復職社員の人事評価基準に迷ったら読む規程整備の手引き

復職社員の人事評価基準に迷ったら読む規程整備の手引き 人事制度
Photo by RDNE Stock project on Pexels

「復職した社員の評価、どうすればいいんだろう……」。規程も前例もないまま、感覚と気遣いだけで対応してきた——そういう会社は決して少なくありません。配慮が足りなければ「無理をさせた」と言われ、評価を外せば「差別だ」と言われかねない。どちらに動いても不安が残る、この板挟みこそが、復職社員の人事評価をめぐる最大の課題です。この記事では、試し勤務期間の評価基準設定から就業規則への規程整備まで、中小企業の実務担当者が今日から動けるように順を追って解説します。

復職社員を「評価対象にしてよいか」の判断軸

結論からいえば、復職社員を評価対象から完全に外すのは得策ではありません。評価の「枠組みを別立て」にすることが、配慮とリスク管理を両立する現実的な方法です。

「評価を外す」ことの落とし穴

評価対象から外すことが配慮に見えて、実際には逆効果になるケースがあります。本人の立場からすると「戦力として見られていない」「何をすれば認められるかわからない」という状況に置かれます。さらに実務上の問題として、評価が賞与算定と連動している場合、評価対象外は「最低評価扱い」や「賞与ゼロ」と同義になりかねません。規程に明記がないまま運用すると、後から「不利益な取り扱いをされた」と主張される根拠にもなります。

「別枠評価」という考え方

推奨するのは、試し勤務期間専用の評価軸を設けるアプローチです。通常の業績目標や能力評価ではなく、たとえば「出勤の安定性」「任された業務の遂行度」「職場内のコミュニケーション」といった、復職段階に合わせた項目で評価します。これにより、本人に「自分は評価されている」という感覚を持たせながら、無理な目標を課さない設計が可能になります。

産業医・主治医の意見を評価言語に翻訳する

「就業上の配慮が必要」という診断書の文言を、評価制度の言語に置き換えることが実務上の難関です。たとえば「残業不可・業務量は通常の6割程度」という医師の意見があれば、評価目標のウェイトや達成基準を通常の6割相当に設定することで整合性が取れます。この翻訳作業は、人事担当者だけで抱え込まず、産業医(または外部の産業保健スタッフ)と連携しながら進めることが理想です。産業医が選任されていない会社(常時50名未満の場合は義務がない)は、地域産業保健センターの無料相談を活用できます。

医師の指示を評価基準に反映させたいが、判断に自信がない場合は、産業保健の専門家への短期相談も選択肢の一つです。

試し勤務期間の評価基準をどう設定するか

試し勤務(リハビリ勤務・慣らし勤務)は法律上の定義がなく、各社が就業規則で定めるものです。評価基準を「どの程度・どんな根拠で下げるか」を明文化しておかないと、担当者の主観だけで運用することになり、労務リスクが高まります。

厚労省の復職支援手引きを骨格にする

厚生労働省が公表している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(以下、手引き)は、職場復帰を5つのステップで体系化しています。この手引きが推奨する「業務内容・業務量の段階的な拡大」という流れに、評価目標・評価対象の段階的な拡張を対応させると、設計の一貫性が保てます。社内規程の根拠として「厚労省の手引きに準拠する」と明記しておくことも、後の説明責任に役立ちます。

評価基準の設定例

以下は、試し勤務期間を3フェーズに分けた評価設計の例です。会社の実情に合わせてカスタマイズしてください。

フェーズ 期間の目安 評価軸の例 通常評価との関係
準備期 復職後1〜4週間 出勤安定性・体調報告の実施 評価期間に含めない(記録のみ)
移行期 復職後1〜3か月 指示された業務の遂行度・コミュニケーション 別枠評価(賞与算定の参考扱い)
復帰期 3か月以降(移行基準充足後) 通常目標(段階的に拡大) 通常評価に完全移行

「下げる根拠」を書面で残す重要性

評価基準を調整した場合、その根拠が記録に残っていないと後から問題になります。「主治医の診断書に基づき、業務量を通常の○割に制限する期間として評価目標を調整した」という事実を、本人との面談記録・職場復帰支援プランに明記しておきましょう。感覚や善意だけで動いた記録のない配慮は、後から「不当な低評価だった」と主張される隙を与えます。

