面談記録を解雇の証拠に使えるか迷ったら

面談記録を解雇の証拠に使えるか迷ったら 労務管理
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「この記録、解雇の証拠として使えますか?」——人事の専門家に相談すると、その答えは「残念ながら、このままでは難しいかもしれません」になることが少なくありません。離職防止の面談を重ね、丁寧に記録を残してきたのに、いざ問題社員への対応を検討する段階で「証拠として通用しない」と知る。この悔しさと困惑は、兼務人事の方から非常によく聞かれます。面談記録を「使える記録」にするには、作る前の設計が9割です。この記事では、個人情報保護法の観点と労働法の実務を踏まえ、中小企業でも整備できる面談記録の正しい作り方を解説します。

面談記録は「個人情報」であり、場合によっては「要配慮個人情報」になる

面談記録は個人情報保護法が適用される個人情報です。健康・メンタルに関する内容が含まれる場合は、より厳格な「要配慮個人情報」として扱う必要があります。

どこからが「要配慮個人情報」になるのか

氏名・所属・雇用条件などが含まれる時点で、面談記録は個人情報保護法第2条第1項の「個人情報」に該当します。さらに、記録の中に従業員の健康状態・精神的な不調・既往歴・ハラスメント被害などが含まれる場合は、同法第2条第3項の「要配慮個人情報」に該当します。

要配慮個人情報は、原則として本人の同意なく取得・利用・第三者提供が禁止されています(同法第20条第2項・第27条)。つまり、「メンタル不調の相談を受けた記録」は、普通の業務メモと同じように扱ってはいけないのです。

「記録している」と従業員に伝える必要はあるのか

個人情報保護法第17条・第21条は、個人情報を取得する際に「利用目的をできる限り特定」し、「本人に通知または公表」することを義務付けています。つまり、従業員に黙って面談内容を記録・管理することは、法的なリスクを生みます。

「記録されているとわかったら本音を話さなくなるのでは」と心配する経営者・人事担当者も多いのですが、むしろ「どんな目的で、誰が見るのか」を事前に明示しておく方が、従業員の信頼を損ないません。就業規則や社内規程に面談記録の取り扱いについて明記し、入社時や面談開始前に説明しておくことが実務上の基本です。

産業医や外部支援機関への共有はどう扱うか

産業医や外部のEAP(従業員支援プログラム)事業者などへ面談記録の内容を共有する場合は、第三者提供の制限(同法第27条)が適用されます。要配慮個人情報を含む内容であれば、原則として本人の同意が必要です。産業医との連携においては「同意書」の取得が実務の標準になっています。産業医が選任されていない従業員30人未満の事業場でも、外部の保健師や支援機関に情報を渡す際は同様の注意が必要です。

「離職防止」で記録したものを「解雇の証拠」に使おうとすると何が問題か

利用目的が異なる記録を証拠として転用しようとすると、個人情報保護法上の問題と、証拠としての信頼性低下という二重のリスクが生じます。

利用目的の「転用」が問題になる理由

個人情報保護法第17条第2項は、利用目的の変更は「変更前の目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲」でのみ可能と定めています。「社員の離職を防ぐために記録した面談内容」を「社員を解雇するための証拠として使う」ことは、目的の関連性という点で疑義が生じやすく、万一トラブルになった場合に会社側の信頼性を損なう材料になりかねません。

「後から使えない」と気づく典型的なパターン

問題行動が続く従業員に対して離職防止面談を重ね、丁寧に記録してきた。いざ解雇・退職勧奨を検討する段階になって弁護士に記録を見せたところ、「この記録は本人の話を聞いたメモで、会社が何を指導・警告したかが書かれていない。証拠としては弱い」と言われた——これが最も多い「証拠として使えなかった」パターンです。

面談記録が解雇の証拠として機能するのは、「会社がいつ・何を・どのように伝え、従業員がどう応答したか」が客観的に記載されている場合です。相談内容を聞き取ったメモと、指導・警告の事実を記録した書面は、性質が異なります。

では最初から「証拠として使える記録」を取ればいいのか

そこにも落とし穴があります。最初から解雇を想定した記録を取っていた事実は、後に「不当解雇」として争われた際に会社の姿勢が問われることがあります。設計の鍵は、「ケアのための記録」と「指導・確認のための記録」を分けて整備し、それぞれの目的を社内規程に明記しておくことです。

