フレックスタイム制の導入手続き、何から始めればいい?

フレックスタイム制の導入手続き、何から始めればいい? 労務管理
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「フレックスタイム制を導入したいけれど、何から手をつければいいかわからない」——そんな声を、専任人事のいない中小企業の経営者や兼務担当者からよく耳にします。就業規則の改定、労使協定の締結、労基署への届け出……手続きの全体像が見えないまま、導入を先送りにしているケースは少なくありません。この記事では、フレックスタイム制の導入手続きを順を追って整理し、小規模企業でもスムーズに進められる実務のポイントを解説します。

フレックスタイム制とは何かを正確に理解する

「自由出退勤」という誤解が招くリスク

フレックスタイム制とは、労働者が自分で始業・終業の時刻を決められる制度です。ただし、「何時に来ても、何時に帰ってもいい」という意味ではありません。多くの企業ではコアタイム(必ず勤務しなければならない時間帯)を設定し、その前後をフレキシブルタイム(出退勤を選択できる時間帯)としています。この基本構造を誤解したまま制度設計をすると、就業規則や労使協定の記載が法的要件を満たさず、労働基準監督署(以下、労基署)から是正勧告を受けるリスクがあります。

制度の根拠と法律上の位置づけ

フレックスタイム制の根拠は労働基準法第32条の3です。この条文では、就業規則への記載と労使協定の締結を導入の条件として定めています。法律の要件を満たしていない場合、「フレックスタイム制のつもりで運用していたが、実は通常の労働時間制度として残業代が発生していた」という事態にもなりかねません。制度の正確な理解が、すべての手続きの出発点となります。

フレックスタイム制に向いている職種・向いていない職種

フレックスタイム制は、業務の時間帯が比較的自由な職種に向いています。エンジニア職や営業職、企画・管理部門などが代表例です。一方、受付・製造ライン・窓口対応など、特定の時間帯に必ず在席が必要な職種への適用は現実的ではありません。制度の適用範囲を職種・部門ごとに分けることは法律上認められており、「全員一律に適用しなければならない」というわけではありません。また、満18歳未満の年少者、および本人が請求した妊産婦には、法律上フレックスタイム制を適用できません。この点は見落としがちなので注意が必要です。

就業規則の改定で押さえるべき記載事項

就業規則への明記が導入の大前提

フレックスタイム制を導入するには、まず就業規則に「始業および終業の時刻を労働者の決定に委ねる」旨を明記することが必要です。これは法律上の要件であり、記載がない状態で運用を始めても、フレックスタイム制として認められません。既存の就業規則に「始業9時、終業18時」と固定で書かれている場合は、その記載を変更しなければなりません。

コアタイムとフレキシブルタイムの設定方法

就業規則には、コアタイムの時間帯とフレキシブルタイムの時間帯を具体的に記載します。たとえば「コアタイム:10時〜15時、フレキシブルタイム:7時〜10時および15時〜20時」のように設定します。コアタイムは法律上の設置義務はなく、設けない形(スーパーフレックス)も可能ですが、小規模企業では業務連絡や会議の調整がしやすくなるため、コアタイムを設けるケースが一般的です。コアタイムが長すぎると、事実上フレックスの意味が薄れてしまう点も意識しておきましょう。

不足時間の取り扱いも明記する

清算期間内に所定労働時間に達しなかった場合の処理方法も、就業規則に明記しておく必要があります。選択肢としては「翌清算期間に繰り越す」または「欠勤控除を行う」の二通りがあります。どちらを採用するかは会社の方針次第ですが、ルールを明確にしておかないと、退職者が出た際に精算できずトラブルになるケースがあります。中途退職者への対応ルールは特に盛り込んでおくと安心です。

労使協定の締結手続きと必須記載事項

労働組合がない会社でも締結できる

フレックスタイム制の導入には、会社と労働者の間で労使協定を締結することが必須です。「うちには労働組合がないから無理では?」と思われる方も多いですが、労働組合がない場合は「労働者の過半数代表者」と締結すれば問題ありません。過半数代表者の選出は、民主的な方法(挙手・投票・回覧での署名など)で行う必要があり、会社が一方的に指名することはできません。この選出プロセスを記録として残しておくことが重要です。

労使協定に記載しなければならない必須項目

労働基準法第32条の3に基づき、労使協定には以下の事項を必ず盛り込む必要があります。まず「対象となる労働者の範囲」を定めます。次に「清算期間」(最大3ヶ月)と「清算期間における総労働時間(所定労働時間)」を記載します。さらに「標準となる1日の労働時間」、コアタイムを設定する場合はその「時間帯」、フレキシブルタイムに制限を設ける場合はその「時間帯」を記載します。これらの項目はいずれも省略できないため、協定書のひな形を使う際も必ず確認してください。厚生労働省や都道府県労働局のウェブサイトにひな形が公開されています。

労基署への届け出が必要なケースとは

労使協定の届け出が必要かどうかは、清算期間の長さによって変わります。清算期間が1ヶ月以内であれば労基署への届け出は不要です。一方、清算期間が1ヶ月を超える場合(最大3ヶ月)は、労基署への届け出が義務づけられています。この規定は2019年4月の法改正で追加されたものです。小規模企業では給与計算サイクルとの兼ね合いから、まず清算期間を1ヶ月に設定するのが実務上もシンプルでおすすめです。

清算期間と所定労働時間の計算方法

清算期間は1ヶ月か3ヶ月か

清算期間とは、労働時間を合計・精算する単位期間のことです。1ヶ月に設定すれば給与計算のサイクルと一致しやすく、管理がシンプルになります。一方、繁閑差が大きい業種(例:季節によって忙しさが大きく変わる製造業や小売業)では、3ヶ月の清算期間を設定することで、繁忙期に多く働いた分を閑散期に調整するといった柔軟な運用が可能になります。ただし清算期間が長くなるほど、時間外労働の計算や中途退職時の精算が複雑になります。導入初期は1ヶ月で始めて、運用に慣れてから延長を検討するのが現実的です。

