年俸制の欠勤控除、正しく計算できていますか?

年俸制の欠勤控除、正しく計算できていますか? コンプライアンス
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「年俸制で採用した社員が入社1か月目に2日欠勤した。給与明細をどう作ればいい?」——経理担当に聞いても「年俸制は月給制と違うから……」と曖昧な答えしか返ってこず、結局そのまま満額支払ってしまった。こんな場面に心当たりはありませんか。年俸制は「年間総額が決まっている契約」というイメージから、欠勤があっても控除できないと誤解されがちです。しかし実際には、正しい計算式と就業規則への明記さえあれば、欠勤・遅刻分を適法に控除できます。本記事では、法的根拠から具体的な計算式、就業規則の整備ポイントまでを実務目線で解説します。

年俸制でも欠勤控除はできる

結論から言えば、年俸制であっても欠勤・遅刻分の給与控除は適法です。「年間で金額が決まっているのだから、1日休んでも引けないはず」という疑問はよく耳にしますが、これは誤解です。

ノーワーク・ノーペイの原則

賃金は「労働の対価」です。民法上の双務契約の原則(民法623条・624条等)から、労務の提供があって初めて賃金請求権が発生するという考え方が導かれます。これを「ノーワーク・ノーペイの原則」と呼びます。労働基準法に明文規定はありませんが、判例・行政解釈ともにこの原則を認めており、年俸制でも例外ではありません。働かなかった日・時間に対応する賃金を控除することは、制裁(懲戒)ではなく「働いていない分を払わない」という賃金の精算にすぎないのです。

欠勤控除と賃金全額払いの原則の関係

労働基準法第24条は「賃金は全額を支払わなければならない」と定めています。欠勤控除はこの原則に反するように見えますが、そうではありません。全額払いの原則が禁止しているのは、使用者が一方的に賃金から金銭を差し引くことです。欠勤控除は「そもそも発生しなかった賃金請求権を差し引く」のではなく、「発生しなかった分を計上しない」という性格を持つため、全額払い違反にはなりません。ただし、計算方法・分母・端数処理を就業規則または雇用契約書に明示しておかないと、「合意なき控除」とみなされるリスクがあります。この点が実務上の最大のポイントです。

労基法第91条(制裁規定の制限)との混同に注意

欠勤が多い社員に対し、「欠勤控除に加えてさらにペナルティを課したい」と考える経営者もいますが、ここで注意が必要です。労働基準法第91条は、制裁(懲戒)としての減給について「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない」と上限を定めています。欠勤控除そのものは第91条の対象外ですが、控除を超えた追加のペナルティはこの制限を受けます。欠勤控除と懲戒処分を混同しないよう、就業規則で明確に区別して規定しておきましょう。

欠勤控除の正しい計算式

欠勤控除の計算は「月額給与 ÷ 分母(所定労働日数または暦日数)× 欠勤日数」が基本形です。問題は「分母をどう設定するか」であり、ここを就業規則で明確にしておくことが適法運用の核心です

月額の確定方法

年俸制でも、労働基準法第24条の「毎月払いの原則」により給与は月単位で支払う必要があります。まず年俸を12で割って月額を算出します。

  • 月額 = 年俸 ÷ 12
  • 年俸に賞与が含まれている場合:「月例給与相当額 ÷ 12」が月額。賞与部分は別途支給時期・金額を雇用契約書に明記する

賞与込みの年俸制を採用している企業では、「年俸のどの部分が月給で、どの部分が賞与か」を雇用契約書で明示していないケースが散見されます。賞与部分まで欠勤控除の分母に含めると計算が複雑になるだけでなく、後から労使トラブルの原因にもなります。契約書の段階で明確に区分しておくことを強くお勧めします。

分母(1日単価)の3つの計算方式と比較

1日あたりの賃金単価を算出する分母には、主に3つの方式があります。

方式 計算式 特徴・注意点
月平均所定労働日数方式 月額 ÷(年間所定労働日数 ÷ 12) 月ごとの単価ブレが少なく運用しやすい。就業規則に年間所定労働日数の明記が必要
当月所定労働日数方式 月額 ÷ 当月所定労働日数 祝日が多い月は1日単価が上がる。月によって控除額が変動する
暦日数方式 月額 ÷ 当月暦日数(28〜31日) 所定休日分も分母に含まれるため、労働者にとって不利になりやすい

