試用期間中のメンタル不調、本採用拒否は可能?

試用期間中のメンタル不調、本採用拒否は可能? メンタルヘルス対応
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「試用期間中だから、まだ正式な社員じゃない。メンタル不調があれば不採用にすればいい」——そう考えていた経営者や人事担当者が、後になって労働審判や訴訟に巻き込まれるケースが後を絶ちません。特に試用期間中のメンタル不調への対応は、法的な落とし穴が多く、専任人事のいない中小企業ほどリスクにさらされやすい領域です。この記事では、試用期間中にメンタル不調が発生した場合の正しい対応方法と、本採用拒否を行う際の法的リスクについて、実務に即してわかりやすく解説します。

試用期間中でも「労働契約は成立している」という大前提

試用期間の法的な位置づけを正確に理解する

まず押さえておくべき重要な事実があります。試用期間とは、法律的には「解約権留保付き労働契約」と呼ばれる状態です。難しい言葉ですが、要するに「会社側が一定の条件のもとで解雇できる権利を留保した上で、すでに労働契約が成立している」ということです。

つまり、試用期間中の社員は「採用候補者」ではなく、すでに「労働者」です。この認識が欠けていると、対応の誤りが生じます。

本採用拒否は「解雇」と同じ規制を受ける

採用後14日を超えた時点での本採用拒否(試用期間満了での不採用)は、労働基準法および労働契約法上、「解雇」と同様の法的規制を受けます。具体的には、次の2つの要件を満たさなければなりません。

まず、解雇予告の義務が発生します。30日前に予告するか、30日分の解雇予告手当を支払う必要があります。次に、労働契約法第16条に基づき、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の両方が求められます。

「試用期間だからメンタル不調を理由に自由に不採用にできる」という認識は、法律上完全に誤りです。この誤解が、後のトラブルの根本原因になっています。

安全配慮義務は試用期間中も適用される

労働契約法第5条は、使用者(会社)が労働者の心身の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を定めています。この義務は試用期間中の社員にも当然適用されます。メンタル不調のサインを見て見ぬふりをして症状が悪化した場合、安全配慮義務違反として損害賠償請求を受けるリスクがあります。「まだ試用期間だから」は、対応を怠る理由にはなりません。

メンタル不調を理由に本採用拒否すると何が起きるか

「メンタル不調=能力不足」は成立しない

よくある誤りは、「試用期間中にメンタル不調が発生した=業務遂行能力に問題がある」と短絡的に判断してしまうことです。裁判例では、この因果関係は自動的には認められません。

裁判所が本採用拒否の合理性を判断する際には、「業務との関連性はあるか」「会社が安全配慮義務を果たしていたか」「回復可能性があったか」「回復の機会を十分に与えたか」といった複数の要素を総合的に審査します。単に「試用期間中にメンタル不調になったから不採用」という理由だけでは、解雇権の濫用(乱用)と判断されるリスクが高いです。

合理的配慮の義務にも注意が必要

2024年4月から、民間事業者にも障害者に対する「合理的配慮の提供義務」が課されるようになりました(障害者雇用促進法の改正)。試用期間中の社員が精神障害や発達障害を持つ場合、業務内容の調整や職場環境の整備といった合理的配慮を行わずに本採用拒否をした場合、法的に問題となる可能性があります。

「小規模だから関係ない」と思いがちですが、20~50名規模の企業でも適用されるため、注意が必要です。

実際にトラブルになるとどうなるか

本採用拒否が不当と判断された場合、主に労働審判(原則3回以内の期日で解決を目指す簡易な手続き)や通常訴訟によって争われます。解決金として数十万円から数百万円の支払いを求められるケースも珍しくありません。また、会社の評判が損なわれ、採用活動への悪影響も生じます。