解雇・懲戒の場面で証拠として機能する面談記録の条件

解雇が有効と認められるには、労働契約法第16条が求める「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の両方を満たす必要があります。面談記録はその証明に使える一次証拠になり得ますが、要件を満たした記録である必要があります。

記録に必ず残すべき項目

裁判・労働審判の場面で証拠として評価されやすい面談記録には、以下の要素が含まれています。

記録すべき項目 なぜ重要か
面談の日時・場所 いつ実施したかの客観的証明
参加者(会社側・従業員側) 誰が何を言ったかの特定
会社側が伝えた内容(指導・警告・改善要求) 会社の対応実績の証明
従業員の発言・反応 本人が内容を認識していたことの証明
合意した次のステップ・期限 改善機会を与えたことの証明
記録の作成日・作成者 後から改ざんされていないことの担保

従業員の署名・確認メールは取れるか

面談後に「本日お話しした内容です」として記録の要約を従業員にメールで送り、返信を受け取っておくことが、中小企業でも実践しやすい確認方法です。署名・捺印が取れればなお望ましいのですが、「記録を見せると警戒される」という場合は、メールでの確認でも証拠力を補強できます。

重要なのは、記録が面談の直後に作成されており、後から加筆修正されていないことです。クラウド上のドキュメントであれば更新履歴が残るツールを使うことで、改ざんがないことを示しやすくなります。

就業規則との整合性は必ず確認する

面談記録はあくまで「就業規則上の懲戒事由や解雇事由を満たしていることの裏付け」として機能します。どれだけ丁寧な面談記録があっても、就業規則に該当する懲戒規定がなければ解雇の根拠にはなりません。就業規則が10年以上更新されていない、あるいはそもそも就業規則がない(常時10人未満の事業場は作成義務なし)という場合は、記録の整備と並行して就業規則の見直しも検討してください。

メンタルヘルス面談の記録は特別な配慮が必要

メンタルヘルスに関する面談記録は要配慮個人情報に該当するため、取得・保管・共有のすべてにおいて通常の面談記録より厳格な運用が必要です。

取得時に同意を取る仕組みをつくる

うつ病・体調不良・ハラスメント被害などを含む相談面談を行う場合は、面談の冒頭または事前に「面談の内容を記録し、人事担当者(および産業医)が確認することがある」旨を口頭または書面で伝え、同意を得ることが望ましいです。

同意を得ることで本音が出にくくなるという懸念もありますが、「記録は支援の継続性のために使うものであり、懲戒・解雇の目的では使わない」と明示することで、従業員の不安を和らげることができます。この「用途の明確化」が、信頼関係の維持と法的リスクの低減を両立させるポイントです。

保管・アクセス権限の設計

メンタルヘルス面談の記録は、通常の勤怠記録や人事評価と同じフォルダに入れてはいけません。アクセス権限を人事担当者・産業医・経営トップなど必要最小限に絞り、施錠できるキャビネットまたはアクセス制限付きのクラウドストレージで保管します。

「誰でも見られる状態」と「担当者の手元にしかない属人管理」のどちらも問題です。担当者が退職・異動した場合でも引き継げる仕組みとして、保管場所と権限をルール化しておくことが必要です。

保管期間と廃棄のルールも決めておく

個人情報保護法第23条は安全管理措置として、廃棄ルールの整備も求めています。面談記録の保管期間は、退職後の労働関係書類の保存義務(労働基準法第109条:3年間)を参考に、最低でも退職後3年を目安に設定する企業が多いです。ただし、訴訟リスクが残る案件については弁護士の助言を受けたうえで判断してください。

今すぐ整備できる面談記録の実務設計

面談記録の整備は、目的別に種類を分けることから始めるのが最も実践しやすいアプローチです。専任人事がいなくても取り組める手順を示します。

「ケア記録」と「指導・確認記録」を分ける

面談には大きく二つの性質があります。まず相談・傾聴を目的としたケア面談は、従業員の状態把握と支援継続を目的として記録します。次に業務上の指導・改善要求を目的とした指導面談は、会社の対応事実を記録します。この二つを同じフォーマットで記録しようとすることが、設計上の最大の落とし穴です。

