士・外部専門家のサポートを活用する

就業規則の変更は、労働基準監督署への届出が必要な場合があります(常時10名以上の事業場)。また、変更内容が従業員に不利益を与える場合には、労働者代表の意見聴取が求められます。こうした手続きは、社労士のサポートを受けながら進めるのが安全です。「制度設計から対外手続きまで一人でやろう」と思わず、専門家に任せる部分を明確にしておくと、担当者の負担も大幅に軽減できます。

まとめ

復職後の昇給・昇格審査における休職期間の反映は、「合理的な根拠と明確な社内ルール」があれば、法的リスクなく設計できます。不利益変更と評価の合理的調整は別物であり、就業規則・賃金規程への明文化と、本人への丁寧な説明がセットになって初めて、会社と従業員の双方が安心できる運用になります。審査スキップ・据え置き・按分評価のいずれの方式を選ぶにしても、「なぜそうなるのか」「次はどうなるのか」を書面で伝えることが信頼関係の基盤です。

ウェルセンス株式会社では、復職支援だけでなく、こうした復職後の処遇設計や社内ルール整備の相談にも対応しています。「うちの場合はどうすればいいか」という個別のケースを整理したい方は、お気軽にご相談ください。担当者が一緒に状況を確認し、次の一手を考えます。

よくある質問

Q. 休職者を昇格審査から外すことは、法律上問題になりませんか?

A. 「休職したから」という理由だけで外すのは問題になり得ますが、「評価できる実績がなかった期間があるため」という合理的な根拠と、就業規則への明文化があれば、不利益変更には該当しないとするのが実務上の一般的な考え方です。設計と説明の丁寧さが重要です。

Q. 就業規則に休職期間の評価上の取扱いが書かれていません。今すぐ対応しなければいけませんか?

A. 今まさに該当ケースが発生しているなら、社労士と相談しながら暫定的な方針を書面で整理し、本人に説明することが先決です。就業規則への明記は並行して進める形でも問題ありません。後回しにするほどリスクが積み上がるため、早めの着手をおすすめします。

Q. 復職者本人が「審査に入れてほしい」と強く希望しています。断ることはできますか?

A. 会社が制度として「休職期間は審査対象外」と定めており、就業規則に明記されている場合は、本人の希望があっても制度に従って対応することが可能です。ただし、断るだけでなく「次回審査の時期と条件」を明確に伝えることで、本人の納得感は大きく変わります。感情的な対立を避けるためにも、書面での説明が有効です。

Q. 産業医がいない会社でも、復職後の処遇対応はできますか?

A. 従業員50名未満の事業場は産業医の選任義務がありませんが、外部の産業医サービスや、メンタルヘルス対応に詳しい社労士・支援会社を活用することで対応は可能です。処遇判断は単独で行わず、専門家の意見を取り入れることが、法的リスク回避と本人への配慮の両立につながります。

Q. 復職後しばらく経ってから「あのとき審査に入れてもらえなかったのはおかしい」と言われた場合、どう対処すればよいですか?

A. 当時の説明が書面で残っていれば、その記録をもとに会社の判断根拠を示すことができます。逆に記録がない場合は、事実確認が難しくなり交渉が長引くリスクがあります。こうしたケースへの対備えとしても、本人への説明は口頭ではなく書面で行い、記録を保管しておくことが不可欠です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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