「休職した従業員から傷病手当金の話が出たけど、会社は何をすればいいの?」——専任の人事担当者がいない中小企業では、こうした疑問を抱えたまま手続きが後手に回り、従業員が受給できない期間が生じてしまうケースが少なくありません。傷病手当金は本人申請が原則ですが、会社側にも重要な記載義務があります。この記事では、傷病手当金申請の会社側手続きを実務の流れに沿って整理します。
傷病手当金とは——会社が関わる理由を理解する
傷病手当金の制度基本
傷病手当金は、健康保険法第99条に基づく給付制度です。業務外の傷病で仕事を休み、給与が受け取れない期間を支える仕組みで、支給額は標準報酬日額の3分の2が目安です。たとえば月給30万円の従業員であれば、1日あたり約6,600円が支給される計算になります。
支給期間は、2022年1月の法改正により「支給を受けた日数の通算で1年6ヶ月」に変更されました。改正前は支給開始日から1年6ヶ月が経過すると終了していたため、復職・再休職を繰り返す従業員がいる場合は特に注意が必要です。旧制度の知識のまま従業員に説明すると誤案内になるリスクがあります。
会社側に手続き義務がある理由
傷病手当金申請書は本人が記入する部分だけでなく、「事業主が証明するところ」という欄が設けられています。ここに会社が正確な情報を記載して初めて、健保組合や協会けんぽが審査を進められます。会社側の記載が不正確だったり提出が遅れたりすると、従業員への支給が遅延したり、書類が返戻(へんれい)されて再提出が必要になることもあります。
申請書は書類1枚ではなく4枚構成になっており、会社が担当するのはそのうちの「事業主記入欄」(3枚目相当)です。存在を知らずに放置してしまう担当者も多いため、まず「会社にも記載義務がある」という認識を持つことが大切です。
傷病手当金申請で会社が記入する内容
基本情報と休業期間の記載
事業主記入欄に記入する主な項目は以下の通りです。会社名・所在地・事業主氏名・電話番号といった基本情報に加え、「労務に服することができなかった期間」を記載します。これは、タイムカードや出勤簿などの勤怠記録をもとに、従業員が実際に休んでいた日付を確認して記入します。
たとえば「4月10日から4月30日まで欠勤」という場合、その全期間を正確に記入します。ここで勤怠記録との食い違いがあると、保険者(協会けんぽや健保組合)から問い合わせが来たり、書類が差し戻されたりします。記入前に必ず勤怠管理データと照合しましょう。
給与支払い状況の記載と有給休暇の扱い
休職期間中に給与を支払っているかどうかも記載が必要です。ここで特に混乱しやすいのが「有給休暇を消化している期間」の扱いです。有給休暇中は給与が支払われているため、その期間は傷病手当金の支給対象外になります。ただし、待期期間(後述)の3日間には有給日数も含まれます。
たとえば「4月10日〜12日は有給消化、4月13日以降は欠勤(無給)」という場合、有給期間と欠勤期間を日ごとに区別して記載することが求められます。「まとめて休職」と一括りに書いてしまうと、給与との調整ができず審査が止まる原因になります。有給と欠勤が混在する月は、給与明細データを手元に用意したうえで記入するようにしてください。
傷病手当金申請のタイミングと流れ
待期期間と支給開始日の考え方
傷病手当金が支給されるのは、業務外の傷病で連続して休んだ「最初の3日間(待期期間)」が完成した後、4日目以降の休業日からです。この3日間には土曜・日曜・祝日・有給休暇も含まれます。たとえば木曜日から体調不良で休み始めた場合、木・金・土の3日で待期が完成し、日曜日以降の休業が支給対象になります。
連続3日という点が重要で、途中で出勤が1日でも挟まると待期はリセットされます。「金曜に休んで月曜から復帰、また水曜に休んだ」という断続的な欠勤では待期が完成しないため、注意が必要です。
月単位の申請と書類準備のスケジュール
傷病手当金申請は通常「月単位」で行います。毎月末に当月分の申請書を準備し、翌月初旬に提出するサイクルが一般的です。ただし、健保組合によって申請サイクルや様式が異なる場合があるため、加入している保険者に事前に確認しておくことをおすすめします。
