部下が「上司が原因」と訴えて休職したら会社がすべき対応

部下が「上司が原因」と訴えて休職したら会社がすべき対応 休職・復職対応
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「部下が上司のせいで休職した」と言われたとき、多くの経営者・人事担当者は戸惑いと焦りを感じます。本人の訴えをそのまま受け入れるべきなのか、上司の言い分も聞くべきなのか。連絡してもいいのか、何を記録すればいいのか。専任の人事部門がない中小企業では、判断の拠りどころがなく、気づけば何週間も手が打てないまま時間だけが過ぎていく——そんな状況は珍しくありません。

この記事では、上司が原因で休職に至った場合の調査方法と対応の流れを、法的リスクを抑えながら実務的に整理します。「何から手をつければいいのか」という第一歩から、記録の残し方、処分の判断基準、再発防止策まで、経営者・人事担当者が実際に使える判断基準をお伝えします。

「上司が原因」と訴えられたとき、会社はなぜ対応義務があるのか

調査しないこと自体が法的リスクになる

「本人から直接言われていなかった」「詳しい事情がわからない」——こうした理由で調査を後回しにすることは、法的に見て大きなリスクです。労働契約法第5条は、会社に「安全配慮義務」を課しています。これは、従業員が心身の健康を保って働ける環境を維持する義務であり、上司の言動が原因で休職に至った可能性がある場合、会社が適切な調査・措置を取らなかった事実そのものが義務違反とみなされ、損害賠償請求の対象になり得ます。「知らなかった」は免責になりません。

パワハラ防止法で会社には対応義務がある

2022年4月から中小企業にも義務化された「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」により、事業主は相談窓口の設置・事実確認・被害者保護・再発防止という一連の措置を講じる義務を負います。これらを怠ると、行政指導や企業名の公表対象になる可能性もあります。

厚労省が定めるパワハラの3要件は以下の通りです。

  • 優越的な関係を背景とした言動
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えている
  • 労働者の就業環境が害される

上司の行為がこれらに該当するかどうかを確認することが、対応の出発点になります。

労災申請への備えとしても記録が不可欠

休職した従業員や家族が、業務上の精神疾患(うつ病など)として労働基準監督署に労災申請するケースがあります。労災認定では「業務による強いストレス」の有無が審査されますが、その際に会社の調査記録・業務状況の記録が重要な判断材料となります。記録が不十分だと、会社側に不利な認定につながりやすくなります。調査・記録は「もしものとき」の会社防衛にもなるのです

事実確認はどう進めるべきか——調査の基本的な進め方

まず「医学的判断」と「行為の事実確認」を分けて考える

「上司の言動が原因でうつ病になった」という訴えには、2つの異なる問いが含まれています。

  • 業務上の問い:上司の言動がパワハラにあたる事実があったか
  • 医療上の問い:その言動と精神疾患の発症に医学的な因果関係があるか

会社が調査すべきは前者であり、後者については産業医・主治医の見解が不可欠です。この2つを混同すると、判断を誤ったり調査が停滞したりします。まず「何があったか(事実)」を確認することに集中してください。

調査のヒアリングは三者に対して個別に行う

事実確認は、以下の三者に対して、それぞれ個別にヒアリングを行います。

  • 休職者本人
  • 行為者である上司
  • 周囲の同僚(当該部門の従業員など)

一度に複数人を同席させると、発言が誘導されたり萎縮したりするリスクがあります。ヒアリングの内容は、相手の了承なく他者に開示しない「秘密保持」が原則です。

また、調査担当者は当事者と利害関係のある人物(例:問題の上司のさらに上の上司が友人同士など)を避け、中立性を確保してください。調査の公正性が損なわれると、後に訴訟になった際に調査結果の証拠力が下がります。

休職中の本人への連絡は「配慮しながら、必要な範囲で」

「休職中の人に連絡してよいのか」という不安は多くの担当者が感じます。結論として、回復を妨げない範囲での連絡は問題ありません。ただし、主治医の見解を確認したうえで実施することが望ましく、連絡の頻度・内容・手段(メール・書面が基本)には配慮が必要です。