たとえば月額40万円の社員が1日欠勤した場合、年間所定労働日数240日(月平均20日)として計算すると「40万円 ÷ 20日 = 2万円」の控除になります。一方、暦日数方式(当月31日)で計算すると「40万円 ÷ 31日 ≒ 約1万2,900円」と控除額が大きく異なります。どの方式が「正しい」という法律上の唯一解はありませんが、実務上は月平均所定労働日数方式が最も安定して運用しやすく、労使双方にとって納得感を得やすいとされています。

遅刻・早退の時間単位控除の計算式

遅刻や早退は、欠勤控除の時間版です。1日単価をさらに1日の所定労働時間数で割り、時間単価を出してから遅刻・早退時間数を乗じます。

  • 時間単価 = 月額 ÷ 月平均所定労働日数 ÷ 1日の所定労働時間
  • 控除額 = 時間単価 × 遅刻・早退時間数

例として、月額40万円・月平均所定労働日数20日・所定労働時間8時間の場合、時間単価は「40万円 ÷ 20日 ÷ 8時間 = 2,500円」です。30分の遅刻であれば「2,500円 × 0.5時間 = 1,250円」の控除となります。端数処理(分単位を切り上げるか切り捨てるか)も就業規則に明記しておくと、担当者が変わっても運用がブレません。

中途入社・月の途中入社の月割り計算

月の途中に入社した社員の初月給与は、月額を「在籍日数」または「在籍所定労働日数」で按分します。この計算は通常月の欠勤控除とは別の処理であり、混同しないことが重要です。

日割り計算の2つのアプローチ

初月の日割り計算には、主に以下の2つのアプローチがあります。

  • 暦日按分方式:月額 ÷ 当月暦日数 × 在籍暦日数
  • 所定労働日数按分方式:月額 ÷ 当月所定労働日数 × 在籍所定労働日数

たとえば月の21日に入社した場合(当月31日、所定労働日数22日のうち入社後の所定労働日数が8日だったとする)、暦日按分では「40万円 ÷ 31日 × 11日 ≒ 約14万2,000円」、所定労働日数按分では「40万円 ÷ 22日 × 8日 ≒ 約14万5,000円」と金額が異なります。どちらの方式を採用するかを就業規則に定め、欠勤控除の分母方式と統一しておくと管理が楽になります。

欠勤控除との二重計算を防ぐ

よくあるミスが、「初月の日割り」と「初月中の欠勤控除」を重複して処理してしまうケースです。在籍日数に基づいて月額を日割り計算した上で、さらに在籍期間中の欠勤日を控除しようとすると二重控除になる危険があります。正しい処理は「在籍期間中の所定労働日数(または暦日数)を分母にして月額を按分し、その期間中の欠勤日数をさらに控除する」という手順です。就業規則や給与計算マニュアルに処理フローを明記しておくことで、担当者が迷わず対応できるようになります。

就業規則に必ず明記すべきポイント

年俸制の欠勤控除を適法に運用するには、就業規則への記載が不可欠です。労働基準法第89条は「賃金の決定・計算・支払いの方法」を就業規則の絶対的必要記載事項として定めており、年俸制の控除計算方法も例外ではありません。

就業規則に盛り込むべき項目

月給制の就業規則を流用している企業は多いですが、年俸制社員には以下の項目を個別に定めることが必要です。

  • 年俸の月例給与部分と賞与部分の区分・割合
  • 欠勤控除の分母方式(月平均所定労働日数方式など)と年間所定労働日数の具体的な日数
  • 遅刻・早退の時間単位控除の計算式と端数処理のルール
  • 月の途中入社・退職時の日割り計算方式
  • 欠勤控除と懲戒処分(制裁としての減給)が別の制度であることの明記

常時10人未満企業の対応

常時雇用する労働者が10人未満の企業は、就業規則の作成・届出義務がありません(労働基準法第89条)。ただし「義務がないから作らなくてよい」ではなく、雇用契約書や労働条件通知書の中に欠勤控除の計算方法を明記することが強く推奨されます。社員から「なぜこの金額が引かれているのか」と問われたとき、書面で根拠を示せる状態にしておくことが労使トラブルの予防になります。10人以上になった段階で速やかに就業規則を整備し、労働基準監督署へ届け出ましょう。