試用期間中の休職制度はどう扱うべきか

就業規則の確認が最初の出発点

多くの中小企業の就業規則では、休職規定が「正社員に適用する」と書かれているだけで、試用期間中の扱いが明記されていません。この曖昧さが現場の混乱を招きます。

まず確認すべきは、就業規則に「試用期間中は休職規定を適用しない」という明示的な除外規定があるかどうかです。明記がなければ、試用期間中の社員にも休職規定が適用されると解釈されるリスクがあります。

休職を認めないことのリスク

仮に就業規則で試用期間中の休職を除外していたとしても、休職を一切認めずに本採用拒否をした場合、「回復可能性があったのに、治療・回復の機会を与えなかった」として解雇権の濫用と判断されることがあります。

実務上は、短期間(たとえば2~4週間程度)の休養・治療機会を設けた上で回復状況を確認し、その後に本採用の可否を判断するという手順を踏むことが、後の本採用拒否の合理性を高めることにつながります。「休ませてから判断した」という事実は、会社にとっての重要な記録になります。

就業規則の整備を先手で行う

試用期間中の休職の扱いについては、問題が起きる前に就業規則に明記しておくことが最善です。具体的には、「試用期間中の休職の可否」「試用期間の延長規定(休職期間分の延長など)」「本採用拒否の要件と手続き」を明確に定めておくことで、いざという時の対応根拠になります。

本採用拒否が認められるための条件と記録の作り方

合理的な理由として認められる可能性があるケース

メンタル不調が関係する場面で本採用拒否が認められる可能性があるのは、主に次のような条件が重なる場合です。入社前に申告がなかった疾患や既往症が業務遂行に重大な支障をきたしていること、就業規則に定める欠勤日数を超過していること、業務能力・適性の不足が客観的な記録で確認できること、そして会社として合理的配慮や指導・支援を行ったにもかかわらず改善が見込めないことです。

いずれも「主観的な印象」ではなく、「客観的な事実と記録」に基づく判断であることが不可欠です。

記録・文書化の具体的な方法

後の労働審判や訴訟に備えるための記録として、特に重要なものをご紹介します。まず面談記録は、日時・対応者・話し合った内容・本人の反応を必ず残します。次に業務指示・指導の記録として、何をいつ指示し、どのような結果だったかを文書化します。また欠勤・遅刻・早退の記録は日付と理由を正確に記録します。さらに産業医や外部専門家への相談記録として、相談した事実と日時を残します。

これらの記録は、担当者が変わっても引き継げる形で保管することが重要です。メモ書きや口頭での確認だけでは、後から証拠として活用できません。

本人への伝え方・コミュニケーションの注意点

メンタル不調のある社員に「本採用が難しい可能性がある」と伝えることへの心理的ハードルは、多くの担当者が感じています。しかし、何も伝えずに放置することは、本人にとっても会社にとっても最悪の結果を招きます。

伝える際は、「病気や不調を責めているのではなく、業務上の状況と会社の状況を正直に共有したい」という姿勢で臨むことが基本です。可能であれば、産業医やメンタルヘルスの専門家に同席を依頼するか、事前に相談してから面談に臨むことを強くお勧めします。感情的なやりとりを避け、事実と会社の対応方針のみを丁寧に説明することが重要です。

専任人事がいない企業が取るべき実務的な対応フロー

不調のサインを早期に把握する仕組みを作る

専任人事がいない企業では、不調のサインに最初に気づくのは直属の上司や同僚です。「なんとなく元気がない」「欠勤・遅刻が増えた」「ミスが目立つようになった」といったサインを、早い段階で経営者や人事担当者に共有できる仕組みが必要です。

具体的には、試用期間中の社員に対して月1回の定期面談を設けることが効果的です。面談では業務の進捗確認だけでなく、「体調は問題ないか」「職場環境で気になることはないか」を確認する項目を設けることで、早期発見につながります。

初動対応の「型」を事前に決めておく

問題が起きてから対応方法を考えるのでは、感情的な判断や対応の遅れが生じます。「メンタル不調のサインが確認された場合は、まず直属の上司が本人と面談を行い、その内容を経営者に報告する。必要に応じて産業医や外部の専門家に相談する」というような初動対応フローを、あらかじめ文書化しておくことが重要です。

