「退職した社員がOpenWorkに事実と異なることを書かれた」「採用候補者からの問い合わせが急に減った」――そんな経験をした経営者・人事担当者は少なくありません。虚偽の口コミへの対応は、放置すればじわじわと採用力を削り、誤った方法で動けば二次被害を生む難しい問題です。この記事では、削除申請の実務から法的対応の基礎知識、そして再発を防ぐための組織づくりまで、専任人事がいない企業でも実践できる対処法を順を追って解説します。
虚偽口コミが採用活動に与えるダメージ
求職者の意思決定に直結する口コミの影響力
転職活動中の求職者の多くが、応募前に企業の口コミサイトを確認しています。リクルートワークス研究所の調査によれば、転職検討者の約7割が口コミ・評判サイトを参考にしているとされます。つまり、OpenWorkや転職会議に「パワハラが横行している」「残業代が支払われない」といった投稿が1件あるだけで、その企業への応募を見送る求職者が相当数出る可能性があります。
放置し続けた場合のリスク
「どうせ匿名だから証明できない」と放置するケースがありますが、投稿は長期間残り続け、検索エンジンにもインデックスされます。採用コストをかけて面接まで進んだ候補者が、最終段階で虚偽口コミを見て辞退するという事態も現実に起きています。また、取引先が企業調査の一環として口コミサイトを確認することもあり、採用以外のビジネスリスクにもつながります。
「対応すること」自体のリスクも理解する
一方で、闇雲に動くことも禁物です。在職中の社員に「誰が書いたか知っているか」と聞き回れば、職場の心理的安全性を著しく低下させます。退職者に直接連絡を取れば、ハラスメントと受け取られ、新たなトラブルの火種になりかねません。虚偽口コミへの対応では、まず「何をしてはいけないか」を把握したうえで、正しい順序で行動することが重要です。
削除申請の前にすべき証拠保全と判断
投稿を発見したら最初にやること
虚偽口コミを発見した瞬間にやるべきことは、削除申請ではなく証拠の保全です。投稿のスクリーンショットを複数枚撮影し、URL・投稿日時・投稿内容をセットで保存してください。削除申請が通って投稿が消えた後でも、法的対応を検討する場合はその内容の記録が不可欠です。証拠がなければ、後から弁護士に相談しようとしても手詰まりになります。
「削除できる投稿」と「できない投稿」の違い
各口コミサイトには削除基準が定められていますが、すべての虚偽投稿が削除されるわけではありません。OpenWork・転職会議・Glassdoorなどに共通する削除対象は、「事実に基づかない誹謗中傷」「個人を特定できる情報の記載」「差別的・侮辱的な表現」などです。ところが、「パワハラがあると感じた」「評価基準が不透明だった」のように「個人の感想・意見」として書かれた投稿は削除が認められにくいのが現実です。虚偽口コミの削除申請を出す前に、その投稿が「事実の摘示(断定的な記述)」か「意見・感想の表明」かを見極める必要があります。
法的対応を検討するなら、先に弁護士へ
削除申請と並行して損害賠償や発信者情報開示を検討している場合は、自社で削除申請を出す前に弁護士へ相談することを強く推奨します。先に投稿が削除されてしまうと、証拠の一部が失われるだけでなく、法的手続きの根拠が弱まることがあります。専任法務がいない中小企業では弁護士へのハードルを感じがちですが、この順序の逆転は後悔のもとになります。初回相談が無料の法律事務所や、中小企業向けの法律相談窓口(よろず支援拠点、商工会議所の弁護士相談など)を活用する方法もあります。
口コミサイトへの削除申請の実務手順
各サイトの申請窓口と申請時のポイント
主要な口コミサイトへの削除申請は、各サービスが設けている「権利侵害申告フォーム」から行います。OpenWorkであれば企業アカウントにログインし、問題のある口コミに対して「報告」ボタンから申請が可能です。転職会議・Glassdoorも同様の仕組みを持っています。申請時は「どの権利が侵害されているか(名誉権・信用権など)」「なぜ事実と異なると言えるか」を具体的に説明することが、削除の可否を左右します。「気に入らない」「不快だ」という理由では虚偽口コミは削除されません。
企業公式コメント機能の活用
削除申請が認められなかった場合や、申請の結果を待っている間にも採用活動を守る手段があります。それが企業側の公式コメント機能です。OpenWorkなどでは、企業担当者として投稿に対してコメントを付けることができます。「ご指摘の点について事実確認をしたところ、該当の事実は確認されておりません。当社は〇〇の取り組みを行っています」といった毅然かつ誠実なコメントは、採用候補者に「この企業はきちんと向き合っている」という印象を与えます。ただし、感情的な反論や攻撃的な文言は逆効果になるため、公式コメントの文言は慎重に検討してください。
削除申請が却下された後の選択肢
サイト側の削除申請が却下された場合、法的手段として裁判所への仮処分申請(投稿削除の仮処分)があります。これは弁護士を通じて行う手続きで、緊急性が認められれば比較的迅速に削除命令を得られる場合があります。虚偽口コミへの対応として費用・時間・立証のハードルはかかりますが、採用ブランドへの深刻なダメージが続いている場合には検討に値します。
発信者を特定したい場合の法的手段
プロバイダ責任制限法と発信者情報開示請求
匿名の投稿者を特定したい場合に活用できるのが、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求です。2022年10月の法改正により「発信者情報開示命令」(非訟手続き)が新設され、従来の仮処分・訴訟と比べて迅速な手続きが可能になりました。手続きの流れとしては、まず口コミサイトの運営者(コンテンツプロバイダ)に対してIPアドレス等の開示を求め、次にそのIPアドレスをもとにインターネット接続事業者(アクセスプロバイダ)に氏名・住所の開示を求めるという二段階の構成です。
