休職中の社員に会社移転を伝える対応に迷ったら

休職中の社員に会社移転を伝える対応に迷ったら 休職・復職対応
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「移転の連絡を入れたら、『そこまで通えない』と言われてしまって……どう対応すればいいのか、正直わかりません」

会社移転が決まったとき、在職中の社員への対応だけでも大変なのに、休職中の社員への告知は後回しになりがちです。ところが、連絡を入れると「通勤困難で復職できない」と言われ、「それは認めないといけないの?」「解雇になるの?」と判断に迷う経営者・人事担当者は少なくありません。このページでは、休職中の社員に会社移転を伝える際の法的な考え方と、実務的な対応の流れを整理します。

会社移転は「労働条件の変更」になりうる

会社が一つの拠点を移転する場合でも、それが社員にとって通勤時間・距離・費用の大幅な増加を伴うなら、労働条件の不利益変更に該当する可能性があります。この前提を理解しておくことが、対応の出発点です。

根拠となる法律:労働契約法の基本原則

労働契約法第8条は、労働条件の変更は原則として「労使双方の合意」によると定めています。第9条では就業規則の変更による不利益変更を原則禁止とし、第10条では「変更が合理的であり、かつ周知されている場合」に限り、就業規則の変更による条件変更が有効になると規定しています。

つまり、会社移転に伴う勤務地の変更は、「合理性があれば一方的に変えられる」わけではなく、社員への不利益が大きい場合は個別の同意取得が原則となります。

雇用契約書に勤務地が明記されているかを確認する

実務上まず確認すべきは、雇用契約書や労働条件通知書に勤務地が特定されているかどうかです。「東京都渋谷区〇〇」のように具体的な所在地が書かれている場合、会社の一方的な変更には本人の同意が必要と判断されやすくなります。

また、「転居を伴う転勤はしない」「〇〇区内の事業所のみ勤務」といった明示・黙示の合意がある場合も、同意なしの変更は困難です。就業規則に「業務の都合により勤務地を変更することがある」という包括的な規定があったとしても、通勤時間が著しく増加する場合は合理性の判断が個別に求められます。

「就業規則に配転規定があるから大丈夫」は危険

配置転換や転勤の規定と、会社全体の移転は性格が異なります。配転命令権は「複数拠点のある会社が社員を異動させる権限」を想定したものであり、「会社が丸ごと移転する」ケースには直接適用できないことがあります。就業規則の文言と実態のギャップが大きい場合は、法律専門家への確認をおすすめします。

休職中の社員への通知義務と連絡の取り方

休職中の社員にも、会社移転の事実を通知する義務があります。ただし、療養中の社員に過度な負担をかけない配慮が求められるため、タイミングと方法に注意が必要です。

移転が確定したら書面で通知する

移転の事実が確定した段階で、休職中の社員にも書面(郵送またはメール)で通知することが必要です。通知する内容は、新しい勤務地の住所、移転の時期、交通アクセスの情報などが基本です。「連絡すると負担をかけるのでは」と遠慮して通知を省略すると、後から「知らなかった」「同意していない」とトラブルになるリスクがあります。

また、口頭のみの連絡は記録が残らないため、必ず書面で伝え、発送日や内容の控えを保管してください。

産業医・主治医と連携して連絡方法を検討する

産業医(従業員50名以上の事業場では選任義務があります)がいる場合は、連絡のタイミングや方法について事前に相談するのが望ましいです。50名未満の企業でも、顧問契約のある産業医や健康相談窓口があれば活用してください。

主治医から「療養に専念させてください」という意向が出ている場合でも、会社移転のような重要な変更は通知しないわけにはいきません。「業務の指示や出勤催促ではなく、条件変更の情報提供である」ことを明確にした文面で伝えることが、本人への配慮にもつながります。