📄 【無料】休職・復職 実務書式パック(全5点)

勤務時間・出勤形態・任せる業務を第1期〜第4期で決める職場復帰支援プランを含む、休職・復職の実務書式5点です。記入例つきで、配慮の期限と見直し日も書面で残せます。

書式パックを無料ダウンロード →

通常評価への「戻し方」を決めておく

試し勤務の入口(開始時のルール)だけ考えて、出口(通常評価への移行基準)を決めていない会社は非常に多いです。出口が曖昧なまま放置されると、なあなあの長期化と職場の不公平感を招きます。

移行基準を行動・期間で数値化する

「体調が安定したら通常評価に戻す」という表現は運用できません。判断者によって解釈が変わり、当事者への説明もできないからです。代わりに、以下のような行動・期間ベースの基準を設けましょう。

  • 出勤率が○%以上を○週間連続で維持した場合
  • 主治医または産業医が「就業制限の解除が可能」と判断した場合
  • 直属の上長が定める業務チェックリストの全項目を○週間連続でクリアした場合

これらを「職場復帰支援プラン」に記載し、本人と上長の双方が合意した状態にしておくことが大切です。

移行は「段階的に」が原則

試し勤務終了と同時に、翌日から100%の通常業務・通常評価に切り替えるのは現実的ではありません。「翌評価期間の目標は通常の70%から始め、次の期間で100%に戻す」といった段階設計を組み込んでおくと、本人の負担感も職場の混乱も最小化できます。移行のペースは、フェーズごとに産業医や主治医の意見を確認しながら調整するのが理想です。

就業規則・評価規程への明記が必要な理由

規程がない状態での運用は、会社・従業員双方にとってリスクが高い状態です。特に評価制度は賃金に連動するため、就業規則(賃金規程・評価規程)への記載は法的義務に近い位置づけになります。

「不利益変更」にならないための手順

試し勤務期間中に評価を下げたり対象を限定したりする場合、それが通常の労働条件からの「不利益変更」と見なされないよう、以下の手順を踏む必要があります。まず、評価規程の変更案を作成し、内容を従業員代表(または過半数組合)に説明します。次に、合理的な理由(健康配慮・段階的復帰のため)を明示したうえで、復職者本人に変更内容を書面で説明し、署名付きの同意を得ます。このプロセスを経ずに「実はあのとき評価を下げていた」という事実が後から出てくると、労使トラブルの原因になります。

就業規則に盛り込む最低限の項目

専任の社労士や弁護士に依頼するのが確実ですが、規程に盛り込むべき最低限の要素を把握しておくことも重要です。

  • 試し勤務(リハビリ勤務)の定義と適用条件
  • 試し勤務期間の評価の取り扱い(別枠評価の旨・賞与算定との関係)
  • 通常評価への移行基準(期間・行動指標)
  • 本人への説明・合意取得の手続き
  • 主治医・産業医の意見を反映する旨

障害者雇用促進法と合理的配慮の観点

精神疾患等を理由に休職した社員が、障害者手帳を取得しているケースや、取得していなくても機能障害が継続しているケースでは、評価基準の調整は「合理的配慮」の提供として法的に位置づけられる可能性があります。障害者雇用促進法に基づく合理的配慮義務は、2016年より民間企業にも適用されています。一律の評価基準をそのまま適用することが、配慮義務違反として問われるリスクも念頭に置いてください。

規程がない会社が「今から整備する」ための手順

規程がないまま運用してきた会社が現状を追認しつつルールを作るには、「現状の棚卸し」から始めるのが現実的です。白紙からの完璧な制度作りより、まず運用できる最低限の枠組みを作ることを優先してください。

現状の棚卸しと課題の整理

まず、過去に復職者が出たケースを振り返り、そのとき評価をどう扱ったかを記録します。「評価対象から外した」「目標を口頭で下げた」「通常どおり評価した」など、実態はさまざまなはずです。この棚卸しにより、社内で統一すべき論点が見えてきます。また、現在の就業規則に「職場復帰」「試し勤務」「評価の特例」に関する記述があるかを確認してください。記述がなければ、規程の空白部分として整備対象が明確になります。

