「体調が悪い」と申し出てきた従業員に、どう対応すればいいのか。休ませるべきなのか、もう少し様子を見るべきなのか。産業医がいない会社では、その判断を経営者や兼務の人事担当者が一人で抱えることになります。「間違った対応をして訴えられたら」という不安を抱えながら、正解のないまま動いている方も多いのではないでしょうか。この記事では、産業医なし企業でも安全に休職判断・復職判断を進めるための実務的な考え方を整理します。
産業医がいなくても「安全配慮義務」は全企業に課されている
50人未満なら産業医は不要、でもそれは「免罪符」ではない
労働安全衛生法第13条により、常時50人以上の労働者を使用する事業場は産業医を選任する義務があります。裏を返せば、50人未満の企業に選任義務はありません。ただし、同法第13条の2では「努力義務」として医師等による健康管理が求められており、義務がないことと「何もしなくていい」こととは別の話です。
より重要なのは、労働契約法第5条の安全配慮義務が企業規模にかかわらず全事業者に適用される点です。これは「使用者は労働者の生命・身体等の安全を確保しつつ労働させる義務を負う」というもので、メンタルヘルス不調者を無配慮で働かせ続けた場合、損害賠償請求の対象になりえます。電通事件をはじめ、安全配慮義務違反が認められた判例は中小企業にも無縁ではありません。
「産業医がいなかったから仕方ない」は通用しない
実際のトラブル事例として、「体調不良を訴えた従業員を休ませず、症状が悪化して長期離脱・労災申請に発展した」というケースがあります。会社側が「産業医もいないし判断できなかった」と主張しても、裁判所は「適切な医療機関への誘導や業務軽減の措置を取れたはず」と判断することがあります。産業医不在は、義務の範囲を狭めるものではあっても、配慮そのものを免除するものではないのです。
休職判断の基本的な考え方と進め方
「様子見」が一番リスクの高い選択肢
産業医がいないと、「もう少し様子を見よう」という判断になりやすいです。しかし、メンタルヘルス不調は放置すると急速に悪化することがあり、早期に対応した場合と比べて回復期間が大幅に長くなるケースも少なくありません。初期の「2週間の休養」が、放置によって「3ヶ月の休職」に膨らむことは珍しくないのです。
「大げさかもしれない」という感覚よりも、「まず医療機関に行ってもらう」という行動を先に取ることが、結果的に会社・本人双方のリスクを下げます。
診断書が届いたあとにやるべき実務
従業員が「うつ病、3ヶ月の休養を要する」という診断書を持参したとき、多くの担当者が「次に何をすればいいかわからない」という状態に陥ります。このような場面では、以下の順番で対応を進めることが基本です。
まず最初に、休職開始日・期間・給与の扱いを本人に書面で伝えます。次に、社会保険の傷病手当金(健康保険から支給される所得補償制度。標準報酬日額の3分の2が最長1年6ヶ月支給される)の案内を行います。そして、就業規則に定める休職規定に沿った手続きを進め、休職中の連絡ルールを双方で確認しておきます。
就業規則に休職規定がない場合は、休職命令そのものの法的根拠が曖昧になります。まだ整備していない企業は、この機会に専門家の助けを借りて規定を作ることを強くお勧めします。
休職中の連絡頻度と記録の残し方
休職中の従業員への連絡は、頻度が多すぎると「ハラスメント」と受け取られるリスクがあり、少なすぎると状況把握ができず復職時にトラブルになります。実務的な目安として、月1回程度の状況確認(メールや書面でも可)を行い、内容と日時を記録として残しておくことが重要です。「言った・言わない」のトラブルを防ぐためにも、口頭だけで済ませないことが鉄則です。
また、休職期間の満了日を見落とすと、自動退職処理の手順を誤るリスクがあります。就業規則で定めた満了日をカレンダーに登録し、30日前・14日前など複数のアラートを設定しておくことが現実的な対策です。
復職判断でつまずくポイントと対処法
主治医の「復職可」は万能ではない
「主治医が復職OKと言っている」という診断書が届いたとき、そのまま復職させてよいものかと悩む担当者は多いです。この悩みは正しい感覚で、主治医は日常生活への復帰を基準に判断しますが、職場での業務遂行能力とは必ずしも一致しません。「朝起きられる・外出できる」と「8時間集中して業務をこなせる」は別の話です。
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、復職判断を5つのステップで進めることが推奨されています。この手引きは産業医不在企業でも準用できる内容で、無料でダウンロードできます。特に第3ステップ「職場復帰の可否の判断および職場復帰支援プランの作成」は、判断プロセスを記録に残すうえで重要な参考になります。