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通勤手当の再計算はいつ・どうやって行うか

通勤手当の再計算は、実務的に「復職のタイミングで行う」のが一般的です。休職中は通勤実態がないため、移転直後に再計算を行う必要はありません。

再計算のタイミングと通知のタイミングは別物

「再計算の実施」は復職後の実通勤に基づいて行いますが、「再計算後の金額の提示」は復職前に行うべきです。復職に向けた調整面談や復職判定の場で、移転後の通勤経路・費用の見込みを社員と確認しておくと、後のトラブルを防げます。

特に、移転によって通勤費が大幅に増える場合(例:片道の定期代が月1万円以上増加するケース)は、復職前に明示して合意を得ることが重要です。

就業規則・通勤手当規程の記載を確認する

再計算のタイミングについて就業規則や通勤手当規程に明記がある場合は、その規定に従います。「住所変更や通勤経路変更があった場合は届出を要し、翌月から再計算する」といった記載があれば、それが適用されます。

規程に定めがない場合は、実態(復職後の通勤開始時)に合わせて処理するのが合理的です。この機会に規程を整備しておくと、今後の類似ケースにも対応しやすくなります。

「通勤困難で復職できない」と言われたときの対応フロー

社員から「新しいオフィスには通えないので復職できない」と告げられた場合、まず代替案の検討と合意形成を試み、それでも折り合いがつかない場合は就業規則上の取り扱いを確認する流れで対応します。

代替案を検討・提示する

会社としてまず取り組むべきは、合理的な配慮として代替案を検討することです。以下のような選択肢が考えられます。

代替案 検討できる状況 注意点
テレワーク・リモート勤務 業務内容がリモート対応可能な場合 就業規則や業務上の制約を要確認
時差出勤・フレックス導入 混雑回避で通勤負担が軽減できる場合 制度がない場合は個別合意が必要
通勤費補助の増額 費用増加が主な負担となっている場合 他の社員とのバランスを考慮する
復職時期の調整 療養の進捗に合わせた段階的対応 休職期間の満了時期に注意する

20〜50名規模の企業では、別拠点への異動やサテライト勤務といった選択肢を現実的に提示するのが難しいケースがほとんどです。だからこそ、テレワーク可否など業務実態に合わせた代替案を一つでも提示できるかどうかが、後の対応の正当性に影響します。

判断に迷った場合は、産業医や外部のメンタルヘルス支援機関に相談して、医療的視点を交えた検討を行うことで、より客観的な対応が可能になります。

「通勤困難」が医療的理由かどうかを判断する

精神疾患による休職中の社員が「体調的に通えない」と言った場合、それが医学的な通勤不能なのか、心理的な拒否反応なのかを区別することは一般の人事担当者には難しいです。このときは、主治医に対して「復職先の勤務地・通勤時間が変わった場合の通勤可否」について意見を求めることが有効です。

産業医がいる場合は、産業医と主治医の意見をすり合わせるプロセスを踏むことが、医療的根拠に基づいた判断として記録にも残ります。産業医のいない企業では、産業医紹介サービスや外部EAP(従業員支援プログラム)を活用することも選択肢の一つです。

合意できない場合:休職期間満了の取り扱いを確認する

代替案を提示したうえで、本人が復職を拒否し続ける場合は、就業規則上の休職期間満了の規定を確認します。多くの就業規則では「休職期間が満了しても復職できない場合は退職または解雇とする」旨が定められています。

ただし、この規定を適用するには、会社として合理的な代替案を提示したこと、本人の意向を確認したこと、書面での通知記録を残してあることが前提になります。これらのプロセスを踏まずに「期間満了だから退職扱い」とするのは、後の法的紛争のリスクになります。

「就業規則が整備されていない」ときはどうするか

就業規則が古い・整備されていない場合でも、今からできることはあります。移転対応を機に、最低限必要な整備を進めることが重要です。

最低限確認・整備すべき規定項目

会社移転時の対応では、以下の規定の有無を確認してください。

  • 勤務地に関する規定(特定勤務地・変更の可否)
  • 通勤手当の算定・再計算・支給停止に関する規程
  • 休職期間・延長・満了時の取り扱い
  • 休職中の連絡方法・頻度に関するルール
  • 復職判定のプロセス(主治医意見書・産業医との連携等)