事実確認のヒアリングは、本人の体調が安定した段階で行うのが原則です。無理に急かさず、「会社として確認したいことがある。体調が落ち着いた頃に、負担のない形でお聞きしたい」と事前に伝えておくと、本人も安心しやすくなります。

記録として残すべきもの——「言った・言わない」を防ぐために

ヒアリング記録は「発言をそのまま残す」のが原則

口頭で話を聞いて終わりにしてしまうと、後になって「そんなことは言っていない」「会社に都合よく書き換えられた」というトラブルが起きがちです。ヒアリングの記録は、担当者が要約するのではなく、相手の発言をできるだけそのままの言葉で書き留めることが重要です。

記録後は本人に確認してもらい、署名・捺印を得ることで証拠力が格段に上がります。書式は特別なものでなくてかまいませんが、以下の5項目を必ず含めるようにしてください。

  • 日時
  • 場所
  • 同席者
  • 発言内容(できるだけ原文のまま)
  • 確認者サイン

記録すべき対象は「ヒアリング」だけではない

事実確認において残しておくべき記録は、ヒアリング内容だけではありません。以下の情報も重要な証拠になります。

  • 問題の言動が起きたとされる日時・場所・具体的な発言内容
  • 業務上の指示記録
  • メールやチャットのログ
  • 当時の業務負荷(残業時間など)
  • 相談を受けた日時・対応内容・その後の経緯(時系列で記録)

「いつ、誰が、何をしたか」が一本の線でつながる記録が、会社の対応の正当性を証明します。

記録の保管期間と管理方法

調査記録は、労働関係の書類として最低でも3年間(労基法の時効は原則3年)の保管が推奨されますが、ハラスメント事案は訴訟リスクを考慮し5年以上保管する企業も増えています。

保管は鍵のかかる場所またはアクセス制限されたクラウドストレージで行い、閲覧できる人を人事担当者・経営者に限定することが秘密保持の観点から重要です。紙とデジタルの両方でバックアップをとっておくと、消失リスクを減らせます。

上司への対応と処分——どの基準で、どう判断するか

処分の軽重は「事実の重大性」と「本人の認識・反省」で決まる

事実確認の結果、上司の言動にパワハラに該当する部分があると判断された場合、会社は何らかの措置を取る必要があります。処分の重さは、以下の要素によって変わります。

  • 行為の内容・期間・頻度
  • 被害の程度
  • 上司本人が問題を認識し反省しているか

例えば、単発の不適切発言であれば「口頭注意+再発防止研修の受講」、継続的かつ悪質なケースであれば「文書注意・降格・配置転換・懲戒処分」という段階的な判断が基本です。「感覚で決めてしまう」と後に不服申立てを受けたとき根拠が示せなくなるため、就業規則の懲戒規定に照らして判断することが不可欠です。

処分前に「弁明の機会」を与えることが法的に重要

上司への懲戒処分を行う場合、事前に本人に弁明の機会を与えることが法的に求められます(就業規則にも明記されていることが多い)。弁明なしに懲戒処分を下した場合、手続き上の瑕疵として処分が無効になるリスクがあります。

「事実確認の結果、このような言動が認められた。これについて、あなたの見解を聞かせてほしい」という機会を設け、その内容も記録に残しておいてください。

処分と並行して「職場環境の改善措置」をとる

上司への処分だけで終わらせてしまうと、職場の緊張感が残り、他の従業員の不安や離職にもつながります。必要に応じて以下のような措置を検討してください。

  • 上司の配置転換
  • 業務分掌の見直し
  • チーム体制の変更

「処分はした。でも職場は何も変わっていない」という状況は、休職者の復職意欲を著しく下げます。

再発防止策——「研修をやります」以上の実効性ある施策

再発防止に必要なのは「仕組み」の改善

従業員や家族から「再発防止策を示してほしい」と求められたとき、「ハラスメント研修を実施します」だけでは不十分です。研修は意識啓発には有効ですが、それだけでは構造的な問題を解決できません。

再発防止に実効性を持たせるには、以下の仕組みが必要です。

  • 相談窓口の設置
  • 匿名アンケートによる職場環境調査
  • 1on1面談の定期実施
  • 管理職への個別フィードバック

これらにより「問題を早期に発見・介入できる体制」を整えることが重要です。

管理職への個別フィードバックが特に有効

パワハラ事案が起きる職場では、問題の上司本人が「自分の何が問題なのか」を認識できていないケースが多くあります。集合研修だけでは「自分のこと」として受け取りにくいため、個別に「あなたのこういう言動が、部下にどんな影響を与えているか」を具体的に伝えるフィードバック面談が効果的です。