開示請求で特定できる情報と限界
発信者情報開示請求によって得られる情報は、サービスの登録情報(メールアドレスや電話番号)や接続元のIPアドレス・タイムスタンプなどです。ただし、サイトによっては利用者情報の保持期間が短く、申請が遅れると情報がすでに削除されているケースもあります。また、VPNを利用した投稿の場合は追跡が難しくなることもあります。虚偽口コミ発見後できるだけ早く弁護士へ相談することが、特定成功の確率を上げる鍵です。
特定後の法的対応:名誉毀損・業務妨害
投稿者が特定できた場合、取り得る法的手段は主に二つです。一つは民事上の損害賠償請求(民法709条・不法行為)で、虚偽投稿によって生じた採用機会の損失や信用低下を損害として請求します。もう一つは刑事告訴で、刑法230条の名誉毀損罪や233条の偽計業務妨害罪に該当する可能性があります。虚偽の事実の摘示による名誉毀損は、真実性による違法性阻却(刑法230条の2)が適用されないため、刑事告訴の余地が生まれます。ただし損害の立証は実務的に難しい面もあり、法的対応は「制裁」よりも「再発防止のための抑止力」として位置づけるほうが現実的なケースが多いです。
虚偽口コミが生まれる根本原因と再発防止策
「虚偽」でも背景には感情的な不満がある
投稿内容が事実と異なっていたとしても、その背景には退職者の「怒り」「不信感」「不満」という感情があることがほとんどです。「自分の不満を誰も聞いてくれなかった」「退職の際に不誠実な対応をされた」という経験が、誇張や事実と異なる表現につながるケースは珍しくありません。つまり、虚偽口コミの根本原因は「退職プロセスの不備」や「在職中の問題が解消されなかったこと」にある場合が多いのです。
退職面談(エグジットインタビュー)の整備
再発防止に最も効果的な施策の一つが、退職面談(エグジットインタビュー)の仕組みを整えることです。退職者が「言いたいことを言える場」を退職前に設けることで、不満を虚偽口コミという形で外部に吐き出す必要性が下がります。面談では退職理由の傾聴・業務引き継ぎの確認・退職後の連絡先の案内など、丁寧なプロセスを踏むだけで、退職者が抱く感情は大きく変わります。20〜50名規模の企業でも、退職面談のチェックリストを一枚用意するだけで実践できます。
ハラスメント相談窓口と職場環境の整備
「パワハラがある」という虚偽口コミが出た場合、たとえそれが事実でなくても、その職場に「相談できる環境がなかった」という側面が隠れていることがあります。ハラスメント相談窓口の設置や、定期的な従業員アンケートの実施によって、在職中に不満や不安を拾い上げる仕組みを持つことが、退職後の「爆発」を防ぐ最大の予防策です。労働施策総合推進法(パワハラ防止法)では、2022年4月から中小企業にも職場におけるハラスメント防止措置の義務化が適用されており、整備は法令対応の観点からも必要です。
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採用ブランドを守るための長期的な情報発信
ポジティブな情報を積み上げて「口コミの文脈」を変える
虚偽口コミへの対応は、ネガティブな投稿への「守り」だけでなく、ポジティブな情報を積み上げる「攻め」も同時に必要です。自社の公式ブログやSNS、採用ページで働き方・社内制度・社員インタビューなどを継続的に発信することで、検索結果において好意的な情報が増え、虚偽口コミの影響が相対的に薄まります。一件の虚偽投稿より、複数の誠実なコンテンツが候補者の判断に与える影響のほうが大きくなるのです。
現役社員による口コミ投稿の促進
口コミサイトの評点は、投稿件数が多いほど一件あたりの影響が薄まります。強制はできませんが、現役社員に対して「率直な意見を投稿してもらえると会社の採用に役立つ」と伝え、投稿の機会を案内することは合法的かつ有効な手段です。ただし、内容を指定したり報酬を提供して誘導したりすることは、景品表示法上の問題を生む可能性があるため注意が必要です。虚偽口コミ対策として、あくまで自発的な参加を促す形をとりましょう。
採用広報を通じた「見える化」の継続
採用候補者が虚偽口コミを見るのは「企業の実態を知りたい」からです。その欲求を自社の情報発信で満たすことができれば、口コミサイトへの依存度は自然と下がります。代表メッセージ・社員の一日・評価制度の説明など、求職者が知りたい情報を自社のチャネルで発信し続けることが、採用ブランドを守る最も持続的な方法です。
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まとめ
退職者による虚偽の口コミへの対応は、「削除申請」という単純な問題ではありません。発見直後の証拠保全から、削除申請・法的手段の検討、そして再発を防ぐための退職プロセスの整備まで、複数の視点で動く必要があります。特に重要なのは、虚偽口コミが生まれた背景にある「組織の課題」に目を向けることです。退職面談の不備、ハラスメント相談窓口の未整備、退職者への不誠実な対応――こうした構造的な問題を放置する限り、次の退職者も同じような行動をとる可能性があります。
ウェルセンス株式会社では、メンタルヘルス対応・休職復職支援・職場環境の整備といった観点から、人事の専門担当者がいない中小企業の人事課題を一緒に考えています。「虚偽口コミが出てきたが、そもそも自社の退職プロセスや職場環境に課題があるのではないかと思っている」という方は、お気軽にご相談ください。
よくある質問
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