実務的なスケジュールのイメージとしては、まず月末に勤怠データを締め、次に申請書の事業主記入欄に必要事項を記入し、その後従業員本人・主治医の記載が揃った書類をまとめて提出という流れになります。書類が複数人から集まる必要があるため、締め切りを従業員と事前に共有しておくとスムーズです。
申請期限(時効)の把握
傷病手当金申請には2年の時効があります。正確には「支給を受ける権利が生じた日の翌日から2年以内」です。長期休職が続いている場合、早期に申請を開始しないと最初の期間分が時効にかかってしまう可能性があります。「後でまとめて申請しよう」と先送りにするのは避け、休職開始後できるだけ早く申請の準備を始めることが重要です。
休職開始時に従業員へ説明するポイント
説明を躊躇することのリスク
「傷病手当金の話をすると、退職を促しているように受け取られるのでは」と心配して、説明を後回しにしてしまう担当者は少なくありません。しかし説明が遅れると、従業員が申請できる期間を逃したり、書類の準備が間に合わなくなったりといった不利益が生じます。傷病手当金は従業員が安心して休むための制度であり、案内することは会社として当然の配慮です。
説明のタイミングと伝える内容
説明は、休職が確定したタイミング(診断書が提出された直後など)が適切です。「休んでいる間の収入について、健康保険から給付を受けられる制度があります」という切り口で案内すると、従業員にとっても受け取りやすくなります。
伝えるべき内容は、大きく3点です。まず「傷病手当金という制度があること」、次に「申請書の一部に会社が記載する欄があること」、そして「毎月申請が必要であること」です。細かい計算や手続きの説明は後日でも構いませんが、制度の存在と会社が協力する姿勢を早めに伝えることが大切です。精神的に不安定な状態の従業員には、口頭説明に加えて簡単な書面を渡すと、後から確認できて親切です。
傷病手当金と給与の調整ルール
給与が支払われている期間の取り扱い
休職中に給与が支払われている場合、傷病手当金との調整が発生します。基本的な考え方は「給与が傷病手当金の額を超えている期間は、傷病手当金は支給されない」というものです。たとえば有給消化中は通常の給与が支払われるため、その期間の傷病手当金は不支給になります。
一方、給与が傷病手当金の額を下回っている場合は、差額分が傷病手当金として支給されます。たとえば休職中に見舞金として一部給与を支払っているケース(給与の50%支給など)では、傷病手当金との差額が受け取れることになります。事業主記入欄には「支払った金額」を正確に記載することが求められるため、給与台帳や支給明細と照合しながら記入してください。
復職・再休職を繰り返す場合の管理
長期にわたる休職や、復職後に再び休職が必要になるケースでは、申請書類の管理が複雑になります。2022年の法改正後は支給日数が通算管理されるため、「残り何日分の支給が受けられるか」を把握する必要があります。申請書の控えや支給決定通知書を月ごとにファイリングし、通算支給日数を追えるようにしておくことが実務上の重要なポイントです。
担当者が変わっても引き継げるよう、休職開始日・待期完成日・有給消化期間・申請月ごとの支給日数といった情報を一覧表で管理しておくと、後々の対応がスムーズになります。
まとめ
傷病手当金申請は「本人が申請するもの」というイメージが先行しがちですが、会社側にも事業主記入欄への記載という重要な役割があります。勤怠記録・給与データとの照合、月単位の申請サイクル、有給消化期間の扱い、そして2022年改正による通算管理——これらを正確に把握して対応することが、従業員への適切なサポートにつながります。
専任人事がいない企業では、これらの手続きを兼務の担当者が都度調べながら対応しなければならず、ミスや遅延が起きやすい状況です。ウェルセンス株式会社では、傷病手当金申請の書類確認サポートをはじめ、休職対応の初期説明フローの整備や復職支援まで、中小企業の人事担当者が「一人で抱え込まなくて済む」仕組みづくりをご支援しています。休職対応に関してお困りでしたら、ウェルセンス株式会社までお気軽にご相談ください。
よくある質問
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