復職後の「試し出勤」と段階的復帰
フルタイム勤務に一気に戻すのではなく、まず週3日・午前中のみなど段階的に業務に慣れてもらう「試し出勤(リハビリ出勤)」の仕組みを設けることが再休職リスクを下げる有効な手段です。この期間中も記録を残し、本人・上司・人事の三者で状態を確認する定期面談を設定しておくと、問題の早期発見につながります。
復職後3ヶ月以内の再休職率は高く、「戻ったら大丈夫」ではなくフォローアップの体制が復職成功のカギを握ります。
産業医なし企業が今すぐ使える代替リソース
地域産業保健センター(地さんぽ)は無料で使える
50人未満の事業場向けに、厚生労働省が設置している「地域産業保健センター(通称:地さんぽ)」があります。全国の労働基準監督署の管轄区域ごとに設置されており、医師・保健師・カウンセラーへの無料相談が可能です。産業医なし企業の休職・復職の具体的な進め方についても相談できるため、まず活用してみる価値があります。
ただし、予約制で継続的なサポートには限界があるため、「緊急時の相談窓口」として位置づけるのが現実的です。
嘱託産業医という選択肢
「産業医は大企業のもの」というイメージがありますが、嘱託産業医として月1回程度の訪問契約を結ぶことは、月2〜5万円程度の費用から可能です。休職・復職の判断プロセスに専門家が関与することで、会社側の意思決定の根拠が格段に明確になります。何か問題が起きたときに「専門家の意見を踏まえて判断した」という記録は、安全配慮義務の観点からも大きな意味を持ちます。
嘱託産業医の窓口としては、地域の医師会や産業保健総合支援センターへの問い合わせが一般的です。
外部EAPとの連携で早期対応を仕組み化する
EAP(Employee Assistance Program=従業員支援プログラム)は、外部の専門機関がカウンセリングや相談対応を提供するサービスです。従業員が気軽に相談できる窓口を設けることで、不調の早期発見・早期対応が可能になります。休職判断そのものに直接関与するサービスではありませんが、「問題が大きくなる前に気づく」という一次予防として機能します。
費用は従業員一人あたり月数百円〜数千円程度のプランも存在し、規模の小さい企業でも導入しやすくなっています。
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休職・復職対応を属人化させないための社内整備
就業規則の休職規定は最低限整えておく
休職命令を出す法的根拠は就業規則の中の休職規定です。「休職期間の上限」「休職中の給与の扱い」「復職の条件」「期間満了時の取り扱い」が明記されていないと、いざというときに会社側の判断が法的に根拠を持ちにくくなります。特に中小企業では就業規則が古いままだったり、メンタルヘルスに対応した記述がなかったりするケースが多いため、一度確認しておくことをお勧めします。
対応フローをドキュメント化して担当者に依存しない体制を
休職・復職の対応が「あの担当者だけが知っている」という属人的な状態では、担当者の異動や退職で対応品質が大きく変わります。「不調の申し出を受けたら何をするか」「診断書が届いたら何をするか」「復職の申し出があったら何をするか」という3つの場面ごとに、チェックリスト形式でフローをドキュメント化しておくだけで、対応の安定性と記録の質が大きく向上します。
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まとめ
産業医がいない企業でも、安全配慮義務は全ての使用者に課されています。「判断基準がない」「次に何をすればいいかわからない」という状況は、適切なリソースと社内整備で大きく改善できます。地域産業保健センターや嘱託産業医の活用、就業規則の整備、対応フローのドキュメント化といった取り組みを、一つひとつ積み上げていくことが重要です。
ウェルセンス株式会社では、産業医のいない中小企業の休職・復職対応について、実務に即した支援を行っています。「うちの状況で何から手をつければいいか」という段階からでも、お気軽にご相談ください。一緒に整理するところから始められます。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
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