これは経営者が直接行うと感情的になりやすいため、外部の専門家が担当することで、上司が防衛的にならずに受け取りやすくなります。

再発防止策は「文書で示す」ことが信頼回復につながる

休職者本人やその家族に対して口頭で「対処しました」と伝えるだけでは、不信感が残ることがあります。実施した調査の経緯・確認された事実・行った措置・今後の再発防止の取り組みを文書化し、誠実に伝えることが、信頼回復の第一歩です。

すべての詳細を開示する必要はありませんが、「会社として真剣に対応した」という事実を具体的に示すことが、復職への橋渡しにもなります。

まとめ

「部下が上司のせいで休職した」という事態は、正しい手順で対応すれば会社・従業員双方にとって解決の糸口が見えてきます。

まず、医学的な因果関係の判断と業務上の事実確認を切り分け、三者への個別ヒアリングで事実を整理する。次に、発言をそのまま残す記録を積み重ね、就業規則に基づいて上司への対応を判断する。そして研修にとどまらない仕組みの整備で再発を防ぐ——この流れが基本です。

とはいえ、専任人事がいない中小企業では「誰がヒアリングするのか」「中立性をどう担保するのか」「何をどこまで記録すればいいのか」という実務上のハードルが次々に出てきます。

ウェルセンス株式会社では、こうした事案に直面した経営者・人事担当者からのご相談を受け付けています。ヒアリング設計・記録フォーマットの提供から、第三者中立の立場での調査支援、産業医との連携コーディネートまで、御社の状況に合わせた対応を一緒に考えることができます。「何から手をつければいいかわからない」という段階でも、まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 休職中の従業員に事実確認の連絡をしても問題ないですか?

A. 連絡すること自体は問題ありません。ただし、主治医に本人の状態を確認したうえで、メールや書面など本人のペースで対応できる手段を選ぶことが重要です。「体調が落ち着いたタイミングで、負担のない形でお話を聞かせてほしい」と事前に伝え、強制感を与えないよう配慮してください。連絡した日時・内容・手段も必ず記録に残しましょう。

Q. 上司の言動がパワハラかどうか、会社が独自に判断してよいですか?

A. 業務上の言動が厚労省のパワハラ3要件に該当するかどうかの判断は、会社の調査責任の範囲です。ただし、「精神疾患の発症と上司の言動との医学的な因果関係」は会社が独断で判断する領域ではなく、産業医や主治医の見解が不可欠です。この2つを切り分けて考えることで、調査の方向性が定まりやすくなります。

Q. 上司を処分したら、逆に上司から訴えられるリスクはありますか?

A. 適切な手続き(事実確認・弁明の機会の付与・就業規則に基づく判断)を踏んだ処分であれば、不当解雇や名誉毀損として認められるリスクは低くなります。逆に、手続きを省いて「感覚」で処分を決めた場合は、処分の有効性が争われる可能性があります。処分の前に弁明の機会を必ず設け、その記録を残しておくことが重要です。

Q. 社内に中立な調査担当者がいない場合はどうすればよいですか?

A. 中小企業では経営者が問題の上司の直属上位者であることが多く、「中立な調査者が社内にいない」というケースはよくあります。その場合は、外部の専門家(社労士・産業カウンセラー・ハラスメント対応の支援機関など)に調査を委託する方法が有効です。外部が調査を担当することで、当事者双方が「公平に扱われた」と感じやすくなり、紛争リスクの低減につながります。

Q. 再発防止策として「研修の実施」だけでは不十分ですか?

A. 研修は意識啓発として有効ですが、それだけでは不十分です。問題を早期に把握できる相談窓口の設置、定期的な匿名アンケートによる職場環境の把握、管理職への個別フィードバック面談など、「仕組みとして問題を発見・介入できる体制」を整えることが実効性のある再発防止につながります。これらを文書化して従業員や家族に示すことで、会社への信頼回復にもなります。

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【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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