これらが整備されていない場合、今回の対応を個別合意で乗り切ることはできても、次のケースで同じ混乱が繰り返されます。移転を機に就業規則の見直しに着手するのが現実的です。

産業医がいない場合の対処法

従業員50名未満の事業場には産業医の選任義務はありませんが、休職者への対応では医療的視点が欠かせません。外部の産業医サービスやメンタルヘルス支援に特化した外部機関を活用することで、医学的意見の取得や面談への同席などのサポートを受けることができます。

「専門家なしで判断しようとする」ことが、対応の遅れや判断ミスにつながるリスクが最も高いパターンです。費用対効果を考えても、外部リソースの活用を検討する価値があります。

まとめ

休職中の社員に会社移転を伝える対応では、まず「会社移転が労働条件の変更になりうる」という前提を押さえ、書面による通知、本人の意向確認、代替案の検討・提示、合意形成という流れを丁寧に踏むことが重要です。「就業規則に配転規定があるから問題ない」「連絡すると負担になるから後回しにする」という判断は、いずれもリスクになります。

特に精神疾患による休職者の「通勤困難」の判断は、医療的な根拠確認が欠かせず、産業医や外部支援の活用が現実的な選択肢になります。このような複雑な判断が必要な場面こそ、人事だけで抱え込まず、専門機関のサポートを受けることで判断ミスを防ぐことができます。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務人事担当者向けに、休職・復職対応の実務相談を承っています。「自社のケースに当てはめるとどうなるのか」「就業規則のここが気になる」「産業医がいないが対応できるか」といった具体的なご相談から、ぜひお気軽にお声がけください。

よくある質問

Q. 休職中の社員に会社移転を通知しないまま移転してしまいました。今からでも対応できますか?

A. はい、今からでも対応は可能です。まず書面で移転の事実・新勤務地・移転日を通知し、本人の意向確認を行うことが先決です。通知が遅れた経緯についても記録を残し、今後は移転確定と同時に通知するよう社内ルールを整備することをおすすめします。

Q. 本人が「通勤困難」と主張しているのが医療的理由かどうか、どう確認すればいいですか?

A. 主治医に対して、「移転後の勤務地への通勤(距離・時間が変わる)が可能かどうか」について意見書を求めることが有効です。産業医がいる場合は、主治医意見書を踏まえた産業医意見も取得することで、より客観的な判断根拠になります。本人の自己申告だけで判断するのは避け、医療的な裏付けを確認するプロセスを踏んでください。

Q. 本人が復職を拒否し続けた場合、解雇することはできますか?

A. 就業規則に「休職期間満了後に復職できない場合は退職または解雇とする」旨の規定があれば、その規定の適用を検討できます。ただし、代替案の提示や意向確認などの手続きを踏まずに適用すると、解雇の有効性が争われるリスクがあります。法的な判断が必要な局面では、社労士・弁護士への相談を強くおすすめします。

Q. 通勤手当は移転後すぐに再計算する必要がありますか?

A. 休職中は通勤実態がないため、移転直後に再計算する必要はありません。実務的には、復職時の通勤経路・費用に基づいて復職手続きと連動して再計算するのが一般的です。ただし、就業規則や通勤手当規程に別途定めがある場合はその規定に従ってください。復職前に金額を提示・確認しておくと、後のトラブル防止になります。

Q. 産業医がいない会社ですが、このような対応をどこに相談すればいいですか?

A. 産業医の選任義務がない50名未満の企業でも、外部の産業医紹介サービスやメンタルヘルス支援に特化した外部機関を利用することができます。休職・復職対応に特化した支援機関であれば、医療的な視点と人事実務の両面からサポートを受けられます。ウェルセンス株式会社でも、このような状況のご相談をお受けしています。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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