ケア記録は支援の継続性のために必要最小限の内容に絞り、指導・確認記録は「会社が何をいつ伝えたか」に焦点を当てた構成にします。フォーマットを分けることで、利用目的の明確化と証拠能力の向上を同時に達成できます。

面談記録の整備は一度で完成するものではなく、実務の中で改善していくプロセスです。「どう分類すればいいか判断がつかない」「社内規程に何を書けばいいか分からない」という場合は、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

社内規程に記録の目的と管理ルールを明記する

どれだけ丁寧な記録を残しても、社内規程(個人情報取扱規程・就業規則等)に記録の目的・保管場所・閲覧権限・廃棄ルールが定められていなければ、「なぜ記録していたのか」という説明責任を果たしにくくなります。規程の整備は、外部の社労士や専門家の支援を受けながら進めることをおすすめします。

記録後の「確認ステップ」を必ずセットにする

面談記録を作成したら、内容の要約を従業員にメールで送付し、「認識の共有」を記録として残す習慣をつけましょう。「本日の面談では○○についてお伝えしました。ご確認ください」という一文でも、返信が残れば双方が内容を把握していた証拠になります。この確認ステップを省略しているだけで、記録の証拠力が大きく変わります。

まとめ

面談記録は、作り方と目的の設計次第で「使える証拠」にも「法的リスクの種」にもなります。ポイントを整理すると、まず面談記録は個人情報であり、メンタルヘルスに関わる内容は要配慮個人情報として厳格に管理する必要があります。次に、離職防止のために取った記録を後から解雇の証拠に転用しようとすると、利用目的の転用問題と証拠力不足の両方に直面します。そして、解雇・懲戒に耐えうる記録にするには、「ケア記録」と「指導・確認記録」を分けて設計し、面談後の確認ステップを必ずセットにすることが重要です。

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よくある質問

Q. 離職防止の1on1で取ったメモは、そのまま解雇の証拠として使えますか?

A. そのままでは難しいケースがほとんどです。離職防止を目的として作成された記録を解雇の証拠として使うことは、個人情報保護法上の利用目的の転用にあたる可能性があります。また、記録内容が「従業員の話を聞いたメモ」にとどまり、「会社がいつ・何を指導・警告したか」が書かれていない場合、労働審判や裁判では証拠として弱いと判断されることがあります。目的別に記録を設計し直すことをおすすめします。

Q. 面談記録を従業員本人から「開示してほしい」と言われたら、見せなければなりませんか?

A. 個人情報保護法第33条は、本人からの開示請求への対応義務を定めています。原則として本人の個人情報は開示する必要があります。ただし、第三者(他の従業員など)の情報が含まれる部分は非開示にできる場合があります。開示請求への対応手続きを社内規程に整備しておくことで、突然の請求にも落ち着いて対応できます。

Q. 面談記録はどのくらいの期間保管すればよいですか?

A. 労働基準法第109条に基づき、労働関係書類は3年間の保存義務があります(2020年の法改正で一部書類は5年に延長)。面談記録についても、退職後少なくとも3年間を目安に保管する企業が多いです。ただし、解雇・懲戒・ハラスメント対応に関わる記録は、後日訴訟になるリスクを考慮してより長期の保管を弁護士に相談したうえで判断することをおすすめします。

Q. 産業医がいない中小企業でも、メンタルヘルス面談の記録は必要ですか?

A. 産業医の選任義務は常時50人以上の事業場に課されますが(労働安全衛生法第13条)、それ以下の規模でもメンタルヘルス面談の記録は必要です。担当者が変わっても支援の継続性を保つためでもあり、万一休職・復職対応が必要になった場合の根拠資料としても重要です。産業医がいない場合は、地域産業保健センターや外部の保健支援機関の活用も検討してください。

Q. 面談記録を紙で保管している場合、どのような管理が必要ですか?

A. 紙での保管は、施錠できるキャビネットへの保管と、アクセスできる人を限定することが最低限の要件です。誰が・いつ・なぜアクセスしたかのアクセスログを記録する仕組みも、要配慮個人情報を含む書類には整備が望まれます。クラウドツールへの移行も安全管理措置として有効です。アクセス権限の設定・更新履歴の保存・バックアップの観点から、クラウド管理の方がトータルのリスクが低くなるケースが多いです。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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