既存の就業規則の見直しタイミング

年俸制社員を初めて採用するとき、または現在の就業規則が月給制のみを前提にして作られていると気づいたときが見直しの好機です。就業規則の変更は労働者代表の意見聴取と労働基準監督署への届出が必要です(労働基準法第89条・第90条)。変更内容が労働者にとって不利益な変更にあたる場合は、合理的な理由と十分な説明・周知が求められます(労働契約法第10条)。「気づいたときにすぐ動く」姿勢が、後々のトラブル防止につながります。

まとめ

年俸制であっても、ノーワーク・ノーペイの原則に基づき欠勤・遅刻分の給与控除は適法に行えます。ポイントは、欠勤控除の分母方式(月平均所定労働日数方式が実務上推奨)、遅刻・早退の時間単位控除の計算式、月途中入社の日割り計算方法、そしてこれらを就業規則または雇用契約書に明示することの4点です。「今の就業規則は月給制が前提で、年俸制社員への対応に自信がない」「中途入社の初月給与や欠勤控除の計算が毎回バラバラになっている」という状況であれば、一度ルール全体を整理するタイミングかもしれません。

計算方法が複雑に感じられたり、自社の給与体系に合わせた就業規則の改定について判断に迷う場合は、人事労務の専門家に相談することも有効です。ウェルセンス株式会社では、中小企業の経営者・兼務人事担当者の方からの人事労務に関するご相談をお受けしています。「自社のケースではどう計算すればいいか」「就業規則のどこをどう直せばいいか」といった具体的なご質問も、お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 年俸制の社員に欠勤控除をする場合、労使協定は必要ですか?

A. 欠勤控除は「働かなかった分を支払わない」というノーワーク・ノーペイの精算であり、使用者が一方的に賃金を差し引く「控除」とは法的性格が異なります。そのため、労働基準法第24条が定める賃金控除の労使協定(賃金控除協定)は原則として不要です。ただし、計算方法・分母・端数処理を就業規則または雇用契約書に明示しておくことは必須です。根拠が書面にない状態での控除は、後から「合意のない賃金カット」と主張されるリスクがあります。

Q. 年俸制に賞与が含まれている場合、賞与部分も欠勤控除の計算に含めますか?

A. 原則として、欠勤控除の計算に使う月額は「月例給与相当額 ÷ 12」とし、賞与部分は含めません。年俸に賞与が組み込まれている場合は、雇用契約書で月例給与部分と賞与部分の金額・割合を明確に区分しておく必要があります。区分が曖昧なまま賞与込みの年俸全体で計算すると、過大控除になる可能性があるため注意が必要です。

Q. 月の途中で退職した社員の最終月給与はどう計算しますか?

A. 月途中退職の場合も、入社月と同様に日割り計算を行います。就業規則に定めた方式(暦日按分または所定労働日数按分)に従って、在籍日数・在籍所定労働日数に応じた月額を算出します。さらに退職月に欠勤があった場合は、在籍期間内の控除として追加処理します。入社・退職どちらの場合も同じ計算方式を適用するよう就業規則に統一して定めておくと、担当者が変わっても一貫した処理が可能になります。

Q. 欠勤が続く社員に対して、控除に加えて減給処分を行うことはできますか?

A. 欠勤控除(ノーワーク・ノーペイの精算)に加えて、懲戒処分としての減給を行うことは制度上は可能です。ただし、制裁としての減給は労働基準法第91条により「1回の減給額が平均賃金の1日分の半額以内、かつ1賃金支払期における減給総額が賃金総額の10分の1以内」という上限があります。また、懲戒処分を行うには就業規則に懲戒事由と処分内容が明記されていることが前提です。欠勤の背景にメンタルヘルス上の問題が隠れているケースもあるため、いきなり懲戒処分に進む前に状況の把握と本人へのケアを優先することをお勧めします。

Q. 今の就業規則が月給制前提で書かれています。年俸制社員を採用する際に別途雇用契約書で対応するだけでは不十分ですか?

A. 雇用契約書に欠勤控除の計算方法を明記することは有効な対応ですが、就業規則が月給制前提のままだと、両者の内容が矛盾したときに労使トラブルの原因になります。労働基準法第89条は「賃金の決定・計算・支払いの方法」を就業規則の絶対的必要記載事項として定めているため、年俸制の運用が継続するのであれば就業規則本体または別規程(年俸制規程等)に計算方法を盛り込むことが理想です。まず雇用契約書で対応しつつ、次回の就業規則改定時に正式に整備するという段階的アプローチが現実的です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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