型があることで、担当者一人が抱え込まず、組織として動けるようになります。また、対応の記録も自然に残りやすくなります。

一人で判断せず、専門家を早めに活用する

試用期間中のメンタル不調対応は、労務リスク・医療的判断・コミュニケーション対応が複雑に絡み合います。「これは本採用拒否にしてよいのか」「どのように本人に伝えるべきか」という判断を、経営者や兼務の人事担当者が一人で行うには限界があります。

社会保険労務士・産業医・メンタルヘルスの専門家といった外部の専門家に早めに相談することが、結果として会社と社員の双方にとって最善の対応につながります。

まとめ

試用期間中のメンタル不調への対応は、「試用期間だから自由に対応できる」という誤解を捨てることから始まります。試用期間中でも労働契約は成立しており、本採用拒否は解雇と同じ法的規制を受けます。メンタル不調のみを理由とした本採用拒否は、不当解雇として争われるリスクが高く、客観的な記録・合理的配慮・回復機会の提供が伴って初めて合理的な判断として認められます。また、就業規則の整備と初動対応の「型」を事前に作っておくことが、いざという時の組織的な対応を支えます。

「この状況で本採用拒否は可能か」「どう対応すれば法的リスクを最小化できるか」——こうした判断に迷ったとき、一人で抱え込まないことが最も重要です。ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業を対象に、試用期間中の不調対応から就業規則の整備、本採用・不採用判断の壁打ち相談まで、実務に即したサポートを提供しています。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 試用期間中に欠勤が多い社員を本採用拒否することはできますか?

A. 欠勤日数が就業規則の規定を超えており、その記録が客観的に残っている場合は、本採用拒否の合理的な理由の一つになり得ます。ただし、欠勤の原因がメンタル不調である場合は、安全配慮義務の観点から会社が適切な対応を取ったかどうかも審査されます。欠勤記録の保管と、面談・支援の記録を合わせて残しておくことが重要です。

Q. 試用期間を延長して様子を見ることはできますか?

A. 就業規則に試用期間の延長規定が明記されており、延長の理由が合理的で本人への説明も行われている場合は可能です。ただし、延長期間にも上限を設けることが一般的であり、延長を繰り返すことは法的に問題となる可能性があります。延長する場合は、必ず就業規則の規定を事前に確認し、書面で本人に通知することをお勧めします。

Q. 採用前にメンタル疾患の既往を告知しなかった場合、それを理由に本採用拒否できますか?

A. 告知がなかった疾患が業務遂行に「重大な支障」をきたしていることが客観的に確認できる場合に限り、本採用拒否の理由の一つとなり得ます。ただし、採用選考時に「職務に支障のある疾患の有無」を確認していたか、プライバシーに配慮した適切な方法で確認を行っていたかも問われます。単に「事前に言わなかった」だけでは、本採用拒否の十分な根拠とはなりにくいです。

Q. 試用期間中の社員が「うつ病の診断書」を提出してきました。どう対応すればよいですか?

A. 診断書を受け取った場合は、まず内容を確認し、必要な休養期間や就業上の配慮事項を把握します。就業規則の休職規定の適用可否を確認した上で、一定の休養・治療機会を設けることを検討してください。この段階で本採用可否を即断するのではなく、回復状況を確認しながら判断するプロセスを踏むことが、後の法的リスクを下げることにつながります。産業医や専門家への相談を早めに行うことをお勧めします。

Q. 本採用拒否を伝える際に、書面は必要ですか?

A. 法律上、解雇(本採用拒否)の通知を書面で行うことは義務ではありませんが、後のトラブルを防ぐために書面での通知を強く推奨します。通知書には、本採用拒否の事実・理由・通知日・解雇予告手当の支払い(または予告期間)について明記します。口頭のみの通知は、後に「言った・言わない」の争いになりやすく、会社側に不利な状況を招きます。

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