月ごとの所定労働時間の計算式

フレックスタイム制では、月ごとに所定労働時間が変動します。計算式は「40時間 × 清算期間の暦日数 ÷ 7」です。たとえば31日の月であれば、40 × 31 ÷ 7 = 約177.1時間となります。28日の月(うるう年でない2月)であれば、40 × 28 ÷ 7 = 160.0時間です。この数値を超えた労働時間が時間外労働となり、割増賃金の対象になります。月によって数字が変わることを給与計算担当者がきちんと把握しておく必要があります。

清算期間が1ヶ月超の場合の時間外労働の計算

清算期間を1ヶ月超に設定した場合、時間外労働の把握方法が二段階になります。まず各月の法定労働時間を超えた時間をその月ごとに確認し、次に清算期間全体の総労働時間と所定労働時間の差を確認します。この二つの計算を両方行う必要があり、どちらかで超過が発生した場合に割増賃金が発生します。既存の給与計算ソフトがこの計算に対応しているかを事前に確認し、必要であればfreee人事労務・KING OF TIME・ジョブカンといったフレックス対応の勤怠管理システムへの切り替えや設定変更を検討してください。

導入後の運用で失敗しないためのポイント

管理職への制度周知と意識転換が鍵

フレックスタイム制を導入しても、現場の管理職が「10時前に来ない社員は遅刻だ」と判断し続けると、制度は形骸化します。管理職に対して「成果で評価する」「プロセスではなく結果を見る」という意識転換を促す研修や説明会を実施することが重要です。また、コアタイムに会議を集中させすぎると「フレックスの意味がない」という従業員の不満につながります。コアタイムの使い方についてもルールを明確にしておくとよいでしょう。

従業員への丁寧な説明と合意形成

就業規則の改定は、従業員への説明と意見聴取が法律上義務づけられています(労働基準法第90条)。内容を書面やメールで周知するだけでなく、「なぜこの制度を導入するのか」「どう使えばよいか」を従業員が理解できるよう、説明の場を設けることが大切です。制度への理解が不十分なまま運用を始めると、自己管理が難しい従業員の長時間労働を見落とすリスクも生じます。特にメンタルヘルス不調を抱えている社員がいる場合、フレックス制度の導入が孤立感や管理のすき間を生む場合があるため、個別の配慮も必要です。

勤怠管理ツールの整備と記録の保存

フレックスタイム制では、個々の労働者が何時から何時まで働いたかを正確に記録することが求められます。紙の出勤簿やExcel管理では集計ミスが起きやすいため、フレックスタイム制に対応した勤怠管理システムの導入を強く推奨します。労働時間の記録は、労働基準法上3年間の保存義務があります。導入前に記録の方法・保存ルールを整備しておくことが、のちの労使トラブル防止にもつながります。

フレックスタイム制 導入手続きのまとめ

フレックスタイム制の導入手続きは、「就業規則の改定→労使協定の締結→(必要な場合)労基署への届け出→従業員への周知・勤怠管理の整備」という流れで進みます。清算期間の設計や時間外労働の計算方法など、専門知識が必要な部分も多く、専任人事がいない企業では「何が正しいのかわからないまま進んでしまう」というリスクがあります。

ウェルセンス株式会社では、フレックスタイム制の制度設計から就業規則の整備、労使協定の作成支援、従業員への説明サポートまで、伴走型でお手伝いしています。「まず自社に合った制度設計の方向性だけ聞きたい」というご相談から歓迎しています。お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 労働組合がない会社でもフレックスタイム制を導入できますか?

A. はい、導入できます。労働組合がない場合は「労働者の過半数代表者」と労使協定を締結すれば問題ありません。過半数代表者の選出は、投票や挙手など民主的な方法で行う必要があり、会社が一方的に指名することは認められていません。選出プロセスは記録として保存しておきましょう。

Q. 清算期間は必ず1ヶ月にしなければなりませんか?

A. いいえ、最大3ヶ月まで設定できます。ただし清算期間が1ヶ月を超える場合は、労基署への届け出が必要になります。また時間外労働の計算が複雑になるため、導入初期は1ヶ月の清算期間から始めるのが小規模企業には向いています。繁閑差が大きい業種では、慣れてから3ヶ月への変更を検討するとよいでしょう。

Q. 全社員ではなく、特定の部署だけにフレックスタイム制を適用することはできますか?

A. はい、可能です。労使協定の「対象となる労働者の範囲」を職種・部門単位で限定して設定することができます。たとえば「エンジニア職および営業職のみ適用」とすることも認められています。就業規則にもその旨を明記し、適用対象と非適用者が明確に区分されるよう整理しておきましょう。

Q. 清算期間内に所定労働時間に達しなかった場合、どう扱えばよいですか?

A. 不足時間の取り扱いは、翌清算期間への繰り越しまたは欠勤控除のいずれかを就業規則に明記することで対応します。退職者が出た場合は繰り越しができないため、退職時の精算ルールも合わせて定めておくことが重要です。どちらの方法を採用するにしても、事前に従業員に周知しておくことがトラブル防止につながります。

Q. 既存の給与計算ソフトでフレックスタイム制に対応できますか?

A. ソフトによって異なります。フレックスタイム制では月ごとに所定労働時間が変動するため、固定の所定労働時間を前提としたソフトではそのまま使えないケースがあります。freee人事労務・KING OF TIME・ジョブカンなど、フレックス制度に対応した勤怠管理システムへの切り替えや設定変更を検討してください。導入前にベンダーに確認しておくと安心です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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