会社規模別の整備優先度

整備の優先度は会社の状況によって異なります。産業医が選任されている会社(常時50名以上が義務)は、職場復帰支援プランの策定を産業医と連携して進められます。産業医がいない会社は、まず「職場復帰支援プランのひな型」(厚労省が公開)を活用し、そこに評価の取り扱いを追記する形で運用ルールを整えることから始めましょう。就業規則の変更は社労士への依頼が確実です。費用の目安は内容・地域によりますが、スポット依頼であれば数万円程度から対応している事務所も多くあります。

本人合意の記録を最初の一歩にする

規程の整備と並行して、今後復職者が出た際には必ず「試し勤務確認書」を書面で作成し、本人の署名を得る運用を始めてください。評価の取り扱い・目標水準・移行基準を1枚の書面にまとめ、本人・上長・人事(経営者)の三者が同じ認識を持った状態で試し勤務を開始する。この一枚があるだけで、後から生じるトラブルの大半は防げます。

規程作成の進め方に迷ったときや、現在の対応が適切かどうか判断に困ったときは、人事だけで抱え込まず外部の支援を検討することも重要です。

まとめ

復職社員の人事評価は、「外す・外さない」という二択ではなく、段階的な別枠評価の設計と、就業規則への明文化が正解です。試し勤務期間専用の評価軸を設け、移行基準を数値・行動で定義し、本人の書面合意を取る。この三点がそろうことで、配慮と公平性の両立が初めて実現します。規程の整備は一度構築してしまえば、次の復職者にも再現性をもって対応できる会社の資産になります。

ウェルセンス株式会社では、復職・休職支援の実務経験をもとに、評価規程の整備から職場復帰支援プランの作成まで、中小企業の人事担当者が一人で抱え込まないための支援を行っています。「どこから手をつければいいかわからない」という段階でも、まずは相談だけでも歓迎です。

よくある質問

Q. 試し勤務期間中の評価を賞与に反映させなくてもよいですか?

A. 就業規則・賃金規程に「試し勤務期間は賞与算定の対象外とする」または「別途算定する」と明記し、本人への説明と合意取得をしていれば、対象外や別算定にすること自体は問題ありません。ただし、規程への明記と本人合意なしに勝手に除外すると、後から不利益変更として争われるリスクがあります。

Q. 試し勤務の期間はどのくらいが適切ですか?

A. 法的に定められた期間はなく、疾患の種類・重症度・業務内容によって異なります。一般的には1か月から3か月程度を目安にしている会社が多いですが、主治医・産業医の意見をもとに個別に設定することが重要です。期間を一律に決めるよりも、「移行基準を満たしたら終了する」という行動・期間ベースの設計を採用することを推奨します。

Q. 復職後に通常評価を適用して低評価が続いた場合、解雇や降格はできますか?

A. 復職直後に通常の評価基準を適用し、その低評価を理由に解雇・降格した場合、「評価設定自体が合理的でなかった」として争われるリスクがあります。復職後は段階的な評価設計を用意し、十分なサポート期間を設けたうえでの評価結果であることを記録として残しておくことが、法的リスクを減らすうえで重要です。解雇・降格を検討する場合は、事前に社労士や弁護士への相談を強くお勧めします。

Q. 産業医がいない小さな会社でも、職場復帰支援プランは作れますか?

A. 作れます。厚生労働省のウェブサイトで「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」とあわせて職場復帰支援プランのひな型が公開されており、産業医がいなくても活用できます。また、都道府県ごとに設置されている「地域産業保健センター」では、産業医が選任されていない小規模事業場を対象に、無料で産業保健サービスを提供しています。主治医との連携や、外部の支援機関を活用することで対応可能です。

Q. 復職社員の評価規程を整備したいが、就業規則の変更手続きはどうすればいいですか?

A. 就業規則を変更する場合、変更内容を従業員代表(または過半数組合)に説明・意見聴取したうえで、所轄の労働基準監督署に届け出ることが労働基準法上の手続きです。変更の内容が従業員に不利益となる場合は、合理的な理由の説明と従業員の理解・同意取得がさらに重要になります。具体的な規程の文案作成や手続きは、社会保険労務士に依頼するのが確実で、スポット対応も可能です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

人事だけで抱えない。産業医にスポットで相談
タイトルとURLをコピーしました